薬理学/代謝性疾患とその治療薬

通風 編集

通風とは、高尿酸血症によっ起きる炎症である。なお「高尿酸血症」とは文字通り、血中の尿酸濃度が異常に高いことである。 通風の発作は普通、関節で起きるので、分類的には関節炎でもある[1]。なお、足の指に通風の炎症が起きやすい。

通風の急性発作には、とりあえず、コルヒチンや、NSAIDs、副腎皮質ステロイドが投与される。

だが、これらは原因物質の尿酸そのものを下げる薬とは異なる。 つまり通風の治療では、炎症を抑える治療薬に加えて、尿酸値そのものを下げる治療薬/治療法も必要である[2]

また、投薬治療だけでなく、悪い食習慣が悪化因子になっている場合もあるので、高タンパク食・高脂肪食・高プリン食などを避けるように指導する必要がある[3]

ここでいう「プリン」とは、「プリン体」や「プリン塩基」と言われる窒素化合物のことであり、生体では尿酸の合成前の化合物郡のことである。

※ 高校の「生物」科目で習うように、尿酸はタンパク質などに由来する体内のアンモニアを排泄するために合成されている。尿酸を合成する前の中間合成物であるアデニンやイノシンなどを含む合成経路をまとめて「プリン代謝」[4]という。プリン代謝物も多くは窒素化合物である。なので、患者には、高タンパク食を改めさせる必要がある。

飲酒や過食も悪化因子であるので、患者にはアルコール制限[5]を指導するなど、食習慣などを改めるように指導する必要あり[6][7]。また、喉の渇きをうるおす際には、飲酒ではなく水を飲むように指導するのも、よく行われまる[8][9][10]

必ずしも食習慣が根本原因とは限らず、遺伝的な原因の可能性もあるが>[11]、どちらにせよ過食や高タンパク食や飲酒などが悪化因子であることに変わりは無いので、食習慣の改善の指導は必要であろう。


急性発作の治療 編集

コルヒチン 編集

コルヒチンは、イヌサフランに含まれるアルカロイドであり、急性の痛風発作に有効である。

抗炎症作用は無く、鎮痛作用は無い[12]

尿酸の生合成や排泄にも影響しない[13][14]と考えられている。

発作後の寛解は、発作後の短時間(発作後1日まで[15])なら有効である。


機序は、チューブリンに結合することにより、細胞分裂を中期で阻害する。 その結果などとして、尿酸結晶の貪食により引きおこされる脱顆粒を抑制する、のが主な作用機序だと考えられている。

※ 『標準薬理学』P411 は、機序に言及せず。
※ つまり、白血球の貪食によって、通風の発作的な痛みが発生していると考えられているので、コルヒチンは発作を消すために白血球そのものを妨害する対症療法的な治療法である。当然、コルヒチンにより免疫(※ 自然免疫)に悪影響が出る[16]と考えられている。


尿酸降下薬 編集

概要 編集

尿酸値を下げるための薬物には、

尿酸の体内の合成を阻害する薬物、
尿酸の排泄をする薬物、

がある。

なお、尿酸結石の析出を防ぐために尿アルカリ化薬(後述のクエン酸ナトリム・クエン酸カリウムなど)を併用し、また充分な水分摂取も必要である。

※ 体液が酸性になると、尿酸結石が析出してくる[17]

尿酸生成抑制薬 編集

アロプリノールは、キサンチンオキシダーゼという酵素を阻害する。なおキサンチンは、尿酸合成の経路での最終段階における尿酸の直前の物質である。

キサンチンオキシダーゼは、体内で尿生成の最終段階の

ヒポキサンチン → キサンチン → 尿酸

という順序の生成反応を競合的に阻害する。

※ なお、人間の尿の主成分は(尿素ではなく)尿酸。
哺乳類は尿素を排泄する動物が多いが、例外的にヒトは尿酸のまま。
詳しくは wikibooks 『病理学/代謝障害#高尿酸結晶および通風』。

その結果、血中の尿酸値が下がる。(血清中の尿酸か、血漿中の尿酸か、『パートナー薬理学』と『はじめの一歩の薬理学』で食い違い。)

