薬理学/抗炎症薬および関連薬

解熱鎮痛薬

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※ 編集上の注意: プロスタグランジンのページとは別に、解熱鎮痛薬のページが必要かと。 理由: プロスタグランジンやロイコトリエンなどの関連物質の生理学的な話題は、記述が長くなるので。

炎症などの際、体温が上昇する場合があるが、それは下記のような機序である場合がある。

視床下部に、体温調節中枢がある[1][2]

内因性の発熱性物質として、IL-1, TNF-α, IFNγ が遊離されると、それらが体温調節中枢を刺激し、プロスタグランジンE2 という生理活性物質の産生を促進する。 このプロスタグランジンE2 によりセットポイントが上昇するので、体温は上昇する。


一般に、解熱鎮痛薬は、このプロスタグランジンE2を阻害することによって、体温の上昇を阻害している。 したがって、解熱鎮痛薬が正常時の体温を下げる事は無い[3][4]

解熱鎮痛薬や抗炎症薬は、主として、シクロオキシゲナーゼCOX)の阻害によって、プロスタグランジン類の産生を抑制している[5][6]

なお、プロスタグランジンそのものの体内合成経路については、脂肪酸の一種であるアラキドン酸からプロスタグランジン類が体内合成される。
またなお、COXには少なくとも COX-1 と COX-2 の二種類ある事が分かっている。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

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概要

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サリチル酸やその類似物質が、比較的に古くから解熱薬や頭痛薬などとして使われている。

このサリチル酸系の薬物には、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害の作用がある事が解明されている。

なお、サリチル酸そのものは刺激が強すぎるので、サリチル酸ナトリウムなどの誘導体が解熱薬として使われている。 サリチル酸をアセチル化させたアスピリンも同様の作用機序である。

炎症を抑える際にステロイドを使っていない薬物なので、サリチル系などの抗炎症薬は非ステロイド抗炎症薬NSAIDs)と総称される。

※ 字義では、サリチル酸でなくても非ステロイドなら「非ステロイド抗炎症薬」であるはずだが、慣習的にはサリチル酸系の抗炎症薬のことをNSAIDsという場合も多い。あまり本質的な事ではないので、これ以上は言及しない。

各論

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サリチル酸系

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アスピリンは、風邪や感冒[7]などの解熱のほか、鎮痛薬として頭痛、歯痛、月経痛を抑える、 抗炎症薬として関節リウマチなどに使われる[8]

アスピリンによるプロスタグランジン類の産生抑制にともない、同じく(プロスタグランジンのもとである)アラキドン酸をもとにしているトロンポキサンチンという血小板凝集物質の合成も阻害されるので、 アスピリンには抗血栓薬としての作用もある。

なので、抗血栓薬としても小用量が使われている[9]


副作用については、(血栓を溶かすという作用から当然、)アスピリンの副作用として出血傾向がある。

このほか、アスピリンの副作用として、喘息発作があり、アスピリン喘息と言われる。

「ライ症候群」という副作用もあり[10][11]、主に小児に起きる。

このほかアスピリンの副作用として、ショック、アナフィラキシ-症状、スティーブンジョンソン症候群[12][13]、再生不良貧血、白血球減少[14][15]、などがある。

アリール酢酸系

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インドメタシンは、解熱、鎮痛、抗炎症作用はアスピリンの20~30倍強力[16][17]である。

副作用の発生率は高く、胃腸障害、下痢などの消化管障害、腎障害、肝障害、出血傾向などがある。


インドメタシンファンシネルは、プロドラッグであり、胃障害が少ない。アセメルメタシンプログルメタシンもプロドラッグである。


スリンダクは、インドメタシン類似の構造をもつプロドラッグであり、体内でスルフィドへと還元されて活性をもつ。抗炎症作用はインドメタシンよりも弱いが、アスピリンよりは強い。主に関節リウマチ、変形性関節症、腰痛、肩関節周囲炎、頚肩腕症候群、腱鞘炎、などに用いられる。

