白黒写真の暗室作業/ベタ焼き活用法

ベタ焼きは何を撮ったかを見るためだけにあるのではありません。各コマのコントラストや露出過不足など、ネガに含まれる情報を分かりやすく見られるようにするための資料でもあります。活用すれば綺麗なプリントを創るための近道を得られます。

正しいベタ焼きの作り方

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作品創りに役立つ資料にするためには、各コマの濃すぎ薄すぎもコントラストの強弱も全てありのままに見えてしまうようなベタ焼きにする必要があります。

号数は自分が普段のプリントで最もよく使うものを使えばいいです。露光時間は、暗い部分がどう写っているかがきちんと判るようにする必要があります。そのためには(真っ黒になるはずの)何も写っていない部分は真っ黒で、しかも何か写っている部分まで真っ黒になってしまわないようにする必要があります。ネガの縁を段階露光で試し焼きして、パーフォレーションの穴の内外の濃度が同じになる最短の露光時間を探すと判りやすいでしょう。例えば図4.1 では、適切な露光時間は7 秒でした。

 
図4.1 ベタ焼きの試し焼き
 
図4.2 正しいベタ焼き


綺麗なプリントを目指して

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「綺麗な」プリントと言っても人によって好みがあるため、幅があるのは当然です。そこで、目指すプリントが最低限満たすべき条件だけを挙げておきます。それは「プリントの中に真っ黒な部分と真っ白な部分があり、その間のトーンがなだらかに再現されていること」です。つまり、シャドウの黒が締まっていないプリントやハイライトが灰色に濁ったプリントは綺麗とは言えないし、逆に明るい部分や暗い部分の細部が全く見えないほどコントラストの高いプリントも綺麗とは言えません。

4.2.1 ベタ焼きを使った号数の決定 手軽に各コマの号数を決めるには、「正しいベタ焼き」を使うことができます。例えばベタ焼きを2 号で作ったとき、ちょうどよく見えるコマはそのまま2 号で焼けばよいです [註 1]。 コントラストが低いせいで全体的に灰色っぽく見えるコマは、2 号より号数を上げます。逆にコントラストが高すぎて真っ白に飛んでしまっている部分があるコマは、2 号より号数を下げます [註 2]。 このようにしてだいたい何号で焼けばよいかが分かります。

露光時間の決定

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印画紙への露光は、プリント上に真っ黒な部分ができる必要最低限の時間(標準露光時間)にするのが合理的です。なぜなら、それより露光が少ないと真っ黒なはずの部分が黒くならないし、それより露光が多いと暗い部分が真っ黒に潰れてしまうからです。

つまりベタ焼きのときと同じで、露光時間は何も写っていない部分を使えば簡単に分かります。コマとコマの間が印画紙に映るようネガをずらして試し焼きをし、段階露光による濃度の境目が判らなくなり始めた部分が適切な露光時間です。

多階調紙で外付けのフィルタを使う場合は号数を変えると標準露光時間も変わってしまうので [註 3]、 できれば先にコントラストを決めてから露光時間を決める方がいいでしょう。もしくは、表4.1 を使って露光時間を補正して下さい [註 4]

表4.1 標準露光時間の変化(ILFORD MG IV RC の例)
例えば#2 から#3 へ変える場合は露光時間が0.7 倍になる。
変更後の号数→ 5 4 3 2 1 0 00 なし
なし 0.3 0.4 0.3 0.4 0.6 1.0 2.0 1
00 0.16 0.2 0.14 0.2 0.3 0.5 1 0.5
0 0.3 0.4 0.3 0.4 0.6 1 2.0 1.0
1 0.7 0.6 0.4 0.6 1 1.6 3.1 1.6
2 0.8 1.0 0.7 1 1.6 2.5 5.0 2.5
3 1.1 1.4 1 1.4 2.3 3.6 7.1 3.6
4 0.8 1 0.7 1.0 1.6 2.5 5.0 2.5
5 1 1.3 0.9 1.3 0.2 3.1 6.3 3.1

