行刑にかかる争点
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ここでは行刑にかかる争点を解説する。
死刑廃止論
編集- 広義
- 死刑を廃止する主張すべて。
- 狭義
- (刑事学の領域)立法論的主張としての死刑廃止論
- (実体的デュープロセス)死刑を規定する法に対する違憲論
論拠
編集死刑廃止論の論拠としては、大きくわけて、「人道的見地」からのものと、刑事政策的見地からのものがある。
人道的見地
編集死刑は非人道的・非文化的で野蛮な刑罰との見解である。死刑廃止論の根幹の思想ではあるが、巷間の死刑存続論と表裏一体であり、感情論の域を出ないため、水掛け論になるきらいがある。
刑事政策的見地
編集死刑が犯罪抑止の観点から、払われる代償に対して効果が少ないとの観点から判断して死刑廃止を論ずるものであり、おおむね以下の論拠による。
- 誤判時に回復救済の途がない
- これは死刑廃止論最強の論拠といえ、存続論はこれを論破できておらず(論破とは、すなわち、誤審とわかったときに原状回復できる、つまり、人を生き返らせることができるということである)、そのリスクを負ってでも死刑が必要であると論ずるしかない。
- 被害者救済のためにも逆効果である
- 死刑があるために犯罪者が自暴自棄となり、かえって犯罪の度合いを増し、被害が拡大するとの言説。
- 犯罪者に対する威嚇力はない
- 死刑に犯罪を抑止する威嚇力があるというのであれば、死刑に相当する犯罪は発生しないはずであり、それが発生するのは死刑に威嚇力がないからだという言説。
- 国際刑事共助の観点
- 犯罪者引渡し条約に関して、死刑廃止国は死刑存置国との間に条約を締結することに抵抗を示す傾向があり、国外逃亡犯の捕捉が困難になる。
存続論
編集一方、死刑存続論も同様の見地から以下の反論を加えている。
感情的見地
編集人道的見地からの廃止論同様、最終的には水掛け論になるが、廃止に踏み切ろうとするには感情論を無視しておこなうことはできず、国民的なレベルで意識に変化がみられることが必須となる。
遺族の感情の尊重
編集もっとも感情論に訴える言説。最近では、「現行法は被害者の心情を無視している」との論調も強くなりつつあり、その立場からも一見首肯できる言説にみえるが、逆に、遺族がない場合にはこの遺族感情を想定し得ない。すなわち、親しい家族がいない人が殺された場合、その人の死を悲しむ遺族はおらず、尊重すべき遺族感情は存在しないこととなり、そのような事案については、量刑において、遺族がいる場合との差を生じさせることとなり、このことは、同一の犯罪の態様について被害者の立場が異なるゆえに刑罰が異なることを正面から認めたこととなり、これは憲法第14条に定める法の下の平等にもとる嫌いがある(被害者の身分のみによって刑罰が異なることが憲法の趣旨に反しうるとする判断については尊属殺法定刑違憲事件を参照)。そのため、論理的には一般化できる根拠といいがたい。
一般国民の感情の尊重
編集現時点において世論調査をおこなうとおおむね存続論が多数派となる。しかしながら、これは死刑制度の得失について真摯な議論としていないことが原因のひとつと考えられる。なぜならば、一般の国民にとって、たとえば、被害者の遺族であるとか、加害者の知己といった、当事者の問題として死刑を評価する立場となり、死刑制度について主体的な立場で考察することはごくまれであり、また、学校教育などにおいても生命倫理をきちんと取り上げることは少ないという事情からは多数の支持のみをもって存続すべきであるとする根拠に足りない。ただし、今後は裁判員制度の導入により、「裁く者」としての当事者意識が浸透するにつれ、死刑の存否について熟慮する機会は増加することは予想される。
刑事政策的見地
編集- 一般予防効果の大きさ
- 極刑は重大犯罪の拡大に寄与しているとの考え方。感覚的には理解でき、また、少年犯罪においては、「少年は死刑にならない(だから、凶悪犯罪を行っても恐れることはない)」ということが実行時に意識されることもあることから予防効果の存在を推定することもできるが、実証的なものであるかは国際比較も含めさらに議論が必要であろう。
自由刑統一論
編集日本法において自由刑は大きく懲役と禁錮にわかれるが、その違いは労役が強制か否かの違いである。受刑の基準として、懲役は道徳的に非難すべき罪いわゆる破廉恥罪に対するであり、禁錮はそうでない罪(非破廉恥罪)に対するものというのが基本的理念である。
しかしながら、破廉恥罪かそうでないかの線引きは明確とはいえず、一般に「懲役又は禁錮」とともに定められており(内乱罪には懲役はない)、いずれを選択するかは裁判官に委ねられている。傾向として、過失犯の初犯は禁錮刑を言い渡されることが多いが、この場合であっても執行猶予がつくのが通例であり、ことさらに禁錮刑である必然性は不明である。
このように、非破廉恥罪といった概念が曖昧である(犯罪であれば、非道徳的であり破廉恥であるとするのが理解しやすい)ことと、労役を課すことがあたかも不名誉なことであるとの考え方は労働を軽視するものであり、これらをわける実益はなく、禁錮刑を廃止し懲役刑のみにしようというのが自由刑統一論である。
「統一論」の登場から長期間放置されてきたきらいがあるが、2022年における刑法改正により、懲役刑と禁錮刑を廃止して一本化した「拘禁刑」が創設される見込みである。
短期自由刑廃止論
編集- 短期自由刑廃止論の目的
- 週末拘禁制度
- 社会奉仕制度
刑事施設廃止論
編集刑務所などの刑事施設は再犯者をふやすだけで更生に役だっていない、企業が労役を安価な労働力とみなして厳罰化をもとめている、刑事施設の存在が社会問題を安易に刑罰で解決しようという風潮を蔓延させているといった理由から究極的に刑事施設の廃止をめざす主張。アンジェラ・デイヴィスの『監獄ビジネス』など。
保安処分
編集- 定義と目的
- 刑罰との相違点
- 一元主義と二元主義
- 日本法における保安処分
ディクリミナリゼーション(非犯罪化)
編集- 目的
- 刑法の謙抑性
- ラベリング理論
- 代替措置
参考文献
編集- アンジェラ・デイヴィス 『監獄ビジネス…グローバリズムと産獄複合体』 岩波書店、2008年9月。ISBN 9784000224871