フェニル酢酸誘導体

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ジクロフェナクは、 インドメタシンとほぼ同様のCOX阻害作用をもち、くわえて、リボキシゲーナーゼ代謝の精製を阻害する。 副作用は、他の一般のCOX阻害薬や酸性NSAIDsの副作用とほぼ共通。


プロピオン酸誘導体

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イブプロフェンが代表的薬物である。


類縁化合物のナプロキセンはプロピオン酸誘導体の中では最も強力で、COX阻害作用がアスピリンの約20倍[18][19]強い。


アントラニル酸誘導体

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メフェナム酸が古くから、鎮痛、解熱、抗炎症に用いられている。

比較的に鎮痛作用が強く[20][21]、抗炎症作用は弱い[22]


オキシカム誘導体

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ピロキシカムが、インドメタシンとほど同様のCOX阻害作用[23][24]や抗炎症作用[25]をもつ。くわえて、白血球活性化抑制作用がある[26][27]


選択的COX2阻害薬

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COXには、ほとんどの組織で常時に発現している COX-1 と、炎症で局所的に発現する COX-2 がある。

セレコキシブはCOX-1よりもCOX-2に対して選択的に阻害する、抗炎症薬である。COX-1阻害をほぼしないので、血小板凝集抑制作用は示さない[28]

臨床的には、関節リウマチ、変形関節症に使われる[29][30]

胃の内視鏡検査では、胃粘膜障害を認めないという実績がある[31]

※ 『NEW薬理学』は、胃粘膜障害をしないのは COX-1 阻害をしない事によるという学説を提唱している。

塩基性NSAIDs

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作用機序が不明[32][33][34]

COX阻害をしないか、ほとんどCOX阻害が認められない。なのに、なぜか鎮痛・消炎の効果がある。

チアラミドエピリゾールなどがある。

その他

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ピリン系誘導体
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スルピリンには、解熱作用はあるが、鎮痛作用は無く/弱く、抗炎症作用も弱い[35][36][37]

※ 抗炎症作用が弱いので、NSAIDsの単元では紹介しない医学書もあり、パートナー薬理学ではNSAIDsとしては紹介していない。標準薬理学、NEW薬理学はNSAIDsの単元で紹介している。ただし、副作用がサリチル酸誘導体と似ている[38]

視床下部の体温中枢に作用している[39][40][41]

他の解熱剤が無効な場合にかぎり、用いる。坐剤、注射剤として用いる[42][43]

副作用がサリチル酸誘導体と似ており[44]、スルプリンには胃腸障害[45][46]、腎障害[47][48]、ショックなどの副作用がある。

その他の副作用として、無顆粒症、再生不良貧血などの骨髄抑制作用[49]の起きる場合もある[50][51]

なお、スルピリンはピラゾロン誘導体である[52][53]


ステロイド系抗炎症薬

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概要

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副腎皮質からステロイド構造のホルモンが何種類か分泌される事が知られており、 そのステロイド構造の副腎皮質ホルモンのことを総称してコルチコイドという。

※ 「副腎皮質の」と言う意味の英語の形容詞を cortical という。なので、「コルチカルなステロイド」→「コルチコイド」という単純な命名である。

コルチコイドはホルモンであるので、そのホルモンを受けた体内の組織では、いろいろな反応が起きる。

コルチコイドの種類によって、分泌時・投与時における体内での反応が変わる。

コルチコイドのホルモンを受けた結果、体内が糖質を蓄える方向に向かうなら、そのホルモンを糖質コルチコイド[54][55](glucocorticoids )またはグルココルチコイド[56]という。


一方、コルチコイドのホルモンを受けた結果、体内がナトリウムを蓄える方向に向かうなら、鉱質コルチコイド(mineralcorticoid)という。

※ 「糖質」と「鉱質」の発音が似ていて紛らわしいので、本wikiでは「鉱質」のほうを「ミネラルコルチコイド」と呼ぶことにする。一般的に、ステロイド薬では糖質のほうを使う機会が多いので。


