高校化学 合成高分子化合物

高分子とは 編集

分子量が 10 000 以上の化合物を高分子化合物あるいは高分子という。 常温では固体で、成形が容易な合成高分子を合成樹脂(synthetic resin)あるいはプラスチック(plastic)という。 高分子化合物を作る際、たとえばポリエチレンはエチレンを合成させて作られるが、 このエチレンのように合成の単位になった分子1個のことを単量体(monomer)といい、いっぽうポリエチレンなどのように単量体のエチレンが連結したものを多量体(polymer)という。 単量体はモノマー、多量体はポリマーと呼ばれることもある。

単量体どうしが、結合することを重合(polymerization)という。 重合の際、たとえば二重結合のあるエチレンから、二重結合が単結合となることで重合するポリエチレンのように、二重結合が単結合となることで重合する結合を付加重合という。

重合の際に、化合物によっては、たとえば単量体に結合していた水素などが欠落し、副生成物として水分子が出来る場合がある。副生成物を生じて重合することを縮合という。特に、重合で水分子が、単量体由来の分子を原料として、水が副生成物として生じる場合の重合反応を脱水縮合という。

分子中の単量体の個数を重合度という。 いっぱんに多量体といった場合、特に重合度に決まりはないが、重合度が数百程度以上の物を指すことが多い。

高分子化合物の特徴 編集

 
高分子化合物の分子量の分布

高分子化合物を人工的に合成した場合、反応の重合度にばらつきが生じるので、分子量のグラフは右図のようになる。

ある高分子化合物について、その高分子化合物の分子量を平均したものを平均分子量(mean molcular weight)という。

高分子の分子量は、浸透圧を測定することで分子量を求められる。凝固点降下や沸点上昇を利用する方法では、うまく分子量を求められない。

 
高分子の非晶質と結晶

高分子化合物の固体には、結晶構造の部分と非結晶構造の部分とが混ざっているが、大部分は非結晶部分である。

結晶構造の部分が多いと強度が高く、硬く、透明度が増す。 非結晶の部分が多いと、やわらかくなり、不透明になる。

高分子化合物は、一定の融点をもたない。


高分子化合物を熱していくと、明確な融点が分からないまま、だんだん軟化していき、しだいに液体になっていく。このように、高分子化合物において、軟化しはじめる温度を軟化点(softening point)という。

高分子化合物が一定の融点をもたない理由として、非結晶の部分が多かったり、あるいは、一定の分子量をもたず分子量が分布している事などがある


付加重合 編集

 
付加重合による樹脂の合成反応

付加重合によって合成される樹脂について、その単量体はエチレン C=C やビニル基 CH2=CH のように二重結合を持ってる。

付加重合で合成せれた分子の構造には直鎖状の構造を持つものが多い。


合成繊維 編集

アミド結合によって重合した化合物をポリアミド(polyamide)という。

エステル結合によって重合した化合物をポリエステル(polyester)という。

ナイロン66 編集

アジピン酸   とヘキサメチレンジアミン   との縮合重合によって、ナイロン66が得られる[1]

この、ポリアミドを繊維にしたものをナイロン(nylon)という。

 

ナイロン6 編集

環状のアミド結合を持つ、ε-カプロラクタム(caprolactam)に少量の水を加えて加熱すると、開環重合してナイロン6が生成する。

 

このように、環状分子が開環して鎖状のポリマーに重合することを開環重合(ring-opening polymerization)という。アミド結合を持つ環状化合物をラクタムという。

アラミド繊維 編集

 
アラミド

単量体が芳香族化合物であるポリアミドをアラミド(aramid)という。それを繊維にしたものをアラミド繊維という。

アラミド繊維の一例として、原材料にテレフタル酸ジクロリド  と、p-フェニレンジアミン   とを重合させると、p-フェニレンテレフタルアミドという化合物になる。

非常に丈夫であり、引っ張り強度も高く、耐熱性・難燃性もすぐれるので、防弾チョッキや消防服などに使用される。

ポリエステル系合成繊維 編集

エステル結合 -COO- によって連なった高分子化合物をポリエステルという。

ポリエステルは、合成繊維のほかにも、合成樹脂としても使われる。

ポリエチレンテレフタラート 編集

テレフタル酸 HOOC-C6H4-COOH と、エチレングリコール HO-(CH2)2-OH を縮合重合するとポリエチレンテレフタラートが得られる。 略称はPETである。

 
 
