「高等学校古典B/漢文/非攻」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
== 書き下し文 == 今(いま)一人(いちにん)有り(あり)、人(ひと)の園圃(えんぽ)に入りて(いりて)
いろいろと加筆
6 行
人一人を殺せば犯罪だが、今の世の中、戦争で敵をたくさん殺した者は英雄とされ、敵を多く殺した者は君主に誉められる。こんな今の世の中、間違ってる。間違った世の中を、正しい世の中へと、直すべきだ。戦争で人を多く殺した者と、それを指図した君主は、非難されるべきだ。
 
== 一 ==
=== 現代語訳 ===
今(仮に)一人の人がいて、他人の果樹園や畑に入り、その桃や李(すもも)を盗んだとする。人々はそのことを聞くと非難し、人々の上で政治を行う者は、この(果樹を盗んだ)者を捕らえて罰するだろう。これはどうしてか。他人に損害を与えて自分の利益としたからである。紛れ込んできた他人の犬や豚や鶏や子豚を自分の物にしてしまう者は、その不義は他人の果樹園に入り桃や李を盗む者よりも、さらにひどい。これは、どういう理由か。他人に損害を与えることが、さらに多いからである。かりにも人に損害を与えることがさらに多ければ、その思いやりの無さはますますひどく、罪はますます重い。他人の家畜小屋に入って、他人の馬や牛を盗む者にいたっては、その、人の道に外れている程度は、紛れ込んできた犬・豚・鶏・子豚を自分の物にしてしまうよりも、さらにひどい。これは、どういう理由か。他人に損害を与える程度が、さらに多いからである。かりにも人に損害を与える程度が多ければ、その思いやりの無さもますますひどく、罪はますます重い。無実の人を殺し、その衣服を奪い、戈(ほこ)や剣を奪う者にいたっては、その不義はまた、他人の家畜小屋に入って他人の馬や牛を盗むよりも、さらにひどい。これは、どういう理由か。他人を傷つけることが、さらに多いからである。仮にも他人に損害を与える程度がさらに多ければ、その思いやりの無さはますますひどく、罪はますます重い。このようなことは世の中の知識人は、皆知っていて、これらのこと(=盗みや殺人など)を非難し、これを不義と言っている。
 
(しかし)今(の世の中では)、たいへんな不義をはたらいて、他国を攻めるにいたっては、非難することを知らず、むしろこれを誉めて、これを道にかなってるという。これでは道にかなってることと外れていることの区別を知っているといえようか。一人を殺せば、これを不義といい、必ず一つの死罪となる。もしこの考え方で論を進めるならば、十人を殺せば不義は十倍になり、十倍分の死罪になる。百人を殺せば、不義は百倍になり、必ず百倍分の死罪がある。このようなことは、世の中の君子ならば、皆知っていて、これ(=殺人)を非難し、これを不義と言っている。(ところが、)今、たいへんな不義をはたらいて、他国を攻めるにいたっては、非難をすることを知らず、(こともあろうに)これを誉めて、これを正義と言っている。それを不義だと知らないのである。
 
=== 書き下し文 ===
今(いま)一人(いちにん)有り(あり)、人(ひと)の園圃(えんぽ)に入りて(いりて)、其の(その)桃李(とうり)を窃む(ぬすむ)。衆(しゅう)聞きて(ききて)則ち(すなわち)之(これ)を非(ひ)とし、上(かみ)の政(まつりごと)を為す(なす)者(もの)得て(えて)則ち(すなわち)之(これ)を罰(ばつ)せん。此れ(これ)何ぞや(なんぞや)。人を虧きて(かきて)自ら(みずから)利(り)するを以て(もって)なり。人(ひと)の犬豕鶏豚(けんしあいとん)を攘む(ぬすむ)者(もの)に至りては(いたりては)、其の(その)不義(ふぎ)は又(また)人(ひと) の園圃(えんぽ)に入りて(いりて)桃李(とうり)を窃む(ぬすむ)よりも甚だし(はなはだし)。是れ(これ)何の(なんの)故(ゆえ)ぞや。人(ひと)を虧く(かく)ことの愈(いよいよ)多き(おおき)を以て(もって)なり。苟くも(いやしくも)人(ひと)を虧く(かく)ことの愈(いよいよ)多ければ、其の(その)不仁(ふじん)は茲(ますます)甚だしく(はなはだしく)、罪(つみ)は益(ますます)厚し(あつし)。人(ひと)の欄厩(らんきゅう)に入りて、人の馬牛(ばぎゅう)を取る者に至りては、其の不義は、又(また)人の犬豕鶏豚(けんしあいとん)を攘む(ぬすむ)者(もの)より甚だし。是れ(これ)何の(なんの)故(ゆえ)ぞや。其の人を虧く(かく)ことの愈(いよいよ)多きを以てなり。苟くも(いやしくも)人(ひと)を虧く(かく)ことの愈(いよいよ)多ければ、其の(その)不仁(ふじん)は茲(ますます)甚だしく(はなはだしく)、罪(つみ)は益(ますます)厚し(あつし)。不辜(ふこ)の人を殺し、其の衣裘(いきゅう)を(うばい)、戈剣(かけん)を取る者(もの)に至りては(いたりては)、其の不義は、又(また)人(ひと)の欄厩(らんきゅう)に入りて、人の馬牛(ばぎゅう)を取るよりも甚だし(はなはだし)。此れ(これ)何の(なん)故(ゆえ)ぞや。其の人を虧く(かく)ことの愈(いよいよ)多きを以てなり。苟くも(いやしくも)人(ひと)を虧く(かく)ことの愈(いよいよ)多ければ、其の(その)不仁(ふじん)は茲(ますます)甚だしく(はなはだしく)、罪(つみ)は益(ますます)厚し(あつし)。此く(かく)の如き(ごとき)は天下の君子(くんし)、皆(みな)知りて(しりて)之(これ)を非(ひ)とし、之(これ)を不義(ふぎ)と謂ふ(いう)。
 
