白黒写真の暗室作業/フィルム現像
撮影が終わったフィルムを、プリントできるネガの状態にするためフィルム現像を行います。これは以下のような手順で行われます。
- リール巻き
- フィルムをリールに巻いて現像タンクに入れ、この後の現像作業を明るい場所でできるようにします
- 現像
- 撮影時にフィルム上にできた潜像を目に見える状態にします
- 停止
- フィルムに残った現像液を酸性の液で中和し、現像を完全にストップさせます
- 定着
- 画像以外の部分の粒子を取り除くとともに、画像の部分を安定させます
- 水洗
- フィルムに残った定着液を流水で洗い流します
- 乾燥
- 取り込み完成したネガを保管用のネガシートに入れます
リール巻き
編集初めての人は、要らないフィルムを練習台にして慣れるまで練習しておきましょう。
用意するものは以下のとおりです。
- 撮影済みのフィルム
- 現像タンク
- フィルムを光に触れさせることなく薬品の出し入れをできる専用容器
- リール
- 現像タンクにフィルムを収めるためのもの。
- ダークバッグ
- 遮光された袋で、両腕だけを通して中で作業を行える
- はさみ
- フィルムピッカー
- パトローネ内に入ってしまったフィルムの先端を引き出す道具
リールの渦巻き状の2面は間隔がフィルム幅より少しだけ狭く、渦に沿うようにフィルムを挟めばフィルム同士が重なることも自然にほどけることもなくフィルムを保持できる ようになっています(図1.1)。
まず、フィルムのリーダ部を垂直に切り落とし、リールの中心部に差し込んで固定します。フィルムの先がパトローネの中に入ってしまっている時は、フィルムピッカーで出しましょう [註 1]。
ここからは完全に光のない状態(全暗)で作業しなくてはいけません。ダークバックの中に
- 現像タンクと蓋・上蓋
- リール2 個とフィルム
- はさみ
を入れ、ジッパーを閉めます。そして両手をダークバッグの袖に通し、肘の手前までが中に入るように袖を内側から手繰り上げます。腕時計は外しておきましょう(夜光塗料などがフィルムを感光させる恐れがあるため)。
フィルムを持つときは指紋を付けないように両縁を親指と他の指とで挟むように持ちます。そしてフィルムを指で軽くたわませ、フィルムをリールの渦に沿うように巻いていきます。フィルムを引っ張って巻き付けるのではなく、リールを立てて置いて、フィルムを送り込むことでリールを押し転がすようにすると上手くいきます。
もし巻くのに失敗してフィルム同士が重なった部分ができると、そこは薬品が行き届かないため現像ムラになります。巻いている途中でうまく巻けているか不安になったら、次のようにして確認できます。
- 今巻いている部分からリールの一番外までの渦巻きの数を指で触って数えましょう。フィルム面同士が重なってしまっていたら、フィルムの両縁で残りの巻き数が異なります。
- 渦巻きの面をリールの外側から触って、フィルムが飛び出してないかも確かめましょう。もし飛び出していれば巻き方が曲がってしまっています。
上手く巻けていそうになければ、ほどいてやり直しましょう。
フィルムをリールに巻き終わったら、はさみでパトローネを切り離します。ダークバッグを切ってしまわないように気を付けてください。フィルムの末端はそこまでに続くようにリールの溝にはめ込んでしまえば良いです。
巻き終わったリールを現像タンクの中に入れます。フィルムを1 本だけ現像する場合は空のリールを入れた上に重ねて入れ、蓋をしっかりと閉めます。蓋を閉めた後は明るい場所で作業できます。ダークバッグを開け現像タンクを取り出したら、他の人が間違って蓋を開けたりしないよう注意書きなどを残し、暗室での薬品の準備に向かいましょう。
薬品の準備
編集使用する薬品や現像法には様々なものがあり、絶対的に正しいものはありません。ここでは、工程を液温20℃で行うことにし、現像液を1:1に希釈し使い捨てとして用います [註 2]。 液温調整のため夏は冷蔵庫で冷やした水を、冬はお湯を用意しましょう。
バットかバケツに20℃の水をたっぷり用意します。薬品の入ったメスカップや現像タンクを浸けて液温を安定させるのが目的です。温度計も入れておき、現像中に温度がずれたら調節しましょう。
現像液用のメスカップ(ビーカー)に250 ml のフィルム用現像液(原液)を入れ、水を加えて1:1に希釈します [註 3][註 4] このときに冷水やお湯を使うか、または湯煎などで温度調整しておきます。
停止液用のメスカップには20℃の水450 ml を用意し、50 %酢酸を少量(キャップに半分弱)溶かします。
フィルム用定着液450 ml を定着液用メスカップに入れておきます。定着液は液温が20◦C から大きくずれていると効力が弱くなるので、そのような場合は20℃前後に調整します。
フィルム現像
編集現像
編集現像時間は、フィルムの種類・薬品の種類と希釈率・液温の組み合わせによって変わります。フィルムの箱やデータシート・薬品の袋などに表としてまとめられているので、条件に合った現像時間をあらかじめ調べておいてください。
まず、大きい蓋は閉めたまま、液の出入口である上蓋だけを開けておけます。暗室時計をスタートさせると同時に、現像液を静かにすばやくタンクに注入します(図1.4)。 液を入れ終わったら上蓋を閉め、現像タンクを蓋が外れないように持ち、図1.5 のように1 秒に1 回くらいの間隔で上下をひっくり返す [註 5]ことで液をかき混ぜます(かくはん攪拌)。初めの30 秒間は連続で攪拌し、終わったらフィルムに付いた泡を取り除くために掌などにタンクの底を打ち付けます(泡切り)。その後は1 分あたり攪拌10 秒間・泡切りを繰り返します。
