「高等学校生物/生物II/タンパク質と生物体の機能」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
高等学校化学Ⅱ/糖類とタンパク質 2015年1月6日 (火) 17:18‎ より、引用。とりあえずの引用。
高等学校生物 生物I‐細胞とエネルギー 2015年3月29日 (日) 16:55‎ より引用。
1 行
{{substub}}
 
=== 呼吸(同化) ===
:(※ 2015年からの新課程では用語の言い換えがあり、「好気呼吸」→「呼吸」、「嫌気呼吸」→「発酵」「解糖」と言い換え。「好気呼吸」および「嫌気呼吸」の用語は教科書では用いられないことになっている。しかし、古い文献では残っている.。本記事は旧課程の生物Iの記事であり、また当分は習う必要があると判断し、当ページにて「嫌気呼吸」などの表記を記述する。)
 
われわれ人間の呼吸では、おもにグルコース(C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>)などの炭水化物を分解して、生命活動に必要なエネルギーを取り出している。このグルコースの分解反応で酸素が必要なため、人間は呼吸で酸素を取り入れている。呼吸によるグルコースの分解で、グルコースに蓄えられていたエネルギーを取り出しており、さまざまな生態活動のエネルギーになっている。
 
なお、呼吸におけるグルコースのように、呼吸につかわれてエネルギーを取り出す元になっている物質を'''呼吸基質'''(こきゅう きしつ)という。
 
人間や魚類の呼吸は、細胞での酸素を用いる呼吸のためであり、このときの細胞での酸素を用いた呼吸を'''好気呼吸'''(こうきこきゅう)という。細胞での好気呼吸によるグルコースの分解は、おもにミトコンドリアで行われている。
 
そのため、ミトコンドリアを持たない微生物では、呼吸の仕組みが、人間や魚類などとは違っている。
微生物には、酸素を用いないで呼吸を行うものもあり、このような無酸素の呼吸を'''嫌気呼吸'''(けんきこきゅう)という。
 
=== 好気呼吸 ===
まずは、好気呼吸について整理しよう。
われわれ人間の肺呼吸は、細胞での好気呼吸のために、酸素を身体各部の細胞に血管などを用いて送り込んでいるのである。魚類の「えら呼吸」も、酸素を細胞に送り込んでいるので、細胞での好気呼吸のためである。植物の呼吸もしており酸素を取り入れており、植物の呼吸は好気呼吸である。なお、光合成は呼吸ではない。
人間・魚類の呼吸も植物の呼吸も、これらの呼吸は、細胞では、どれもミトコンドリアが酸素を使ってグルコースなどを分解する反応である。
 
=== 嫌気呼吸 ===
==== 嫌気呼吸とは ====
さて、細菌やカビなどの一部の微生物には 、必ずしも酸素を使わなくてもグルコースなどの炭水化物を分解できる生物がいる。酵母菌や乳酸菌は、そのような菌である。酵母菌によるアルコール発酵や乳酸菌による乳酸発酵などの発酵は、これらの菌が生存のために栄養から必要なエネルギーを得るために化学反応を行った結果であり、酵母菌や乳酸菌の発酵では酸素を用いていない。
 
このような、酸素を使わないでグルコースなどの炭水化物を分解する活動も呼吸にふくめる場合がある。これらの菌などがおこなう無酸素の化学反応でグルコースなどの炭水化物を分解することを'''嫌気呼吸'''(けんきこきゅう)という。
 
そのため、酸素が少ない環境、あるいは酸素が無い環境でも、栄養があれば、嫌気呼吸をする菌は生きられる。
 
微生物による腐敗も、その微生物の嫌気呼吸である場合が普通である。
 
発酵(はっこう)と腐敗(ふはい)の区別は、ある微生物の呼吸の結果の生産物が、人間によって健康的な生産物の場合が発酵で、有害な生産物の場合が腐敗(ふはい)である。つまり発酵と腐敗の分類は、人間の都合による。
 
微生物の種類によって、嫌気呼吸の生産物の方法は違うが、基本的にはATPを生産している。
 
嫌気呼吸による、このような酸素を用いない分解では、ミトコンドリアを用いていない。微生物は細胞質基質で嫌気呼吸を行っている。
 
酵母菌は、嫌気呼吸と好気呼吸の両方の呼吸ができる。そのため、アルコール発酵をさせる場合には、酸素の無い環境に置く。酵母菌はミトコンドリアを持っており、酵母菌の好気呼吸はミトコンドリアによるものである。
 
乳酸菌と酢酸菌は原核生物であり、ミトコンドリアを持たない。
 
==== アルコール発酵 ====
酵母菌(こうぼきん)のアルコール発酵での化学反応式は、まずグルコースC<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>から'''ピルビン酸'''C<sub>3</sub>H<sub>4</sub>O<sub>3</sub>に分解される。この、グルコースからピルビン酸を得る過程を'''解糖系'''(かいとうけい、glycolysis)という。解糖系でATPが2分子つくられる。そしてピルビン酸が、無酸素の状態では酵素デカルボキシラーゼによってアセトアルデヒドCH<sub>3</sub>CHOによって分解され、そのアセトアルデヒドがNADHという物質によってエタノールC<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OHへと変えられる。
 
