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生殖細胞の起源編集

生殖(せいしょく, Reproduction)とは生物が子孫をつくる過程のこと。大きく分けて無性生殖 (Asexual reproduction) 有性生殖 (Sexual reproduction) がある。

wikipediaから引用した上記の説明に付け加えるなら、有性生殖は新しい遺伝子の組み合わせを持つ新個体を作り、無性生殖は遺伝的に均一な新個体を作る。言うまでもなく、ヒトは前者に属する。

従って、ヒトの発生は、男性と女性の生殖子精子卵子)が結合することによってはじまる。この生殖子のもととなるのは原始生殖細胞:PGCだが、これは、その発生第2週より形成が開始される。つまり、生殖子が受精した2週間後には、既に次の世代に受け渡すための生殖子の形成がはじまっているのだ。

生殖細胞は生殖のために特別に分化した細胞だが、そもそも生殖細胞はどのようにして体細胞に分化するのであろうか? 少なくとも大部分の生物においては、あらかじめ生殖細胞への分化を決定付けるような因子があらかじめ受精卵の中にあり、これを生殖細胞質あるいは生殖質と呼ぶ。例えば、線虫においてはP顆粒がそれである。しかし哺乳類においてはそのようなものは発見されておらず、おそらく外部の環境の影響によって生殖細胞か体細胞かに分化するものと見られている。

原始生殖細胞は胚盤葉上層で形成されたのち、卵黄嚢の壁に出現する。そしてアメーバ様運動により移動し、生殖堤(生殖隆起)に進入する。

もしその胚子(まだ胎児とは言いにくい)が男性であるなら、そのY染色体上にあるSRY遺伝子により活性化されるタンパク質であるSox9の影響のもと、原始生殖細胞の周囲の細胞はセルトリ細胞に分化する。セルトリ細胞はミュラー管の退化に重要な役割を果たすほか、原始生殖細胞を精子に分化させる。これに続いて、Sox9はライディッヒ細胞を分化させる。ライディッヒ細胞は、テストステロンを分泌するという点で重要である。

精子と卵子の形成編集

男性においては、思春期の少し前、始原生殖細胞(2n)から精祖細胞(2n)が分化する。これが体細胞分裂を行なって増え、成長すると一次精母細胞(2n)となる。ついで第一減数分裂に入り、これにより生じた二次精母細胞(n)が第二減数分裂を行なうことで減数分裂を完了し、精子細胞(n)が生じる。

女性においては、出生前(生殖堤に進入した直後)に始原生殖細胞(2n)から卵祖細胞(2n)が分化する。大多数の卵祖細胞は体細胞分裂を続けて増えるが、一部は第一減数分裂の前期で停止し、一次卵母細胞(2n)となる。思春期に到るまでの間、一次卵母細胞は第一減数分裂の前期のままで留めおかれ、成熟する。ついで第一減数分裂を完了し、二次卵母細胞(2n)と極体が形成される。そして二次卵母細胞は第二減数分裂に入るが、これは中期で停止して卵子(n)となり、受精まで減数分裂は完成しない。卵子に特有のこの長い停止期は、卵細胞に栄養やRNAを蓄えるための待機期間と見られている。

受精のしくみ編集

受精においては重要な要素が3つある: すなわち、タイミング,多精防止,種特異性である。タイミングの問題を解決するため、卵子周辺の細胞は時機において精子誘引物質を生産し、精子を卵子に誘導する。多精防止のため、ウニの受精においては、卵膜に精子が達するとチャネルが開いてカルシウムイオンが流入し、これとともに脱分極が起きて膜電位が上昇する。続いて卵膜の直下にある表層顆粒から酵素が放出され、卵膜を強化して受精膜を形成し、他の精子の進入を阻む。

