薬理学/咳と痰と気管支喘息の治療薬

鎮咳薬 編集

モルヒネは鎮痛薬であり、麻薬である[1]

※ 麻酔薬ではない。なお、モルヒネは「麻薬」に指定されている。

モルヒネは、オピオイド受容体の一種であるμ受容体の完全アゴニストである[2]


コデインは構造がモルヒネに類似しており、咳止めの薬(鎮咳薬)として使われる。

なお、天然にもケシの実からとれる[3]アヘンアルカロイド中に微量(約0.5%[4][5])ながらコデインは含まれている。

モルヒネは「麻薬」そのものであるが、コデインおよびジヒドロコデインは「麻薬性」の薬物である[6]

※ なので、コデインなどにも諸々の規制がある。

コデインやジヒドロコデインには依存性があるが、モルヒネと比較ほどには依存性は強くなく軽度の依存性であり、 鎮咳として使う量では問題を起こさない[7]


なお、実はモルヒネにも鎮咳作用がある[8]のだと考えらている。

なので、コデインなどの通常の鎮咳薬が効かない激しい咳には、モルヒネが使われる場合もありうる[9]

なお、コデインなどにおいて、鎮咳作用は鎮痛作用よりも少量で作用が表れる[10][11]

このことから一説には、鎮咳作用に関する受容体と、鎮痛作用に関する受容体とは、別々のタイプであるのだろう[12][13]という説もある。


副作用などについては、コデインなどは咳をしずめる作用があるので、一見すると呼吸系の疾患に便利そうであるが、 しかし呼吸抑制の作用や[14]、肺分泌物の粘度を高める作用[15]があるので、 気管支喘息には不適切である[16][17]

なお、コデインの副作用には便秘がある[18]


デキストロメトルファンジメモルファンは、非麻薬性の鎮咳薬である。ただしデキストロメトルファンは、アヘンアルカロイドの構造を参考に合成されている。

※ デキストロメトルファンについて、『NEW薬理学』は、便秘を起こさないと言ってるが、『はじめの一歩の薬理学』は便秘を起こすと言っており、説明が食い違う。

ジモルファンには下痢の作用もあるので、便秘の患者に用いることができる[19][20]

去痰薬 編集

アセチルシステインメチルシステインエチルシステイン、は作用として、 ジスルフィド -S-S- 結合 を切断するので、痰が低分子化して、痰の粘度を低下させる。

ブロムヘキシンは、気管支粘膜からの粘度の低い漿液性分泌を促進する。またブロムヘキシンは、リゾチーム[21]などの酵素[22]の分泌により、ムコ多糖類[23][24]の線維を切断し、痰の粘度を低下させる。


そのほか、カルボシステインや、アンブロキソールなどの去痰薬がある。

カルボシステインには、他のシステイン誘導体とは異なり、-S-S-結合を切断する作用は無い。カルボシステインには、痰中のムチンの末端糖を、糖鎖構造を変えて、末端糖をフコース型からシアル型に変える作用がある。


アンブロキソールは肺胞サーファクタント分泌をする[25][26][27]

気管支喘息治療薬 編集

気管支喘息治療薬 編集

気管支喘息の原因は、外見的な症状は呼吸困難であるが、本質的には炎症であり、気道粘膜の炎症である。なお、気管支喘息は、気道の狭窄の起きる病気であり、可逆的な気道狭窄の症状がある[28][29]

ともかく、気管支喘息は気道粘膜の炎症であるため、治療薬でも吸入ステロイドなど、炎症を防ぐことのできる薬物が気管支喘息に有効であり、 実際に気管支喘息の治療薬として吸入ステロイドは使われている。

比較的に古典的な喘息治療薬としては、吸入ステロイドと、気管支拡張薬との組み合わせである[30]

なお、気管支喘息の治療薬には、ステロイド薬のほか、加えて気管支拡張薬や、必要に応じて抗アレルギー薬などが投与される。またなお、気管支拡張薬にはキサンチン誘導体、またはアドレナリンβ2受容体刺激薬が使われる。


上述では手短かに「吸入ステロイド」と言ったが、より詳細には、 副腎皮質ステロイドである。


気管支喘息は大別して、 アレルギー性の喘息と、非アレルギー性の喘息とに大別される。


小児の気管支喘息には、アレルギー性のものが多い(特にアトピー性)。

アレルギー性の気管支喘息は、病理学でいうところの「I型アレルギー反応」(いちがた~)であり[31][32]


なので、理論的には、上述のように気管支喘息は体内においては炎症であるので、ステロイドのほか抗ヒスタミン薬など炎症を抑える薬も有効である。 一般に、炎症やアレルギー反応では、ヒスタミンが分泌される。

