軍事学は戦争についての全般的な事柄、すなわち軍事を研究する学問である。

その意義は戦争が国民の生存と国家の存亡に関する重大な事件であるからであることに他ならない。戦争を忌避して平和を希求することは世界の永遠の願いである。しかしながら有史以来に世界史に記録されている戦争が1万5千回以上であると推定され、また第二次世界大戦から1990年までの現代においても150回以上の戦争が勃発し、全世界が平和になったのは3週間だけであったことという事実を忘れてはならない。すなわち「平和が常態であり、戦争は異常である」という考え方は必ずしも正しくないのであり、ここに戦争についての認識をより深める必要性が認められるのだ。そしてこれは古代ローマの軍事学者ヴェゲティウスが「平和を欲するならば戦争を学べ」と言い残しているように理性的な平和主義の精神にも通じるものである。

さらに国家を指導する場合からも、国際関係における様々な軍事的な問題や軍事的な合理性を理解することは、平時において外敵に対しては自国民の生命と財産を破壊や略奪から守る安全保障政策を効率的に遂行する上で不可欠であり、また戦時においても戦争指導を行うための手段を得るために極めて重要であると考えられる。これは古代中国の軍事学者孫子が「兵は国家の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからずなり」と述べ、また近世プロシアの軍事学者クラウゼヴィッツが「戦争とは政治とは異なる手段を以てする政治の継続」という命題でも述べている通りであって、戦争は国家の存亡を左右する重大事件であり、また戦争の本質は政治にあり、ゆえに戦争の勝敗の責任は一概に軍人だけでなく、国家指導者である政治家にも存在するからである。

軍事学には戦争哲学と軍事科学に大きくその内容が二分しており、概ね軍事科学を軍事学と呼称する。そして軍事科学はさらに自然科学的な領域と社会科学的な領域に大別される。自然科学に関連する軍事研究の領域は主に軍事地理や軍事技術に関する領域であり、軍事工学や作戦研究、軍事地理学などが挙げられる。社会科学的に関連する軍事研究の領域としては、安全保障学や戦略学、戦術学などが挙げられる。