中等課程では, の内積 を, 矢印ベクトル のなす角を として,

と定義した. これは平面ベクトルの場合でも,空間ベクトルの場合でもそうだった. また,この式が成分計算では成分ごとの積の和に等しいこと(例えば, であれば,)を、余弦定理などにより示した[1]

線形代数では,成分計算の定義の方が先になる.成分で定義しておけば,次元が 次以上のときベクトルのなす角のことを想像しなくても済む.


定義2 内積と大きさ

次元実数ベクトル に関して、内積、大きさを次のように定める.

内積 は,.…①

の大きさ は, .…②

すると, が成り立つ.…③

また, である について, のとき,「 は直交する」といい,「」と書く.

のとき, の大きさ は,矢印ベクトルで言えば始点から終点までの長さを表していた. 以上の場合もこれに倣って,同じような成分計算で表された を大きさというわけである.


こうして定義した内積に関して,次のような計算法則が成り立つ.これも平面ベクトル・空間ベクトルでの経験から納得してもらえるだろう.


定理2 内積の計算法則

次元ベクトル と実数 に関して次が成り立つ.

(1)

(2)

(3)

証明

(1) の証明..そして より

(2)の証明.

(3)の証明.

でないベクトル をその大きさで割ったベクトル は,大きさが になる.

[2][3]


のことを単位化したベクトル,あるいは正規化したベクトルという.

平面ベクトルと空間ベクトルでの内積の定義は であった. ここで,定義よりも突っ込んだ内積の図形的な意味を確認しておく.

として図を描く. から 直線 に下ろした垂線の足を とする. を左回りに回転して に重なる角を とする.[4]

に数直線[5]を重ね合わせ, に数値 を割り当て目盛りを振ると, の目盛りは三角関数の定義から、 となる.

内積の式は,

の目盛り

と見なすことができる.

特に が単位ベクトル のときを考える. をあらためて とおく.

だから の目盛りを表すことになる. と単位ベクトル との内積は 方向の成分を表している.


定理3 の意味

は単位ベクトルとする.直線 に重ねた数直線に から下ろした垂線の足を とすると、

の目盛り)

証明 すでに記述した.


  1. ^ 平面上の三角形 において, の成す角を と置くとき,
    の内積を …① と定義する.
    このとき余弦定理により …②
    また, の成分表示を ,同様に
    とすれば,①②をもとに内積 であることを以下に示す.すなわち

    ①②より

    …③
    ここで③の右辺の を成分表示に展開すると、

    すなわち、





  2. ^ 定義2③
  3. ^ 定理2(1)第1項と第2項 定理2(1)第2項と第3項 (式の整理)
  4. ^ とのなす角を とする」をより正確に記述した.
  5. ^ 「目盛りがついたものさし」のイメージである.