「高等学校化学I/物質と原子」の版間の差分

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カルシウムは、じつは金属である。カルシウムは金属なので、電気もよく通す。動物の骨のおもな成分は、リン酸カルシウムという化合物であるので、電気を通しにくいのである。ちなみに骨は細胞である。
 
== 分子とイオン ==
物質は、元素という成分から成り立っていることは前述の通りである。しかし、物質が原子という小さな構造によって構成されているという側面もある。そこで、原子同士がどのような構造を形成して物質が形作られているのか、といった視点から物質を分けることもできる。高等学校化学では主に、'''イオンからなる物質'''、'''分子からなる物質'''、'''原子からなる物質'''の三種類を考える。
 
これらの物質に関して理解する前に、まずは物質を構成する原子の''異なった姿''である'''分子'''・'''イオン'''について知ろう。
 
=== 分子 ===
{| style="float: right; padding: 0px; margin: 4px;"
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! style="text-align: center;" | 様々な分子のモデル
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| [[Image:Dioxygen-3D-vdW.png|thumb|center|120px|酸素分子のモデル]]
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| [[Image:Carbon-dioxide-3D-vdW.svg|thumb|center|120px|二酸化炭素のモデル]]
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| [[Image:Ammonia-3D-vdW.png|thumb|center|120px|アンモニアのモデル]]
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| [[Image:Acetone-3D-vdW.png|thumb|center|120px|アセトンと呼ばれる分子のモデル]]
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|}
; 分子 : 分子とは、物質としての性質を持った最小単位の一つである。
: 1つ以上の原子から成り立っている。
分子は電気的に中性であるため、これらが物理的に運動する限りにおいては、電磁気の問題は基本的に発生しない。一粒が独立しているので、エネルギーの大きい分子同士は反発する。しかし、エネルギーの小さい分子同士はお互いに引き合う。これによって、たとえば水は気体・液体・固体の三態を持つことになる。
一般に分子は原子が複数個集まってできていることが多いが、ただ一つの原子だけで独立して分子となるものもいる。希ガスと呼ばれる種類の原子は、他の原子と結びつかず、独立で分子を構成する。
; 単原子分子(monoatomic molecule) : 一個の原子から構成されている分子。具体的にはヘリウムHeやネオンNeなど。
; 多原子分子(polyatomic molecule) : 二個以上の原子から構成されている分子。たとえば水H<sub>2</sub>Oや酸素O<sub>2</sub>など。
ある分子が、どのように原子が結びついて出来ているのかということを表記するとき、一般的には分子式を用いる。
 
以下に、様々な分子の例を示した。また、それらの分子式も付け加えた。分子名はウィキペディアのそれぞれの分子の項目にリンクしているので、より詳しい性質を見たい人は参考にすると良い。
 
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
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! 名称 !! 分子式 !! 分類 !! 簡単な性質
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| [[w:水素|水素]] || H<sub>2</sub> || 多原子分子 || 常温で気体。
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| [[w:酸素|酸素]] || O<sub>2</sub> || 多原子分子 || 常温で気体。物を燃やす働きがある。大気の約21%がこの分子である。
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| [[w:窒素|窒素]] || N<sub>2</sub> || 多原子分子 || 常温で気体。大気の約78%がこの分子である。
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| [[w:水|水]] || H<sub>2</sub>O || 多原子分子 || 常温で液体だが、固体や気体の姿もおなじみだろう。
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| [[w:アンモニア|アンモニア]] || NH<sub>3</sub> || 多原子分子 || 刺激臭。水によく溶け、水溶液はアルカリ性を示す。
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| [[w:二酸化炭素|二酸化炭素]] || CO<sub>2</sub> || 多原子分子 || 常温で気体。
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| [[w:ネオン|ネオン]] || Ne || 単原子分子 || 希ガスの一種。ネオンサインなどに利用される。
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| [[w:アルゴン|アルゴン]] || Ar || 単原子分子 || 希ガスの一種。大気の約1%がこの分子である。
 