ポリエチレンテレフタラートのエステル結合。

PETは水を吸いにくい。 飲料用の容器のペットボトルに用いられる。

また、ポリエステル繊維はしわになりにくいので、衣服にも用いられる。


付加重合 編集

アクリル系合成繊維 編集

ポリアクリロニトリル 編集

 
アクリロニトリル
 
ポリアクリロニトリルの構造式

アクリロニトリル CH2=CH-CN を付加重合させたものをポリアクリロニトリルという。ポリアクリロニトリルを主成分とした繊維をアクリル繊維という。 ポリアクリロニトリルは疎水性であり、そのままでは染色しづらいので、ポリアクリロニトリル繊維に添加物として酢酸ビニル CH2=CH-OCOCH3 などの原子団を混ぜて、染色性を高める。

アクリル繊維の肌触りは羊毛に似ていて、やわらかい。

また、アクリロニトリルと塩化ビニルを共重合させた繊維は燃えにくく、カーテンなどに用いられている。

炭素繊維

アクリロニトリルを窒素などの不活性気体中で、温度200℃ から段階的に温度を上げ 温度3000℃程度の高温で熱分解すると、炭素を主成分とする炭素繊維(カーボンファイバー)が得られる。炭素繊維は強度が優れている。

カーボンファイバーは、テニスラケットなどのスポーツ用品や釣竿、航空機の翼の材料の一つにも用いられる。

ポリビニルアルコール系合成繊維 編集

ビニロン 編集

原料 : ポリビニルアルコール
 
ポリビニルアルコールの構造式

酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 を付加重合させて、ポリ酢酸ビニル[-CH2-CH(OCOCH3)-]n を作り、これを水酸化ナトリウムNaOHでけん化するとポリビニルアルコール -[CH2-CH(OH)]- n になる。

ポリビニルアルコールは、ヒドロキシ基を多く持ち、水溶性が高いので、そのままでは繊維には使えない。洗濯のりとして、ポリビニルアルコールは用いられる。

ポリビニルアルコールは、硫酸ナトリウム水溶液へ入れると凝固する。なので、繊維にするために、ポリビニルアルコールを細孔から硫酸ナトリウム水溶液へ送り出す。これは、単に塩析をしただけなので、凝固しても親水性は変わらない。

アセタール化

硫酸ナトリウム水溶液で凝固させたポリビニルアルコールを、ホルムアルデヒド水溶液HCHOで処理すると、ポリビニルアセタールになり(アセタール化)、 これをビニロン(vinylon)という。

 
ビニロンの合成

このアルデヒドで環にする反応をアセタール化という。アセタール化によって親水基のOH基が減ったので、ビニロンは水に溶けなくなり、繊維として使える。ビニロンには親水基が残っているため、ビニロンの繊維は吸湿性を持つ。

ビニロンは、防護ネットや漁網などに用いられる。

酢酸ビニル

酢酸ビニルそのものの作り方は、エチレンCH2=CH2 に適当な触媒を用いて、酢酸CH3COOH と反応させると、酢酸ビニルCH2=CH-OCOCH3 が得られる。

 

熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂 編集

高温に熱すると柔らかくなり、冷やすと固くなる樹脂を熱可塑性樹脂(ねつかそせい じゅし、thermoplastic resin)という。

合成繊維に用いられる高分子は、ほとんどが熱可塑性である。

いっぽう、熱可塑性樹脂に対して、別の種類の樹脂として、熱硬化性樹脂という樹脂がある。熱硬化性樹脂は、加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂である。

フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂が、熱硬化性樹脂である。

一般に、熱可塑性樹脂は付加反応で合成される場合が多く、いっぽうで熱硬化性樹脂は縮合反応で合成される場合が多いが、例外もある。

たとえばPET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)は縮合反応で合成されるが、熱可塑性である。

熱可塑性樹脂 編集

ポリエチレン 編集

 
ポリエチレンは最も簡単な構造をした高分子である。
 
製造法によっては、ポリエチレンは分岐構造をもつ。
略称はPE 。

エチレンを付加重合するとポリエチレン(polyetylene)ができる。 ポリエチレンは熱可塑性樹脂である。

ポリエチレンには、重合反応の条件により、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)がある。

低密度ポリエチレン 編集

 
低密度ポリエチレンの分子構造図(概略)
 
低密度ポリエチレンの分岐構造(例)

低密度ポリエチレン(Low Denscty PE)は高圧を掛けて重合させたものである。重合の開始剤として過酸化水素または酸素O2を用いる。温度100~350℃で、およそ気圧100atm ~ 200atm (およそ10MPa ~ 20MPa)程度で重合させると、ポリエチレンが得られる。

