「物理数学I 解析学」の版間の差分

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問題例を追加。
実数の連続性、例題などを追加。
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==解析学==
 
解析学は高校までの数学の延長としてとらえることも出来るが、高校までの数学を
厳密に基礎づける科目ととらえることも出来る。例えば、高校までの範囲では
数列の極限や関数の連続は厳密には定義されていなかった。
解析学ではこのような極限を取る手法を扱う。また、微分や積分に関するより進んだ
計算も扱う。ここで学んだ手法は線形代数と並んで、より進んだ計算を行なう
ための基礎となるので、ここで学ぶ手法には十分習熟する必要がある。
 
===1変数の計算===
 
ここでは、1つの変数を扱う関数を用いて収束や連続性の定義を扱う。
また、それらを用いて厳密に定義された手法を用いてテイラー展開や
より複雑な積分を導入する。
 
 
====実数の連続性====
 
最初に、無理数を定義する手法を考える。高校までの範囲では、実数のうちで
有理数でないものを無理数と定義した。ここで有理数とは、2つの互いに素の
整数n,mを用いて、
:<math>
\frac n m
</math>
とかかれるもの全体を指す。しかし、この構成ではそもそも実数が何なのかが
示されていないため、無理数というものがとらえにくいという難点がある。
ここで、実数の性質について1つの仮定をおく。
:実数が全て書かれた直線を数直線とする。この数直線上でただ1点に対する切断を考えるとき、その点はその点より小さい数の集合と大きい数の集合を作りだす。このとき、この数自身は小さい数の集合に含まれて、大きい数の集合には含まれないものとする。
この定義はデデキントの切断と呼ばれる。このとき、ある実数をその数より小さい
有理数の集合によって定義する。この定義は有理数と無理数の両方に対して適用できる。
なぜなら、切断で選ばれた点が有理数だったときには、その点自身までの有理数の
集合を選んだ有理数を表わす有理数の集合として扱えばよい。
一方、切断によって選ばれた点が無理数だったときには、その切断は必ずその近くに
ある別の数を表わす切断とは区別される。なぜなら、ある数を選んだときその数と
別の数の間には必ずある有理数が存在するからである。有理数のこの性質は
有理数の稠密性と呼ばれ、有理数の重要な性質である。これは、どんな数でも
数値として書くならその値はどんな場合でも無限小数で書くことが出来、無限小数は
どれほど小さい数でも有理数で書かれる循環小数を含んでいることから確かに
成立するのである。このようにして、無理数はその数より小さい有理数全体の
集合によってとらえられた。
 
====数列の収束の定義====
 
 
ここからは、上で述べた実数の連続性を用いて、数列の収束を定義する。
まずは、収束の定義を述べる。
任意の(小さい)ある数<math>\epsilon</math>をとったとき、
あるNが存在して
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数列<math>a _n</math>は、定数aに収束するという。
 
分かり難い定義だが、これが直観的にnが大きいとき
ある定まった値に近づいて行くという描像と一致することに注意すること。
 
ここで、実数の連続性は無限にある定数aに近い数がただ1つしかないということを
また、
見るために用いられている。これは、ある定数aと異なった点bは、定数aとの間に
あるNが存在して
何らかの有理数を持つため、定数aと無限に近くにあることは出来ない。そのため、
n <math>>=</math> N を満たすすべてのnについて
数列<math>|a _n-a|</math>が、定数aと選んだ点bの距離よりも小さい<math>\epsilon</math>よりも小さいという条件を
任意に取った(大きい)Rに対して、
満たすとき、<math>a _n</math>が収束する点は確かに点bではなく、点aであることが
保証されるのである。
上の定義は高校までに行なった全ての極限の定義に適合しているはずなので、
実際に極限の計算を行なうときには、これまでに用いた結果をそのまま用いてもよい。
ただし、この定義によると
収束する数列の和や、積に関する結果は、この定義から直接導出することができる
ため、以前よりも少ない仮定で計算が進められるといえる。
具体的には以下が成り立つ。
 
定数a,bに収束する数列<math>a _n</math>,<math>b _n</math>に対して、
(I)
:<math>
\lim (a _n >+ b _n) = a + Rb
</math>
(II)
が成り立つとき、<math>a _n</math>はn無限大で
正の無限大に発散するという。
同じ様にして、
任意に取った(小さい)Rに対して、
:<math>
\lim (a _n \times b _n) = a b
a _n < R
</math>
が成り立つとき、<math>a _n</math>はn無限大で
負の無限大に発散するという。
 
*導出
 
(I)について、数列<math>a _n</math>がaに収束することから、
ある定数<math>\epsilon _1</math>を取ったとき、ある定数<math>N _1</math>が存在し、
<math>N _1 < n</math>を満たす全てのnについて、
:<math>
|a _n - a | < \epsilon _1
</math>
が成立する。同様に
数列<math>b _n</math>がbに収束することから、
ある定数<math>\epsilon _2</math>を取ったとき、ある定数<math>N _2</math>が存在し、
<math>N _2 < n</math>を満たす全てのnについて、
:<math>
|b _n -b | < \epsilon _2
</math>
が存在する。
 
ここで、
*適用例
:<math>
a _n + b _n
</math>
について、
:<math>
N = \textrm{max} (N _1,N _2)
</math>
としたとき、全ての<math>n>N</math>を満たす整数nに対して
:<math>
| a _n + b _n - ( a+b)|
</math>
を計算すると、この量は三角不等式を用いることで、
:<math>
< | a _n - a | + |b _n - b|
</math>
:<math>
< \epsilon _1 + \epsilon _ 2
</math>
が成り立つ。しかし、<math>\epsilon _1</math>,<math>\epsilon _2</math>はNを大きく取ることでいくらでも
小さくできるため、全ての<math>\epsilon</math>に対して
:<math>
\epsilon _1 + \epsilon _ 2 < \epsilon
</math>
となるような整数Nが存在する。よって、
:<math>
\lim ( a _n + b _n) = a+b
</math>
が示された。
 