また、アロプリノール自身も代謝物アロキサンチン(オキシプリノール)に代謝される。

頻度は低いが重大な副作用に、皮膚粘膜眼症候群(ステーィブンジョンソン症候群)がある。


フェブキソスタットは、プリン基を持たず(つまり、非プリン型)、選択的[18][19]キサンチンオキシダーゼ阻害薬である。 2011年に承認された新しい薬剤である[20]

フェブキソスタットは、副作用のステーィブンジョンソン症候群の少ない新薬として期待されている[21]

尿酸排泄促進薬 編集

ベンズブロマロン 編集

ベンズブロマロンは、尿細管において尿酸トランスポーターを阻害することにより、尿酸の再吸収を阻害することにより、尿酸を尿中に排泄させる。

副作用として、重篤な劇症肝炎など肝障害の報告あり[22][23]

このため肝障害合併例では禁忌[24]。また、定期的な肝機能検査が必要[25]

ブロベネシド 編集

ブロベネシドは、近位尿細管における尿酸の分泌と再吸収をともに抑制するが、再吸収抑制作用がより強く、

ペニシリンなどの酸性薬物の作用を増強する。

ほか、NSAIDs、ペニシリン、メトトレキサート、ワルファリン、などと拮抗する。


ブコローム 編集

ブコロームは日本で開発された薬であり[26]、抗炎症作用と尿酸排泄作用を併せ持つ。

高尿酸結晶の是正のほか、関節リウマチ、変形性関節症、急性中耳炎、などにも有効[27][28]


尿アルカリ化薬 編集

クエン酸カリウムクエン酸ナトリウムの合剤や、炭酸水素ナトリウムなどで、尿をアルカリ化する[29][30][31]


その他 編集

ラスブリカーゼという尿酸分解酵素薬がある。文字通り、尿酸を酸化で分解して、過酸化水素と水溶性のアラントインにする[32]

※ パートナー薬理学でしかラスブリカーゼを紹介していない。

骨代謝 編集

※ 骨代謝の異常とは、いわゆる骨粗鬆症のこと。


骨粗鬆症の治療薬は、

ビスホスホネート、
エストロゲン、
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、
PTH
活性型ビタミンD3、
カルシウム、
カルシトニン誘導体、
ビタミンK2、
イブリフラボン、
タンパク同化ホルモン、
デノスマブ、

である。


ビスホスホネート 編集

ビスホスホネートは、ピロリン酸の -P-O-P- 結合に類似した -P-C-P- 結合を有し、ヒドロキシアパタイトに親和性が高いため、 体内に吸収されると歯や骨に分布する。

そして、破骨細胞を抑制する。

※ なお、「骨吸収」とは、破骨細胞によって破壊された骨のカルシウムなどが血液に吸収される事を言う。

しかし、本wikiでは、まぎらわしいので「骨吸収」の用語を避けるとする(逆の意味に誤解されやすい)。NEW薬理学でも避けている。

『標準薬理学』、『パートナー薬理学』や『はじめの一歩の薬理学』などが、「骨吸収」の語を使っている。

ビスホスホネート剤としては、第一世代のエチドロン酸、第二世代のアレンドロン酸、第3世代のリセドロン酸ミノドロン酸がある[33][34]


デノスマブ 編集

デノスマブは、比較的に新しい方式の薬である[35]

RANKL(Receptor activor if NF - κ B ligand ) のうちの RANK という受容体が破骨細胞に存在している。


RANKが発現すると、破骨細胞前駆細胞[36]が破骨細胞に分化する。

デノスマブは、RANKL/RANK 経路を阻害することで、破骨細胞を阻害する。

デノスマブは体内での半減期が長いので、6ヶ月に1回の投与をする。


ビタミン製剤 編集

活性型ビタミンD3は腸管からのCa吸収を亢進させる。

骨芽細胞にも刺激を与えると考えられており[37]、一説には骨芽細胞にビタミンD受容体があるとも言われているが[38]、不明点が多い[39][40]

活性型ビタミンD3を製剤化したカルシトリオール、ビタミンD3誘導体のアルファカルシドール、などがある。

2011年に、エルデカルシトールが発売された。

なお、ビタミンD3製剤のうち、マキサカルシトールとファレカルシトールには、骨粗鬆症の適用が無い[41]

メテナトレノンは、14種類確認されているビタミンK2の一つであり、骨粗鬆症に有効である[42][43]

