回路方程式と微分作用素

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まず回路方程式を微分方程式で表すと、

 

である。

なお、上記の式での電流i(t)および電圧v(t)は実数関数である。たとえばi=Imsin(ωt)のような表記とする。複素数表記ではない。(もし電流を「jω」などの複素数表記にしてしまうと、そもそも微分したら0になってしまうし、また、それらにRを掛けたりする事は物理的に意味を持たない。また、exp(iωt)のような複素関数の表記にしてしまうと、それらに抵抗Rを掛けたりすることの物理的な意味付けが分かりづらいし、微分方程式がややこしくなってしまう。)


さて便宜上、本書では微分作用素Dを用いて記述を簡単化しよう。(数学の微分方程式の専門書を読めば、書いてある。大学2年レベルの知識。)

 

と定義する。 また、任意の関数f(t)に対し、

 

と定義する。

下記の式は、積分の項がやや不正確だが、

 

と便宜上、本書では書くとしよう。

回路方程式は、数学的な書き換えにより、

 

と書き換える事ができる。

ここで、本書では、

 

と定義しよう。便宜上、本書ではZd(D)を「インピーダンス微分作用素」と呼ぶことにする。(正式な名前は知らない。)

なお、添字(そえじ)の小文字dは、似たような形の関数が後で出てくるので、それと区別するために添字をつけてた。

ともかく回路方程式は、

 

と書き換える事ができる。

周期波の場合

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パルス波など、そのままでは演算子   では微分積分できない波形は、もし無限につづく周期パルス波なら、波形をフーリエ級数に変換してから、演算子  で微分積分をすればよい。

フーリエ級数とは、高校物理で習う「うなり」のようなもの。 三角波でも方形波でも、どんな周期波形なら、

A1・sinωt + A2・sin2ωt + A3・sin3ωt + ・・・

のように、角速度ωの整数倍の周波数の正弦波の和であらわせる。ただし、周期波形であることが必要。 ギザギザした波形ほど、必要な角速度の整数倍が多くなる。

非周期波の場合

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導入

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非周期波の入力の電気回路の問題を解く場合でも、回路方程式の微分方程式にもとづいて解くのが確実である。入力波形が非周期であろうが、物理法則は不変なので、

 

という物理法則が成り立つ。

以降、さまざまな式変形が出てくるが、最終的に解こうとしているのは、上記の回路方程式の微分方程式である。なので、非周期波の回路方程式の問題で、さまざまな式変形をするとき、まず上記の回路方程式を基準の公式として扱う。

非周期の関数でも、原点から離れるにしたがって急激に小さくなっていく関数なら、この原点付近だけが大きい関数をギザギザした波形と見立てて、フーリエ級数のようなものが使える。 ただし、角速度ωが無限小に小さくなる。このためフーリエ変換の定義式は、積分であらわすことになる。

ある関数y(t)をフーリエ変換したものをY(ω)とすると、フーリエ変換の定義式は、

 

となる。逆変換は

 

となる。


もし、有限個のパルス波なら、無限遠では値がゼロなので、原点から離れるにしたがって急激に小さくなっていく関数とみなせるので、この有限個パルス波を、フーリエ変換 F およびフーリエ逆変換 F-1 を用いて表現することができる。

フーリエ変換して得られる関数 Y(ω)(「スペクトル」という)は、各々の角速度の振幅の大きさである。 つまり、フーリエ級数 A1・sinωt + A2・sin2ωt + A3・sin3ωt + ・・・ (説明の簡単化のため、sin成分だけをあらわした。実際にはcos成分もある。)でいうところの、A1、A2、A3、・・・にあたる値の大きさが、フーリエ変換でスペクトルとして得られただけである。なので、スペクトルは、角速度ωを変数とする関数である。

スペクトルだけでは、まだ周期関数になっていないので、振幅に三角関数 sinωt、sin2ωt、・・・のようなものを掛け合わせて、 A1・sinωt + A2・sin2ωt + A3・sin3ωt + ・・・のような周期関数の表記として、元の関数を復元する必要がある。 このスペクトルの振幅(A1、A2、A3、・・)に、三角関数を掛け合わせる作業が、フーリエ逆変換である。逆変換して、元の関数に戻る。

以下の演算子(作用素)を計算できるようにしたい関数に施す。なお、ここでいう「作用素」とは、数学の定義の通りの「関数から関数への写像」のことである。

 