|}
{{-}}
=== イオン ===
{| style="float: right; padding: 0px; margin: 4px;"
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! style="text-align: center;" | 様々なイオンのモデル
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| [[Image:Ammonium-3D-vdW.png|thumb|center|120px|アンモニウムイオン(NH<sub>4</sub><sup>+</sup>)のモデル]]
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| [[Image:Sulfate-3D-vdW.png|thumb|center|120px|硫酸イオン(SO<sub>4</sub><sup>-</sup>)のモデル]]
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| [[Image:Hydronium-3D-vdW.png|thumb|center|120px|オキソニウムイオン(OH<sub>3</sub><sup>+</sup>)のモデル]]
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| [[Image:Sodium-chloride-unit-cell-3D-ionic.png|thumb|center|120px|塩化ナトリウム(NaCl)のモデル。ナトリウムイオン(Na<sup>+</sup>)と塩化物イオン(Cl<sup>-</sup>)が交互に並んでいる。]]
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|}
最外殻電子に含まれる電子の数が8個(K殻のみ2個)である状態を'''閉殻構造'''と呼ぶ。原子は、電子を受け取ったり、他の原子に電子を渡したりして、閉殻構造を作ろうとする。これは、閉殻構造が非常に安定した形であるためだと考えられている。原子は通常の状態であれば電荷的に中性だが、このように電子を渡したり受け取ったりして粒子全体として電荷をもつことがある。このように、電荷を持った粒子のことを'''イオン'''(ion)という。特に正の電荷を持つ粒子を'''陽イオン'''(positive ion)と言い、負の電荷を持つ粒子を'''陰イオン'''(negative ion)と言う。
; 陽イオン(positive ion) : 正の電荷を持ったイオン。
; 陰イオン(negative ion) : 負の電荷を持ったイオン。
価電子の少ない原子は、電子を失って陽イオンになりやすい。逆に価電子の多い原子は、電子を受け取って陰イオンになりやすい。このように失ったり受け取ったりした電子の数を、そのイオンの'''価数'''(valence)という。価数が1のときそのイオンは'''1価'''であるといい、以下2価、3価と数える。電子の電荷は-eであるが、ここでは、電子一つを基準にしていることに注意。
 
[[Image:Electron shell 011 Sodium.svg|180px]]
[[Image:Electron shell 017 Chlorine.svg|180px]]
 
左の図はナトリウム原子(Na)のボーアモデルである。ナトリウムの原子番号は11であるため、K殻に2個、L殻に8個、M殻に1個の電子が含まれる。電子が11個あり、この時点では原子核の電荷+11eと電子の電荷-11eが相殺し合って、原子全体としては電荷的に中性である。しかし、価電子数が1で、閉殻構造を取れていない。右の図は塩素(Cl)のボーアモデルである。塩素の原子番号は17であるため、K殻に2個、L殻に8個、M殻に7個の電子が含まれる。これもやはり電荷的に中性であるが、閉殻構造を取れていない。最外殻電子の数、すなわち価電子数は7である。
 
[[Image:Legame ionico fra sodio e cloro.svg|400px]]
 
そこで、この二つの原子がある条件下でお互いに電子を受け渡すことが起こる。上の図は、最外殻電子のみを描いたボーアモデルで、電子の受け渡しを表現したものである。ナトリウム原子は原子核の+11eと、ひとつ数の少なくなった電子による-10eで、全体として+eの電荷をもっていることになる。塩素は、ナトリウムから電子を一つ受け取って、全体で電子が一つ多いので、-eの電荷をもっていることになる。イオンは普通、このようにして作られると考えられている。また、NaCl全体で見れば電荷的に中性であり、ナトリウムイオンも、塩化物イオンも、ともに閉殻構造を取っている。
 
イオンとなった原子は、その元素記号の右上に価数と符号をつけることで表現する。このような表現法を'''イオン式'''という。
 
: Mg<sup>2+</sup>:<small>2価の陽イオンとなったマグネシウム</small>
 
これは、2価の陽イオンとなったマグネシウムをイオン式で表現したものである。数字が先に来ることにも注意したい。また、+1や-1のときには、数字は書かずに符号のみを付けることになっている。
 
: H<sup>+</sup>:<small>水素イオン</small>
 
イオンは必ずしも一つの原子からなるわけではない。原子がいくつか集まった原子団<small>( もしくは、分子 )</small>でも、様々な理由からイオンになる。
; 単原子イオン
: 原子一粒が電子を受け取ったり渡したりしてイオンになったもの。
; 多原子イオン
: 二個以上の原子が結合した原子団に、電子が結合したり、取れたりしてできたもの。
 
: NH<sub>4</sub><sup>+</sup>:<small>アンモニウムイオン</small>
: OH<sup>-</sup>:<small>水酸化物イオン</small>
 
