例えば、もし読者が会社で値段を決める担当だったとしたら、「この商品を何円値上げしたら、買ってくれるお客さんはどれくらい減ってしまうのか」という判断は、まさに死活問題であろう。
こうしたことを判断するのに重要なのが、需要曲線・供給曲線の傾きである。
経済学ではこれらの曲線が急であるのか、あるいは緩やかであるのかを判断するために、弾力性という概念を用いる。
需要の弾力性とは
編集需要の弾力性とは、価格が 1% 上昇したときに需要が何 % 減少するかを示したものである。
- 需要の価格弾力性=需要の減少幅(%)/価格の上昇幅(%)
となる。 例えば、価格が 10 から 50 に 40 増加したとき、需要が 5 から 4 に 1 だけ減少するとしたら、価格の上昇幅は 400% (40/10 = 4) で、需要の減少幅は 20% (1/5 = 0.2)。 したがって、価格弾力性は 20/400 = 0.05 となる。
弾力性が 1 よりも大きな曲線は、価格が変化したときに需要量がそれ以上に変化するので、弾力的な需要曲線と呼ばれる。 この場合、需要曲線の傾きは緩やかになる。 逆に、弾力性が 1 よりも小さい曲線は、価格が変化したときに需要量はそれほど変化しないので、非弾力的な需要曲線と呼ばれる。 この場合、需要曲線の傾きは急になる。
弾力的な財、非弾力的な財
編集価格に対して需要が弾力的な財は、贅沢品に多くみられる。
例えば、宝石は日常生活で特に必要なものではないのだから、価格が高ければ無理して買おうとまでは思わない人が多いだろう。 しかし、価格が安くなれば買いたいと思う家計が増える。 価格が低下すれば需要は大きく増加し、逆に、価格が上昇すれば需要は大きく落ち込むことになる。 価格に対して需要は弾力的である。
趣味などの嗜好品で、しかし他に似たような代替品が多くあり得るようなもの、例えばゴルフ用品、テニス用品などのスポーツ用品も価格の弾力性が高くなる。 代替的、競争的な財が他にたくさんあると、ある財の価格が少しでも上がると、需要は他の財に逃げていきやすくなる。 逆にその財の価格が下がれば、その財に対する需要は大きく増加する。 価格弾力性がかなり高いことになる。
一方、非弾力的な財の代表は生活必需品、かつ、他に似たような財がないために、あまり代替の利かないものである。
例えば塩。料理に塩は必要不可欠だから、値段が高くなっても買わないわけにはいかない。また、塩のかわりに砂糖を使うわけにもいかないので、代替が利かない。
逆に、たとえ塩が安くなったとしても、塩だけを大量に買うメリットはあまりないだろう。だから、塩の価格が変動しても料理に使われる塩の消費量はほとんど変化しない。 つまり、塩の価格弾力性はかなり小さいということになる。
また、特殊な用途に限定されている財も価格段両性が低くなる。
例えば、専門性の高い学術書は、その分野の専門の研究者や図書館くらいしか需要がない。価格が安くなっても一般の読書がそうした本を購入する要因はほとんどない。
逆に、価格が高くても、専門の研究者や図書館にとっては必要と判断すれば買わざるを得ない。このように代替性の利かない財は弾力性がかなり小さくなる。
供給の弾力性とは
編集需要の弾力性と同様に、供給の弾力性という考え方もある。供給の弾力性は、価格が 1% 上昇するときに供給が何 % 増加するかで定義できる。つまり、
- 供給の弾力性=供給の増加の幅(%) / 価格の上昇の幅 (%)
となる。
例えば、価格が 100 円から 200 円に 100 円だけ上昇したときに、供給も 1 から 2 に 1 だけ増加するとすれば、価格の上昇幅(比率)は、(200-100)/100 = 1 で、供給の増加幅(比率)は (2-1)/1 = 1、供給の弾力性は 1/1 = 1、つまり 1 となる。
供給の弾力性が大きいほど、価格が上昇したときに供給量が大きく増加するので、供給曲線は緩やかになります。逆に、供給の弾力性が小さい場合には、価格が上昇してもあまり供給量は増えず、供給曲線の傾きは急になる。
一般的に、短期的な需要あるいは供給の変化は、価格の変化に比べて小さくなる。コーヒーの値段が上がっても、コーヒー愛好家が急に紅茶に乗り換えるのは難しいかもしれない。企業の方も、価格が上昇したからといって、すぐに供給を拡大させるには生産能力的にも限界があるだろう。しかし、長期的には価格の変化に対して消費者が他の似た代替財を見つけることは簡単であるし、企業の方も生産能力を拡大させることがより可能になる。
したがって短期的には非弾力的な需要あるいは供給も、長期的にはより弾力的になる。その結果、短期より長期で考えるほうが、需要曲線も供給曲線もその傾きは緩やかになる。需要や供給の弾力性を議論するときには、短期か長期かの区別が重要なのである。