ヒト(哺乳類)の精子は、女性の生殖路へ到達した時点では卵子を受精させる能力がない。というのも、ヒトの卵子は、放線冠と呼ばれる細胞に囲まれており、しかも表面を透明帯により覆われているためである。精子はまず受精能獲得という過程を経ることで放線冠細胞の間を通り抜けられるようになり、これと同時に、透明帯を通過するための先体反応が可能になる。透明帯はZP1~3と呼ばれる糖タンパク質によって構成されているが、このうちZP3が精子受容体として種特異的な結合を示し、先体反応を誘導する。先体反応とは、精子が透明帯に結合すると同時に先体(精子の先端部)から酵素が放出され、精子が透明帯を通過できるようにするものである。その精子が通過しきって卵子の細胞膜に接するとともに、表層顆粒から酵素が放出され、卵細胞膜が強化されるとともに、透明帯の性質を変えてZP3が破壊され(透明帯反応)、他の精子の通過が妨げられる。また、ヒトの精子はヒトの透明帯とだけ結合できるため、これによって種特異性も維持される。

卵割の様式編集

精子が進入した直後に卵子はその第二減数分裂を完了し、これに続いて卵割を開始する。卵割は、次の2点において特殊である:1.細胞周期が短く、2.体積変化が少ない。

卵割は大きく“全割”と“部分割”の2つに分けられる。哺乳類や両生類,ウニなどは全割を行なうが、昆虫や鳥類は部分割を行なう。また、哺乳類の卵割においては、コンパクションという特徴的な過程がある。これは8細胞期から16細胞期の間に起きるもので、それまでは互いに緩やかな結合をしていた割球が、外側で密着結合するものである。胚はこの後1回分裂して16細胞の桑実胚となるが、そのときには、内部にある細胞は内細胞塊を、その周囲を取り巻く細胞は外細胞塊を構成するようになる。コンパクションはこのような分化に重要であると考えられる。外細胞塊からは、のちに胎盤を形成する栄養膜が生じる。

なお哺乳類は調節的に発生するとされているが、これは、2つの8細胞期のマウス胚を処理し、融合させても正常に発生することから確かめられる。

胞胚の形成・原腸の形成編集

既述のように、桑実胚の内部にある細胞は内細胞塊を、その周囲を取り巻く細胞は外細胞塊を構成するようになる。やがて液が内細胞塊の細胞の間隙に浸透しはじめ、やがて細胞間隙は融合して1つの腔、すなわち胞胚腔を形づくる。このときの胚を胚盤胞と呼び、また内細胞塊の細胞は胚結節とも呼ばれるようになる。この“胚盤胞”とはヒト特有の呼称であり、他の動物では胞胚に相当するものである。このような呼称の違いは、大部分の動物においては胚全体を使って個体形成するのに対して、哺乳類の場合は内側の胚盤の固まりだけが個体形成に関わることによる。また、この内細胞塊(胚結節)の細胞は全能性を有するため、これを処理して培養した胚性幹細胞(ES細胞)は移植医療への応用が期待されている。

さて、この後で外細胞塊は栄養膜となるが、内細胞塊(胚結節)は明瞭な2つの細胞層に分化する:すなわち、胚盤葉の上層と下層である。この胚盤葉上層の表面に原始線条が形成されることで、次の原腸形成が開始される。

胚盤葉上層の細胞は原始線条に向かって遊走し、これに到達すると、胚盤葉上層から離れて下へともぐりこむ。この内方への運動を陥入と呼ぶ。これらの細胞は、あるものは胚盤葉下層を押しのけて内胚葉を作り出し、またあるものはこの内胚葉と胚盤葉上層との間で中胚葉を形成する。そして胚盤葉上層に残った細胞が外胚葉となる。かくして、3つの胚葉が確立した。これら三胚葉から、胚子の組織および器官のすべてが生じるのである。

オーガナイザー編集

ところで、他の動物においても陥入が生じるが、そのとき、ヒトの原始線条に相当するのが原口である。この原口の背唇部がオーガナイザー(形成体)としても機能していることは、イモリ胚を使った移植実験で発見された。すなわち、イモリの初期原腸胚の原口背唇部を切り出し、別の同期胚の別のところへ移植したところ、正常発生と同様に陥入し、原腸を作り、脊索や体節を分化したのである。これは、原口背唇部が周囲の外胚葉を誘導しているものと考えられたため、誘導因子の探索が開始された。アフリカツメガエルを用いた研究の結果、オーガナイザーによる誘導は次のようにして行なわれることが分かった。

