「高等学校物理/物理I/波」の版間の差分

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実際には、この振動には2種類が存在する。まず一方は、振動が伝搬する方向と各点の変移が垂直である場合である。もう一方は、振動が伝搬する方向と各点の粒子の変移の方向が一致している場合である。
 
これらの波は、変移の波の伝搬方向に対する向きから区別され、伝搬方向と振動方向とが垂直の波を[[w:'''横波]]'''(よこなみ、transverse wave)と呼び、もういっぽうの伝搬方向と振動方向とが同じ波を[[w:'''縦波]]'''(たてなみ、longitudinal wave)と呼ぶ。一般には固体中を伝搬する縦波と横波の速度は、互いに異なっている。
 
 
固体を伝搬する波の例として[[w:地震]]により生じる振動伝搬があげられる。地震の波は[[w:地震波]](じしんは)と呼ばれ、その伝搬は固体としての地面そのものだけではなく、地面の上にある建造物などにも激しい変移ゆれを与える。振動の衝撃に耐え切れない建造物は[[w:全壊]]、[[w:半壊]]などの被害を受けるので、あらかじめ地震に備えた対策をしておくことが重要である。地震波にも縦波と横波があり、それらはそれぞれ[[w:'''P波]]'''[[w:'''S波]]'''と呼ばれる。一般にP波はS波よりも速度が大きいが、地面の上に大して大きな振動を与えるのはS波の方であるので、P波と思われる波を感じたら後に来る振動に備えて対処するのがよい。
 
実際には固体中の振動伝搬以外にも、波が関わる現象はいくつかある。例えば水の中で振動を起こしても、その振動はある程度水中を伝わっていく。これは、水や一般的な液体を構成する分子も、固体の場合程ではないにせよ、お互いに相互作用を持っているからである。実際には気体のように固体や液体と比べて密度が非常に低い物体でも、それを構成する各分子はお互いに相互作用を持っており、その振動は気体分子間の相互作用を通じて伝搬していく。この振動は[[w:音]]となって我々の耳に届く。実際には我々が耳にする音は、気体の振動を通して伝搬して来た波として解釈できる。気体中を伝搬する音は縦波であることが知られている。これは相互作用の性質上、音は気体中の各点に生じる[[w:密度]]の揺らぎの伝搬として解釈されるからである。また、このような密度のゆらぎが縦波として伝わっていく波を疎密波(そみつは、compression wave)という。
 
音が気体の振動として我々の耳に届いているなら、固体を介して振動が伝搬して来たときには、その振動は気体の振動を介して伝搬してきた振動よりも明瞭であると考えられる。[[w:糸電話]]はその例であり、話者の声は糸を通して伝搬するため、遠距離でも割合明瞭によく音を聞き取ることができる。また、音を媒介する気体が少ない宇宙空間では通常の方法で会話を行うことはできず、ヘルメットとヘルメットの振動を介して会話を行う必要がある。(実際の例 )
 
我々がよく見る波として、水面に生じる波があるが、この波はこれまでにあげた水中の振動伝搬とは異なる例である。実際には水面に生じる波は重力波と呼ばれ、([[w:重力波(流体力学)]]を参照)その速度は波が伝搬する水の深さに関連する。実際には水が浅くなるほど波の速度は下がり、波高は増すことが知られている。[[w:津波]]は典型的な重力波でありその高さは海岸近くでは遠方にあるときと比べて非常に大きくなり得る。(実際の例 )そのため、海の近くにいるときに地震にあったときには、すぐに高いところに避難することが重要である。
 
身近な波の例として、最後にあげるのが光である。すでに[[中学校理科]]で光と音については似た性質があることが説明された。音と同様、光もまた波としての性質を持つ。これは、例えば後で述べる回折や、干渉などの現象が、光に対しても観察されることから明らかである。
 
身近な波の例として、最後にあげるのが光である。既に[[中学校理科]]で光と音については似た性質があることが説明された。音と同様、光もまた波としての性質を持つ。これは、例えば後で述べる回折や、干渉などの現象が、光に対しても観察されることから明らかである。
:光の干渉の図
一方、光はここまでにあげた波と異なった性質を持つことが知られている。実は、いままでの波と違って、光はこれを媒介する物質を持たない。例えば、音は気体を媒介として伝搬されるので、真空の宇宙を通過することはできない。一方、光は真空の宇宙ですら自由に通過することができる。これは、例えば太陽からの光が地球に届いて来ることから確かである。光の性質についてより詳しくは、下の発展の項を参照。
 
*発展 光の性質:波と粒子の二重性
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=====正弦波=====
[[ファイル:Sine_Cosine_Graph.png|thumb|right|300px|正弦波(赤色)と余弦波(青色)の関数グラフ]]
一般に波は様々な形を取る。これは、波がある時刻にある地点で起こった振動を伝搬する現象であり、その地点で起こる現象の複雑さ次第で、波は様々な形となり得るからである。しかし、波の性質を議論する上では、波の形をある程度限った方が都合がいい。ここでは、波の形として[[w:正弦波]](せいげんは、sinusoidal wave)を考える。波の形としては、他に[[w:矩形波]]、[[w:三角波]]などが基本的である。
 