この低密度ポリエチレンの製法を高圧法という。 高圧法で作ったポリエチレンは枝分かれが多く、そのため、密度が低く、また軟らかい。

低密度ポリエチレンは軟らかいので、袋などによく用いられる。また、透明である。極性が無いので、吸水性がない。耐薬品性は良い。気体を透過しやすい。


高密度ポリエチレン 編集

触媒として、四塩化チタンTiCl4とトリエチルアルミニウムAl(C2H5)3からなる触媒(この触媒をチーグラー・ナッタ触媒という)を用いて、5atm程度の数気圧でエチレンを付加重合させると、ポリエチレンができる。枝分かれの少ないポリエチレンができる。これは高密度のポリエチレンである。この低圧法で作ったポリエチレンを高密度ポリエチレンという。

ポリプロピレン 編集

 
プロピレン
(polypropilene)略称はPP 。

製法には、高圧法と低圧法がある。 熱可塑性樹脂である。ポリエチレンより硬い。耐薬品性は高い。

 
ポリプロピレン

ポリスチレン 編集

 
ポリスチレンの化学構造
(polystylene)略称はPS 。

スチレンの付加重合。

熱可塑性樹脂。透明。電気絶縁材料として使われる。イオン交換樹脂の母材に使われる。 いわゆる「発泡スチロール」とは、このポリスチレン樹脂に気泡を含ませた材料。

ビニル化合物 編集

ポリ塩化ビニル 編集

ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルの付加重合により得られる。

 
ポリ塩化ビニル合成の化学反応式
(polyvinyl chloride)略称はPVC 。

他の樹脂と比べて、非常に硬い。この硬さの理由は、塩素の極性の強さによるものである。燃やすと有害な塩化水素ガスが発生するので注意が必要である。耐薬品性が高い。

純粋なものは、光によって化学変化をしてしまい塩素が除かれてしまうので、遮光のため顔料を加えてある。

水道管などに用いられる。

ポリ酢酸ビニル 編集

ポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルの付加重合で得られる。略称はPVAc 。(polyvinyl acetate)

 
ポリ酢酸ビニル

アルコールなどの溶媒に溶ける。水には溶けない。

軟化点が低く40℃~50℃程度で軟化するので成形品には用いられない。 用途は接着剤や、チューインガムのベースなど。ビニロンの原料である。

接着力のもとは、CO基による水素結合が接着力の理由である。

フッ素樹脂 編集

 
ポリテトラフルオロエチレン

テトラフルオロエチレンCF2=CF2 の付加重合。 フッ素樹脂をポリテトラフロロエチレン(polytetrafluoetylene)ともいう。略称はPTFE。

耐薬品性が極めて高い。耐熱性が高く、融点は327℃である。 摩擦係数が低い。

ポリメタクリル酸メチル 編集

メタクリル酸メチルの付加重合。ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)ともいう。略称は PMMA である。「メタクリル樹脂」と略される場合も多い。 透明度が高い。光学レンズに用いられる。 溶媒に溶ける。耐薬品性は良くない。 有機ガラスと呼ばれる。プラスチック製のガラス材料として用いられる。


以上の樹脂は熱可塑性樹脂である。以上の樹脂は付加重合によって作られる。付加重合とは重合する際に二重結合や三重結合の結合手の一本が開かれる重合である。一般に付加重合で作られる樹脂は熱可塑性樹脂である。

いわゆる「アクリル樹脂」とは、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。

水族館の水槽に使われるプラスチック製の透明板は、このポリメタクリル酸メチルの場合も多い。

熱硬化性樹脂 編集

加熱しても軟化せず、加熱によって固くなり、また、冷やしても軟化しない樹脂を熱硬化性樹脂(thermosetting resin)という。 構造は立体網目状の構造を持つものが多い。


フェノール樹脂 編集

 
フェノール樹脂 3次元網目構造
略称はPFR。(phenol formaldehyde resin)

フェノールにホルムアルデヒドを、酸または塩基触媒で加熱反応させると、酸の場合はノボラック(novolac)、塩基の場合はレゾール(resol)という、重合度のひくい中間生成物ができる。これに硬化剤を入れて加熱すると、熱硬化性のフェノール樹脂(ベークライト)ができる。

このフェノール樹脂の合成反応は、付加反応(フェノールとホルムアルデヒドの反応が付加反応)と縮合反応(さきほどの付加反応で生じた2種類の物質がそれぞれ単量体となって縮合していく)が、くりかえし行われて合成される反応なので、付加縮合(addition condensation)という。

ノボラック 編集

フェノール樹脂の合成で、フェノールとホルムアルデヒドを反応させるさい、触媒に酸を用いると、ノボラック(novolac)という鎖式構造の重合分子が得られる。ノボラックは軟らかい固体物質である。このノボラックから重合によってフェノール樹脂ができる。 重合の際、ノボラックに硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(CH2)6N4を加える。

