病理学/感染症
感染経路
編集接触感染
編集接触によって感染が広まる場合を接触感染という。黄色ブドウ球菌などの感染経路も通常、接触感染である[1]。
性行為による感染も含む。そのため、多くの性感染症は通常、接触感染に分類される。
飛沫感染
編集咳やくしゃみなどで飛び散る飛沫による感染を飛沫感染という。飛沫は通常、5μm以上の大きさで、1〜2m程度の距離を飛散する。
飛沫感染する代表的な疾患には、インフルエンザ、風疹、百日咳などがある[2][1]。
空気感染
編集5μm以下の飛沫核や粉塵に付着した病原体が、空気中を長時間浮遊し、遠くまで伝播することによる感染を空気感染という。
空気感染する代表的な疾患には、結核、麻疹、水痘などがある[2][1]。
経口感染
編集汚染された食物や飲料水により、病原体が感染することを経口感染という。
一般の細菌性食中毒およびウイルス性食中毒、寄生虫のアニサキス症[3]なども、経口感染に含める。
赤痢やポリオも経口感染する[2]。
ベクター感染、節足動物感染
編集節足動物によって感染が広まることをベクター感染または節足動物感染という。日本脳炎やマラリアなどが該当する[2]。
蚊やダニに刺されることによる感染という意味で「経皮感染」ともいい、 フィラリア症[3]や住血吸虫症[1]なども含める。
母子感染、経胎盤感染
編集胎盤を通して母体から胎児に感染することを母子感染または経胎盤感染という。トキソプラズマ症、風疹ウイルス感染症などが該当する[2][3]。
なお、HIVやB型肝炎ウイルス[1][3]、単純ヘルペスウイルス[2][3]は、主に分娩時に産道での感染をするが、これら産道感染は接触感染に分類する[3]。
関連法規
編集感染症の防止のための法律は、従来は「伝染病予防法」「性病予防法」「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」と分かれていたが、1999年にこれら従来の3法は感染症法に統一された。
さらに2007年、結核予防法が廃止され、結核は感染症法の2類感染症として統合された。
用語
編集医学では、細菌だけでなくウイルスも「微生物」に含める。
さらに、この「感染症」の単元で微生物という場合、主に病原性の「微生物」について述べる。
病原体と病原性
編集感染によって病気などの障害を引き起こす微生物のことを病原体という。
また、感染対象の生物に障害を引き起こす能力のことを病原性という[2]。
病原体が体内に侵入したからといって、必ずしも症状が出るとは限らず、症状が出ていない感染のことを不顕性感染という[3][4]。不顕性感染と同じ状態だが、病原体が潜伏しているけど発症していないという意味で「潜伏感染」[5]という場合もある。
一方、感染によって症状が出た場合を、顕性感染という。
最終的にその病原体によって症状が出る場合でも、現時点で症状が出ていないなら、とりあえずは不顕性感染として分類する[3]。
また、感染してから症状が出るまでには、時間差がある。感染してから症状が出るまでの間のことを潜伏期[3][4]または「潜伏期間」[1]という。
不顕性感染であっても、体内にその病原体を多く保有している。体内に病原体を保有しているヒトのことを保菌者[3](キャリア career)または「保因者」[1]といい、他のヒトに感染を移す可能性があり、感染源となりうる。
また、「宿主」(しゅくしゅ[4])とは、微生物を体内に宿している生体のことである。病理学では、病原体の宿主が、関心事になる。通常、ヒト用の医学の病理学では、ヒトが宿主である[4]。
持続感染
編集病原体は、感染してもすぐに排除されるものも多いが、なかには長期にわたって体内に残存するものもある。
C型肝炎ウイルス、エプスタイン・バーウイルス[1][3]、エイズウイルス[1]が、持続感染を引き起こす。持続感染の患者は、必然的に保菌者となる[1]。
食中毒
編集単に「食中毒」とだけ言った場合は、毒キノコなどの誤った食事も含み、必ずしも細菌・ウイルスによるものとは限らない[2]。
細菌の中には、毒素を産出するものがあり、黄色ブドウ球菌とボツリヌス菌が毒素型食中毒を引き起こす。これら毒素を産生することによって起きる食中毒のことを毒素型食中毒という。
また、特に毒素を作らなくても、ノロウイルス[3]、病原性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなどが、腸管内で微生物の増殖による食中毒を起こす。これらの食中毒を感染型食中毒という。
輸入感染症
編集わが国に入国した海外渡航者など、外国から持ち込まれた感染症のことを輸入感染症という。
日本における輸入感染症としては、マラリア、赤痢、コレラ、腸チフス、デング熱[2]などがある。
一般的に、わが国には、その感染症は常在せず、その感染症の常在する外国に旅行して帰国することで持ち込まれる。
広義には、輸入食品によって持ち込まれる事や、動物[2]の輸入によって持ち込まれることも含む。
正常菌叢と菌交代現象
編集皮膚や口腔、消化管などの粘膜の表面には、宿主と共存する微生物が存在しており、「正常菌叢」あるいは「常在細菌叢」[1]あるいは「常在微生物叢」[3]という。
しかし、抗生物質の使用によって、正常菌叢のうち抗生物質に感受性のある微生物が減少し、他の微生物が増加する場合があり、この現象のことを菌交代現象という。
菌交代現象の際に、病原性の高い微生物が増加してしまう場合もあり、問題視される。カンジダ[2][1]が、菌交代現象によって増加することがある。
日和見感染
編集正常な状態では病気を引き起こさない病原性の弱い微生物であっても、免疫の弱った場合には病気を引き起こす場合があり、このような感染症を日和見感染という。
AIDS、糖尿病[2][1]、白血病や、免疫抑制剤の使用中などに、日和見感染が見られる。
日和見感染を引き起こす微生物としては代表的なものには、サイトメガロウイルス、ニューモシスチス・イロベチイなどがある[3][5]。
敗血症
編集敗血症とは、感染によって、全身に発熱や白血球増加などの症状が出る現象を言う。血管に細菌などの微生物が侵入して全身に拡散されたのが敗血症の原因だとされる。
ただし、血液に感染しただけで炎症を起こしていない「菌血症」とは区別される。
薬剤耐性菌と院内感染
編集抗菌薬の投与の際、微生物がその抗菌薬への耐性を獲得する場合がある。
抗菌薬への耐性を獲得した微生物が、細菌である場合、薬剤耐性菌という。
ひとたび耐性を獲得した微生物には、その抗菌薬が無効になるので、従来の抗菌薬が無効になってしまう。院内感染などの原因のひとつとして、薬剤耐性菌が問題視されている。なお、院内感染とは、病院内で新たに感染症が起こること[2]を言う。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌、多剤耐性黄色ブドウ球菌などが、薬剤耐性菌として知られている。
「メチシリン」も「バンコマイシン」も、抗生物質の名称のひとつである。
なお、院内感染の原因としては、上述の薬剤耐性菌のほかにもあり、免疫の弱った患者が日和見感染[2]をすることもよくある。
脚注
編集- ^ 1.00 1.01 1.02 1.03 1.04 1.05 1.06 1.07 1.08 1.09 1.10 1.11 1.12 『シンプル病理学』
- ^ 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 2.12 2.13 『標準病理学』
- ^ 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 3.12 3.13 『スタンダード病理学』
- ^ 4.0 4.1 4.2 4.3 『なるほど なっとく!病理学』
- ^ 5.0 5.1 『図解ワンポイントシリーズ3 病理学』