なお、天然の糖質コルチコイドを含めて、糖質コルチコイドは一般的に、脂肪やタンパク質を異化することにより、糖質を貯留させる。


さて、糖質コルチコイドには、抗炎症作用がある。

ミネラルコルチコイドについては、副作用として電解質の貯留により全身性の浮腫が起きる。


糖質コルチコイドとミネラルコルチコイドは、反するものではなく、

両ホルモンとも、互いに、両方の性質を兼ね備えている。


たとえば天然の糖質コルチコイドであるヒドロコルチゾン(別名: コルチゾール cortisol )というコルチコイドは、ミネラルコルチコイドとしての性質も少々は兼ね備えている。

なので、抗炎症目的でもヒドロコルチゾンを投与すると、全身性の浮腫が副作用として起きる。なお、糖質コルチコイドにも副作用として糖尿病や、そのほかの色々な副作用がある(後述)。

副作用が不都合なので、糖質コルチコイドとミネラルコルチコイドを分離した薬剤を開発しようという試みが過去に行われたが、分離は失敗している[57]。ある程度、副作用を抑制する事は可能だが[58][59]、しかし「分離できた」と言えるほどには、とうてい至っていない。


なので、薬剤開発では、なるべく糖質コルチコイドの性質をより増強した糖質コルチコイド系の薬剤、または、ミネラルコルチコイドの性質をより増強したミネラルコルチコイド系の薬剤、などのように得意分野をより増強する方向性での開発が進んでいった。


糖質コルチコイド

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天然のものは、経口投与が可能である。胃腸管から、よく吸収される。経口、注射、噴霧、吸入、塗布、坐薬などとして適用される[60]。合成のものも、普通は同様に胃腸管でよく吸収される。

なお、天然のものも合成のものも、肝臓で速やかに[61]代謝分解される[62][63]


ともかく、コルチコイド薬剤の副作用は抑え切れていない製薬状況であるので、投薬量はなるべく最小限にすべきであるとされている[64]


ヒヂロコルチゾンをプロトタイプとして、それを化学修飾することで、他のステロイド系抗炎症薬が開発されていき、などが開発されていった。


開発の順序は、歴史的には、

(古い側) プレドニゾロン → トリアムノシン → デキサメタゾン (新しい側)

である。

上記の3つの薬剤では、後世に開発されたものほど(つまりデキサメタゾンは一番)副作用が比較的に弱い[65]とされている。

※ ・・・と『標準薬理学』は(後世ほど副作用が弱いと)言ってるが、しかし他の医学書はその説を採用していない。


  • 臨床適用

糖質コルチコイドは、気管支喘息にも効き、ベクロメタゾンが気管支喘息に使われる。

湿疹や感染[66]などの炎症性[67]皮膚疾患[68]、関節リウマチ、気管支喘息、膠原病、潰瘍性大腸炎、などに効く。

そのほか、副腎皮質ホルモンであるので、副腎皮質疾患の診断や治療などに使われる[69]。 (※ 詳しくは専門書を参照せよ。)


  • 開発の詳細

ヒドロコルチゾンを基本薬として、ヒドロコルチゾンの1位[70]を二重結合にした[71]プレドニゾロンが開発された[72][73]

※ 「1位」とか「2位」とか言うのは有機化学の用語。詳しくは有機化学の入門書を参照せよ。
※ 以下、参考文献は、標準薬理学とNEW薬理学。引用ページは上の文の参照にあるページ数と同様なので省略。

そして、抗炎症作用は4倍になったが、ミネラルコルチコイド的な副作用はあまり改善されていなかった[74][75]


次に、トリアムノシノロンベタメタゾンデキサメタゾンが開発され、それぞれ糖質コルチコイドの作用が増強された。

トリアムノシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾンは、糖質コルチコイドとしての作用が強く、なのでミネラルコルチコイド的な副作用(この薬剤の場合なら、ナトリウム貯留作用[76]が弱い)は相対的に弱い。

※ 医学書では、副作用が「極めて弱い」(標準薬理学)とか「無視できる」(NEW薬理学)とか言ってるが、それだと副作用と分離できないという、それらの医学書にある別の記述との整合性がとれないので、本wikiでは「相対的に弱い」という表現にした。
※ たぶん、昔の医学会のお偉いさん(どうせ欧米)が「副作用が無い!」とか断言しちゃって、そのあと、やっぱり副作用が分離できない事が発覚して、でも悪しき権威主義の慣習とかで、医学者たちが不整合を放置してるんだろう。製薬研究には、お金が掛かるので、論理的な整合性よりも権威が重要な業界。

