高等学校化学II/有機化学の発展知識
ベンゼン環の置換基の配向性
編集オルトパラ配向性
編集ベンゼンの1置換体(たとえばトルエンなど)に、さらに置換反応を行わせた場合、2つめの置換基の位置は、すでに結合している置換基によって決まる。
トルエンをニトロ化させた場合、オルトーパラ配向性である。
よって、o-ニトロトルエンまたはp-ニトロトルエンが出来る。
このような実験事実にもとづき、「CH3はオルトパラ配向性である」という。
このように、もとから存在した側の置換基が配向性の基準になる。
なので、もとから存在した側の置換基を配向性の基準にする。
メタ配向性
編集ニトロベンゼンのニトロ化物をつくる反応の結果は、通常の反応では、メタの位置に結合した生成物である m-ジニトロベンゼン がほとんどである。このことから、(ベンゼンにもとからついていた最初のニトロ基のほうの)ニトロ基を「メタ配向性である」のように言う。
オルトパラ配向性 | -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-Cl 、-Br 、-OCH3 |
---|---|
メタ配向性 | -NO2 、-COOH 、-SO3H 、-COCH3 、-CHO |
上記の表の配向性の基準は、ベンゼン環にもとから着いていたほうの置換基である事に、気をつけよう。
範囲外:
編集配向性の電子供与と電子求引
編集- (※ おもに大学範囲。いちおう、実教出版の検定教科書の巻末発展事項に似たような内容が書いてあり、また、数研出版の高校化学の資料集『視覚でとらえる フォトサイエンス 化学図鑑』に、チラっと解説されている。)
メタ配向性の分子(たとえばニトロベンゼンなど)は、反応性が悪いことが、実験的に確かめられている。(← この実験事実が、ふつうの高校教科書には書かれてない。)(※ この実験事実についての参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、114ページ。)(※ 参考文献: 化学同人『ベーシック有機化学』、山口良平・山本行男・田村類、第2版6刷、2015年3月1日発行,90ページ)
メタ配向性の置換基だと反応活性が悪くなる理由は(高校レベルの説明では)、ニトロ基が、ベンゼン環のπ電子を求引してしまってるため、ベンゼン環全体の電子密度が低下してしまっているからである、・・・と考えられている。(※ 参考文献: 数研出版『視覚でとらえる フォトサイエンス 化学図鑑』、183ページ)
このため、ニトロ基(ーNO2)などのメタ配向性置換基のように、反応性を低下させる置換基のことを「不活性化基」ともいう。
逆に、オルト・パラ配向性の分子(たとえばトルエンなど)は、反応性は悪くない分子である場合の多いことが、実験的に確かめられている。トルエンが、通常のベンゼン環よりも反応性が高いことが、実験的に確かめられている。ベンゼンとニトロトルエンとの1:1混合物をニトロ化すると、ニトロベンゼンはあまり生じず、おもにニトロトルエンの異性体が生じる。(※ この実験事実についての参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、114ページ。)これは、メチル基がベンゼン環に電子を供与しているからである、と考えられている。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、118ページ。)
なお、 トルエンにおけるメチル基(ーCH3)などのように、反応を活性化する置換基を「活性化基」ともいう。
メチル基など、ベンゼン環など接合している分子構造に対して電子を供与する性質のことを電子供与性(でんしきょうよせい)という。
オルト・パラ配向性置換基が、かならずしも活性化基とは限らない。しかし、メタ配向性置換基はすべて不活性基である。(※ 参考文献: 実教出版の検定教科書、平成24年検定済、382ページ)
活性化基 | 不活性化基 | |
---|---|---|
オルトパラ配向性 | -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-OCH3 | -F 、-Cl 、-Br 、-I |
メタ配向性 | 該当する置換基は無い | -NO2 、-COOH 、-SO3H 、-COCH3 、-CHO |