  1. 中胚葉誘導因子(FGFやTGF-β遺伝子ファミリー(アクチビン,ノーダルなど))の発現により、原口(ヒトでは原始線条)が分化する。
  2. オーガナイザーを形成する因子(β-カテニン)により、原口背唇部(ヒトでは原始結節)でオーガナイザーとしての機能を発揮するための遺伝子が活性化される。
  3. オーガナイザーよりオーガナイザー因子(神経誘導因子)が分泌され、誘導能を発揮する。

また、杯盤全体で分泌されるタンパク質であるBMP4を阻害するタンパク質の存在も重要である。というのも、BMP4は外胚葉と中胚葉を腹側化(後述:表皮などを誘導すること)してしまい、神経誘導能を阻害するためである。このため、原口背唇部(ヒトでは原始結節)においてはBMP4に拮抗するタンパク質(コーディン,フォリスタチン,ノギン)が同時に発現する。 なお、アクチビンやBMPは濃度依存的に異なる遺伝子を発現させるが、このような因子をモルフォゲンと呼ぶ。

神経管と神経堤の形成編集

原腸形成の終了後、中胚葉の一部(原始結節に由来する部分)から脊索が分化する。さらに脊索の誘導によりこれを覆う外胚葉が肥厚し、スリッパ状の神経板を生ずる。神経板がしだいに原始線条のほうに伸びるとともに、側方縁は持ち上がって神経ヒダとなり、また押し下げられた中央域は神経溝となる。神経ヒダは徐々に正中線で接近し、やがて癒合して管状の構造を形成する。これを神経管と呼び、癒合が完了するまで、この管はそれぞれ前神経孔後神経孔により外(羊膜腔)とつながっている。やがてこの二つの孔が閉じるとともに神経管の形成が完了し、中枢神経系は閉鎖した管状構造となる。 また、神経板の周囲を取り囲む隆起は神経堤と呼ばれるが、神経ヒダが癒合するとともに、神経堤の細胞も神経管の直上に集合し、続いて神経管の両側で腹側外方へと移動、遊走する。神経堤は頭尾軸に沿って発生運命が決まっており、これに従って、色素細胞,脊髄神経節,副腎髄質など様々な器官に分化するのである。すなわち神経堤は多分化能であり、その機構の解明が再生医療において重要な課題となっている。なお、神経堤の分化には中程度のBMP活性が必要であることが分かっている。

体軸の形成編集

体が正しく作られるための基本となるのが、体軸の決定である。体軸としては頭尾、背腹、左右の3つがあり、これらの軸に沿って体が形成されていく。

頭尾軸は原腸形成の前に決定される。その後原始線条の形成に続いて、腹背軸を決定するいくつかの遺伝子が発現する。実のところ、5章で述べたBMPの分泌とこれを阻害するしくみは腹背軸を、6章で述べた神経管の形成は頭尾軸を決定するプロセスの一部なのである。

原始線条が現れると、FGF-8が原始結節と原始線条の細胞によって分泌され、ノーダルの発現を誘発するが、これは胚子の左側でしか起こらない。続いてレフティ2遺伝子も発現するが、これも名前どおりに左側でしか起こらない。これらの作用により、左側の特徴を確立するのに携わる転写因子PITX2の発現が上昇し、左右軸が確立されると考えられている。なお、繊毛に異常を示す先天性の病気(カルタゲナー症候群)の患者は内臓逆位を示すことが多いが、これは、原始結節の腹側面にある繊毛が、上記の左右軸確立プロセスに重要な役割を果たしているために、繊毛が動かないカルタゲナー症候群患者では、左右軸の確立が阻害されるものと考えられている。


ホメオボックス遺伝子編集

ショウジョウバエには、触角のかわりに脚が生えてしまう「アンテナペディア」と呼ばれる突然変異がある。このように、ある器官が別の器官に置き換わる変異をホメオティック変異と呼び、またそれを引きおこす遺伝子をホメオティック遺伝子と呼ぶ。ホメオティック遺伝子は体節の構造を特徴づけるもので、転写因子をコードしている。

