「高等学校生物/生物I/遺伝情報とDNA」の版間の差分

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'''遺伝'''(heredity)とは、生物の形や性質が、遺伝子によって、親から子へ伝わることである。
 
また、生物の形や性質のことを'''形質'''(けいしつ、trait)と呼ぶ。
形質には親から子へ遺伝する遺伝形質()と、
環境の影響によって獲得した遺伝しない獲得形質()がある。
このページでは、形質とは遺伝形質を指す。
 
生殖の際に、親から生殖細胞を経て、子に伝えられている遺伝の因子を遺伝子(いでんし)といい、こんにちでは遺伝子の正体は、細胞にふくまれる'''DNA'''(ディーエヌエー)という物質であることごが知られている。
 
=== メンデルの法則 ===
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今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
 
*グリフィスの実験
[[Image:Griffith_experiment_ja.svg|thumb|400px|right|[[w:グリフィスの実験|グリフィスの実験]]]]
1928年イギリスの[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]は、
肺炎レンサ球菌とネズミを用いて[[w:グリフィスの実験|実験]]を行った。
肺炎レンサ球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類があり、る。
被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。
S型菌をネズミに注射するとネズミは肺炎を起こして死ぬが、
通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
R型菌をネズミに注射するとネズミは肺炎を起こさない。
 
加熱殺菌したS型菌をネズミに注射するとネズミは肺炎を起こさないが、
グリフィスの実験結果は次の通り。
加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射するとネズミは肺炎を起こして死ぬ。
:生きたS型菌をネズミに注射するとネズミは肺炎を起こして死ぬが、
:生きたR型菌をネズミに注射するとネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌をネズミに注射するとネズミは肺炎を起こさないが、
:加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射するとネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた
 
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを'''形質転換'''(transformation: nuclein)と呼ぶ。
{{-}}
 
*アベリーの実験
1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、
何が1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
 
S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
実験結果
次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
:S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
:次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
 
*バクテリオファージの増殖実験
1952年、アメリカの[[w:アルフレッド・ハーシー|アルフレッド・ハーシー]]と[[w:マーサ・チェイス|マーサ・チェイス]]は、
T<sub>2</sub>ファージを用いて[[w:ハーシーとチェイスの実験|実験]]を行った。
T<sub>2</sub>ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、
ほぼタンパク質とDNAからできている。
彼らは、放射性同位体でT<subsup>235</subsup>ファージS(硫黄放射性同位体)および<sup>32</sup>P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質とDNAそれぞれは<sup>35</sup>Sで目印をつけ、<sup>32</sup>PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。
それらの物質をもつT<sub>2</sub>を大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。
沈殿大腸菌からは、<sup>32</sup>Pが多く検出され、あまり<sup>35</sup>Sは検出されなかった。このことからT<sub>2</sub>ファージのDNAが検出され大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。
 
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには<sup>35</sup>Sは検出されなかった。
 
これによって、DNAが遺伝物質であることがわかった。
 
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塩基には4種類あり、'''アデニン'''(adenin)、'''チミン'''(thymine)、'''シトシン'''(cytosine)、'''グアニン'''(guanine)という4種類の塩基である。ヌクレオチド一個に、4種の塩基のうち、どれか一個が、ふくまれる。
 
生殖細胞では、減数分裂で染色体が半分になることから、遺伝子の正体とは、どうやら染色体に含まれている物質であろう、という事がモーガンなどの1913年ごろのショウジョウバエの遺伝の研究によって、突き止められていた。
 
遺伝子に含まれる物質にはタンパク質や核酸(かくさん)など、さまざまな物質がある。どの物質こそが遺伝子の正体なのかを突き止める必要があった。核酸の発見は、1869年ごろ、スイスの生化学者ミーシャーによって、細胞の核に、リン酸をふくんだ物質があることが発見され、この物質はタンパク質とは異なることが調べられた。ミーシャ-の発見したのが核酸である。この当時では、まだ核酸が遺伝子の正体だとは気づかれていなかった。
 
1949年、オーストリアの[[w:エルヴィン・シャルガフ|エルヴィン・シャルガフ]]は、
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DNAの場合の水素結合では、アデニンはチミンの塩基対では、塩基上の2箇所で水素結合をする。シトシンとグアニンの塩基対では、塩基上の3箇所で水素結合をする。
 
 
二重らせんの幅は2.0nmで、らせん1回転(1ピッチ)の長さは3.4nm、らせん1回転中に10対のヌクレオチド対がある。
 
=== DNAの働き ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
[[Image:aspartame2.png|thumb|400px|ペプチド結合の例。いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基COOHと、もういっぽうのアミノ酸のアミノ基NH<sub>2</sub>が結合する。ペプチド結合のとき、COOHからOHが取り除かれ、NH<sub>2</sub>のHが取り除かれ、1分子の水 H<sub>2</sub>O ができる。]]
DNAの働きには、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることがある。
 
DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。このため、DNAの塩基の並び方が異なると、遺伝情報も異なる。病気などの例外をのぞけば、ある生体で合成されたタンパク質、たとえば皮膚のタンパク質のコラーゲンや、骨のタンパク質や、筋肉のタンパク質のミオシンなど、どのタンパク質も、その生体のDNAの情報をもとに合成されたタンパク質である。
DNAの塩基の並び方で決定される情報を遺伝子と呼び、タンパク質の設計図となっている。
 
消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を、
DNAは、細胞核の中で、RNA(アールエヌエー)というタンパク質合成用の塩基配列の物質をつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、
DNAの塩基配列に従ってつなぎかえ、
RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
 
 
タンパク質の構造は、アミノ酸がいくつも結合した構造である。したがって、タンパク質を構成するアミノ酸の順序などの配列や、アミノ酸の数などによって、タンパク質の性質が異なる。なお、アミノ酸どうしの化学結合をペプチド結合という。
 
 
また、DNAは、受精卵の時から、細胞分裂の際は、必ず複製されている。
DNAは配偶子形成の際半分になり、配偶子が受精すると合わさって元に戻る。
こうしてDNAは遺伝情報を子孫に伝えている。