正弦波に関わらず、周期的な波を与えるには媒介物質の1点に周期的な振動を与える必要がある。このときこの振動は物質間の相互作用を通じて、周りの物体に伝搬される。このとき波の形は周期的運動の種類で決まる。正弦波を発生させたいときには、周期的運動として正弦関数で与えられる振動を与えればよい。正弦関数は周期的な運動であるので、これは周期的な振動の一種である。ここでは簡単のため、媒介物質は1次元方向に広がっているものと仮定する。
 
:周期的な振動の図
このとき正弦波について成り立つ事柄について述べる。実際にはここで扱う事柄は周期的な波には常に当てはまるが、ここでは正弦波しか扱わない。周期的な波を考えるときには、波が媒介されて来るいずれかの点で振動の様子を観察すると、その点での振動はある時間が経過するごとに、同じ値に至ることがわかるはずである。ここで、同じ値が現れるまでの時間を、[[w:'''周期]]'''(しゅうき、period)と呼ぶ。周期は時間経過であるので、単位は [sec] である。また、周期は、しばしば記号にTを用いて書かれる。
 
"T秒ごとに正弦波中の1点が現れる"が周期の定義であった。ここで、"1秒間にf回正弦波中の1点が現れる"によって[[w:'''振動数]](frequency)'''(しんどうすう、frequency)を定義する。振動数は、しばしば記号に f を用いて書かれる。上の例では、T秒間に点が1度現れるのだから、1秒間には 1/T回点が現れる。このことから、一般に正弦波については、
:<math>
f = \frac 1 T
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A \sin (2\pi(\frac t T - \frac x \lambda) + \delta)
</math>
のように定数(ここでは<math>\delta</math>)を入れることもある。ここで<math>\delta</math>は位相(いそう、phase)と呼ばれる。<math>\delta = \frac \pi 2</math>では、振動は正弦運動の最も高い部分から始まり、<math>\delta = \frac {3\pi} 2</math>や、<math>\delta = - \frac \pi 2</math>では最も低い位置から始まる。
 
 
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====== 重ね合わせの原理 ======
 
複数の波が重なりあったとき、そこで得られる波の振幅はそれらの波の振幅を足しあわせたものになる。これを[[w:'''重ね合わせの原理]]'''(principle of superposition)という。このことは、波の振幅が小さいとき(例えば波の幅と比べて)にしか成り立たない。しかし、このことが成り立つときには、個々の波の性質から波の性質が得られるため、この結果は重要である。
 
例えば、同じ振動数を持つ正弦波で振幅が<math>A _1</math>,<math>A _2</math>である場合、2つの波の和によって得られる波の振幅は<math>|A _1-A _2|</math>から<math>A _1+A _2</math>となる。このとき、2つの波の位相が<math>0, 2\pi, 4\pi ... </math>だけずれているときにはこの波の振幅は<math>A _1+A _2</math>となる。一方位相が<math>\pi, 3\pi, 5\pi ... </math>だけずれているときには、波の振幅は<math>|A _1-A _2|</math>となる。
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上の例は波がある1点から始まる場合である。波が複数の点から始まる場合には生じる波は既に述べた重ね合わせの原理から、これらの重ね合わせになるはずである。このことは例えば、波面が直線になる場合('''平面波''')のように、波源が連続的に存在する場合にも同様である。
 
しかし、波源が連続的に存在する場合には、得られる波面が簡単な形になることがある。波面の各点が波源と考えると、その波源からの距離が等しい点は[[w:包絡線]](ほうらくせん)を持つことがある。この場合には、この線が新たな波面と考えることができる。'''包絡線'''については[[w:包絡線]]などを参照。また、このことを[[w:ホイヘンスの原理]](Huygens' principle)と呼ぶ。
 
ホイヘンスの原理を用いると波面の進行についていくつかの事柄を述べることができる。これらは個別に実験的に確認できる。
 
======平面波の直進======
平面波(へいめんは、plane wave)の各点を波源とした場合、平面波の波面上の各点から等距離にある包絡線は、波面に平行な直線となる。このことから、平面波は直進することがわかる。
 
:作図
 
====== 反射 ======
平面波が壁などにぶつかったとき、壁の各点を波源とした包絡線は、壁と平面波の波面の角度を保って、方向を反対にした平面となる。これは、[[w:反射]](はんしゃ、reflection)の法則を表す結果である。
 
:作図
:[[画像:Reflection angles.svg|200px|反射]]
 
====== 屈折 ======
平面波が[[w:屈折率]](くっせつりつ、refractive index)の異なる2つの物質の間を通過したとき、その波面は物質の屈折率の比に応じて[[w:屈折]](refraction)する。このことも反射の場合と同様の理由で示される。ただし、屈折率の違いに応じて、物質中の波の速度が異なることを用いる。
 
:作図
また、屈折率に応じてある反射角に対する屈折角は変化するが、その大きさを表す式を[[w:スネルの法則]](Snell's law)と呼ぶ。
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また、屈折が起こるときには同時に反射も起こっている。反射される波と屈折する波の割合は各々の物質の屈折率によって決まる。
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*全反射
屈折率が大きい媒質から小さい媒質に光が入るときに、入射光が境界面を透過せず、すべて反射する現象が起きる。これを全反射(ぜんはんしゃ、total reflection)という。全反射は、入射角が大きくなると起こる。