※ メテナトレノンの詳しい機序については『パートナー薬理学』を参照せよ。

また、(※ メテナトレノンに限らずビタミンKは)ワルファリンの作用を減弱させるので、併用禁忌である[44][45]

エストロゲン製剤およびSERM 編集

エストロゲンは、破骨細胞を抑制する。

閉経後女性は、エストロゲンが不足する。

エストロゲンの投与は降下があるが、しかしエストロゲンは乳癌や子宮癌などを増悪するので、 代わりに 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)が臨床応用されている。

SERMとしては、ラロキシフェンバゼドキシフェンがある。


カルシトニン 編集

カルシトニンは、甲状腺の傍濾胞細胞から分泌されるペプチドホルモンである。

鎮痛作用を有するので、骨粗鬆症における疼痛の鎮痛に用いる。

医薬品としては、エルカトニンサケカルシトニンがある[46][47]


PTH製剤 編集

副甲状腺ホルモン(PTH)製剤としては、テリパラチドがある。テリパラチドは、ヒトPTHの活性部分であるN末端断であり、アミノ酸34個で構成された[48]、遺伝子組み換え製剤である[49][50]

※ 『標準薬理学』は、PTHとビタミンDとの関連について言及せず。

テリパラチドの皮下注射が、骨量増加に作用し、骨粗鬆症に有効であるとされている。

脂質代謝異常とその治療薬 編集

HMG-CoA還元酵素阻害薬 編集

コレステロール整合性に必要な酵素としてHMG-CoA還元酵素という酵素がある[51][52]

生体内ではメバロン酸合成が生合成での律速段階であり、HMG-CoA還元酵素はそのメバロン酸の合成を触媒する酵素である。

なお、「HMG-CoA還元酵素」とは、「ヒドロキシ-3-メチルグルタル補酵素」の略である[53]

(HMG-CoAの略さないほうの名前からも分かるように、)生体内ではヒドロキシメチルグルタンCoAからメバロン酸を生合成している[54]

HMG-CoA還元酵素阻害薬は「スタチン系」とも言われており、アトルバスタチンなどがある。 アトルバスタチンなどのスタチン系薬はこのHMG0CoA還元酵素を阻害するので、肝細胞中のコレステロール濃度を下げる。


この減少を補うためか、肝細胞のLDL受容体発現が増加する[55][56]

※ パートナー薬理学などでは「補うため、」と断言しているが、NEW薬理学は一切そういった仕組みに触れていないので(暗黙裡に「補う」仮設に反対しているのか)、本wikiでは折衷案として「補うためか、」とあくまでも「補うため」の部分は仮説として紹介した。なお、LDL受容体発現が増加するのは、仮説ではなく、観察にもとづく事実。
※ なお、標準薬理学では、「ネガティブフィードバック機構」が働いてそうなると言う。なんのためにネガティブフィードバックがあるのかは言及せず。

そして、肝細胞LDLが増加したので、血中から肝臓へのLDLコレステロールの取り込みが増加する[57][58]


重大な副作用として、横紋筋融解症やミオパシー[59]がある[60][61]。 シクロスポリンとの併用で、横紋筋融解症の頻度が増加する[62][63]


陰イオン交換樹脂 編集

高脂血症の治療薬として用いられている陰イオン交換樹脂には、主にコレスチラミンコレスミドの2種類[64]がある。腸管内で胆汁を吸収し、そのまま糞便ととも体外に排泄される。

この結果、胆汁酸の腸肝循環が崩れて、胆汁プールが欠乏するので、胆汁酸の合成が促進されるので、肝臓でのコレステロール需要が増大するので、血中のコレステロールが肝臓に取り込まれるので、血中LDLコレステロール値が低下する。

これらの薬は体内に吸収されないため、副作用は少ないし軽度[65]であり、比較的に安全である[66][67]。便秘の副作用があるが、比較的に軽い[68]

ケキシン9型阻害薬 編集

※ 未記述.


