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==量子力学とは==
* [[量子力学/量子力学とは]]
量子論についてを説明する前に、量子論以前の物理学について簡単に触れておきます。量子論以前の物理学、すなわち古典論には大まかに、[[古典力学|力学]] (mechanics)、[[電磁気学]] (electromagnetism)、[[統計力学]] (statistical mechanics)、[[熱力学]] (thermodynamics) があります。力学とは、物体の運動をその物体が運動する系の持つ[[w:運動量|運動量]]や[[w:エネルギー|エネルギー]]によって説明する理論であり、物体の簡単な運動を出発点として[[w:月|月]]や[[w:惑星|惑星]]といった[[w:天体|天体]]の動きなどをよく説明することができます。有名な[[特殊相対性理論|相対性理論]] (theory of relativity) は力学に属する理論であり、相対論以前の力学と電磁気学、および力学に含まれる重力理論を統合する過程で作られました。近代物理学における相対論以前の力学理論は、相対論と区別する意味で'''非相対論的力学''' (non-relativistic mechanics)、あるいはその理論形成に大きく寄与した[[w:アイザック・ニュートン|アイザック・ニュートン]]に因んで'''[[w:ニュートン力学|ニュートン力学]]''' (Newtonian mechanics) と呼ばれます。
 
一方で熱力学は、[[w:蒸気機関|蒸気機関]]のような[[w:熱機関|熱機関]]や、[[w:電池|電池]]などで利用される[[w:化学反応|化学反応]]、物体の間に生じる[[w:摩擦|摩擦]]などで生じる[[w:熱|熱]]と[[w:仕事 (物理学)|力学的な仕事]]の収支を説明する理論です。力学では、物体の個別の運動についてを取り扱いますが、熱力学においては物体の運動の結果として与えられる系全体の性質が重視され、系を構成する個々の物体が持つ性質は粗視化されます(ただし、この粗視化という考え方はむしろ後述する統計力学から来る発想で、熱力学だけに限ればより現象論的な構成をすることができます)。粗視化の結果として、[[w:熱力学温度|温度]]や[[w:圧力|圧力]]、[[w:エントロピー|エントロピー]]や[[w:自由エネルギー|自由エネルギー]]といった普遍的な特徴量が現れます。
これらの熱力学的な性質は、力学の理論が正当性を持つ限り、力学に備わる何らかの普遍的な法則によって再現されると期待できます。この熱力学を力学によって再現する試みが統計力学です。統計力学は、力学的な現象を系の統計的な性質として読み替え、実現し得る力学的状態が持つ統計的特徴量のほとんどがそれらの[[w:期待値|期待値]]近傍に集中することで、力学的現象のある種の期待値として熱力学的な特徴量が与えられることを示す理論です。
 
上述の力学、統計力学、熱力学は、取り扱う系の大きさや複雑さ、詳細さによって、'''[[w:微視的|微視的]]''' (microscopic) な理論と'''巨視的''' (macroscopic) な理論とに分類され、最も小さな系を最も詳細に扱う力学は微視的な理論であり、逆に詳細には立ち入らずに巨大で複雑な系を扱う熱力学は巨視的な理論に分類されます。統計力学は微視的な理論と巨視的な理論の両者を結ぶ中間的な理論と言えます。
 
力学は(熱力学との整合性を問題としなければ)あらゆる尺度の現象に適用できるはずであり、実際に[[w:気体|気体]]の振る舞いを[[w:分子|分子]]の集団として説明する[[w:気体分子運動論|気体分子運動論]]や、花粉から出た微粒子が水分子の熱的運動によって揺り動かされるという[[w:ブラウン運動|ブラウン運動]]の理論は、分子の運動のようなミクロな現象に対してさえも力学が説明能力を持っていることを示しています。しかしながら、より微細な構造、[[w:原子|原子]]の構造や[[w:電子|電子]]のような[[w:素粒子|素粒子]]の振る舞いについて、力学は充分な説明を与えることができません。具体的には、[[w:分光法|分光学]] (spectroscopy) によって知ることのできる原子の[[w:スペクトル#分光スペクトル|離散スペクトル]] (discrete spectrum) の存在や、[[w:元素|元素]]の[[w:周期律|周期律]]について力学から説明を与えることはできず、これらは量子論によってはじめて理論的な背景が与えられました。
 