- ※ 備考: 上の一覧表を見れば分かるように -Cl などのハロゲンはオルト・パラ配光性基であるが不活性基である。(※ 参考文献: 化学同人『ベーシック有機化学』、山口良平・山本行男・田村類、第2版6刷、2015年3月1日発行,93ページ)(参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、115ページ)
そして上表にも挙げられてるオルト・パラ置換基で活性化基である -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-OCH3 は、電子供与性である。
- 電子求引性と電子供与性
活性化基 | 不活性化基 | |
---|---|---|
オルトパラ配向性 | -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-OCH3 電子供与性 |
-F 、-Cl 、-Br 、-I 電子求引性と電子供与性が 打ち消しあってる |
メタ配向性 | 該当する置換基は無い | -NO2 、-COOH 、-SO3H 、-COCH3 、-CHO、-CN 電子求引性 |
- ※ 「ハロゲンは(17族原子だから)電子を吸引するのではなかったか?」とか思うかもしれないが、ハロゲンの電子吸引とは、一般の原子の価電子に対しての吸引である。上記の表は、ベンゼン環の共役二重結合で生じる電子雲に対する吸引や供与のことであるので、区別するように。
トルエンの反応性がベンゼンよりも高いのは、トルエンのメチル基が電子供与性であるため、反応中間体が安定化するからである。
いっぽう、ニトロ基などのメタ配向性置換基のように、ベンゼン環の電子を引きよせる性質を電子求引性であるという。そして、ニトロ基などは電子求引性であるため、ベンゼン環のπ電子を引きよせるため、ベンゼン環全体の電子密度が低下してしまい、そのためベンゼン環を不活性化するのである。(※ というのが高校レベルの説明。)
なお、ハロゲンがオルト・パラ置換基なのに不活性化基である。
ハロゲンは電気陰性度が高いことが、電子求引性に寄与している。いっぽうでハロゲンは非共有電子対が多いため、それが電子供与性に寄与している、と考えられている。(参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、120ページ)
- ※ 大学教科書では、どの大学教科書でも、「ハロゲンは電子求引性である」とされている。しかし本wikibooksでは、あまり高校分野の理解には、ハロゲンの電子求引性の判定は重要ではないので、ハロゲンが電子求引性であるかどうかについては明言を避けることにする。
- ※ ハロゲンが付加する場合は、置換基の原子が1個だけなので、電気陰性度が ほぼそのまま 電子求引性の原因になっている。しかし、置換基が複数の場合、-OH が電子供与性であることからもわかるように、酸素Oは(炭素Cと比較すれば)わりかし電気陰性度が高めだが、しかし -OH 全体では電子供与性である。
備考
編集- ・ 活性化基によって反応をしやすくなるという事は、つまり活性化基は、活性化エネルギーを下げるという事でもある。 (※ 実教出版の検定教科書でも、この事を解説している。)
- ・ 同様に、不活性化基は、活性化エネルギーを上げる、という事でもある。
活性化基は、反応途中に生成する中間体を安定化させるために、活性化エネルギーが下がっている、・・・と考えられている。(※ 実教出版の検定教科書でも、この事を解説している。)
逆に、不活性化基は、中間体が不安定なため、活性化エネルギーが高い、・・・と考えられている。
電気陰性度と電子求引性
編集ハロゲン原子は電気陰性度が高いことを、高校で習う。
そして、不活性化基には、「電子求引性」という用語のように、電気的な性質が関係している。
よって、電気陰性度と電子吸引性には、あきらかに関係がある。また、電気陰性度から計算できる「分極」も、関係ありそうである。なお化学では、電気陰性度と分極のをまとめて「誘起効果」という。
実際、大学の教科書でも、電気陰性度や分極を、電子吸引性や電子供与性に関連づけて、考察している。
※ 探求的な発展 :
編集共鳴
編集- ※ この節の内容は、読者は自己責任で、参考にするなり、疑うなり、してください。
参考文献では明言されてないが、化学式の構造と、電子求引/供与のちがいとの関連には、下記のような傾向がある。 「ベンゼン環に直接くっつく C=O 二重結合は、共鳴によってメタ配向性に寄与する傾向がある」
活性化基(電子供与性?) | 不活性化基(電子求引性?) | |
---|---|---|
オルトパラ配向性 | -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-OCH3 電子供与性 |