これらのホメオティック遺伝子を解析したところ、いずれもおよそ180の塩基対からなる、特徴的なDNA配列を有することが分かった。この塩基配列をホメオボックスと呼び、またこれを持つ遺伝子をホメオボックス遺伝子と呼ぶ(ホメオボックスはその後、ホメオティック遺伝子以外でも発見された)。また、ホメオボックスによってコードされるアミノ酸配列のことをホメオドメインと呼ぶ。ホメオボックスが約180塩基対であるため、ホメオドメインは約60個のアミノ酸配列からなる。

染色体上では複数のホメオボックス遺伝子が集合してまとまっていることが多く、この集団をホメオティック・クラスター遺伝子と呼ぶ。ショウジョウバエにおいてHom-Cは頭尾軸を規定する重要な遺伝子クラスターであるが、人間においてこれに相当するものはHoxクラスター遺伝子と呼ばれる。これは頭尾軸に沿って領域特異的に発現し、頭尾軸に沿った位置情報を担っている。例えば、神経堤の移動経路を決めるのもHoxクラスター遺伝子の役割なのである。体づくりのプロセスとしては、まず頭尾軸が決定されたのち、ホメオボックス遺伝子の発現によりそれらが分節化し、さらに位置情報によりそれらの体節が個性化するという過程をたどる。 なお、Hoxクラスター遺伝子の発現はレチノイン酸により制御されているようである。

二次誘導について編集

さて、オーガナイザーとして機能するのは、必ずしも原口背唇部(原始結節)には限らない。実のところ、それぞれの組織や器官が分化する過程において、それらは互いに誘導作用を及ぼしあっているのである。このうち、「狭義の」オーガナイザーである原口背唇部から誘導された部位によって及ぼされるものを「二次誘導」と呼ぶ。例えば、皮膚は外から順に表皮,真皮,皮下組織と分けられるが、このうち表皮は外胚葉から、真皮と皮下組織は中胚葉から分化する。このとき、外胚葉から表皮への分化に際しては、先に分化した真皮および皮下組織からの誘導がなされるのである。 この種の誘導の連鎖においてもっとも有名なのが、視覚器(眼)の発生における例であることはまず間違いない。まず神経管の前方が膨らんで前脳となり、その左右両側に眼胞という膨らみができる。眼胞は外胚葉(表皮)から水晶体板を誘導し、水晶体板は眼胞を眼杯へと分化させたのちに水晶体胞になり、表皮から角膜を誘導する。一方で眼杯は網膜になり、水晶体胞を水晶体へと誘導する。

なお、眼を形成するプロセスのすべてはPAX-6の発現によって開始されるが、これはホメオドメインを持っている(PAX=“PAird homeoboX”)。またこのように他の遺伝子の発現をコントロールする遺伝子をマスター遺伝子と呼ぶ。

視覚器と同様、平衡聴覚器(内耳)の発生においても二次誘導は起きているが、そのプロセスはいくらか簡単である。外胚葉が急速に肥厚して耳板となり、これが陥入して耳胞となって、前庭(卵形嚢・球形嚢)や半規管,蝸牛管といった内耳の膜迷路に分化するのだが、外胚葉が耳板となる段階は、神経管から分化した菱脳により誘導されることが分かっている。また、内耳の形成においては、PAX-2がマスター遺伝子として機能しているかもしれない。

神経系の構成編集

環境の変化を情報として伝達することで、生物はその変化により柔軟に適応できるようになる。このため、動物の進化とともに、より多くの情報を処理できるように神経系も発達したが、その発達は、神経系を中枢化する方向に働いた。すなわち、全身に神経細胞が散在する状態(散在神経系)から、神経細胞が集合して神経節を形成した集中神経系へと進んだのである。そして、神経節は最終的に脳へと進化することになる。

ヒトの神経系は中枢神経系:CNSと末梢神経系:PNSに大別できる。ヒトを含む脊椎動物では、神経管に由来する神経系が中枢神経系となる。前章で述べたとおり、神経管の前方が膨らんで脳となるが、このとき同時に後方は脊髄になり、これらが中枢神経系と呼ばれることになる。