実際、近年、炎症性メディエーター阻害薬として、抗ヒスタミン薬などが喘息治療として登場してきている[33][34]

裏を返すと、つまり、喘息患者にけっしてヒスタミンは投与してはならない、と『カッツング薬理学』も主張している[35]。つまりヒスタミンは喘息患者には禁忌である事になる(※ カッツング薬理学では「禁忌」とまでは「カッツング薬理学」本文中では断言していないが、しかし喘息患者へのヒスタミン投与禁止を主張した段落のタイトルが「副作用と禁忌」なので、まあカッツングも禁忌だと考えていると推測するのが妥当だろう)。


また、一般にアレルギー反応ではロイコトリエンやサイトカインなどが分泌される。

なのでアレルギー型の気管支喘息には、抗ロイコトリエン薬、抗トロンポキサンA2薬や、抗TH2サイトカイン薬も有効である[36][37]


気管支喘息の治療薬には、発作を予防するために日常的に服用する薬である長期管理薬(コントローラー)と、

発作が起きたときに気道をひろげる発作治療薬(リリーバー)がある[38][39]

喘息におけるアドレナリンβ2受容体刺激薬 編集

サルブタノール、フェノテロール、プロカテノールなどが、発作時に吸入エアロゾール剤として使われる[40][41]


作用持続時間から、気管支喘息用のアドレナリンβ2受容体刺激薬は、短時間作用性長時間作用性とに分類される。


長時間作用性としてはサルメテロールホルモテロール、など。長時間作用性のものは、作用の発現が遅いので、発作時の応急処置には向かない。

古くはアドレナリンが投与されたが、現代では もはや使われていない[42]

キサンチン誘導体 編集

※ 本wikiでは、すでに『中枢興奮薬』の単元でメチルキサンチンの薬効として気管支の弛緩を説明してある。

COPD治療薬 編集

慢性閉塞性肺疾患COPD)は、主に加齢と喫煙によって起きる、不可逆的な肺気腫、末梢気道性病変であり、多くの場合は進行性である。

喫煙のほか、大気汚染など、有害物質が原因になる。近年、日本社会の高齢化もともなって、COPD患者が増加しており、その多くは喫煙者である。


治療には、抗コリン薬である[43]チオトロピウムなどが使われている。アドレナリンβ2アゴニスト(サロメテロール[44])なども治療に使われている。

禁煙も必要なので、ニコチンパッチやニコチンガムなどの禁煙補助薬を用いることも推奨される[45]

脚注 編集

  1. ^ 『標準薬理学』、P350
  2. ^ 『標準薬理学』、P350
  3. ^ 『標準薬理学』、P350
  4. ^ 『標準薬理学』、P350
  5. ^ 『NEW薬理学』、P478
  6. ^ 『パートナー薬理学』、P296
  7. ^ 『NEW薬理学』、P478
  8. ^ 『標準薬理学』、P350
  9. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P180
  10. ^ 『パートナー薬理学』、P296
  11. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P180
  12. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P180
  13. ^ 『パートナー薬理学』、P296
  14. ^ 『標準薬理学』、P350
  15. ^ 『NEW薬理学』、P478
  16. ^ 『標準薬理学』、P350
  17. ^ 『NEW薬理学』、P478
  18. ^ 『標準薬理学』、P530 ※ P350の誤記ではなく、P530にも記載あり
  19. ^ 『パートナー薬理学』、P296
  20. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P180
  21. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P180
  22. ^ 『パートナー薬理学』、P296
  23. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P180
  24. ^ 『NEW薬理学』、P479
  25. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P181
  26. ^ 『NEW薬理学』、P479
  27. ^ 『パートナー薬理学』、P298
  28. ^ 『パートナー薬理学』、P299
  29. ^ 『NEW薬理学』、P481
  30. ^ 『標準薬理学』、P526
  31. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P180
  32. ^ 『NEW薬理学』、P481
  33. ^ 『標準薬理学』、P526
  34. ^ 『NEW薬理学』、P483
  35. ^ Bertram G.Katzung 著、柳沢輝行ほか訳『カッツング薬理学 原書第10版』、丸善株式会社、平成21年3月25日 発行、P.273、段落「副作用と禁忌」の終わりから上に4行目の位置
  36. ^ 『NEW薬理学』、P483
  37. ^ 『パートナー薬理学』、P304
  38. ^ 『パートナー薬理学』、P301
  39. ^ 『標準薬理学』、P526
  40. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P185
  41. ^ 『パートナー薬理学』、P301
  42. ^ 『標準薬理学』、P527
  43. ^ 『NEW薬理学』、P483
  44. ^ 『パートナー薬理学』、P305
  45. ^ 『標準薬理学』、P526