-F 、-Cl 、-Br 、-I 電子求引性と電子供与性が 打ち消しあってる 電子求引性 |
メタ配向性 (電子求引性?) |
該当する置換基は無い | -NO2 、-COOH 、-SO3H 、-COCH3 、-CHO、-CN 電子求引性 |
メタ配向性の -COOHや-COCH3 のように、ベンゼン環に直接 -CO がつくと、メタ配向性になる傾向がある。
また、おなじくメタ配向性の -CHO も、構造式をみると、C=O という二重結合がある。もちろん、 -COOHや-COCH3 の構造式にも C=O 二重結合がある。
このことから、どうやら「ベンゼン環に直接くっつく C=O 二重結合は、メタ配向性に寄与する傾向がある」ようである。
いっぽう、オルトパラ配向性にある -NHCOCH3 は、構造中に二重結合をもつが、しかしベンゼン環には直接はC=Oはくっついてない。
さてカルボン酸には、共鳴という現象が知られている。この共鳴が、メタ配向性に寄与する傾向があるようだ。
- (※ 大学レベルの参考文献では、慎重を期すため、因果関係を逆にして説明している。つまり大学教科書では、具体的にメタ配向性だと知られている置換基について、「この置換基では、共鳴がメタ配向性に寄与している」のような言い方をしている。
- しかし高校レベルでは、そこまで慎重になる必要も無いだろう。)
上記をまとめて、どうやら、「ベンゼン環に直接くっつく C=O 二重結合は、共鳴によってメタ配向性に寄与する傾向がある」ようだ。そして、共鳴は電子のふるまいによって起きることから、電子求引基であることが原因だろう、と推測されるだろう。
つまり、これらの(置換基のうち、ベンゼン環に直接つく原子が共鳴している)置換基が電子求引基(かつ不活性化基)であることから、「ベンゼン環に直接つく原子が共鳴している場合は、原則的に電子求引に寄与する傾向がある」ようだ。
しかも、-NO2 にも、ベンゼンに直接ついている元素(N)のとなりの原子として酸素がある。NO2も、共鳴をしている、と考えられている。
さて、
- ・ 電子求引/供与性には、前の節の「その他」で述べたように、電気陰性度や分極などの「誘起効果」も関係している。
- ・ そして、この節で述べたように、「共鳴」も、電子求引/供与性に関係している。
このことから、大学教科書では C=O 二重結合の分極による寄与も考察したりする。しかし、高校では、そこまで深入りする必要も無いだろう。(本書では、これ以上の説明は、もはや専門的に高度になりすぎるので、説明を省略する。)
「-Cなんとか」の「なんとか」部分の電気陰性度
編集活性化基(電子供与性?) | 不活性化基(電子求引性?) | |
---|---|---|
オルトパラ配向性 | -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-OCH3 電子供与性 |
-F 、-Cl 、-Br 、-I 電子求引性と電子供与性が 打ち消しあってる 電子求引性 |
メタ配向性 (電子求引性?) |
該当する置換基は無い | -NO2 、 -COOH 、-SO3H 、-COCH3 、-CHO、-CN 電子求引性 |
この表で、右下のメタ配向性の不活性基のうち、炭素Cのあるのをみると、どれも、Cの隣りに、酸素Oや窒素Nなど、電気陰性度がCよりも高い元素がある。(アルデヒド基 -CHOも、構造式でみれば、CのとなりにOが結合している。)
このことから、置換基の最初のCのとなりに結合している原子の電気陰性度が高いと、電子求引性に寄与することが、すでに解明されている。(ただし、C≡N や -COOHのように、多重結合があるので、それらの影響も加わるので、実際の個々の原子では そう単純ではない。)
じっさい、逆に電子供与性の側を調べれば分かる。 電子供与性である -CH3 は、Cのとなりに結合している水素 H は、(Cと比べれば)電気陰性度の低い原子である。
このように、置換基の最初のCのとなりに結合している原子の電気陰性度が、電子求引/供与 性に、影響を与える。
このような事から、たとえば、もし -CF3 を置換基としてベンゼンに結合させたら(なお「F」はフッ素原子)、C6H5-CF3 は電子求引性としての性質が強い生成物になる事も予想がつく(※ サイエンス社の例の教科書では、CF3 を電子求引性として考えている。)。
酸・塩基との関係性の有無
編集活性化基(電子供与性?) | 不活性化基(電子求引性?) | |
---|---|---|