一方、これらの中枢神経系から出て体表や体内の諸器官、つまり末端器官に達する神経を末梢神経系と呼ぶ。これらは、体の感覚や運動をつかさどり、大脳の支配下にある(意思に従って動く)体性神経系と、内臓などの制御を担い、大脳の支配から離れて自律的に動く自律神経系の2種類に分けられる。なお、体性神経系は脳神経と脊髄神経に、自律神経系は交感神経と副交感神経に分けられるが、このうち交感神経と副交感神経はたいてい拮抗的に作用する。

自律神経は中枢神経系から出たあと、末端の効果器に達するまでに一度ニューロン(神経細胞)を換える、つまり途中で一つのシナプスを経たうえで効果器に到る。交感神経においては、脊髄に近いところにある交感神経幹で、副交感神経においては効果器の近くで、それぞれシナプスを経ることになる。その後、効果器に接するニューロンの軸索末端から神経伝達物質が分泌されることで興奮が効果器に伝達されるが、このときに使われる伝達物質は、交感神経ではノルアドレナリン副交感神経ではアセチルコリンである。これは、交感神経が体を活動状態に、副交感神経が安静状態にする傾向があることと関連する。

神経系の発生編集

既に何度か述べたとおり、神経管の頭方端が膨らんで脳となるが、その拡張部は3つに分けられる。すなわち、前方より、前脳,中脳,菱脳である。その後、前脳は終脳と間脳に、菱脳は後脳と髄脳に分かれたのち、最終的に、終脳は大脳を、後脳は橋と小脳を、髄脳は延髄を分化する。

さて、さしあたり神経管の発生は頭尾軸に沿って行なわれる。7章で述べたとおり頭尾軸の形成は原腸形成の前に起きるが、これは、頭方化因子(セルベルスCerberusなど)および尾方化因子(Wntなど)が発現することによる。その後、頭尾軸に沿って神経管が発生するが、神経管の発生前(神経板期)からその最中にかけて、頭尾軸に沿ってホメオボックス遺伝子が発現することは前述のとおりである。例えば、脳を前脳,中脳,菱脳の各領域に分けるシグナルもホメオボックス遺伝子によって発せられていて、前・中脳の分化にはOtx遺伝子が、菱脳の分化にはHox遺伝子が関与している。

一方、神経管の背腹軸に沿った分化は、特に脊髄の分化に密接に関連するが、このとき、5章で触れたBMP4と、そしてソニック・ヘッジホッグ:Shhという2つの因子が極めて重要である。BMP4が背側化因子として作用し、背側で高濃度に発現するのに対し、脊索などに発現するShhは腹側化因子として、腹側で高濃度になる。そして、ShhはBMP4と拮抗的に作用し、BMP4が発現させる遺伝子(PAX3,7)の発現を抑える一方で、別の遺伝子(PAX6)を発現させることにより、神経管を腹側化し、底板を誘導する。つまりBMP4とShhによって背腹軸が形成され、そしてここでも背腹軸に沿ってホメオボックス遺伝子が発現しているわけである。

なお、脊髄について「後方の後根(背根)から知覚神経が、前方の前根(腹根)から運動神経が出る」というベル‐マジャンディーの法則があるが、これは、上記のようなShhの働きに端を発すると言える:と言うのも、脊索と、Shhにより腹側化された底板は、運動神経を誘導するのである。

体節の形成と最終的な分化編集

はじめ中胚葉層は、正中線の両側のまばらな組織の薄層として現れるが、まもなく正中線に近接した細胞は増殖し、肥厚した組織板である沿軸中胚葉を形成する。その一方、中胚葉層は、より側方では薄いままで、側板中胚葉と呼ばれる。側板内に生じた細胞間隙が融合するとともに、その組織は上下の2層、すなわち1.羊膜を覆う中胚葉に続く壁側中胚葉と、2.卵黄嚢を覆う中胚葉に続く臓側中胚葉とに分かれる。これらの2層は、新たに生じた胚内体腔を取り囲むことになる。また、沿軸中胚葉と側板中胚葉とを取り結んでいる組織を中間中胚葉と呼ぶ。

