「古典力学/イントロダクション」の版間の差分

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</math>
という三角関数に関する加法定理が得られます。
 
;ベクトルの基底と成分
さて、ここまで座標系の変換の具体例をいくつか紹介しましたが、上に挙げた例では変換前と変換後の座標系で同一のベクトルを表した際に、ベクトルの成分がどのように変化するかという視点で説明しました。
この観点において、実際にはベクトル自体は何の変換も受けないにもかかわらずベクトルが変化してしまっているように見えることと、座標系に対する変換を成分に対する変換として表してしまっていることは、事情を必要以上に複雑に見せる場合があり不満が残ります。そこで、座標系を特徴づける[[w:基底 (線型代数学)|基底ベクトル]] (basis vector) をあらわに書いて座標系の変換を書き直します。
 
基底ベクトルは座標系の軸に対応するベクトルであり、(考察対象である)任意のベクトルは、基底ベクトルの定数倍の和、すなわち基底ベクトルの[[w:線形結合|線形結合]] (linear combination) によって一意に表すことができます。ベクトルの成分とは、ベクトルをある基底ベクトルの線形結合として表した際に出てくる<ref>このようにあるベクトルをある基底ベクトルの線形結合として表現することを「ベクトルを(その基底によって)展開する」といいます。</ref>、基底ベクトルの係数の組のことをいいます。
 
変換前の基底ベクトルの組を <math>\{\mathbf{e}^{(1)},\mathbf{e}^{(2)}\}</math>、変換後の基底ベクトルの組を <math>\{\mathbf{e}'^{(1)},\mathbf{e}'^{(2)}\}</math> とすれば、変換前後における位置ベクトル <math>\boldsymbol{x}</math> はそれぞれ以下のように表すことができます。
:<math>\boldsymbol{x} = x_1\mathbf{e}^{(1)} + x_2\mathbf{e}^{(2)} = x'_1\mathbf{e}'^{(1)} + x'_2\mathbf{e}'^{(2)}.</math>
座標変換の後と前とにおける基底ベクトルは互いの線形結合によって表すことができ、変換前の基底を変換後の基底によって展開したものは
:<math>\begin{align}
\mathbf{e}^{(1)} &= P'{}^1_1{\mathbf{e}'}^{(1)} + P'{}^1_2{\mathbf{e}'}^{(2)} \\
\mathbf{e}^{(2)} &= P'{}^2_1{\mathbf{e}'}^{(1)} + P'{}^2_2{\mathbf{e}'}^{(2)}
\end{align}</math>
となり、変換後の基底を変換前の基底によって展開したものは
:<math>\begin{align}
{\mathbf{e}'}^{(1)} &= P{}^1_1\mathbf{e}^{(1)} + P{}^1_2\mathbf{e}^{(2)} \\
{\mathbf{e}'}^{(2)} &= P{}^2_1\mathbf{e}^{(1)} + P{}^2_2\mathbf{e}^{(2)}
\end{align}</math>
となります。ここで現れる係数の組 <math>\{P{}^i_j\},\, \{P'{}^i_j\}</math> はあからさまに行列の形をしており、
基底ベクトルの組を単に <math>\mathbf{e},\, \mathbf{e}'</math> と表し、基底の展開係数の組を行列 <math>\textrm{P}',\,\textrm{P}</math> によって表せば、上記の関係は以下のようにまとめられます。
:<math>\begin{cases}
\mathbf{e}\; = \textrm{P}'\mathbf{e}' \\
\mathbf{e}' = \textrm{P}\mathbf{e}
\end{cases}
</math>
これらの関係から、基底の変換行列が満たすべき条件を導くことができます。座標変換前の基底から変換後の基底に移ったのち、再び座標変換前の基底に戻るという操作は
:<math>\mathbf{e} = \textrm{P}'\mathbf{e}' = \textrm{P}'(\textrm{P}\mathbf{e})</math>
と書けます。同様に、座標変換後の基底を出発して元に戻る場合には
:<math>\mathbf{e}' = \textrm{P}\mathbf{e} = \textrm{P}(\textrm{P}'\mathbf{e}')</math>
となります。これらの結果から
:<math>\textrm{P}'\textrm{P} = \textrm{P}\textrm{P}' = \textrm{I}</math>
という関係が得られます。つまり、行列 <math>\textrm{P}'</math> は行列 <math>\textrm{P}</math> の[[w:逆行列|逆行列]] (inverse matrix) <math>\textrm{P}^{-1}</math> であり、
:<math>\textrm{P}' = \textrm{P}^{-1} \qquad (\textrm{P} = \textrm{P}'{}^{-1})</math>
基底を移し替える操作 <math>\textrm{P}</math> にはそれを元に戻す逆操作が必ず存在することが分かります<ref>このような逆行列を持つ行列を[[w:正則行列|正則行列]] (regular matrix)、または'''可逆行列''' (invertible matrix) といいます。</ref>。
 
ここで得られた座標変換の行列 <math>\textrm{P}</math> を用いてベクトル <math>\boldsymbol{x}</math> の展開を書き換えると、
:<math>\begin{align}
\boldsymbol{x} &= x_1\mathbf{e}^{(1)} + x_2\mathbf{e}^{(2)} \\
&= x_1\left\{ P'{}^1_1{\mathbf{e}'}^{(1)} + P'{}^1_2{\mathbf{e}'}^{(2)} \right\}
+ x_2\left\{ P'{}^2_1{\mathbf{e}'}^{(1)} + P'{}^2_2{\mathbf{e}'}^{(2)} \right\} \\
&= (P^{-1}{}^1_1x_1 + P^{-1}{}^2_1x_2){\mathbf{e}'}^{(1)}
+ (P^{-1}{}^1_2x_1 + P^{-1}{}^2_2x_2){\mathbf{e}'}^{(2)}
\end{align}</math>
となります。ここで変換後の成分を取り出すと以下の関係が得られます。
:<math>\begin{align}
x'_1 &= P^{-1}{}^1_1x_1 + P^{-1}{}^2_1x_2 \\
x'_2 &= P^{-1}{}^1_2x_1 + P^{-1}{}^2_2x_2
\end{align}</math>
また成分ベクトルを <math>\boldsymbol\xi = (x_1,\, x_2)</math> とすれば、上記の関係は以下のように整理できます。
:<math>
\boldsymbol{\xi}^\mathrm{T}\mathbf{e}
= \boldsymbol{\xi}^\mathrm{T}\textrm{P}'\mathbf{e}'
= \boldsymbol{\xi}^\mathrm{T}\textrm{P}^{-1}\textrm{P}\mathbf{e}
= {(\textrm{P}^{-1}{}^\mathrm{T}\boldsymbol{\xi})}^\mathrm{T}\textrm{P}\mathbf{e} .
</math>
 
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