オルトパラ配向性 | -OH、-CH3 、-NH2 、-NHCOCH3 、-OCH3 電子供与性 |
-F 、-Cl 、-Br 、-I 電子求引性と電子供与性が 打ち消しあってる 電子求引性 |
メタ配向性 (電子求引性?) |
該当する置換基は無い | -NO2 、 -COOH 、-SO3H 、-COCH3 、-CHO、-CN 電子求引性 |
ついつい読者は、表右下の「-COOH」とか「-SO3H」とか見ると、「もしかして置換基が酸性だと、電子求引性になるのでは?」と予想するだろう。
しかし、表左上の-OH基を、見落とさないようにしよう。フェノールは弱酸性である。
よって、酸性基は必ずしも電子求引性とは、かぎらない。
しかし、その一方で、電子供与性の-NH2基をみると、読者によっては アンモニア NH4を思い浮かべるかもしれない。
また、表右下の -NO2 を見ると、読者によっては 硝酸 HNO3 を思い浮かべるかもしれない。
なお、シアン化水素 HCN は弱酸性である。また、テレビの刑事ドラマなどで毒物そちえ「青酸カリ」とも呼ばれるシアン化カリウムが紹介されるが、シアン化カリウムは強塩基性である。しかし「青酸」というように、シアンそのものは酸性である。青酸カリが塩基性なのは、カリウム部分の影響である。
このように、酸と電子供与は、どうも関係性はありそうである。
実際に大学教科書でも、個々の置換基ごとに、酸性/塩基性と電子供与/求引性との関係を考察している。
つまり、大学教科書では「-COOH基では、酸性としての作用が電子求引性を強めているようだ」のような、置換基ごとに個別に言及をしている。
しかし読者は高校生なので、記憶さえできれば充分なので(※ そもそも範囲外なので、高校生には記憶の必要すら無いが・・・)、「傾向として酸性基なら、たぶん、電子求引性。例外は、高校でならう範囲では、水酸基 -OH くらい。」ていどの大胆な覚え方で、充分だろう。
大学に向けて
編集大学の有機化学の教科書を読むと、ベンゼン化合物をさきに考察して、あとからアルカンやアルコールやアルデヒドなど個別の原子を考察する。高校とは順序が逆である。
有機化合物は膨大にあるので、まず先に基準として、あたかもベンゼンを共通語のように、勉強するのである。
ベンゼン化合物は上述したように、共鳴や電子供与/求引などのような、体系的な解明がされている。なので、大学の有機化学ではベンゼンを土台に勉強していく。
そして、ベンゼンに水酸基をつけたでのフェノール C6H5-OH が弱酸性であることに注目すれば、酸性/塩基性と、電子供与/求引 との関係も考察していける。
そして芳香族アルコールであるフェノールを考察できれば、それをもとに、脂肪族アルコールであるエタノールやメタノールも考察していける。大学教科書は、このような順序になっている。
そして脂肪族アルコールを手掛かりに、アルデヒドやエーテルなどほかの脂肪族も考察できる。大学での脂肪族の考察では、後述するマルコフニコフ則などとも関連づけて、考察していく。
このように、大学での有機化学の教育順序は、高校とは教育順序が逆である。大学では、電子供与/吸引性などの探求をするために、あえて、このような順序にしている。しかし高校生は、まずは高校レベルの基礎学力を習得するのが先なので、高校の教科書の順序で、勉強していこう。
マルコフニコフ則とザイツェフ則
編集マルコフニコフ則
編集
アルケンの炭素ー炭素二重結合に、HX型のハロゲン水素(HClなど)が付加するとき、二種類の生成物があるが、Hがどちらの炭素に付加したものが主生成物になるかには法則性がある。もともと結合しているHが多いほうに、さらにHX分子のHが付加することで出来た反応物が主生成物になる、という経験則があり、この経験則をマルコフニコフ則(Markovnikov rule)といい、ロシアのマルコフニコフが多くの実験結果により確かめた。
ザイツェフ則
編集
第二級または第三級アルコールの分子内脱水反応で、アルケンが生成するとき、OH基のついているC原子の両隣のC原子のうち、水素原子の少ないほうのHが脱水に使われた分子が主生成物になる。この法則をザイツェフ則(Saytzeff rule)という。
結果的に付加してるHの少ないCは、ますます付加しているHが少なくなる。
(※ 範囲外:) また、この反応の結果、主生成物と副生成物のそれぞれの二重結合のとなりをみると、主生成物のほうが置換基(CH3やCH2など)が多い。2ーブテンでは二重結合のとなりは置換基(CH3)が2つだが、1ーブテンでは二重結合のとなりの置換基(CH2)が1つである。