沿軸中胚葉はその後、神経管の両側に連続して並ぶ分節的組織塊を形成するが、後頭域より尾方ではこれを体節とよぶ。やがて体節は椎板と腹内側の椎板と背外側の皮筋板に分化する。椎板は軟骨と骨(椎骨・肋骨)を、皮筋板は筋板と皮板に分かれてそれぞれ骨格筋と真皮・皮下組織を形成することになる。 体節分化のシグナルは、脊索や神経管など周囲の構造から来る。前章で述べたように脊索や神経管の底板からは腹側化シグナルであるShhが分泌されるが、このShhは同時に椎板を誘導する。また神経管の背側部に発現するWntタンパク質は体節の皮筋板領域にPAX3遺伝子を発現させる。

体肢の形成編集

上記のように沿軸中胚葉は体節の形成に重要な役割を負うが、側板中胚葉が関与する重要なプロセスが、体肢の形成である。肢のうち、表皮は外胚葉に、筋組織は体節の筋板に由来するが、真皮・皮下組織および骨は側板中胚葉(特に壁側)に由来するのである。 胚子の体側部で頭尾軸に沿った体肢の位置は、例によって、この軸沿いに発現するHoxクラスターによって制御される。最初、体肢は体の側腹壁のふくらみである体肢芽として現れる。これは側板中胚葉に由来する芯を外胚葉が覆ったものであるが、やがて側板中胚葉より分泌されるFGF10によりこの外胚葉が肥厚し、外胚葉頂堤:AERを形成する。AERはFGF4,FGF8を発現し、肢芽の伸長を促進する。 肢の前後軸に沿った形成は、極性活性化域:ZPAによって制御されている。これは肢芽の体壁近くの後縁にある細胞集団であり、Shhを発現させることによってHoxクラスター遺伝子を発現させる。またShhはBMP2を発現させることで、アポトーシスによる指の形成にも関与する。

泌尿生殖器系の形成と系統発生編集

12章以降、各中胚葉に由来する器官の発生について見てきたが、本章では、中間中胚葉に由来する泌尿生殖器系について述べる。泌尿生殖器系は、2つの部分:泌尿器系と生殖器系に分けられる。これらは機能的には全く異なっているにもかかわらず、発生学・解剖学的には密接に関連しているのである。

泌尿器系について編集

ヒトでは、永久腎として機能する腎臓の前に2つの腎臓がある:つまり、1.前腎,2.中腎,そして永久腎である 3.後腎 を次々と持つ。

1. 前腎 は魚類などの腎臓だが、ヒトでは機能する前に早くも退化してしまう。
2. 中腎 は両生類の腎臓で、胎児期の一時期は機能しているほか、ボーマン嚢の一部である中腎管(ウォルフ管)は、男性では、のちに生殖器系の発生において重要となる。
3. 後腎 は最後に生じる腎臓で、永久腎として生涯にわたって働くことになる。

後腎の形成に当たっては、まず中腎管から尿管芽が膨出して、その末端は中腎後方にある造-後腎-芽体に進入する。造後腎芽体はGDNF(神経膠細胞由来神経栄養因子)を生産し、尿管芽の増殖を促進する。その一方で、中腎管と尿管芽はFGFを分泌し、造後腎芽体の増殖を促進する。これらの相互作用により、尿管芽の末端は分裂を繰り返して集合管となり、また造後腎芽体からは腎小体と尿細管が分化することになる。

生殖器系について編集

生殖腺は最初、中間中胚葉および壁側中胚葉から分化した一対の縦走隆起:生殖堤として現れる。1章で触れたとおり、原始生殖細胞:PGCは遊走して生殖堤に進入し、上皮に定着する。この時点において生殖腺は男女ともに同一であり、区別はできない。

もしその胚子が男性であるなら、そのY染色体上にあるSRY遺伝子により活性化されるタンパク質であるSox9の影響のもと、原始生殖細胞の周囲の上皮細胞がセルトリ細胞に分化し、また間葉由来の細胞がライディッヒの間細胞 (あいださいぼう)に分化する。これらは、前節で触れた中腎管(ウォルフ管)、およびそれに平行して生じる中腎傍管(ミュラー管)に対して作用する。すなわち、セルトリ細胞はミュラー管抑制因子:MISを分泌することで中腎傍管を退化させる。一方、ライディッヒ細胞が分泌するテストステロンによって、中腎管は精管(精嚢より以遠では射精管),精巣上体や精嚢に誘導される。

