本章では戦争哲学、国際関係学、軍事史学の内容に簡単に触れ、以後の学習の導入とする。

戦争の本質

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近世の軍事学者クラウゼヴィッツ。彼の著作『戦争論』の完成度の高さは現代の軍事学者を刺激している。

戦争(英:War)は一般的には武力を行使する行為、またはそれによって引き起こされる状態であると考えられている。その哲学的な本質については戦争哲学が取り組んでいるが、その最終的な答えはまだ出ていない。その理由は戦争というものが、人間の営みの中でも特に複雑であり、その様相も一定ではないからである。ある人類の黎明期や中世欧州などの時代では戦争は一種の政治的な儀式としてさえ成立していたが、近代以降では武力戦は非常に強力な兵器を使用して行われるようになり、情報技術の発達から指揮統制戦や電子戦などの情報戦が生まれた。さらに国家の経済力を総動員して兵器を生産し、科学技術は威力を向上させるだけでなく兵器システムをより一層複雑化した。しかしどのように戦争の形態が大規模化や複雑化を遂げたとしたとしても、戦争は軍事力を用いた単なる殺人や破壊行為ではない。すなわち近世の軍事学者であったクラウゼヴィッツが「戦争とは政治とは異なる手段を以って行う政治の継続である」と述べているように、政治的な行為の延長上にあるものと考えられる。つまり戦争も軍事力も国家政策の延長上にあるものであり、一見極めて非理性的な行為に見えてもその実体は非常に政治的な判断に基づいた行為であると言えるのだ。とはいえ、戦争は政治の破綻だと見る論者もおり、戦争の本質を見極めるためにはより本質的な議論が求められている。

戦争の原因

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第二次世界大戦でのノルマンディー上陸作戦。同大戦は人類史上最大規模の戦争であった。

戦争は困難な状況であるが、それでも人類が歴史において何度も繰り返してきたことには理由があると考えられている。その理由は大きく本能説と条件説に分けられる。本能説とはつまり人間の本能的な性質などが戦争の原因にあると考える立場である。これはつまりダーウィンの適者生存のために闘争が必要であるという考え方である。条件説は人間の社会的な条件が戦争の原因だと考える立場である。これには人口移動、宗教対立、軍拡競争、民族独立、領土争奪、国家威信など多彩かつ複雑な条件が挙げられる。また国際関係学では勢力均衡という理論がある。これは国家が持つ勢力の優劣から国際関係を観察する理論であり、ネオリアリズム論、また単にリアリズム論とも呼ばれる。例えば第一次世界大戦は民族主義的なセルビア人がオーストリア・ハンガリー帝国皇太子夫妻を狙撃暗殺したサラエヴォ事件がきっかけになって勃発したが、その原因にはオーストリア・ハンガリー帝国内部の民族独立の動きや国家威信だけでなく、英独の長期的な政治対立と軍拡競争、諸外国の民族独立の問題、多重的な軍事同盟などがあった。しかし本質的な戦争の原因としては哲学的、歴史学的、統計学的な考察が行われており最終的な結論は出ていない。

戦争の歴史

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戦争の歴史の起源は明らかではなく、また戦争史は時代区分を行うことは容易ではない。フランス軍事史学者カステランは戦争史を人類黎明期の戦争、部族社会の戦争、地域国家時代の戦争、都市国家時代の戦争、古代帝国時代の戦争、中世の戦争、宗教戦争や植民地戦争などの前期近代の戦争、第一次・第二次世界大戦などの後期近代の戦争に分類しており、これに現代の戦争として冷戦を加えることが出来るだろう。戦争の様相は国際情勢、人間社会、軍事技術などの変化によって移り変わってきた。

演習問題

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  1. あなたが知っている歴史上の戦争を一つ挙げて、その政治的な目的を説明せよ。
  2. 戦争の原因として考えられるものを一つ挙げて、実際にその原因が関係した戦争を一つ述べよ。