(II)
**ある有限値に収束する場合
 
同様に
例えば、数列
:<math>
a _n =b \frac 1 n_n
</math>
の時について考える。
*図
この数列は確かにn無限大で0に収束するように見えるが、
実際そのことを定義に従って確認することがこの計算の
主旨である。
このとき仮にどれほど小さい<math>\epsilon</math>をとったとしても、
全ての
:<math>
n| >a N_n =b \frac_n 1- \epsilonab|
</math>
は、
を満たすnについて、a=0としたとき、
<math>a _n</math>は
:<math>
= | a _n ( b _n - b) + b (a _n - a) |
\begin{matrix}
|a _n - a | &= \frac 1 n\\
&<= \epsilon
\end{matrix}
</math>
:<math>
となるので、この数列はn無限大で0に収束することが
\le |a _n ( b _n - b) | + |b| |a _n - a |
分かる。
</math>
となる。ここで、<math>n>N</math>に対しては
:<math>
a - \epsilon _1< a _n < a + \epsilon _1
</math>
が成り立つことに注目すると、
:<math>
< ( a + \epsilon _ 1 ) \epsilon _2 + |b| \epsilon _1
</math>
が得られる。ここで、<math>\epsilon _1</math>,<math>\epsilon _2</math>はNを大きく取ることでいくらでも
小さくできるため、a,bが有限のときa,bの値に関わらず上の値は限りなく
小さくなる。よって、
:<math>
\lim (a _n \times b _n) = a b
</math>
が示された。
 
**問題
**正の無限大に発散する例
 
次の数列
:<math>
n \rightarrow \infty
</math>
の極限値を求めよ。
(I)
:<math>
\lim ( 1 + \frac 1 n)
</math>
(II)
:<math>
\lim ( 2 \times \frac 1 n)
</math>
 
**解答
上の結果である
(I)
:<math>
\lim (a _n + b _n) = a + b
</math>
(II)
:<math>
\lim (a _n b _n) = a b
</math>
を用いればよい。ただし、定数は全てのnに対して同じ数を取る数列として扱う。
(I)
:<math>
\lim ( 1 + \frac 1 n)
</math>
は、1は極限値1をとり
:<math>
\frac 1 n
</math>
は、極限値0を取ることから、
:<math>
\lim ( 1 + \frac 1 n) = 1 +0 =1
</math>
となる。
 
(II)
:<math>
\lim ( 2 \times \frac 1 n)
</math>
について、2は、極限値2を取り、
:<math>
\frac 1 n
</math>
は極限値0を取ることから、
:<math>
\lim ( 2 \times \frac 1 n) = 2 \times 0 = 0
</math>
が成り立つ。
一般に定数倍や定数の足し算は、極限値に定数倍や定数の足し算をすればよい。
 
 
 
次に数列の発散の定義をする。ここでも上の場合と同様無限個の数列の値が
ある値より大きくなることが重要である。あるNが存在して
n <math>\ge</math> N を満たすすべてのnについて任意に取った(大きい)Rに対して、
:<math>
a _n > R
</math>
が成り立つとき、<math>a _n</math>はn無限大で正の無限大に発散するという。
このことを
:<math>
\lim a _n = \infty
</math>
と書かれる。
 
*問題例
**問題
:正の無限大に発散する例
数列
:<math>
a _n = n
</math>
の場合について考えこの数列が上の定義を用いたときに正の無限大に発散すことを示せ
 
この場合、どのような(大きい)Rを取ったとしても
**解答
ここでも、Nの選び方が重要である。ここでは、あるRに対して
:<math>
N \ge R
</math>
と選べばよい。この場合、どのような(大きい)Rを取ったとしても
:<math>
N >=\ge R
</math>
を満たすような整数Nを選ぶと、それ以降の全てのnについて
:<math>
a _n => n \ge R = N
</math>
が成り立つ。よって値Rはいくらでも大きくできるのでこのことは数列の発散の条件を
満たしている。よって、数列
:<math>
a _n = n
88 ⟶ 262行目:
 
 
同じ様にして、 あるNが存在してn <math>\ge</math> N を満たすすべてのnについて
**ある有限値に収束しない場合
任意に取った(小さい)Rに対して、
:<math>
a _n < R
</math>
が成り立つとき、<math>a _n</math>はn無限大で
負の無限大に発散するという。
このことは
:<math>
\lim a _n = - \infty
</math>
と書かれる。
 
 
このうちのいずれにも当てはまらない場合もある。例えば、次の場合は数列は
どの値に収束することもないため、数列は極限値を持たない。
 
 
*問題例
**問題
:ある有限値に収束しない場合
:<math>
a _n = (-1)^n
</math>
が上の定義のいずれも満たさないことを示し、この数列が収束も発散もしないことを
について考える。
導出せよ。
このとき、非常に大きなNを取ったとしても
 
そのNから先の全てのnについて<math>a _n</math>がきわめて
 
aに近い値に留まるようなaは存在しない。
**解答
このとき、非常に大きなNを取ったとしても、そのNから先の全てのnについて
<math>a _n</math>がきわめてaに近い値に留まるようなaは存在しない。
例えば、a = 1と取ったとすると、ある値kにおいて
:<math>
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それ以外の量を選んでも同じである。
よって、この数列はn無限大である値に収束することは無い。
一方、この数列は1と-1しか値を取らないため、どのような数よりも大きくなるような
数列ではない。よって、この数列は正負の無限大に発散することもない。
よって、この数列は収束も発散もしないことが示された。
 
 
====連続の定義====