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== はじめに ==
この章ではニュートン力学の大まかな紹介と、ニュートン力学を学ぶための予備知識として多少の数学と物体の運動に関する概念の導入を行います。[[#ニュートン力学の特徴|初めの節]]では細かな説明を省略しているので、気になる箇所があれば後ろの章を読んで構いません。
'''古典力学''' (classical mechanics) とは、[[量子力学]]と対をなす用語で、量子論から見て古典的 (classical) な、非量子論的な力学一般を指す言葉です。古典力学に含まれる理論は、大きく分けて[[w:ニュートン力学|ニュートン力学]] (Newtonian mechanics) と[[w:相対性理論|相対性理論]] (relativity theory) の 2 つがあります。ニュートン力学は、この理論を創始した自然哲学者の[[w:アイザック・ニュートン|アイザック・ニュートン]]に因むもので、相対論と区別して、非相対論的 (non-relativistic) な力学 (mechanics) と呼ばれることがあります。
相対論は[[特殊相対論]] (special relativity theory) と[[一般相対性理論|一般相対論]] (general relativity theory) の 2 つに分けられます。特殊相対論と一般相対論の大きな違いは、特殊相対論では[[w:重力|重力]] (gravitation) が扱われないことにあります。
 
ニュートン力学と相対論の違いは、一つは[[w:時間|時間]]に対する取り扱いにあります。ニュートン力学では、私達が日常的にそうしているように、時間は普遍的なものとして扱われ、誰にとっても時間の進み方は同じであることを仮定しています。相対論では、誰にとっても時間は同じではなく、それぞれが固有の時間を刻むことが結論されます。
逆に、2 つの理論に共通する事柄として、[[w:因果律|因果律]] (causality) の成立があります。因果律とは、原因となる事象 (event) が結果として生じる事象より先に必ず現れること、あるいは未来の出来事が現在の出来事に影響を及ぼさないことを言います。この「未来」や「現在」の取り扱いはニュートン力学と相対論で大きく異なりますが、いずれの理論においても因果律が生じるのです。
因果律の成立は、離れた場所を結ぶ情報伝達や力の影響の仕方について大きな制約を与えます。ニュートン力学においては時間がすべての物にとって共通していたため、因果律はまだ大きな役割を演じることはありませんが、相対論においては、情報が伝播する最大速度に対する制限として現れることになります。この最大速度は、[[w:電気|電気]]や[[w:磁気|磁気]]に関する研究([[電磁気学]])から、何もない空間を光が進む速さに一致することが知られています。
この[[w:光速|光速]]を中心に据えてニュートン力学について述べるなら、光速が無限に大きいと見なせるような世界の力学がニュートン力学であると言うことができるでしょう。
 
さて、はじめに述べた通り、古典力学は相対論とニュートン力学の総称と言ってよいものですが、相対論とニュートン力学では、そこで取り扱われる原理やそれを支える物理学的な思想に大きな隔たりがあり、単に技術的な部分にのみ注目しても、相対論で扱われる問題とニュートン力学で扱われる問題とでは要求される知識が質的に異なっています。したがって、多くの書籍や講義などと同じように、本書においてはニュートン力学だけを紹介することとします。
 
この章ではニュートン力学の大まかな紹介と、ニュートン力学を学ぶための予備知識として多少の数学と物体の運動に関する概念の導入を行います。[[#ニュートン力学の特徴|初めの節]]では細かな説明を省略しているので、気になる箇所があれば後ろの章を読んで構いません
 
== ニュートン力学の特徴 ==
 
ニュートンは、りんごが木から落ちるのを見て[[w:万有引力|万有引力]] (universal gravitation) を発見したという有名な逸話があります。この逸話は後世の創作であると見なされていますが、ともあれ、地上でりんごに及ぼされる[[w:重力|重力]]と、天上にある[[w:太陽|太陽]]と[[w:惑星|惑星]]の間に働く引力とが同じ万有引力の法則によって記述されるという不思議さを鮮やかに示したものだと言えるでしょう。ニュートン力学の強力さは、扱う事象や概念が私達にとって非常に馴染み深いものであるにもかかわらず、ときに日常の感覚を超えて様々な現象を説明する普遍性にあります。実際、私達の日常にある地上での現象のみならず、[[w:月|月]]などの[[w:天体|天体]]の運動のような非常にスケールの大きなものに至るまで、ニュートン力学の知識によって説明を与えることができます。私達の身のまわりで起こる現象のほとんどは、'''巨視的''' (macroscopic) な現象ですが、生物を構成する[[w:タンパク質|タンパク質]]のような'''[[w:微視的|微視的]]''' (microscopic) な対象についても、ニュートン力学からその機能を理解することができ、理論の適用範囲は非常に広範です。ニュートン力学の及ばない現象については、[[w:相対性理論|相対性理論]]や[[w:量子力学|量子力学]]のような理論が必要となるのですが、これらについては別の機会に述べることとしましょう。
 
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また上記の関係は、質量 <math>m</math> が大きい物体ほど同じ加速度を得るには大きな力が必要であることを示しています。では質量の大きな物体とはどのようなものでしょうか。その答えは物体に働く重力の法則によって示されます。[[w:ガリレオ・ガリレイ|ガリレオ・ガリレイ]]の逸話でも有名なように、物体が落下する際の運動の仕方は物体の重さによらず同じであることが知られています。この[[w:落体の法則|落体の法則]]によって、様々な物体に加わる重力加速度はすべて等しいことが導かれ、しかし物体に加わる力の大きさは物体の重さそのものを示しているため、結局物体の質量と物体の重さは比例することが示されます。つまり、重い物体ほど質量が大きいのです。
 
先に述べた通り、ニュートン力学では物体の加速度と物体に働く力の関係を中心に物体の運動を調べるのですが、物体の加速度は物体の速度の時間に対する変化の割合であり、物体の[[w:速度|速度]]の[[w:時間微分|時間微分]]によって、物体の速度は物体の位置の時間微分によって表すことができます。したがってニュートンの運動方程式は必要に応じて以下のように書き換えられます。
:<math>m\frac{d\boldsymbol{v}}{dt} = \boldsymbol{F},.</math>
また物体の速度は物体の位置の時間に対する変化の割合であり、物体の位置の時間微分によって表すことができます。加速度を速度を用いて表したのと同様にして、ニュートンの運動方程式は物体の位置を用いて以下のように書き換えられます。
あるいは
:<math>m\frac{d^2\boldsymbol{x}}{dt^2} = \boldsymbol{F}.</math>
ここで <math>\boldsymbol{v}</math> は物体の速度、<math>\boldsymbol{x}</math> は物体の位置を表します。この書き換えによって、ニュートンの運動方程式は物体の速度や位置を解とする[[w:微分方程式|微分方程式]]として表され、微分方程式に関する様々なテクニックを利用できるようになります。