:'''解糖系'''  <big>(C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>) → 2C<sub>3</sub>H<sub>4</sub>O<sub>3</sub> + 4H + 2ATP</big>
:それ以降  <big>2C<sub>3</sub>H<sub>4</sub>O<sub>3</sub> + 4H→2C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH + 2CO<sub>2</sub> </big>
 
まとめると、アルコール発酵の反応式は、次の式である。
 
: <big>C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> → 2C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH + 2CO<sub>2</sub> + 2ATP</big>
 
グルコース1分子あたりATPが2分子できる。アルコール発酵のATPは解糖系に由来しており、それ以降はATPを産生してない。
 
解糖系による、グルコースからピルビン酸ができる反応は、嫌気生物に限らず、ほとんどすべての生物の呼吸で行われている。(※ そのため、ピルビン酸は呼吸の学習における重要物質である。)
 
==== 乳酸発酵 ====
乳酸発酵(にゅうさんはっこう)とは、乳酸菌が行う嫌気呼吸である。
 
まずグルコースC<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>が解糖系によって、ピルビン酸へと分解され、このときATPが2分子できる。そしてピルビン酸がNADHによって乳酸:C<sub>3</sub>H<sub>6</sub>O<sub>3</sub>に変えられる。
 
: <big>C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> → 2C<sub>3</sub>H<sub>6</sub>O<sub>3</sub> + 2ATP</big>
 
==== 酢酸発酵 ====
酢酸菌(さくさんきん)は、 酸素O<sub>2</sub>を用いて、エタノールを酢酸CH<sub>3</sub>COOH に変える。
: <big>C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH + O<sub>2</sub> → CH<sub>3</sub>COOH + H<sub>2</sub>O</big>
 
酸素を用いるため、一般的な無酸素の発酵とは区別して、酸化発酵とよぶ。
 
酢酸発酵のとき、酢酸のほかに水ができる。
 
==== 筋肉と乳酸 ====
筋肉では、はげしい運動などをして酸素の供給が追いつかなくなると、グルコースやグリコーゲンなどを解糖をして、エネルギーを得る。筋肉での解糖のときに、乳酸ができる。
反応のしくみは、乳酸発酵と、ほぼ同じである。
 
== 呼吸商 ==
呼吸で使われる基質は通常はグルコースだが、グルコースが不足した場合などに脂肪やタンパク質やグルコース以外の炭水化物などの栄養が基質として使われる場合がある。
 
なおデンプンやグリコーゲンなどは、呼吸の過程で、グルコースへと分解される。
 
呼吸によって排出されるCO<sub>2</sub>と使用される酸素O<sub>2</sub>の、体積(または分子数)の比率 CO<sub>2</sub>/O<sub>2</sub> を'''呼吸商'''(こきゅうしょう)といい、'''RQ'''であらわす。呼吸基質によって、呼吸商は異なる。気体の体積は圧力によって変化するので、測定するときは同温・同圧でなければならない。同温・同圧で測定した場合、気体の体積比は分子数の比になるので(物理法則により、気体の体積は、分子数が同じなら、原子・分子の種類によらず、分子数1モルの気体は0℃および1気圧では22.4L(リットル)である。モルとは分子数の単位であり6.02×10<sup>23</sup>個のこと)、よって化学反応式から理論的に呼吸商を算出でき、その理論値と実験地は、ほぼ一致する。
 
呼吸商の値は、おおむね、次の値である。
 
*炭水化物 RQ = '''1.0'''
化学式
C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> + '''6O<sub>2</sub>''' + 6H<sub>2</sub>O → '''6CO<sub>2</sub>''' + 12H<sub>2</sub>O
 
よって RQ = CO<sub>2</sub>/O<sub>2</sub> = 6÷6 = 1 より RQ = 1.0
 
*脂肪 RQ = 約'''0.7'''
トリアシルリセロールの場合、
:2C<sub>55</sub>H<sub>110</sub>O<sub>6</sub> + 77O<sub>2</sub> + → 55CO<sub>2</sub> + 110H<sub>2</sub>O
 
よって RQ = CO<sub>2</sub>/O<sub>2</sub> = 55÷77 ≒ 0.7 より RQ = 0.7
 
トリステアリンの場合、
:2C<sub>57</sub>H<sub>110</sub>O<sub>6</sub> + 163O<sub>2</sub> + → 114CO<sub>2</sub> + 110H<sub>2</sub>O
 
よって RQ = CO<sub>2</sub>/O<sub>2</sub> = 114÷163 ≒ 0.7 より RQ = 0.7
 
 
*タンパク質 RQ = '''0.8'''
ロイシン C<sub>6</sub>H<sub>13</sub>O<sub>2</sub>N の場合、
:2C<sub>6</sub>H<sub>13</sub>O<sub>2</sub>N + '''15O<sub>2</sub>''' → '''12CO<sub>2</sub>''' + 10HO<sub>2</sub>O 2NHO<sub>3</sub>
 