左辺については、フーリエ変換した物をフーリエ変換すれば元にもどるので、

 

なのである。


導関数のフーリエ変換

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さて、回路方程式   は、時間tで微分している式である。

フーリエ変換のさまざまな公式の中には、導関数のフーリエ変換の公式があるので、その公式を適用すればよい。この導関数のフーリエ変換は、部分積分の公式を利用している。

では、導関数のフーリエ変換の公式を導こう。まず、

 

という式が元になる。

さらに仮定より、無限遠では値がゼロな関数を扱ってるので(周波数の絶対値の無限大の場合に、その強さは0という仮定は、物理的にも妥当な仮定であろう)、

 

となるので、

 

となり、結果的に微分を jω に置き換えることができ、また積分を -1/jω に置き換えることができる。

よって

 

となり、なんとフーリエ変換と微分の順序が交換できる。ただし、交換すると、d/dt が jω に変化する。 導関数のフーリエ変換の公式とは、じつはフーリエ変換と時間微分との順序の交換方法を示す公式なのである。

回路方程式のフーリエ変換

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さて   とすれば、

  のフーリエ変換は、上述の証明により、

 

である。

この調子で、もとの回路方程式をフーリエ変換してみると、

 
 

となる。


よって

 

つまり

  

最終的にv(t)やi(t)を求めたいので、上式のV(ω)やI(ω)をフーリエ逆変換すればよい。 v(t)を求める場合、

 

となる。

これは結局、「記号法とほぼ同様の計算方法を、非周期波形の電流波形(または電圧波形)にも、適用できる」という事が、証明されたに過ぎない。記号法については単元『電気回路理論/インピーダンス』を参考にせよ。


また、周波数ごとのインピーダンスを

 

と定義すると、上述の   の計算結果を代入することで、

 

という計算結果になる。

このZ(ω)の結果は、冒頭で定義した「インピーダンス微分作用素」Zd(D)に、D=jω を代入した結果になっている。 つまり、微分演算を、単なる定数の掛け算に変換した結果になっている。


なお、インピーダンスが複素数で表記されている事に注目。もともとi(t)やv(t)は実数関数であった。(本ページでの冒頭でも、そう仮定している。)



結論

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結局、フーリエ変換作用素 F と、微分作用素 D の順序を交換した際、微分作用素の微分演算子Dが、定数jωに入れ替わったのである。


さて、最終的に求めたいのはv(t)であった。

 

に、Z(ω)を代入すれば、

 

この式は、数学的に言うと、いわゆる「解の線形性」を主張している。あるいは、電気回路論でいう「重ねあわせの理」のことである。電流 i(t) を、周波数ごとに分解して( I(ω) )、周波数ごとに個別に回路方程式を解いて( Z(ω)I(ω) )、それらを重ね合わせても( F-1[Z(ω)I(ω)] ) 、電圧 v(t)と同じ結果になる、ということを主張している。

その「解の重ねあわせ」を、フーリエ逆変換で行っている。一方、フーリエ変換とは、周波数ごとに関数を分解する作業である。


固有関数と固有値

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ところで、微分作用素 について、   となる関数fのことを、微分作用素の固有関数という。(線形代数でいう「固有ベクトル」に対応する。)

また、係数λのことを固有値という。

たとえば、  から分かるように、微分作用素   の固有関数は指数関数である。また、微分作用素の固有値は、その固有関数の指数関数の変数についている係数(例の場合はaに相当)である。


微分作用素にかぎらず、ある作用素Pに対して、   となる関数fのことを、その作用素の固有関数という。

さて、われわれは上述のフーリエ変換作用素とインピーダンス微分作用素の順序交換の考察により、結局、「フーリエ変換作用素とインピーダンス微分作用素」という合成的な作用素の固有値を求めたことになる。

「解の線経性」と「重ねあわせの法則」

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なお、回路方程式に限らず、そもそも定数だけを係数とする微分方程式では、解の線形性が成り立つ。なので、あらためて考えてみれば、導関数のフーリエ変換とフーリエ逆変換の理論でも、同様に線形性が成り立つのは当然である。回路方程式の微分方程式も、定数係数の微分方程式であるので、回路方程式のフーリエ変換でも線形性が成り立つ。


