聖書ヘブライ語入門/女性形・形容詞/名詞と形容詞

5.4. 名詞と形容詞

単語の型と意味との関係で顕著なことは、טוֹב《良い》、חׇכׇם《賢い》のような、意味の面からは形容詞の部類に入る単語が、4.5で見たように、名詞(例えば קוֹל《声》、דׇּבׇר《言葉》と同じ型を取っていることである。日本語では形容詞は「活用」を行うなど名詞とは形の上からも区別されるのであるが、ヘブライ語ではこのように形態的には名詞と区別されず(もっとも CéCeC 型など、形容詞には無い型もあるが)、ユダヤ人文法家も品詞を名詞、動詞、小辞の三つに分類し、形容詞は名詞の下に分類したのであった。この講座でも、誤解の生じない限り、名詞(句)と形容詞(句)を特に区別していない。実際、意味的に形容詞と見なし得る語も、例えば חׇכׇם《賢い、賢人》のように、冠詞をつけることなしに、我々の所謂名詞としても用いられる。 קׇטוֹן הַבַּ֫יִת のような文も、《その家はちいさなものだ》と考えれば、名詞・形容詞の区別はヘブライ語では本質的なものでないことが分かるであろう。הַבַּ֫יִת הַקׇּטוֹן のような修飾部も、《その家、すなわちその小さなもの》と考えれば、定/不定の一致についても一つの示唆が得られよう。一方、形容詞的意味を持った名詞は、ヘブライ語の場合でも、修飾語として機能し易いとか、同じ語幹から男性形も女性形も作られることが多い、といった特徴を備えていることはたしかである。そのような一群の名詞を、便宜上形容詞と呼ぶこともある。