 
ノボラックの構造モデル

レゾール 編集

フェノール樹脂の合成で、フェノールにホルムアルデヒドを反応させる際に、塩基を触媒としてフェノールにホルムアルデヒドを反応させるとレゾール(resol)という鎖式構造の重合分子が得られる。レゾールは液体であり、また、分子構造がノボラックとは異なる。

レゾールを加熱すると重合反応が進みフェノール樹脂になる。

フェノール樹脂の性質 編集

フェノール樹脂は電気絶縁材料に用いられている。熱硬化性樹脂である。 アルカリには、やや弱い。

フェノール樹脂は、分子構造が、網目の立体構造になっている。

商品名でベークライトという名称がある。


アミノ樹脂 編集

アミノ基とホルムアルデヒドの付加縮合によってできる樹脂をアミノ樹脂(amino resin)という。

アミノ樹脂には、尿素樹脂や、メラミン樹脂がある。

尿素樹脂 編集

 
尿素樹脂
ユリア樹脂ともいう。略称はUFRである。(urea formaldehyde resin)

尿素樹脂とは、尿素とホルムアルデヒドを縮合重合させたアミノ樹脂である。透明で、また着色性が良い。酸およびアルカリに弱い。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。

メラミン樹脂 編集

 
メラミン樹脂の理想化された構造
略称はMFR 。(melamine formaldehyde resin)

メラミンとホルムアルデヒドを縮合縮合。 硬い。無色透明。 用途は装飾品や電気器具、食器などに用いられる。

アルキド樹脂 編集

 
アルキド樹脂の例。 Phはフェノール基。

アルキド樹脂(alkyd resin)とは、無水フタル酸とグリセリンなどの、多価アルコールと多価カルボン酸の縮合重合。耐候性にすぐれる。この樹脂の用途は、おもに塗料や接着剤などであり、成形品には用いないことが多い。

シリコーン樹脂 編集

 
シリコーン樹脂
 
シリコーン樹脂の立体構造
シリコーン樹脂(silicone)はケイ素樹脂ともいう。

シリコーン樹脂は無機高分子の樹脂である。 塩化メチルとケイ素の反応によって、クロロトリメチルシランまたはジクロロトリメチルシラン、またはトリクロロメチルシランなどのメチルクロロシランのアルキルシラン類が作られる。このアルキルシラン類の付加重合によってシリコーン樹脂が作られる。

塩化メチルはメタノールと塩酸から作られる。

構造の骨格は、ケイ素Siと酸素Oが結合したシロキサン結合(-O-Si-O-) で形成されている。 耐熱性や耐薬品性が良い。

その他の熱硬化性樹脂 編集

エポキシ樹脂 編集

 
ビスフェノールAジグリシジルエーテルエポキシ樹脂の構造:
nは重合サブユニットの数を示しており、0〜25の範囲である

ビスフェノールとエピクロロヒドリンが架橋(かきょう)して重合。 架橋にはポリアミン化合物などが必要。 エピクロロヒドリンの末端にもつ3員環の基がエポキシ基である。

用途は、よく接着剤に用いられる。接着剤としての利用は、架橋のために加えるポリアミン化合物などを硬化剤として用いる。

不飽和ポリエステル樹脂 編集

フマル酸やマレイン酸などの、二重結合を持つ不飽和酸と、エチレングリコールを重合させた分子を、スチレンで架橋した分子。 繊維強化プラスチックFRP(Fiber reinforced plastic)の母材として、この不飽和ポリエステルは用いられることが多い。

天然ゴム 編集

 
ラテックスを取っているところ。ゴムの製造に使われる

ゴムノキの幹に傷をつけると、その木から白い樹液が取れるが、このゴムノキの白い樹液をラテックス(latex)という。このラテックスは白くて粘性がある。

ラテックスは疎水コロイド溶液であり、炭素にタンパク質が保護作用をした保護コロイドによるコロイド溶液である。

ラテックスに酢酸などの酸を加えて凝固させたものが天然ゴム(natural rubber)あるいは生ゴム(raw rubber)である。生ゴムの主成分はポリイソプレンであり、これはイソプレン C5H8(示性式はCH2=C(CH3)CH=CH2である。)が付加重合したものである。

生ゴムには、弾性はあるものの、生ゴムの弾性は弱い。ゴム材料に弾性を持たせるには、加硫(= 硫黄を添加して加熱する処理)という処理が必要である。

 
ポリイソプレン(シス型)の構造.