数学的な式変形しか用いてないことに注目。最初の回路方程式の立式を除けば、いっさい物理的な法則を用いていない。

なお、

 

は、

 

とも書ける。これをフーリエ変換作用素、インピーダンス、フーリエ逆変換作用素をまとめて

 

と書いてみると、共役な形に作用素をまとめられる。


もとの回路方程式   と、さきほどの   の作用素部分を照らし合わせれば、つまり

 

である。

非周期波における「ギブスの現象」

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そもそもフーリエ級数やフーリエ変換をなんのために使うのかと言えば、方形波や三角波などのギザギザした波は、そのまま微分してしまうと、∞(または ー∞ )になってしまい、答えが発散してしまう。

しかし、電気回路では物理的に、そんな現象は存在しないのが実験的事実である。たとえ大電流が発生したとしても、∞の電流ではない。(そもそも元の波形ですら、完全にパルス的な形状の波形は、存在しないかもしれない。)

ところで、いくつもの三角関数(角速度はそれぞれ異なる)を合成することで、ギザギザした波に近似できるという数学的事実があり、それがフーリエ解析において「ギブスの現象」などと言われる、フーリエ解析学の基礎知識である。

そして、三角関数の近似による方法では、たとえば周期波形の級数近似の場合なら、近似を有限項までに制限しても、そこそこギザギザに近い形になる。しかも、有限項で近似を終えているので、級数を足しあわえたところで、なにも発散しない。

ならば、物理数学においては、この有限項近似こそが、重要である。

そして、非周期波形の場合は、フーリエ変換の適用範囲になるが、(級数的な)有限項による近似のかわりに、有限の積分範囲による近似で、そこそこ元のギザギザ非周期波に近い形状になるだろう、・・・という事である。

それが、フーリエ変換における「ギブスの現象」であろう。

さて、先ほどの

 

の式を、「ギブスの現象」にもとづいて考察してみる。

電気回路にかぎらず、そもそも発散してしまうギザギザ関数を、周期関数だろうが非周期関数だろうが、三角関数などで有限近似するのが、フーリエ解析のアイデアであった。

ならば、 別に回路方程式にかぎらず、ギザギザした関数の微分に、本書で上述した導出計算が適用できるだろう。だとすると、そもそも微分作用素 D そのものに対して、

 

という仮説が、古典物理的な非周期関数に適用するという条件つきだが、物理数学において成り立つのではないだろうか?

これは、なんと、時間微分の作用素D(=d/dt)を、因数分解した形になっている。微分作用素Dを、フーリエ変換とフーリエ逆変換およびフーリエ変換に固有な固有値 jω を用いて因数分解した形になっている。(説明の簡単化のため、線形代数などでも聞く「固有値」という用語を使った。言葉の響き(ひびき)からは、あたかも定数っぽい印象を受けるかもしれないが、もちろん jω は変数である。)

「作用素Dの因数分解」と言うと難しそうだが、よくよく考えてみると、単にギブスの現象を言い換えてみたに過ぎない。

また、式   も、よくよく考えてみると、導関数のフーリエ変換の公式を、共役(きょうやく)っぽい形で言い換えたに過ぎない。

そして、導関数のフーリエ変換の公式だけにもとづいて我々は、数学的に変形のみによって、

 

の公式を得たのであった。

いっぽう、: と比べることで、

 

とも書ける。

上式の第2項と第3項を比べれば、

 

である。

結局、   が導かれる。

これは、節『「解の線形性」と「重ねあわせの法則」』で結論した公式と同じである。

結局、「ギブスの現象」と、このようなギザギザ関数でも「解の線形性」が成り立つという仮定さえ満たせば(この仮定の検証が、物理的な意味を吟味したさいに、既に行われてる場合が多いだろう)、そこからは数学的に必然的・自動的に(もはや物理的な意味を無視しても良い)、次の公式

 

が成り立つ。


さらに、作用素の形を任意の作用素関数  にしたところで(nは有限の整数値とする)、

本書での作用素Dの因数分解と同様の導出が、本書で上述した諸計算の技法により証明できるので、

 

である。

ただし、関数 g(ω)とは、関数gd(D)にD=jωを代入した関数である。


結局、これは、有限回数の微分をされた導関数をフーリエ変換した場合の公式

 