これに対し、もしも胚子が遺伝的に女性であるなら、当然SRY遺伝子は存在せず、セルトリ細胞もライディッヒ細胞も生じない:つまり上記のプロセスは起こらない。 この結果、中腎管が退化する一方で、中腎傍管は卵管や子宮,膣の上部になる。

循環器系の形成と系統発生編集

循環器系の発生は、発生第3週の中ごろ、FGF2の誘導により中胚葉の細胞が凝集し、卵黄嚢壁を囲む胚外中胚葉中に血島と呼ばれる特殊な細胞塊が出現することからはじまる。血島はさらに臓側中胚葉などにも出現する。血島を構成する細胞は血管芽細胞と呼ばれる。VEGF(血管内皮増殖因子)の誘導により、血管芽細胞は内皮細胞に分化する。その後、VEGFの誘導によって血島の中心部にある細胞は造血幹細胞、つまりすべての血球のもととなる細胞となり、また血島の辺縁の細胞は扁平化して血管の前駆細胞となり、これらにより原始的な血管系が形成されるのである。

やがて血島が結合して内皮細胞が癒合し、心臓発生域を経て原始心管を形成したのち、さらに原始心管は管状心へと発展する。なお、心臓の発生プロセスは、ヘッケルの反復説(『個体発生は系統発生を反復する』)の好例として知られているが、この管状心は魚類型の心臓と言うことができる。

一方、造血幹細胞はその後肝臓に移住し、胎児の間は肝臓が主な造血器官となる。後に肝臓からの幹細胞が骨髄に移住し、これが最終的な造血組織となる。 血球は白血球と赤血球に区別される。白血球は1.リンパ球と2.単球,3.顆粒白血球の3つに分けられる。

  1. リンパ球にはB細胞とT細胞がある。B細胞は抗体産生細胞の前駆細胞であり、またT細胞には免疫の司令塔たるヘルパーT細胞や、癌細胞などにアポトーシスを起こさせるキラーT細胞などがある。
  2. 単球は、組織中に入ってマクロファージに分化することで知られている。マクロファージは異物や老廃物を食作用(エンドサイトーシス)により捕食し消化するため、大食細胞とも呼ばれる。
  3. 顆粒白血球には好中球,好酸球,好塩基球がある。

原始腸管の発生編集

ここからは内胚葉由来の器官系について取り上げるが、胃腸管はその重要な一つである。内胚葉は胚子の腹側面を覆い、やがて頭尾方向に折り畳みを開始する。この結果、内胚葉で覆われた腔のかなりの部分が、連続したままで胚子の内方に取り込まれる。内胚葉は胚子の前方部で前腸、尾方部で後腸を形成する。前腸と後腸の間の部分は中腸である。前腸の末端はやがておちこんで肝臓と膵臓になる。また前腸の頭方端は口咽頭膜という膜で境されているが、これはのちに破れて口腔の開口部となる。後腸もまた排泄腔膜なる膜で終わっていて、これものちに破れて肛門が開口する。中腸はくびれた管を通じて卵黄嚢と連絡しており、この管を卵黄腸管と呼ぶが、これは最終的に付着茎(胚子と栄養膜を連結する中胚葉性の組織)とともに臍帯を形成する。なお、臍帯は臍動脈2本と臍動脈1本を含んでいる。この後、さらに側方への折り畳みが起き、これにより原始腸管が確立される。 ※ 消化器系の詳細については19章を参照されたい。

