「高等学校国語総合/伊勢物語」の版間の差分
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業平の官位が「五位の中将」(ごいのちゅうじょう)なので、ほかの古典作品では業平のことを「在中将」(ざいのちゅうじょう)とか「在五中将」(ざいごちゅうじょう)とかと言い、伊勢物語のことを「在五物語」(ざいごものがたり)などと言う。
:※ この記事での作品の順序は、重要度の順であり、原著の順ではない。また、抜粋であり、この記事のほかにも多くの作品がある。原著での順番は、 芥川 → 東下り → 筒井筒 の順。
:「東下り」と「筒井筒」が特に重要であるので、読者に時間の無いときは、この「東下り」「筒井筒」を優先して勉強すること。「芥川」も、やや重要度が高い。なぜなら「芥川」に、在原業平のプレイボーイとしてのエピソードが書かれているからである。業平はプレイボーイとしてのスキャンダルなどが結果で、京都に住みづらくなり、なので東国に下ることになったのである。この東国に下ったときのエピソードを元にした歌物語が「東下り」である。
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昔、男ありけり。その男、身を要(えう)なきものに'''思ひなして'''、「京には'''あらじ'''、東の方(かた)に住むべき国求めに。」とて行きけり。もとより友とする人、一人、二人して行きけり。道知れる人もなくて惑ひ(まどい)行きけり。三河(みか
その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯(かれい
それを見て ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字(いつもじ)を句の上(かみ)に据ゑて 旅の心をよめ。」
と 言ひければ、よめる。
:'''唐衣(からころも)
とよめりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり。
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その沢に、かきつばたがたいそう美しく(=または「趣深く」と訳す)咲いていた。ある人が言うには、「かきつばたという五文字を和歌の句の上に置いて、旅の心を詠め。」と言ったので、(主人公の)男が詠んだ。
:(歌:) 唐衣(からころも) きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
:(意味:) 唐衣を着ているうちに なじんでくる褄(つま)のように、慣れ親しんだ妻(つま)が(都に)いるので、(妻を都に残して)はるばると(遠くまで)やってきた旅を(しみじみと悲しく)思うことよ。 と詠んだので、一行は皆、乾飯の上に涙を落として、(乾飯が涙で)ふやけてしまった。
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行き行きて、駿河(するが)の国にいたりぬ。
宇津(うつ)の山にいたりて、わが入らむとする道はいと暗きに、蔦(つた)・楓(か
「かかる道はいかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人なりけり。
京に、その人の御(お
:駿河なる宇津の山辺の
富士の山を見れば、五月(さつき)の'''つごもり'''に、雪いと白う降れり。
:時知らぬ
その山は、'''ここ'''にたとへば、比叡(ひえ)の山を二十(はたち)ばかり重ね上げたらむほどして、なりは塩尻(しおじり)のやうになむありける。
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(なので、)京に(いる)、その人(=主人公の恋人、唐衣の句の妻)の所にと、手紙を書いて、ことづけた。
:(歌:) 駿河なる 宇津の山辺の '''うつつ'''にも 夢にも人に あはぬなりけり
:(意味:) 駿河にある宇津の山の「うつ」のように、「うつつ」('''現実''')にも夢にも、あなた(主人公の恋人)に会わないことだなあ。 富士の山を見ると、五月の'''下旬'''(げじゅん)なのに、雪がたいそう白く降りつもっている。
:(歌:) 時知らぬ 山は富士の嶺(ね) いつとてか 鹿の子(かのこ)まだらに 雪のふるらむ
:(意味:) 時節を知らない山とは富士の山のことだよ。(富士山は、いったい今を)いつだと思って、鹿の子(かのこ)まだらに 雪が降りつもっているのだろうか。 その(富士)山は、ここ(京)にたとえれば、比叡山を二十ほど重ね上げたようなくらい(の高さ)で、形は塩尻のようであった。
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なほ行き行きて、武蔵(むさし)の国と下総(しもつふさ)の国との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて、「思ひやれば、限りなく遠くも来(き)にけるかな。」とわび合へるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、
みな人'''ものわびしくて'''、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折りしも(おりしも)、白き鳥の、嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる、水の上に'''遊びつつ'''魚(い
:'''名にし負はば'''
と詠めりければ、舟こぞりて泣きにけり。
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ちょうどその時、(都鳥があらわれ、)白い鳥でくちばしと脚とが赤い、鴫ほどの大きさである鳥が、水の上で'''気ままに動きながら'''魚を(捕って)食べている。京では見かけない鳥なので、(渡し守を除いて)一行の人は誰も知らない。渡し守に(この鳥のことを)尋ねると、「これこそが(有名な)都鳥(だよ)。」と言うのを(一行は)聞いて、
:(歌) '''名にし負はば''' いざこととはなむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと
:(意味:) 都という語を'''名前に持っているならば'''、さあ訪ねるぞ都鳥よ、私が(恋しく)思っている(あの)人は(都で無事で)いるかどうかと。 と詠んだので、舟の上の一行は皆(感極まり)泣いてしまった。
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== 筒井筒(つつゐづつ) ==
*作品解説
この話は、在原業平ではなく、べつの無名の商人などの庶民や地方官などの恋愛話だと思われている。
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さて、年ごろ経る(ふる)ほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、'''もろともに'''いふかひなくてあらむやはとて、河内(かふち)の国高安(たかやす)の郡(こ
:風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半(よは)にや君が ひとり越ゆらむ
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'''まれまれ'''かの高安に来てみれば、初めこそ心にくくも'''つくりけれ'''、今はうちとけて、手づから飯匙(い
:君があたり 見つつを居らむ(をらむ) 生駒山(いこまやま) '''雲な隠しそ''' 雨は降るとも
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昔、男、片田舎に住みけり。男、「宮仕えしに。」とて、別れ惜しみて行きにけるままに、三年(みとせ)来ざりければ、待ちわびたりけるに、いと'''ねむごろに'''(ねんごろに)言ひける人に、「今宵(こよ
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545 ⟶ 549行目:
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:'''あらたまの''' 年の三年を まちわびて ただ今宵こそ 新枕(に
と言ひ出だしたりければ、
:あづさ弓 ま弓槻弓(つきゆみ) 年を経て わがせしがごと うるはしみせよ
556 ⟶ 560行目:
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:(女の歌:)
:(意味:)「三年もの間、あなたを待ちわびてきましたが、今夜は別の男と初めて枕をともにすることになっております。」
と(女は)言うと、(男は歌を返し)
:(男の歌:)
:(意味:)「私があなたを愛してきたのと同じように、新しい夫を愛しなさい。」
と男は言って、帰ろうとしたら、女は(歌を返し)、
:(女の歌:)
:(意味:)「(男が)私の心を引こうが引くまいが、私は昔からあなたを愛しております。」
と(女は)言ったけれども、男は帰ってしまった。
女は、とても悲しくて、(去ってしまった男の)あとを追いかけたけれども、'''追いつくことができず'''、清水のある所に倒れ付してしまった。
そこにあった岩に、'''指'''(ゆび)の血で(和歌を)書きつけた。
:(女の歌:)
:(意味:) 私がこんなに思っているのに、離れる人を引き止めることが出来ず、私の身は今にも消え果てしまいそうです。
と書いて、その場所で(女は)'''死んでしまった'''。
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