現像終了時刻の手前で上蓋を開け、終了時刻と同時に現像液を元のメスカップに排出し始めます。
停止
編集現像液をほぼ排出したらすぐに停止液を注ぎ込み攪拌しましょう。そうしないとフィルムの一部だけ現像が進み、現像ムラになります。最後の一滴まで現像液が落ちるのを待ったりしないこと。どうせ停止液でそのくらいは中和されるのですから。
30 秒ほど攪拌したら、液を排出します。
定着
編集定着ムラを防ぐため、定着液を入れてから初めの30 秒間は連続で攪拌します。その後は1 分あたり10 秒程度攪拌します。定着時間は薬品の種類や鮮度によって異なります。迅速定着液 [註 6] なら4–5 分、迅速タイプでない場合でも10 分程度で良いでしょう。
定着時間が過ぎたら定着液を元のメスカップに排出します。定着液に色が付くことがありますが、それほど気にしないで構いません [註 7]。
より確実な定着時間の求め方
編集不要な未現像フィルムの切れ端(リール巻きの前に切り落としたリーダ部など)を実験台にして、より確実な定着時間を求めることができます。 切れ端を定着液に入れてから透明になるまでの時間の倍が必要な定着時間です [註 8]。
これは、実際の定着と同時進行でやると分かりやすいでしょう。定着液を現像タンクに入れる少し前に、切れ端の一部だけを定着液で濡らしておきます。定着液を現像タンクに入れ終わったらすぐに、切れ端全体を定着液に沈めます。切れ端全体がだんだん透明になっていき、初めに濡らした部分と他の部分との境目が判らなくなったら、必要時間の半分が経ったことになります [註 9]。
水洗
編集現像タンクの大きい蓋を開けて蛇口の真下に置き、流水をフィルムに直接当たらないようにリールの中央に注ぎます。フィルムに定着液の成分が残っているとネガが劣化するので、水洗はしっかり行いましょう。ときどきタンクをひっくり返して水を全て入れ換えるとしっかり水洗できます。
水洗促進剤を使うと確実に定着液の成分を取り除き、しかも水洗時間を短縮できるのでお薦めです。まず予備水洗を30 秒以上行った後、水洗促進剤に浸けて1 分以上おいてから本水洗を5 分以上行います。水洗促進剤は使用後は元のボトルに戻しましょう。液の青色が無色になるまでは繰り返し使用できます。ちなみに水洗促進剤を使わない場合は、水温20◦C で1 時間程度水洗する必要があり ます。
薬品の片付け
編集水洗を行っている間に薬品を片付けましょう。
ここでは現像液を希釈しており再使用に向かないので、使用後の現像液は流水で薄めながら流しに棄てます [註 10]。 停止液は流して構いません。定着液は何度か再使用できるので、使用後は元のボトルに戻しましょう。使ったメスカップなどは水洗いして乾燥させます。
乾燥
編集水洗が済んだらフィルムをリールから解き、端をネガクリップで挟んで乾燥機の中に吊るします [註 11]。 次に水滴ムラを防ぐためにフィルム上の水滴を取り除いておきます。水を含ませたフィルム用スポンジを押し潰すようにして絞り、それでフィルムの上のほうを軽く挟み、そのまま下方へ滑らせて水滴を取り除きます(図1.6)。または、すこしずつスポンジをずらしながらフィルムを軽くはさむようにして水滴を取り除くこともあります。そして埃を付けないように気を付けて乾燥機のカバーを閉め、乾燥させます。
フィルムを乾燥させる前に水切り剤を使うことで、確実かつより迅速にフィルムを乾燥させることができます。また、水切り剤を使った場合はフィルム用スポンジで水滴を取り除く必要はありません。
取り込み
編集完全に乾燥したらネガは完成です。6 コマごとに切り離して、傷や汚れが付かないようにネガシートに入れて保存しましょう。切るときはネガの一端をネガシートに差し込んでから切るとコマ数を数え間違うのを防げます。
脚註
編集- ^ どうしても出ない場合は、リールに巻く直前にダークバッグの中でパトローネを破壊します。テレンプに指を差し込んでパトローネ側面の金属板をめくるように剥すと簡単に壊せます。
- ^ 原液を繰り返し使うよりも、仕上りの安定性・温度調整の簡単さ・像の先鋭さなどの利点があります。一方、原液を使った場合は同じ液を繰り返し使うことができます。
- ^ ここでは既に粉末現像液を水で溶かして原液を作ってあるものとしています。ない場合は、説明書通りに作ること。
- ^ 濃縮液状の現像液を使う場合は1:1ではなく説明書に書いてある割合で希釈すること。
- ^ リールに通した軸動作を繰り返すを回す方式の現像タンクもある。
- ^ 主成分がチオ硫酸アンモニウムのものが迅速定着液で、チオ硫酸ナトリウムを用いた通常の定着液より作用が強力です。
- ^ フィルムに含まれる増感色素という添加物が溶け出したもの。
- ^ 定着が足りないと後々になって画像が霞んでくることがあります。逆に無闇に長時間行うと画像が溶けて薄くなる恐れがあります。
- ^ 透明になるのに10分以上必要なら、新しく定着液を作りなおすこと。また、古い定着液は重金属を含むため、流しに流してはいけません。写真店や廃液処理業者などに処理を依頼すること。
- ^ 原液で現像した場合はフィルム数本までは再使用可能な場合もあります。詳しくは各現像液の説明書を参照のこと。
- ^ フィルム用乾燥機が無い場合は、人の出入りがなくほこりの立たない場所で一晩以上干します。または、古いロッカーを流用して乾燥場所にするのもお薦めです。