を、フーリエ変換バージョンの「ギブスの現象」にもとづいて言い換えたに過ぎない。

つまり、有限回の微分をした導関数のフーリエ変換の公式は、そもそも、

 

を意味している。

線形代数との関係性

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いくつか前の節で、「固有ベクトル」や「固有値」という、線形代数学の用語を紹介した。

しかし、回路方程式を解くだけで行列を持ち出すのは、物理学的な方程式の解析では不便であろう。(例外として数値計算を除く。)

高校物理での、入力波形が正弦波の場合でのRLC交流回路計算でも、いちいち行列を持ちださなかった。 もしかしたら、n次正方行列あたりを利用しても、(高校物理のような)正弦波入力に対して、出力波形を数値計算できるのかもしれない。だが、高校レベルの微分積分で簡単に解ける計算をするだけの場合に、いちいち n次正方行列を持ち出すのは煩雑であり、非実用的であろう。

しかし、ギザギザした入力波形の場合に(高校物理の場合と違い、入力波形が正弦波的ではない場合)、コンピューターなどで出力波形を数値計算をしたい目的の場合なら、行列の書式に変形する事は有効かもしれない。

「フーリエ変換が行列と対応づけられる」などと主張する学説は、昔からあるし、発展的な教科書でも説明される場合もある。昔から、数学に、フーリエ変換を、行列の固有値分解の計算法と類似している事を根拠に、対応づける論法がある。

しかし本書では、単なる「対応付け」としてフーリエ変換と行列の関係を説明しているのではなく、そもそもフーリエ変換を数値計算で近似するさいは、必然的に、行列と同等の計算をしないといけない、・・・と主張しているのである。

なお、フーリエ変換の差分化は「離散フーリエ変換」という理論として既に存在している。しかし本書では、離散フーリエにもとづいて導出するのではなく、いったん、もともとのフーリエ変換の導出法に立ち返って計算するほうが理論的に見通しが良い、・・・と主張するのである。

その場合の計算方法も、線形代数の専門書にある、固有値の理論や、線形代数の教科書で、固有値の紹介の後あたりの節に書かれているだろう「行列の対角化」などの単元を参考に、出力波形の関数をベクトルに置き換えて数値計算すれば済む。


そもそも「ギブスの現象」は、フーリエ級数展開を有限項で終わらせても、実用的に充分に近似できる、・・・という事を主張であった。

ならば、行列で数値計算によって出力波形を求める場合でも、行列次数(n)を有限の次数で終わらせても、充分に実用的な出力波形を計算できる。

つまり、数値計算において、わざわざ無限次元のベクトル空間(「ヒルベルト空間」という)を考える必要はない。

逆に言うと、関数解析学などの専門用語にある「ヒルベルト空間」というのは、単にフーリエ級数展開やテイラー展開などの級数展開をした際に無限項の展開を、単に線形代数の記法で言い換えたに過ぎない。

そして、テイラー展開を有限項の展開で終えても、数値計算の実用では充分な近似が出るのと同様に、フーリエ級数展開でも有限項で終えても充分に実用的な近似ができる、・・・ということを「ギブスの現象」は主張しているの過ぎない。

結局、解析学の理論的には「ヒルベルト空間」の概念が必要だが、実用的には大学教養課程の線形代数のように有限次数n行列および有限次数nベクトルに置き換えても、充分に実用的な近似ができる。関数解析学の専門書などで「ヒルベルト空間」の理論があるが、そういう近似の理論的根拠を主張しているだけに過ぎない。

また、入力関数や積分演算を、どのように行列またはベクトルに置き換えるかの問題にしても、『フーリエ解析』の市販の教科書を読めば、フーリエ変換の積分を導出する直前の、極限を取る直前段階でのΣ計算の式が書いてあるので、その式を参考に、行列やベクトルの内積などに置き換えれば済む。

(※ しかし、wikibooks著者の手元にフーリエ解析の教科書がないので、導出計算は省略する。)

計測機器などに「周波数分析器」などの装置があるが、デジタル式の場合、おそらく仕組みは、上述のような数値計算をしているのだろう。

本書では、単に周波数に分解するだけでなく、さらに、分解後の周波数関数に微分作用素を適用している。

これは、周波数フィルタに過ぎない。

つまり、ある物理的な入力波形について、周波数フィルタを適用した出力結果を計算で予想したい場合に、

周波数分解して得られる何個もの関数に(※ ここまで、フーリエ変換に相当)、それぞれ周波数フィルタを適用した結果を独立に求めて(微分作用素の適用)、
あとから足し合わせても良い。(解の線形性。あるいは「重ねあわせの理」)