脚注

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  1. ^ 『パートナー薬理学』、P118
  2. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P109
  3. ^ 『パートナー薬理学』、P118
  4. ^ 『はじめの一歩の薬理学』、P109
  5. ^ 『パートナー薬理学』、P118
  6. ^ 『シンプル薬理学』、P236
  7. ^ 『NEW薬理学』、P457
  8. ^ 『標準薬理学』、P576
  9. ^ 『標準薬理学』、P576
  10. ^ 『パートナー薬理学』,P380
  11. ^ 『標準薬理学』,P576
  12. ^ 『パートナー薬理学』、P119
  13. ^ 『NEW薬理学』、P458
  14. ^ 『標準薬理学』、P576
  15. ^ 『パートナー薬理学』、P119
  16. ^ 『パートナー薬理学』,P380
  17. ^ 『NEW薬理学』,P458
  18. ^ 『NEW薬理学』,P460
  19. ^ 『標準薬理学』,P577
  20. ^ 『パートナー薬理学』,P381
  21. ^ 『標準薬理学』,P577
  22. ^ 『パートナー薬理学』,P381
  23. ^ 『パートナー薬理学』,P381
  24. ^ 『NEW薬理学』,P460
  25. ^ 『標準薬理学』,P577
  26. ^ 『パートナー薬理学』,P381
  27. ^ 『NEW薬理学』,P460
  28. ^ 『標準薬理学』、P578
  29. ^ 『NEW薬理学』,P462
  30. ^ 『標準薬理学』、P578
  31. ^ 『NEW薬理学』,P462
  32. ^ 『NEW薬理学』,P462
  33. ^ 『標準薬理学』、P578
  34. ^ 『パートナー薬理学』,P381
  35. ^ 『NEW薬理学』,P463
  36. ^ 『標準薬理学』、P579
  37. ^ 『パートナー薬理学』,P120
  38. ^ 『パートナー薬理学』,P120
  39. ^ 『NEW薬理学』,P463
  40. ^ 『標準薬理学』、P579
  41. ^ 『パートナー薬理学』,P120
  42. ^ 『NEW薬理学』,P463
  43. ^ 『標準薬理学』、P579
  44. ^ 『パートナー薬理学』,P120
  45. ^ 『NEW薬理学』,P463
  46. ^ 『標準薬理学』、P579
  47. ^ 『NEW薬理学』,P463
  48. ^ 『標準薬理学』、P579
  49. ^ 『標準薬理学』、P579
  50. ^ 『NEW薬理学』,P463
  51. ^ 『標準薬理学』、P579
  52. ^ 『標準薬理学』、P579
  53. ^ 『パートナー薬理学』,P120
  54. ^ 『パートナー薬理学』、P377
  55. ^ 『パートナー薬理学』、P377
  56. ^ 『標準薬理学』、P581
  57. ^ 『シンプル薬理学』、P218
  58. ^ 『シンプル薬理学』、P218
  59. ^ 『標準薬理学』、P581
  60. ^ 『パートナー薬理学』、P377
  61. ^ 『標準薬理学』、P581
  62. ^ 『NEW薬理学』、P217
  63. ^ 『標準薬理学』、P581
  64. ^ 『NEW薬理学』、P464
  65. ^ 『標準薬理学』、P581
  66. ^ 『パートナー薬理学』、P377
  67. ^ 『パートナー薬理学』、P377
  68. ^ 『標準薬理学』、P581
  69. ^ 『NEW薬理学』、P217
  70. ^ 『標準薬理学』、P581
  71. ^ 『標準薬理学』、P581
  72. ^ 『NEW薬理学』、P217
  73. ^ 『標準薬理学』、P581
  74. ^ 『NEW薬理学』、P217
  75. ^ 『標準薬理学』、P581
  76. ^ 『標準薬理学』、P581