イソプレンの構造式を見ると、2箇所の二重結合の間に単結合がある部位がある。二重結合があるため、シス形とトランス形の二通りがあろうが、一般の生ゴムの場合はシス形ポリイソプレンである。

いっぽう、マレー半島などのアカテツ科の樹液からとれるグッタペルカは、トランス型のポリイソプレンである。グッタペルカは常温ではプラスチック結晶状の硬い固体である。50度以上の温度で柔らかくなる。

加硫 編集

生ゴムに硫黄Sを数%加えて加熱すると、弾性が増す。このゴムを弾性ゴム(elastic rubber)や加硫ゴムと言い、この操作を加硫(かりゅう、vulcanization、cure)という。

 
ポリイソプレンへの加硫の模式図

ポリイソプレンの2重結合の部分に硫黄原子Sが結合し、S原子は2個の原子と結合できるから、S原子が他の二重結合とも結びつき、S原子がポリイソプレンを橋架けして、(-S-S-)といった結合が生じるをする。このような高分子鎖などを橋架けをする反応を架橋結合(かきょう けつごう)または架橋(cross linkage)という。

加硫ゴムは、2重結合が減った結果、化学反応性が低下するので、耐薬品性が増す。

エボナイト

生ゴムに30%~40%の硫黄を加硫して加熱した得られる黒色のかたいプラスチック状の物質をエボナイト(ebonite)という。

合成ゴム 編集

天然以外に製造したイソプレンを架橋したゴムや、ブタジエンなどを架橋させたゴムなどを、合成ゴム(synthetic rubber)という。

合成ゴムには、イソプレンゴムやブタジエンゴムの他に、クロロプレンゴムスチレン・ブタジエンゴムブチルゴムなどがある。

付加重合による合成ゴム 編集

ブタジエンゴムとクロロプレンゴムは付加重合によりゴム化する。

ブタジエンゴムでは、ブタジエンCH2=CH-CH=CH2から、ブタジエンゴム[-CH2-CH=CH-CH2-]n へとなる。シス型とトランス型があり、弾性に富むのはシス型のほうである。シス型を多く得るにはチーグラー触媒 TiCl4-Al(C2H5)3 を用いる。

摩耗性に優れているので靴底や、スチレンブタジエンゴムと配合させてタイヤなどに用いられる。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである(※ 参考文献: 数研出版の教科書より)。

クロロプレンゴムにもシス型とトランス型が有る。 クロロブレンの単量体(重合前のこと)の示性式は CH2=CCl-CH=CH2 である。

共重合による合成ゴム 編集

以上のブタジエンゴムは1種類のブタジエンから合成する合成ゴムであった。重合の単位となる分子を単量体というが、このように1種類の単量体しか用いない場合とは違い、複数種の単量体を用いるゴムを共重合ゴム(きょうじゅうごうゴム)という。 たとえばスチレン・ブタジエンゴムはスチレンとブタジエンを単量体とした共重合ゴムである。

また、ゴムにかぎらず、単量体(monomer)が複数ある重合結合を共重合(copolymerlization)という。 共重合で生成した高分子化合物を共重合体(copolymer)という。

スチレン・ブタジエンゴム

略称はSBR。 ブタジエン (CH2=CH−CH=CH2) とスチレン(C6H5−CH=CH2) が共重合したもの。

 
スチレン・ブタジエンゴムの構造式

耐磨耗性が良いので、タイヤなどに用いられることが多い。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである。

アクリロニトリル・ブタジエンゴム

略称はNBR。アクリロニトリル・ブタジエンゴムも共重合ゴムである。 耐油性が高く、このため石油ホースなどにも用いられてる。

 
アクリロニトリル・ブタジエンゴムの構造式

シアノ基(ニトリル基) R-C≡N の極性のため、耐油性が高い。

シリコーンゴム 編集

ジクロロジメチルシランを加水分解すると、ケイ素を含む重合体のポリメチルシロキサンが得られる。 これの架橋に、架橋剤として過酸化ベンゾイルなどの過酸化物の架橋剤を用いて架橋をすると、(-C-C-)といった架橋結合をもったシリコーンゴムが得られる。 シリコーンゴムの架橋には硫黄は用いない。

 
シリコーン(架橋前の構造)
 
ポリジメチルシロキサン

付加重合による重合とは違い、シリコーンゴムは二重結合を持たないので、大気中の酸素による二重結合の酸化による劣化が少ないので、酸化しづらく耐久性などの性質が優れる。

  1. ^ 6,6-ナイロンとも言われる。ナイロン66の6はそれぞれ、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの炭素数6に由来している。