プリントしやすいネガを作る

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毎回のように焼き込み・覆い焼きを駆使しないと綺麗なプリントができなかったり、「正しい」はずのベタ焼きなのにほとんどのネガでコントラストが偏っていたりしませんか? そんな場合は楽に焼けるネガを作るために撮影時の露光指数 [註 5] とフィルムの現像時間とを調整する必要があります。

露光指数と現像時間の調整方法

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現像時間を減らすとシャドウの濃度はあまり変化せずにハイライトの濃度が下がるため、ネガのコントラストが下がります。また、露光指数を下げると(低感度フィルムを使ったのと同様に)光が多めに当たるようになるので、ネガが全体的に濃くなります。

例えばネガのシャドウ部がプリント上で潰れてしまう場合には、シャドウ部の描写を良くするために露光指数を下げて撮ることになります。そのフィルムを今までどおりの時間で現像したのではネガ全体の濃度が上がってハイライトが飛んでしまうので、現像時間を減らしてコントラストを下げてやります。そうすればハイライトからシャドウまでを綺麗にプリントしやすくなります。

似非ゾーンシステム

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具体的にどうやって綺麗に焼けるネガを作っていくのでしょう。正しく焼いたベタ焼きがここで活躍します [註 6]。 まずはベタ焼きの各コマの暗い部分だけに注目します。もしシャドウの細部が黒く潰れてよく判らない場合は、撮影時の露出が足りません。つまり次回からは露光指数を下げて光を多めに当ててやる必要があります。逆にほとんどのコマに真っ黒な部分が無い場合は露出オーバーなので、次回からは露光指数を上げる必要があります。

シャドウがきちんと描写されているなら、次は明るい部分だけに注目します。真っ白い部分の面積が大きいコマがほとんどなら、ネガのコントラストが高過ぎます。次回からは現像時間を減らしてコントラストを下げてやりましょう。一本のフィルムにはいろんなコントラストの被写体が写っています。それらのうちコントラストが高めのものにネガ全体のコントラストを合わせてやるのです。

実際に調整する際の目安としては、露光指数を半分にするごとに現像時間を3/4 倍すればよいでしょう。使うフィルム・現像液・印画紙を決めて、撮影とベタ焼きを数本繰り返して試せば、綺麗なネガが完成するでしょう。最終的に完成するネガでは真っ白い部分の面積がベタ焼き全体のほんの一部を占め、ほとんどのコマは灰色っぽく見えるでしょう。

脚注

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  1. ^ 引き伸ばし機の構造によってはベタ焼きより実際のプリントの方がコントラストがやや高くなることもあります。しかし、その傾向さえ把握しておけば大丈夫です。
  2. ^ 真っ黒い部分が全くなく全面的に白っぽいなら、そのコマは間違えて露出オーバーで撮影しています。
  3. ^ 中間の灰色の濃度が一定になるようになっているため。ただし、ダイヤルで号数を調整できる引き伸ばし機ヘッドでは標準露光時間が変わらないようになっている場合がある。
  4. ^ この表のデータはもちろん試し焼きで実験しても求まるものの、ここではデータシート[6]に記載されている各号数での特性曲線から、ほぼ最大濃度になる相対露光量の差を求めて露光量比に直した。 露光量   の常用対数が相対露光量   であるため、相対露光量の差で10を累乗すると露光量の比が求まる。   より  
  5. ^ Exposure Index (E.I.)。もともと決まっているフィルム感度とは関係なく、どの程度の光をフィルムに当てたいかに依って撮影者が決める数値。フィルムのISO感度と同じ単位で表され、例えば「ISO 100 のフィルムをE.I. 80 で使った」などと言います。カメラにフィルム感度を手動設定することで決められ、結果としては一定の露出補正を常に掛けているのと同じ状態になります。
  6. ^ これは Barry Thornton が生前、自身のウェブサイト上で“Unzone System”として紹介していた。Ansel Adams による有名なゾーンシステムのパロディとして、ロールフィルム用に極端に簡略化したもの。