食と掩蔽
食(しょく)は、天文学において天体が別の天体によって影に入る事を言います。また、天体が別の天体によって隠さる現象を掩蔽(えんぺい)と言います。よく知られているのは日食や月食で、日常でも耳にすることが多いです。本項目では、天文学における「食」と「掩蔽」について詳しく解説します。なお、厳密には「日食」は「掩蔽」に分類されますが、慣用的に「日食」という語が広く使われています。
日食
編集太陽が月によって隠される現象を日食(にっしょく)といいます。日食には以下の3種類があります。
- 一部だけ隠れる部分日食(ぶぶんにっしょく)
- 完全に隠れる皆既日食(かいきにっしょく)
- 月が太陽より小さく見えるときに、月が太陽を完全に覆い輪のように見える金環日食(きんかんにっしょく)
日食は、太陽と月の大きさや地球との距離によって生じる珍しい現象です。通常、天体の距離と大きさの比が一致しないため、このような現象は見られませんが、偶然にも太陽-地球間の距離と月-地球間の距離の比率、および太陽と月の大きさの比率がほぼ等しいために日食が発生します。具体的には、太陽地球間の距離dS、月地球間の距離dM、太陽半径RS、月半径RMの関係は次の通りです。
特に皆既日食では、月のクレーターにより一部の太陽光が漏れ、宝石のように輝く現象が見られることがあります。これをダイヤモンドリングといいます。
月食
編集月が地球の影に入ることによって生じる現象を月食(げっしょく)といいます。月食には以下の2種類があります。
- 部分的に隠れる部分月食(ぶぶんげっしょく)
- 完全に隠れる皆既月食(かいきげっしょく)
月食の際、特に皆既月食では月が赤く見えることがあります。これは、太陽光が地球の大気を通過する際に短波長の光(紫に近い光)が散乱され、長波長の赤い光が月に到達するためです。
食と掩蔽の厳密な分類
編集「食」は、天体が別の天体によって隠される現象を指しますが、厳密には影によるもののみを「食」と呼びます。そのため、月食は「食」に該当しますが、日食は月が太陽を直接隠す現象であり、影に入るものではないため、本来は「食」ではありません。しかし、慣用的に「日食」と呼ばれています。
一方で、天体が別の天体を隠す現象は掩蔽(えんぺい)と呼ばれ、天体Aが天体Bを隠す場合「AによるBの掩蔽」と表現されます。例えば、月が金星を隠す場合、「月による金星の掩蔽」といいます。このような現象は、特に惑星が隠される場合には惑星食(わくせいしょく)または星食(せいしょく)とも呼ばれます。
日食は皆既日食の場合に掩蔽に該当します。部分日食や金環日食のように天体が一部だけ隠される現象は、通過と呼ばれます。特に太陽の前を別の天体が通過する現象は太陽面通過として知られています。
様々な天体の食と掩蔽
編集食や掩蔽の現象は、地球から見える太陽や月だけでなく、他の天体でも見られます。天体同士の位置関係によって、さまざまな種類の食や掩蔽が観測されます。
惑星食
編集惑星が他の天体によって隠される現象を惑星食(わくせいしょく)といいます。多くの場合、月が惑星を隠す現象が観測されます。たとえば、月による木星の掩蔽(月が木星を隠す現象)が挙げられます。惑星食は比較的まれで、肉眼で観測できることは少ないため、望遠鏡を使うことが一般的です。
恒星食
編集恒星(星)が別の天体によって隠される現象を恒星食(こうせいしょく)と呼びます。恒星食も掩蔽の一種で、月や惑星が恒星の前を横切って、星が一時的に見えなくなる現象です。月による恒星の掩蔽は、星食(せいしょく)とも呼ばれ、天文学者によって位置精度の高い観測が行われています。
木星や土星の衛星食
編集巨大ガス惑星である木星や土星には多くの衛星があり、これらの衛星同士や、惑星本体に隠されることがあります。これを衛星食(えいせいしょく)といいます。特に木星では、衛星が木星の影に入ることで食が頻繁に発生し、地球から観測することが可能です。
また、土星の衛星も土星やその環の影響で隠されることがあります。これらの現象は、天体力学の理解に役立つため、観測されることが多いです。
小惑星による掩蔽
編集小惑星が背景にある恒星を隠す現象を小惑星掩蔽(しょうわくせいえんぺい)と呼びます。この現象は非常にまれであり、精密な観測機器を使わないと検出が難しいですが、これにより小惑星の形状や大きさ、さらには衛星の存在が判明することもあります。
木星・土星による掩蔽
編集木星や土星のような巨大な惑星は、他の惑星や恒星を掩蔽することがあります。これを木星掩蔽、土星掩蔽と呼び、特に木星や土星の環境や大気の観測が行われる際に重要なデータをもたらします。
様々な天体の食や掩蔽は、地球から観測されるものだけでなく、宇宙全体にわたる多様な現象です。これらの現象は、天体同士の相対的な運動や位置に依存しており、天文学の発展において重要な観測対象となっています。
地球による静止衛星の食
編集静止衛星は、赤道上空の高度約3万5786キロメートルにあるため、春分や秋分とその前後には太陽と静止衛星の間に地球が入る期間があり、これを静止衛星の「食」といいます。
日食や月食が珍しい理由
編集日食は新月のとき、月食は満月のときに発生しますが、毎回これらの現象が見られるわけではありません。これは、地球と月の公転面が約5°傾いているため、天体が一直線に並ぶことが少ないためです。
また、日食と月食を比較すると、月食の方が観測頻度が高いように思われますが、実際には日食の方が発生頻度は高いです。これは、日食は観測できる地域が限られているのに対し、月食は広範囲で観測できるためです。