作品展などで写真を壁に飾れるようにするためのパネル張りと、最後の仕上げであるスポッティングについて説明します。

パネル張り 編集

バライタ印画紙による写真を展示する際、油彩画キャンバスと同じように木製のパネルに水張りする方法が日本では伝統的に用いられています [註 1][註 2][註 3][1]

パネル張りの工程 編集

 
図3.1 板止め用ステープラ

印画紙はステープラでパネルの側面に留めます。この作業には普通の書類用ステープラよりもタッカ型の板止め専用ステープラ(図3.1)の使用をお薦めします。レバーを握るだけで針を打ち込むことができるので作業時間も短くなり失敗も少なくなります。

乾燥まで終えたプリントを再び水に浸します。浸す時間は5分程で、湿る程度で構いません。パネルは水洗いして汚れをとり、表面に釘などが出ていないか確かめておきます。浸しておいたプリントを巻いて取りだし、パネルの上に位置を合わせて広げます(図3.2)。位置がきちんと合わなかった場合は、もう一度丸めてから合わせ直すと折り目が付くのを防げます。位置が決まったら、プリントとパネルの間に入った空気を濡れたスポンジで中心から外に向かって押し出します(図3.3)。

 
図3.2 パネル上にプリントを広げる
 
図3.3 スポンジで空気を押し出す

印画紙をパネルの縁でぴんと引っ張って折り曲げ、パネル側面にステープラで止めます。ステープラを打つ順番は図3.4 の通りです [2][3][註 4]

 
図3.4 ステープラを打つ順番。先に長辺を中央から外へと留める。

まず間隔を開けて手早く打ち、仕上げに5 cm 程度の間隔で止めます。そして最後に角の部分を図3.5 のように折り畳み、その上から数箇所ステープラで止めます。

 
図3.5 角の折り方

パネル張りが終わったら、印画紙表面の水滴をスポンジで取り除き、埃の付かない場所で陰干しします。

枠紙貼り 編集

印画紙が乾いたら、ステープラの針から 0.5–1 cm を残して余分な印画紙をカッターナイフで切り取ります。また、針の頭が出ている部分があればきちんと打ち込んでおきます。

一般には枠紙として片面に糊の付いた黒い紙帯(ミューズテープ)を用います 。

パネルを椅子の背などに立てかけておいて、枠紙の糊の付いている面を濡れ雑巾かウェットティシュで湿らせ、パネルの辺と枠紙とに約1mm の隙間を残して真っ直ぐに貼り付けます。枠紙の貼り方が雑だといい作品でも魅力が半減するため、慎重に行うべきです。

余った枠紙をパネルの裏側へ折り曲げて貼り付け、乾燥させれば枠紙貼りは終了です。

スポッティング 編集

どんなに気を付けていても、ネガの傷や印画紙上の埃の跡がプリント上に表れてしまう事はよくあります。特に作品展に出すような大きいサイズに引き伸ばすと、ネガ上の傷や埃は拡大されるし、印画紙も広いので埃が乗る確率が高くなり、欠点が目立ちやすくなります。

 
図3.6 修正前後の拡大図(縦幅の実寸は3mm)

それらプリント上の欠点を図3.6 のように塗料で隠す作業がスポッティングです [註 5]

スポッティングの方法 編集

スポッティングの道具としては、面相筆などの極細の筆を用います。塗料は印画紙の種類によって異なります。 バライタ紙の場合水を吸うので、スポッティング用水性塗料や墨などを修正したい部分の濃さに合わせ水で薄めて使います。 RC 紙の場合水を弾くので水性塗料での修正は難しく、また光沢の具合が違うので修正跡が目立ちます。RC 紙専用の塗料か、またはポスターカラーを使うのがお薦めです。ただし、仕上りの濃度を水量で調整できないので濃さを合わせるのには苦労するかもしれません。

 
図3.7 筆の持ち方

印画紙に手が触れないように布などを敷いた上で、筆を図3.7 のように垂直に立てて印画紙面を突っつくように動かし、できるだけ小さな点をたくさん打って傷を埋め尽くすように隠します。大きな傷や線状の傷であっても、筆を横に動かして塗るようにすると修正したのが目立ってしまいます。

ときどき少し離れた位置から見てみて、周囲に対し修正跡が不自然でないか確認します。上手くやれば最終的には自分でも一見どこを修正したか判らないくらいになります。

スポッティングの手間を省くには 編集

スポッティングは器用さ・集中力・根気の必要な作業です。できれば最小限で済ませたいものです。そのための特別な方法は、残念ながらありません。埃やネガの傷を減らすほかないです。

  • ネガに傷や指紋を付けないよう、大切に扱う。
  • 露光前にはネガに付いているかも知れない埃をブロワで吹き飛ばす。埃が再び舞い降りることのないようにネガの面は地面に垂直にし、斜め上から吹く。
  • 普段から暗室を掃除して埃を減らし、換気を良くしてカビの発生を防ぐ。
  • 引き伸ばし機の内部にも意外に埃が溜まるので、定期的に掃除する
  • 露光前・露光中は埃を舞い上げるような事はしない。印画紙をイーゼルにセットした状態で団扇であおいで埃を減らそうとするのは逆効果です。

これらの基本をしっかり守っていれば、傷が無くスポッティングせずに済むようなプリントができるでしょう。

脚註 編集

  1. ^ RC紙では柔軟性が低いため普通は行いません。また平面性が十分に高いため、苦労して行うメリットもありません。
  2. ^ 手軽で安上がりな方法である反面、印画紙を傷めてしまう欠点があります。作品の保存を重視するなら、額やマットを用いるべきです。
  3. ^ 保存スペースの狭い日本で展示が終わり次第火にくべられるように(!)発明された方法らしい。
  4. ^ これには諸説あるようです。しかし、印画紙の乾燥による収縮が無視できる程度に手早く作業するなら、はっきり言って打つ順番はどうでもよい。
  5. ^ これは画面上にある被写体を消したり、無いものを書き足したりするのが目的ではありません。

出典 編集

  1. ^ 日本写真学会、1996年
  2. ^ 名古屋大学写真部、1985年
  3. ^ 名古屋大学写真部、1995年