呼吸器系の形成と系統発生編集

頭尾方向の折り畳みが起きて、前・中・後腸が確立されてからしばらくすると、前腸の腹側壁から呼吸器憩室(肺芽)が膨らみだす。これはしだいに前腸の背方部から分離され、やがて前腸は腹方部の呼吸器原基と背方部の食道に分割される。肺芽は分枝と伸長を繰り返し、多くの肺胞が集合した肺を形成することになる。従って、肺や気管の上皮はすべて内胚葉由来である。 一方で、これらとは別に、一時的ではあるが鰓弓も形成される。これらは心臓の形成過程と同様に系統発生を反復しているものと見なされていて、もはや呼吸器としては機能しないが、頸部や顔面の形成について重要である。鰓弓と鰓溝の発生に伴って多数のポケット状の突出、すなわち咽頭嚢が発生するが、これらの内胚葉性上皮からは多数の重要な器官が生じる。咽頭嚢は5つあるが、それぞれ1:中耳腔・耳管, 2:口蓋扁桃, 3:上皮小体(一部)および胸腺, 4:上皮小体, 5:鰓後体に分化する。このうち、鰓後体からはのちに傍濾胞細胞(C細胞)が生じるが、これは甲状腺においてカルトシニンを産生することになる。 なお、甲状腺においてチロキシンを産生する濾胞細胞は前腸内胚葉に由来しているのであって、咽頭嚢由来ではないことには留意を要する。

消化器系の形成と系統発生編集

消化器系は、おおまかに言って 口腔~咽頭~食道~胃~小腸~大腸~肛門管 という構成からなっている。このうち、食道は重層扁平上皮で出来ており、また小腸は十二指腸・空腸・回腸に、大腸は盲腸・結腸・直腸に分けられ、結腸はさらに上行・横行・下行・S状に分けられる。 さて、これらの消化器系はいずれも17章で述べた原始腸管に由来し、したがって内胚葉由来である。原始腸管のそれぞれの部位からは下記の器官が分化する。 前腸由来 → 咽頭~十二指腸近位、および肝臓,膵臓 中腸由来 → 十二指腸遠位~横行結腸近位2/3 後腸由来 → 横行結腸の遠位1/3~肛門部上部 これら消化器官は、4つの軸:頭尾軸,背腹軸,左右軸,放射軸に沿って形成される。 まずは頭尾軸に沿ってHOXクラスターなどのホメオボックス遺伝子が発現し、これによって各消化器官の位置が決定される。これに続いて内胚葉と中胚葉の間で二次誘導作用が発揮され、放射軸に沿った組織の構築が開始されるのである。

肝臓の形成は、心臓から分泌されるFGFの作用によって開始される。肝臓の原基は最初、前腸末端の肝芽として現れる。これは横中隔に進入して急速に増殖し、肝細胞に分化して最終的に肝臓を形成するとともに、クッパー細胞や造血細胞、伊東細胞といった細胞が分化する。このまたこの間、肝芽と前腸の間の交通部が狭くなって胆管を形成し、ここから胆嚢が生じる。 膵臓は、内胚葉上皮に由来する2個の芽体により形成される。背側膵芽は肝芽を挟んだ十二指腸の反対側に形成され、また腹側膵芽は胆管の近くにある。その後、十二指腸が(右に)回転して、これに伴って腹側膵芽は背方に移動する。ついには背側膵芽のすぐ下で後方に位置するようになり、最終的には背側および腹側膵芽の実質と導管系が癒合する。副膵管は背側膵芽に、主膵管は腹側膵芽に由来する。 さて、総胆管が十二指腸に開口する部位のすぐ尾方から中腸がはじまっている。中腸はその全長に渡って上腸間膜動脈から血液の供給を受けている。中腸の発生は腸とその腸間膜の急速な伸長が特徴であり、その結果として原始腸ループ(一次腸ループ)が形成される。この腸ループは、その頂で狭小な卵黄腸管を介して卵黄嚢と交通しているが、のちにこれが消失する際に卵黄腸管の残遺物が回腸のふくらみとして残ることがあり、これをメッケル憩室(回腸憩室)と呼ぶ。 後腸からは、本章冒頭に述べたような消化器系とともに、泌尿器系の一部:膀胱および尿道も生じる。そして尿膜と後腸との間は、尿直腸中隔によって分けられている。

参考文献編集

  1. T.W.サドラー 『ラングマン人体発生学 第9版』 安田峯生 訳・監修、MEDSi、2006年
  2. 八杉龍一ほか 『岩波生物学辞典 第4版 CD-ROM版』 岩波書店、1998年