贛語の文法スタイルは、おおよそ、起始、進行、嘗試(しょうし)、持続、経歴、継続、重行、已然、完成といった九類に分けられる。

起始体

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事態の開始を表す。「述語+起來」の形式。この時の「起來」は趨向性(「赴く」の意味を表す)動詞ではなく、起始体の目印として、事態の開始を表すもの。例:恁些細伢子打起來了。

進行体

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進行を表す。進行体の最も明確な目印は、「在」の使用である。「在」は、

  1. 副詞句(二語以上からなる副詞として働く句)をつくれる:在+動詞
  2. 前置詞句をつくれる:在+(類)名詞+動詞

この両種の用法は、ともに進行体を表せる。例:佢在特試氣偶?/佢日日在外頭打儸。

否定文をつくるときは、「在」の前に「冇」をくわえる。例:佢冇在做事呃。

嘗試体

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試みることを表す。「嘗試」とは試みるの意である(嘗=試=こころみる)。「動詞A+動詞A+(目的語)+看」「動詞+一下+(目的語)+看」の形式であらわせる。助詞「看」は嘗試体の目印であり、文の最後におかれる。例:倷去問問佢看。/偶明日先獻一下血看。

持続体

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動作・行為の持続状態を表す。動詞の後に置かれる「到」「了」と、動詞の前に置かれる「緊」とが、持続体の目印である。動詞を重ねても持続をあらわせる。

  • 倒(到)  「倒」が持続を表現するときには、動詞の後に置かれる(動詞+倒)。標準中国語の助詞「著」にあたる。使用法はつぎのようである。
  1. 「動詞+倒+(目的語)」の形で用いると、命令文(命令・願望を表す)となる。このときの動詞は持続性動詞を用いる:「蹲、徛、挨、揇、扶、灒、毃」等。この類の動詞の動作は瞬間内に完成し、続けて持続状態を保持する。持続体が用いるのは全てこの類の動詞である。例:倷跟偶揞倒箇個。否定文は、動詞の前に「嫑」を置く。例:嫑拿倒手上,擱到箇裏。
  2. 「動詞+倒+(目的語)+動詞+(目的語)」の形式。「動詞+倒」は後の動作の方式・手段にあたる。用いる動詞は持続性動詞である。例:佢急倒捇腳。動詞の前に「不」を加えることで、緊縮した文にできる。例:霸倒茅廁不屙屎。

倒と到の相違

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上述の構造中の「倒」の同音語に「到」がある。「到」は動詞でもあり、補語もつくれ、標準中国語の「到」に相当する。「倒」の直後には「了」を置けず、直前には「得」「不」は置けないが、「到」はそれが可能である。

  • 了  「了」は存現文(存在・出現・消失を表す文)において用い、完成と持続を兼ねて表せる。
  1. 述語動詞が非持続動詞の場合は、「了」は動作の完成のみを表せ、持続は同時には表せない。このときの「了」は終わりにつける。例:日頭總算出來了。
  2. 述語動詞が持続動詞の場合は、持続のみを表せる。例:門口坐了隻討飯嘅。

否定文は、「動詞+了」の部分を、「冇+動詞」に改めたものになる。例:屋裏冇有電。

  • 緊  「緊」は動詞の前におき、持続を表せる。動詞は持続動詞あるいは非持続動詞を用いられる。例:咁晏了還緊話些冇有油鹽嘅詑。「緊+動詞」も重ねることで持続を表せるが、不満の色彩を帯びる。例:佢還在緊話緊話,冇有咭做呃!
  • 動詞重複  「動詞A+動詞A+動詞A+動詞A」あるいは「動詞A+啊A+動詞A+動詞A」の構造をとる。ある動作が持続過程中に他の情況を出現させたことを表す。二種の構造の後ろから数えて一つ目、二つ目の動詞の間には、少し停頓がある。例:偶等等等‐等得睏著了。/佢跑啊跑‐跑得搭了一跤。

経歴体

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経過・経験を表す。

  1. 常用の構造は「動詞+過」である。例:佢早先做過什哩呃? 否定文は、「冇動詞+過」。例:倷還冇跟人挭過仗嘎?
  2. 時として、偏正構造(修飾語と被修飾語がある構造)にすべきことがある。「動詞+過+了+嘅+動詞」。「過」が経過を表し、「了」は完成を表している。「過」か「了」のどちらか一つを省いても、文は通るが、意味はやや異なる。例:倷話過了嘅話要著數。

継続体

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「述語+下去」の形式。事態の継続を表す。起始体の「起來」と同様、この時の「下去」も趨向性動詞ではなく、この体の目印であり、事態の継続を表す。例:天就咁冷下來了呃。

重行体

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「動詞+過」の構造。重複してすでに発生した動作を表す。副詞「再」あるいは「又」と組み合わせることができる。例:話錯了話過。 /偶再話過一遍給倷聽。(もし過去の動作を描述するなら、この構造では「了」を加える必要がある)。否定文は、二種類ある。第一、過去の時に属す”重行”は、動詞の前に「冇」を加え、第二、それ以外の場合は、「嫑」を加える。例:佢昨日夜裏冇弄過飯,嘎就拿偶第日當晝嘅飯喫掉了。/東西箇靚,嫑買過了。

已然体

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事態が、すでに出現変化したこと、あるいは、出現変化しようとしていること、を表す。文尾に「呃」あるいは「了」を加えることで、表される。

  • 「呃」  語気助詞として、聴き手に対する、すでに変化した後の新しい事物への注意喚起の働きをもつ。従って、已然(あるものがすでに起こって過去のものになったこと)を表す。例:天在落雨呃。
  • 「了」  文を述語で結ぶ場合には、「了」を用いて已然を表す必要がある。例:嘎今丫佢算系解放了。

完成体

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動作行為がある参照時間の前にすでに完成しているのを表す。完成体の表現には、述語動詞の後に「了」または「撇」を加える必要がある。

  • 了  述語動詞後の「了」には四種の用法がある。
  1. 助詞。文中に用いる。この用法の「了」が、完成体の「了」である。このときは[liɛu]の軽声でよむ。例:喫了飯。以下は別の用法である。
  2. 結果補語(直前の動詞の結果を表すフレーズ)を作る。「完成」を意味する。[liɛu]と発音する。例:還冇喫了。例:喫不了。
  3. 助詞。存現文(存在・出現・消失を表す文)で用い、完成と持続を兼ね表す。
  4. 語気詞。述語で終る文の末尾で用い、完成と已然を兼ね表す。このときは軽声。例:佢舊年食了豬。/偶撻了佢一巴掌。

動詞と「了」との間には、さらに補語をはさむもできる。例:恁些錢佢算係掟掉了。

「了」はさらに連動文(動詞句が連続して用いられる文)中にも用いられる。二つの動作が先と後の関係にあることを表す。例:倷都咁話了還不接倒做下去啊!

「動詞+了」の否定文は、「冇+動詞」である。例:佢箇隻月嘅工資冇拿到。

  • 撇  二種の用法がある。
  1. 完成体で使われるときの目印は、「撇」の動詞機能の弱化である。軽声でよむ。例:等撇咁久,白等了。
  2. 別の用法としては、補語を作るものがある。標準中国語の「掉」と対応する。発音[pɨt]。例:喫撇箇碗飯。/拆撇舊屋。連動文中で、第一番目の動詞の後に置かれ、完成を表す。