今(いま)大いに(おおいに)
 
 
== 語釈 ==
=== 語彙・句法 ===
:不義(ふぎ) - 道理に外れていること。正しくないこと。
:何故(なんノゆえ) - どういう理由。「故」の意味が「理由」。
----
* 苟虧人愈多(いやシクモ ひとヲ かクコト いよいよ おおケレバ) -
意味: 仮にも、人に損害を与えることが、さらに多ければ
:苟(いやしくも)- 仮に(かりに)。仮定をあらわす。
----
: - 。
----
* 若以此説往(もシ こノ せつヲ もっテ ゆカバ) -
:意味: もしこの考え方で論を進めるならば、
:若(もシ) - 「もし・・・ならば」という仮定の意味。
----
 
=== 語釈 ===
:一人(いちにん) - ある人。ある一人(ひとり)のひと。「ひとりのひと」ではないと説く教科書ガイドもあるが、ほかの出版社の教科書ガイド書籍では、「ひとりのひと」と説く場合もある。このように、出版社によって解釈が異なっているので、暗記には深入りしなくてよい。
: - 。
:園圃(えんぽ) - 果樹園や畑。
:窃 - 相手に気づかれないように、こっそりと盗む。
22 ⟶ 39行目:
:非(ひ) - 悪。非難の対象。
:虧 - 損害を与える。
:不仁(ふじん) - (※ 参考書によって解釈がちがう。) 解釈1: 不義とほぼ同じ意味。 解釈2: 思いやりがない。
: - 。
:豕 - ぶた。
:豚 - こぶた。
:欄厩(らんきゅう) - 牛や馬を飼う小屋。
: - 。
:不辜(ふこ) - 無実。
:衣裘(いきゅう) - 衣服。
:戈(か) - ※ 矛(ほこ)のような武器。 正確には違う武器だが、高校国語では、そこまで気にしなくても良いだろう。入試などでの現代語訳の問題では、「ほこ」「矛」という意味で訳を書いても平気だろう。
: - 。
 
== 二 ==
=== 現代語訳 ===
(しかし)今(の世の中では)、たいへんな不義をはたらいて、他国を攻めるにいたっては、非難することを知らず、むしろこれを誉めて(ほめて)、これを道(みち)にかなってるという。これでは道にかなってることと外れていることの区別を知っているといえようか(、いや、道を知っていない)。一人を殺せば、これを不義といい、必ず一つの死罪となる。もしこの考え方で論を進めるならば、十人を殺せば不義は十倍になり、十倍分の死罪になる。百人を殺せば、不義は百倍になり、必ず百倍分の死罪がある。このようなことは、世の中の君子ならば、皆知っていて、これ(=殺人)を非難し、これを不義と言っている。(ところが、)今、たいへんな不義をはたらいて、他国を攻めるにいたっては、非難をすることを知らず、(こともあろうに)これを誉めて、これを正義と言っている。それを不義だと知らないのである。
 
=== 書き下し文 ===
今(いま)大いに(おおいに)不義(ふぎ)を為して(なして)、国(くに)を攻むる(せむる)に至りて(いたりて)は、則ち(すなわち)非(ひ)とするを知らず(しらず)、従ひて(したがいて)之を(これを)誉め(ほめ)、之(これ)を義(ぎ)と謂ふ(いう)。此れ(これ)義(ぎ)と不義(ふぎ)との別(べつ)を知る(しる)と謂ふ(いう)べきか。
 
=== 語彙・句法 ===
: - 。
: - 。
: - 。
 
=== 語釈 ===
:十重(じゅうじょう) - 十倍。
: - 。
: - 。