<small>一般的に、陽イオンは「~イオン」、陰イオンは「~化物イオン」と呼ばれる。また、多原子イオンであれば、それがイオンになる前の分子の名前に「~イオン」や「~化物イオン」と付けて呼ばれることが多い。上述の例で言うなら、アンモニアのイオンはアンモニウムイオンである。</small>
{{-}}
 
== 物質の構成 ==
 
これまでに学習してきた原子・分子・イオンという粒を使って、実際の物質がどのように構成されているかを見て行こう。このセクションの多くは具体的な物質の紹介になっている。ウィキペディアへのリンクも付けているので、参考にしてほしい。分子の名称は、一般的に用いられているものを示した。ここで挙げた以外の名称で呼ばれる物質もあるため、注意が必要である。
 
=== 分子からなる物質 ===
[[Image:Carbon-dioxide-crystal-3D-vdW.png|thumb|120px|ドライアイスのモデル]]
分子は基本的に独立した一粒である。身近な例を挙げるなら、水や多くの気体などの構成単位は、分子である。分子が構成単位になっている結晶<small>( 固体 )</small>を'''分子結晶'''(molecular crystal)という。分子結晶は融点・沸点が低く、やわらかい。また電気を通さない。ずっと拡大すると、分子が規則正しく並んでいるのも、分子結晶の特徴である。
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
! 物質の名前 !! 分類 !! 分子式 !! 簡単な性質
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| [[w:水|水]] || 化合物 || H<sub>2</sub>O || イオンからなる物質を溶かす。氷は分子結晶である。
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| [[w:ブドウ糖|ブドウ糖]] || 化合物 || C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>||ショ糖(いわゆる砂糖)の成分。
|-
| [[w:二酸化炭素|ドライアイス]] || 化合物 || CO<sub>2</sub> || 二酸化炭素の固体。温度があがると、液体にならずに一気に気体になる。
|}
<small>水は、実際には不純物を含んでいることが多い。純粋な水は天然には存在しない。</small>
 
=== イオンからなる物質 ===
NaCl(塩化ナトリウム)という化合物は、ナトリウムイオンNa<sup>+</sup>と塩化物イオンCl<sup>-</sup>がお互いに偏った電荷を補い合おうとして結合する。このようにイオン同士がひきつけあってできた結合を'''イオン結合'''(ionic bond)という。また、イオン結合によってできた固体を'''イオン結晶'''(ionic crystal)という。イオン結晶は融点・沸点が高く、硬いがもろい。これらは基本的にイオンが並んで出来ており、水に解ければ簡単にそれぞれのイオンに分かれる。そのため、固体のときは電気を通さないが、液体あるいは水に溶解した状態では電気をよく通すという性質を持っている。
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
! 物質の名前 !! 分類 !! 組成式 !! 簡単な性質
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| [[w:塩化ナトリウム|食塩]] || 化合物 || NaCl || 塩酸と水酸化ナトリウムを中和して得られる。
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| [[w:酸化銅(II)|酸化銅]] || 化合物 || CuO || 銅を燃やすと得られる。水素と反応する。
|}
 
=== 原子からなる物質 ===
原子からなる物質には、自由電子を共有する'''金属結合'''によってできるものと、'''共有結合'''によってできるものとがある。金属結合によってできた物質は'''金属光沢'''を持ち、熱や電気をよく通し、'''展性'''<small>( たたくと広がる性質 )</small>・'''延性'''<small>( 引っ張ると延びる性質 )</small>を持つ。また共有結合によってできた物質は硬く、融点が高い。例えば、ダイヤモンドは炭素原子が共有結合してできた物質である。
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
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! 物質の名前 !! 分類 !! 組成式 !! 簡単な性質
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| [[w:鉄|鉄]] || 単体 || Fe || 身近な金属。
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| [[w:銅|銅]] || 単体 || Cu || 身近な金属。10円玉の材料。
|-
| [[w:銀|銀]] || 単体 || Ag || よく知られている金属。電気をよく通す。
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| [[w:金|金]] || 単体 || Au || よく知られている金属で、最上級のものをあらわすことに用いられる。金メダルなど。
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| [[w:ダイヤモンド|ダイヤモンド]] || 単体 || C || 最も硬い鉱物。
|}
 
:このセクションで用いられた「共有結合」「イオン結合」「金属結合」に関しては、詳しくは化学IIで扱う。そのため、ここではそのような種類がある、という理解に留めておいてかまわない。
 
[[Category:化学|ふしつとけんし]]