(※ 範囲外:) ようするに、一般的に炭素の高分子化合物では、置換基が多いほうが安定である。
(※ 範囲外:)つまり、(2ーブテンのような)内部アルケンのほうが、(1ーブテンのような)末端アルケンよりも化学的に安定である。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学』、荒井貞夫、新訂版、2014年1刷、151ページ。 本記事では、紹介物質は、高校用に別物質に置き換えたため、参考文献での紹介物質とは異なる。)
なぜ、ザイツェフ則がなりたつのか
編集- ※ マルコフニコフ則については、高校レベルを超える説明になるので当ウィキブックスでは説明を省略する。
- ※ 本節の「超共役」の説明は、あまり正確な説明ではないので、高校生はこの「超共役」についての説明を覚えなくて良い。
ザイツェフ則のなりたつ理由として考えられてる一説として、超共役(ちょうきょうやく)という説がある。
- ※ 検定教科書には「超共役」の用語は書いてないので、覚えなくて良いだろう。
- (※予備知識:) まず、二重結合と単結合が続く結合を共役二重結合という。ポリアセチレンなどが、構造に共役二重結合を持つ。
(共役二重結合の例) |
で、ザイツェフ則では、主生成物(2ーブテン)の二重結合のとなりが単結合であるが、これがあたかも、共役二重結合(二重結合と単結合の繰り返しの構造)と同じように安定的なため、主生成物になるのだろう、・・・という説がある。
では、なぜ共役二重結合が安定かというと、それは、共鳴してるからである。(『高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族炭化水素』)
共鳴とは何かを思い出すには、ベンゼン環(またはベンゼン環をふくむ化合物)を思い出してほしい。図のoーキシレン中のベンゼンでは便宜上、二重結合をつかって書きあらわされるが、実際にはベンゼン環全体にわたって電子が均一に分布しているのであった。(『高等学校化学I/芳香族化合物/芳香族炭化水素』)
それと似た現象がポリアセチレンのような共役二重結合でも起きていると考えられていて、共役二重結合の物質では、電子が二重結合の外側の単結合にまでハミ出して分布しているのだろう、・・・と考えられている。そして、そのハミ出した結果、より安定度が増すのだろう、と考えられている。(一般に、電子は、狭い場所に閉じ込められるよりも、広い場所に分布するほうが、安定する。(いわゆる「不確定性原理」。電子は、狭い場所に局在化するよりも、電子はなるべく広い場所に「非局在化」するほうが安定である。)
さて、ザイツェフ則の例の2ーブテンや1ーブテンのハナシに戻る。
内部アルケン(2-ブテン)は、二重結合の電子が両側にハミ出せるが、しかし末端アルケン(1-ブテン)だと片側にしかハミ出せない。副生成物の1-ブテンは、二重結合が、末端のCについているので、安定度がやや劣るがため、そもそも生成率が低いのだろう、・・・と考えられている。
二重結合のとなりの結合に電子がハミ出すための前提として、二重結合のとなりにメチル基(CH3やCH2やCH)が必要である。(※ 参考文献: 化学同人『ベーシック有機化学』、山口良平・山本行男・田村類、第2版6刷、2015年3月1日発行,61ページ)(参考文献の該当ページはマルコフニコフ則の起きる原因としてCH結合との超共役を述べている。
- ※ 大学レベルの化学書では、実際の仮説はさらに複雑で、「σ結合」や「p軌道」がどうこう・・・といった理由付けがされるが、高校レベルを遥かに超えるので本記事では説明省略する。
※ 範囲外
編集有機電子論の限界
編集大学の教科書では、よく有機化学の専門化学の『有機反応論』で、有機化合物の化学反応の説明において、電子を黒丸で表現あるいは「(-)」のようにマイナスを丸で囲った記号で電子を表現して、それが構造式中でどう反応して・・・、みたいな図が矢印などと共に描かれるが、実はこれは便宜的な仮説であり、必ずしも電子がそれらの教科書の図のように流れている保証は無い[1]。
なぜなら、根本的な理由として、量子力学によれば「電子は波」でありそれを現代化学の基礎に置いているのに、一方で有機電子論では粒子として電子を黒丸や丸マイナスで描くモデルを提示するので、矛盾的な状況であり、だから根本的に量子論と矛盾するので信憑性には問題がある[2]。
世界中の大学の教科書などの専門書に書いてある図や表は、あたかも普遍の真実かのように思いがちかもしれないが、実は有機化学の理論とは、そういうものではないのである。