このように量子論は古典力学の適用範囲の限界、特にミクロの世界における現象を理解する過程で発展した理論であり、古典力学に代わってミクロの物理学の基礎を担う学問です。では何故、古典力学が原子のようなミクロの領域では破綻してしまったのでしょうか。一つの説明としては、ミクロの世界で露わになる[[w:不確定性原理|不確定性]] (uncertainty) によってであると言えます。量子論においては、必ずしも複数の[[w:物理量|物理量]]が定まる状態を作ることはできず、たとえば物体の位置と運動量はいずれか一方が確定した状態しか作ることができません。運動量が決定できないことは物体の速度を決定できないことになるので、このことは、古典力学のように物体の運動を 1 つの曲線として描くことができないことを意味します。従って、量子論における物体の運動は連続的ではなく、ある場所からある場所への遷移として捉えられ、それは物体の運動量についても同様のことが言えます。ところで、このような不確定な位置と運動量の関係を理解するのに調度良い古典的な現象が存在します。それが[[w:波動|波]]、とりわけ[[w:光|光]]です。光はその[[w:波長|波長]]によって様々な性質を示し、波長が短い場合には[[w:回折|回折]]のような現象は顕わにならず、光を粒子的なものと見なすことができます。この光の粒子的な側面に注目したのが[[w:幾何光学|幾何光学]]であり、たとえば[[w:スネルの法則|屈折の法則]]は[[w:フェルマーの原理|フェルマーの原理]]を用いることによっても説明することができます。この波と粒子の類似性が示唆するところは、光がどのような対象と相互作用するか、特に光の波長と粒子やスリットの大きさの関係によって、全く違った側面を示し得るということです。実際、粒子を 1 つの[[w:波束|波束]]に置き換えれば、粒子の運動の不確定性は波束に含まれる波の波長と[[w:波数|波数]]の幅と理解することができます。このような考えを推し進めれば、物体の運動の性質の一部分を粒子として、もう一部分を波として解釈する、[[w:ド・ブロイ波|物質波]]の概念に行き着くでしょう。
 
物質波の概念は光の粒子性に触発されて考え出されたアイデアですが、実際に原子や電子のような物質が波としての特徴を持つことは、[[w:電子回折|電子線回折]]や[[w:二重スリット実験|二重スリット実験]](電子に対する[[w:ヤングの実験|ヤングの実験]])によって確認されています。一方、光の粒子性は実験的には、光の粒子性は[[w:光電効果|光電効果]]や[[w:コンプトン効果|コンプトン散乱]]によって確認されています。
 
波のような性質と粒子のような性質を併せ持っている「何か」を私たちは日常見かけることもありません。しかし、原子や分子、電子、素粒子は本当は身近にあるものですし、原子の大きさでの現象が見えてくる研究分野は物理学でも工学でも沢山あります。量子力学は原子や分子、電子、素粒子の振る舞いを記述するにはなくてはならない学問です。量子力学を学んだというためには、原子や分子、電子の振舞いのうち何が記述できて何が記述できないのかを知ること、そしてどういう形で記述するのかを知ること、が必要です。
 
量子力学には大きく分けて 3 つの等価な記述の仕方があります。最も有名で数学的にも親しみやすいものは、[[w:エルヴィン・シュレーディンガー|シュレーディンガー]]の[[w:波動力学|波動力学]]で、これは[[w:波動関数|波動関数]]と呼ばれる関数を[[w:シュレーディンガー方程式|シュレーディンガー方程式]]と呼ばれる[[w:偏微分方程式|偏微分方程式]]の解として求める方法です。もう 1 つは[[w:ヴェルナー・ハイゼンベルク|ハイゼンベルク]]の[[w:行列力学|行列力学]]で、物理量を[[w:行列|行列]]として表し、その行列で表された物理量の時間的変化を[[w:ハイゼンベルクの運動方程式|ハイゼンベルクの運動方程式]]によって記述する方法です。3 つ目は[[w:リチャード・P・ファインマン|ファインマン]]による[[w:経路積分|経路積分法]]で、始状態と終状態の 2 つの時刻における状態間の遷移を汎関数積分によって与える方法です。シュレーディンガーの方法は、回折や干渉、散乱といった問題に有効であり、ハイゼンベルクの方法は定常状態間の遷移則を記述する場合に便利である、ファインマンの方法は[[w:電磁場の量子化|電磁場の量子化]]を取り扱う場合に用いられるなど、それぞれ特徴があります。
 
==量子論の発展==