「量子力学」の版間の差分

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→‎黒体放射: ヴィーンの法則の記述が誤っていたので修正。数学的な体裁は後で整える必要あり。ヴィーンの来歴は量子論の議論に関わらないのでコメントアウト
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理想的な黒体放射を現実にもっとも再現するとされる空洞放射が温度のみに依存するという法則は、[[w:グスタフ・キルヒホフ|グスタフ・キルヒホフ]]により1859年に発見されました。実際には、キルヒホフは鉄を精製するための高炉の研究を行っていました(図2)。以来、空洞放射のスペクトルを説明する理論が研究されました。当初の研究のモチベーションは、単に放射の色から高炉内の温度を検知したいというものでしたが、19世紀も終わりに近づくと、電磁波がどのように伝達するのか、それが微視的にみればどのような現象に相当するのかという統計力学的な問題に発展しました。熱放射に関する完全な法則が見出されたのは1899年から1900年にかけてのことで、この頃に[[w:マックス・プランク|マックス・プランク]]によって[[w:プランクの法則|プランクの法則]]が発見されています。プランクの法則が発見されて以来、プランクの法則の理論的基礎付けが様々に試みられ、特に電磁場の量子論に関する発展に寄与しました。
 
プランク以前の状況について、まず、1893年[[w:ヴィルヘルム・ヴィーン|ヴィルヘルム・ヴィーン]]によって'''[[w:ウィーンの変位則|ィーンの変位則]]'''が発見されました。ヴィーンは[[w:ボロメータ|ボロメータ]]などを用いて電磁波の放射エネルギーを測定し、黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則を確かめました。
 
:<math>\lambda_\mathrm{max} = \frac{0.002898}{T} ~\mathrm{[m]}</math>
ここで <math>T</math> は黒体の[[w:ケルビン|ケルビン温度]]の値、<math>\lambda_\mathrm{max}</math> はピーク波長、0.002898 は比例定数です。上式は波長が短い領域では実験と良く一致しますが、波長が長くなればなるほど実験結果とズレが大きくなる問題がありました
 
同じく1893年にヴィーンは黒体放射のエネルギー密度のスペクトル <math>u(\nu)</math> が満たすべき関数形を求め、
ここで <math>T</math> は黒体の[[w:ケルビン|ケルビン温度]]の値、<math>\lambda_\mathrm{max}</math> はピーク波長、0.002898 は比例定数です。上式は波長が短い領域では実験と良く一致しますが、波長が長くなればなるほど実験結果とズレが大きくなる問題がありました。
:<math>u(\nu) = \nu^3 f\left(\frac{\nu}{T}\right)</math>
 
その条件を満たすものとして1896年に[[w:ヴィーンの放射法則|ヴィーンの放射法則]]を導きました。ここで <math>\nu</math> は光の振動数です。
ヴィーンはドイツの国立・物理工学研究所(PTB)の研究員でした。光の波長は回折格子などで測定でき、当時ドイツには回折格子の工作に十分な加工技術があったため、このような光学測定が可能でした。ヴィーンの発見はそのままプランクによって一般化され、プランクによって量子論への道が拓かれることとなります。
:<math>u(\nu) \sim \nu^3 \exp\left(-C\frac{\nu}{T}\right)</math>
このヴィーンの放射法則は、振動数の大きい領域、言い換えれば波長が短い領域では実験と良く一致しますが、振動数が小さく波長が長い領域では実験結果とズレが生じるという問題がありました。
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ヴィーンはドイツの国立物理工学研究所(PTB) (Physikalisch-Technische Bundesanstalt) の研究員でした。光の波長は回折格子などで測定でき、当時ドイツには回折格子の工作に十分な加工技術があったため、このような光学測定が可能でした。ヴィーンの発見はそのままプランクによって一般化され、プランクによって量子論への道が拓かれることとなります。
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一方、'''[[w:レイリー・ジーンズの法則|レイリー=ジーンズの法則]]'''が、[[w:ジョン・ウィリアム・ストラット (第3代レイリー男爵)|レイリー卿]]によって1900年に最初に発表されました。その後、1905年に[[w:ジェームズ・ジーンズ|ジェームズ・ジーンズ]]が係数に誤りがあることを指摘しています。それとは独立に、1905年にアインシュタインによっても同様の法則が示されています。レイリー=ジーンズの法則は、黒体から放射される電磁波のうち、波長が <math>\lambda</math> から <math>\lambda + d\lambda</math> の間にある電磁波のエネルギー密度を <math>f(\lambda)d\lambda</math> とすると、
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が発散してしまうという問題がありました。このことは、'''黒体放射の問題に対して古典物理学が破綻する'''ことを端的に示しています。
 
レイリー卿の報告と同時期に、プランクは放射の波長領域で実験結果に合致する分布則を導き出しました。プランクはヴィーンの放射法則を元に、長波長領域で実験結果に合うような関数形を模索し、次のプランクの公式
:<math>f(\lambda) = \frac{8\pi hc}{\lambda^5}~\frac{1}{e^\frac{hc}{\lambda kT}-1}</math>
を得ました。ここで <math>h</math> はプランク定数、<math>c</math> は真空中の光速です。この式は、長波長の領域と高温領域においてレイリー=ジーンズの式に漸近し、放射の全エネルギー密度も有限の値になります。