よって RQ = CO<sub>2</sub>/O<sub>2</sub> = 12÷15 = 0.8
 
 
測定実験の結果の呼吸商が0.8だからと言って、必ずしも気質がタンパク質とは限らない。なぜなら炭水化物(RQ=1)と脂肪(RQ=0.7)の両方が基質に使われている場合、呼吸商が0.7~1.0の中間のある値を取る場合があるからである。
 
== 好気呼吸の仕組み ==
[[ファイル:Ja-CellRespiration.svg|thumb|700px|right|解糖系とクエン酸回路。]]
 
好気呼吸は細胞質基質とミトコンドリアで起こる。とくにミトコンドリアを中心に、呼吸によって多くのATPが合成される。
 
*解糖系
1分子のグルコースが、2分子のピルビン酸(C<sub>3</sub>H<sub>4</sub>O<sub>3</sub>)にまで分解される。この反応は細胞質基質で行われる。酵素を必要としない。ATPを2分子、生成する。反応の途中でATPを2分子消費するが、4分子のATPを生成するので、差し引き2分子のATPを生成する。
 
グルコースは、まずATP2分子によってリン酸化されフルクトース二リン酸(C<sub>6</sub>化合物)になる。
 
フルクトース二リン酸が二分して、グリセルアルデヒドリン酸(C<sub>3</sub>化合物)の二分子ができる。
 
グリセルアルデヒドリン酸が、いくつかの反応を経て、ピルビン酸になる。この間の反応で、電子e<sup>-</sup>とプロトンH<sup>+</sup>が生じて、補酵素NADに渡されNADHになる。ここで生じたNADHはミトコンドリアに入り、あとの電子伝達系で利用される。また、ATPが4分子できる。よって、差し引きグルコース1分子につき、2分子ATPが、解糖系で生じる。
 
*クエン酸回路
ピルビン酸が、ミトコンドリア内に入り、ミトコンドリアのマトリックスという内膜にある酵素で、ピルビン酸がコエンザイムA(CoA)と結合してアセチルCoA(活性酢酸)というC2化合物になり、段階的に分解される。二酸化炭素が、ピルビン酸がアセチルCoAになる際に生じる。
アセチルCoA以降の反応図は回路上であって、回路のはじめにクエン酸(citric acid)が生じることから、'''クエン酸回路'''(Citric acid cycle)という。
 
:クエン酸(C6)→ケトグルタル酸(C5)→コハク酸(C4)→フマル酸(C4)→リンゴ酸(C4)→オキサロ酢酸(C4)→クエン酸
と変化していく。(「C6」とはC6化合物のこと。C5とはC5化合物のこと。C4も同様にC4化合物のこと。)
このクエン酸回路の過程でATPが2分子できる。また、電子が放出される。
 
C2化合物のアセチルCoAがC6化合物のクエン酸に変化する際、クエン際回路の最後のオキサロ酢酸(C4化合物)と化合するので、炭素の収支が合う。クエン酸回路では、脱炭酸酵素や脱水素酵素の働きで、クエン酸は変化していく。
 
クエン酸回路でコハク酸からフマル酸になる際に発生する水素は、補酵素FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)が受け取り、FADH<sub>2</sub>になる。
コハク酸以外での脱水素反応では、NADが水素を受け取っている。(「NAD」とは「ニコチン アデニン ジヌクレオチド」のことである。)
 
*電子伝達系(Electron transport chain)
ミトコンドリアの内膜に'''シトクロム'''(cytochrome)というタンパク質がいくつもあり、このシトクロムは電子を受け渡しできる。解糖系やクエン酸回路で生じたNADHやFADH2から、電子e<sup>-</sup>と水素イオンH<sup>+</sup>が分離し、電子はシトクロムに渡される。そしてシトクロムどうしで電子を受け渡す。このとき、H<sup>+</sup>が、いったんマトリックスから膜間にくみ出され、それから水素イオンの濃度勾配に従ってATP合成酵素を通ってマトリックス側に戻る。このH<sup>+</sup>が'''ATP合成酵素'''を通る際のエネルギーを利用して、ADPからATPが生成される。最終的に生成するATPの数は、グルコース1分子あたりATPを最大で34分子を生じる(生物種によって生成数が異なる)。
これらの反応ではNADHなどが酸化される反応が元になってATPを生成しているので、一連の反応を'''酸化的リン酸化'''(oxidative phosphorylation)という。シトクロムのことをチトクロームともいう。
 
電子e<sup>-</sup>は、最終的に酸素原子に渡され、酸化酵素の働きで水素イオンと反応し水になる。この水の生成反応のときの反応エネルギーを用いて、マトリックスの水素が膜間へと運ばれており、さきほど述べたようにATPが合成されている。
 
好気呼吸でのATPの収支は、グルコース1分子あたり解糖系で2分子のATP、クエン酸回路で2分子ATP、電子伝達系で最大34分子ATPであり、合計で最大38分子のATPになる。
 
== タンパク質 ==
=== アミノ酸 ===