「高等学校古典B/西鶴諸国ばなし」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
口語訳を記述中
口語訳を記述
16 行
こうして、騒ぎを解決させた。
 
主人の機転、座慣れした武士の機転とは振る舞い、見事なものだ。
 
=== 一 ===
69 行
*語句(重要)
:・くだんの - 例の。件(くだん)の。「くだりの」(下りの)が音便によって「くだんの」になった。
:・ - 。
:・ - 。
:・ - 。
*語注
85 ⟶ 83行目:
{| style="width:100%"
|valign=top style="width:40%;text-indent:0em"|
あるじの申すは、「そのうち一両は、さる方へ払ひしに、拙者の覚え違へ。」と言ふ。「ただ今までたしか十両見えしに、めいよのことぞかす。とかくはめいめいの見晴れ。」と上座(じやうざ)から帯をとけば、その次も改めける。三人目にありし男、渋面(じふめん)つくつてものをも言はざりしが、膝(ひざ)立て直し、「浮世(うきよ)には、かかる難儀もあるものかな。それがしは、身ふるふまでもなし。金子一両持ち合はすこそ、因果なれ。思ひもよらぬことに、一命を捨つる。」と思ひ切つて申せば、一座口をそろへて、「こなたに限らず、あさましき身なればとて、小判一両持つまじきものにもあらず。」と申す。「いかにもこの金子の出所(でどころ)は、私持ち来たりたる、徳乗(とくじよう)の小柄(こづか)、唐物屋十左衛門(からものやじふざゑもん)かたへ、一両二歩(ぶ)に、昨日(さくじつ)売り候ふこと、まぎれはなけれども、折ふしわるし。つねづね語り合はせたるよしみには、生害(しやうがい)におよびしあとにて、御尋ねあそばし、かばねの恥を、せめては頼む。」と申しもあへず、革柄(かはづか)に手を掛くる時、「小判はこれにあり。」と、丸行灯(まるあんどん)の影より、投げいだせば、「さては。」と事を静め、「ものには、念を入れたるがよい。」と言ふ時、内証より、内儀声を立てて、「小判はこの方へまゐつた。」と、重箱の蓋(ふた)につけて、座敷へいだされける。これは宵に、山の芋(いも)の、煮しめ物を入れて出だされしが、その湯気にて、取りつきけるか。さもあるべし。これでは小判十一両になりける。いづれも申されしは、「この金子、ひたもの数多くなること、めでたし。」と言ふ。
 
|valign=top style="width:10%;text-indent:1em"|
119 ⟶ 117行目:
こうして、騒ぎは解決した。
 
主人の機転、座慣れした武士の機転とは振る舞い、見事なものだ。
 
*本文/現代語訳
{| style="width:100%"
|valign=top style="width:40%;text-indent:0em"|
亭主申すは、「九両の小判、十両の詮議(せんぎ)するに、十一両になること、座中金子を持ち合はせられ、最前の難儀を、救はんために、御出だし(いだしありしは疑ひなし。この一両我が方(かた)に、納むべき用なし。御主(ぬし)へ返したし。」と聞くに、たれ返事のしてもなく、一座異なものになりて、夜更け鶏(どり)も、鳴く時なれども、おのおの立ちかねられしに、「このうへは亭主が、所存の通りにあそばされてたまはれ。」と、願ひしに、「とかくあるじの、心まかせに。」と、申されければ、かの小判を一升枡(いつしようます)に入れて、庭の手水鉢(てうづばち)の上に置きて、「どなたにても、この金子の主、取らせられて、御帰りたまはれ。」と、御客一人づつ、立たしまして、一度一度に戸をさしこめて、七人を七度(たびだして、その後(のち)内助は、手燭(てしよく)ともして見るに、たれとも知れず、取つて帰りぬ。あるじ即座の分別、座なれたる客のしこなし、かれこれ武士のつきあひ、格別ぞかし。
 
|valign=top style="width:10%;text-indent:1em"|
|valign=top style="width:45%;text-indent:1em"|
亭主(=内助)が申すには、「九両の小判、十両(あったはずだとの)の詮議をしているうちに、十一両になっていること、座中のかたが金子を持ち合わせておられて、目の前の難題を解決するために、お出しになったということに疑いない。この一両を私が受け取る理由が無い。持ち主に返したい。」と聞くが、誰も返事をする人もなく、一座の雰囲気がへんなものになって、夜更け鳥も鳴く時分であるのに、それぞれ帰りづらくなってしまい、(客の誰かが言うには、)「この上は主人の思うとおりになさってください。」と願ったところ、(ほかの客たちも)「とにかく主人の考えに任せる。」と申されたので、あの小判を一生枡に入れて、庭の手水鉢(ちょうずばち)の上に置いて、「どなたであっても、この金子の持ち主が、お取りになって、お帰りください。」と、客を一人ずつ立たせ申して、一回一回ごとに戸を閉めて、七人を七回に分けて(送り)出して、その後内助は、手燭をともして(一生枡を)見ると、(一両を)誰とも分からないが取って帰っていた。
 
主人の即座の機知、座なれた客のふるまい、あれもこれも武士の付き合いというものは格別なものであるよ。
 
|}
----
*語句(重要)
:・返事のしてもなく - 「して」は「仕手」と書き、する人のこと。
:・ - 。
:・しこなし - ふるまい。うまい処理。
:・ - 。
:・ - 。
:・ - 。
*語注
:・一生枡(いっしょうます) - 一升が入る枡。「升」(しょう)は容積の単位。一升は約一・八リットル。
:・ - 。
:・ - 。
:・ - 。
:・ - 。
----