・・・という事を主張している。

そして、本節での線形代数近似の理論により、このような周波数フィルタの適用結果を数値計算したい場合でも、フーリエ級数展開を有限項で終えても良い(あるいは、フーリエ変換の類似の積分計算を数値計算的に求めても良い)、・・・という事を主張している。


「フーリエ変換の類似の積分計算を数値計算的に求め」る事は、一見すると難しそうだが、じつは積分の数値計算とは、単なる、足し算の繰り返しである。

しかも、フーリエ変換の適用前提の仮定により、∞ちかくでは0になる入力波形を扱うわけであるので、つまり積分区間は、有限範囲にしても、近似できる。つまり、定積分をするだけである。

定積分を、数値計算に置き換えれば、たんなる高校数学の「数列」単元のようなΣ(シグマ)の計算である。

結局、数値計算では、フーリエ変換の積分演算を、類似の和分(わぶん)演算に置き換えるだけである。

フーリエ変換積分を和分作用素   に置き換え、フーリエ逆変換積分   も和分作用素に置き換えよう。

なお、積分を和分に置き換えたのに対応させ、微分作用素 D のほうも、差分(さぶん)作用素に置き換えよう。

差分(さぶん)作用素(記号は ⊿ で表すとする)とは、一般に、ある関数 f に対して、

 

という関数へと対応させる作用素である。

要するに、差分作用素とは、微分の定義式から、極限を省いただけである。もちろん、差分間隔hは、目的に対して充分に小さい値に設定する必要がある。(hが充分に細かくないと、「ギブスの現象」の要件を満たさないだろう。)

  のかわりに、

 

という近似式が成り立つだろう。

また、   のかわりに、

 

という近似式が、成り立つだろう。


一般に、微分方程式や積分方程式の解析的な厳密解を求めるのは、とても困難であり、場合によっては厳密解が不明であったり存在しないかもしれない場合もある。

しかし、差分方程式や積分方程式は、有限項の計算で終わるので、かならず計算結果が存在する。厳密解の存在の有無について、悩まなくても済む。

結局、上述のここまでの考察は、フーリエ積分を数値計算するさいの手順を示している事になるだろう。


さて、「これは、周波数フィルタに過ぎない。」と幾つか前の段落で述べたが、「周波数フィルタ」といえば、われわれが使っているパソコンでも、jpeg画像やmp3音声などの圧縮技術でも、周波数フィルタが用いられている。なぜなら、高校の「情報」科目または、大学の「コンピュータリテラシー」あたりの授業で習ったように、jpegやmp3の(不可逆)圧縮技術では、人間の視覚や聴覚では感じ取りにくい周波数成分を除去することで、情報量を節約している。これこそが、jpegやmp3の不可逆圧縮の原理である。

そして、jpegやmp3の圧縮技術の利用者である我々は(つまり、単にjpeg画像を鑑賞したりmp3音楽を鑑賞したりしているだけの普通の利用者は)、いくつかの周波数成分を除去された結果の出力を、本物そっくりに感じているわけである。

「ギブスの現象」は、ギブス自身の意図はともかく(そもそもウィラード・ギブズの存命中の1839年 - 1903年のあいだ、コンピュータはまだ無い)、jpegやmp3のような周波数除去フィルタ方式の圧縮技術に、数学的な正当性を与えているわけである。

jpeg画像の圧縮率が高すぎると、画像がボヤケて見える場合があるが、これは、級数展開の項数が、まだまだ足りない場合に相当する。級数展開の項数が足りなければ、「ギブスの現象」の前提条件に当てはまらない。

級数展開の近似のための項数が足りるか足りないかの判断は、その関数をどの程度まで近似したいかという要求基準の度合いによって異なり、人間たちの都合によって決まるので、数学的には一律には判断基準を定義できない。

なので、線形代数的に数値計算したい場合に、入出力の波形をベクトルで近似する場合にも、「ベクトルおよび行列の次数nを、どの程度まで大きい正整数にするか?」の次数nの大きさの要求基準は、人間たちの都合によって決まるので、数学的には一律には判断基準を定義できない。