フィブラート系 編集

フィブラート系薬は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)αに結合して活性化させる(つまり、アゴニスト[69])。

さまざまな作用の結果、最終的に、血清[70]においてトリグリセリドに富むリボ蛋白を減少させる[71]


ニコチン酸系 編集

LDLは減少するが、HDLは増加する。機序は不明[72]

HDLが増える理由として一説には、HDL生合成を促進するからだという説[73]や、代謝を遅延するからだという説[74]がある。

ニコチン酸系薬には、トコフェノール ニコチン酸や、ニコモールがある。


小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 編集

小腸の粘膜細胞表面には Nieman-Pick C1-Like 1 protein(NPC1L1)と呼ばれるトランスポーターが存在している。

コレステロールの吸収は NPC1L1 を介して行われる[75][76]エゼチミブは NPC1L1 を阻害することで、コレステロールの吸収を阻害することにより、血清コレステロール値を低下させる。

スタチン系薬と併用することにより、さらにコレステロールを低下させられる[77][78]と言われている。

副作用として、便秘、下痢などの胃腸症状[79][80]

脚注 編集

  1. ^ 『標準薬理学』、P411
  2. ^ 『NEW薬理学』、P510
  3. ^ 『標準薬理学』、P411
  4. ^ 『NEW薬理学』、P510
  5. ^ 『パートナー薬理学』、P436
  6. ^ 『標準薬理学』、P411
  7. ^ 『NEW薬理学』、P509
  8. ^ 『パートナー薬理学』、P436
  9. ^ 『標準薬理学』、P411
  10. ^ 『NEW薬理学』、P509
  11. ^ 『NEW薬理学』、P509
  12. ^ 『NEW薬理学』、P510
  13. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P232
  14. ^ 『パートナー薬理学』、P437
  15. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P232
  16. ^ 小山岩雄『超入門 新薬理学』、照林社、P97
  17. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P234
  18. ^ 『パートナー薬理学』、P439
  19. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P235
  20. ^ 『標準薬理学』、P412
  21. ^ 『NEW薬理学』、P510
  22. ^ 『パートナー薬理学』、P438
  23. ^ 『NEW薬理学』、P511
  24. ^ 『NEW薬理学』、P511
  25. ^ 『パートナー薬理学』、P438
  26. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P234
  27. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P234
  28. ^ 『パートナー薬理学』、P438
  29. ^ 『パートナー薬理学』、P438
  30. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P234
  31. ^ 『標準薬理学』、P412, にクエン酸の合剤
  32. ^ 『パートナー薬理学』、P438
  33. ^ 『パートナー薬理学』、P444
  34. ^ 『NEW薬理学』、P512
  35. ^ 『NEW薬理学』、P513
  36. ^ 『標準薬理学』、P382
  37. ^ 『パートナー薬理学』、P440
  38. ^ 『NEW薬理学』、P512
  39. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P237
  40. ^ 『NEW薬理学』、P512
  41. ^ 『パートナー薬理学』、P440
  42. ^ 『パートナー薬理学』、P440
  43. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P237
  44. ^ 『パートナー薬理学』、P440
  45. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P237
  46. ^ 『パートナー薬理学』、P443
  47. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P237
  48. ^ 『NEW薬理学』、P514
  49. ^ 『パートナー薬理学』、P444
  50. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P238
  51. ^ 『NEW薬理学』、P504
  52. ^ 『標準薬理学』、P409
  53. ^ 『パートナー薬理学』
  54. ^ 『NEW薬理学』、P504
  55. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P229
  56. ^ 『パートナー薬理学』、P430
  57. ^ 『標準薬理学』、P408
  58. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P229
  59. ^ 『パートナー薬理学』、P430
  60. ^ 『標準薬理学』、P408
  61. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P229
  62. ^ 『パートナー薬理学』、P430
  63. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P229
  64. ^ 『標準薬理学』、P410
  65. ^ 『NEW薬理学』、P507
  66. ^ 『NEW薬理学』、P507
  67. ^ 『標準薬理学』、P410
  68. ^ 『パートナー薬理学』、P432
  69. ^ 『パートナー薬理学』、P432
  70. ^ 『NEW薬理学』
  71. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P231
  72. ^ 『NEW薬理学』、P507
  73. ^ 『標準薬理学』、P410
  74. ^ 『NEW薬理学』、P507
  75. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P231
  76. ^ 『標準薬理学』、P410
  77. ^ 『標準薬理学』、P410
  78. ^ 『NEW薬理学』、P508
  79. ^ 『パートナー薬理学』、P432
  80. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P231