高等学校古典B/漢文/不出門
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『門を出でず』 (もんをいでず)
- 菅原道真(すがわらの みちざね)
原文
編集不出門
一従謫落在柴荊
万死兢兢跼蹐情
都府桜纔看瓦色
観音寺只聴鐘声
中懐好逐孤雲去
外物相逢満月迎
此地雖身無検繋
何為寸歩出門行
- (原典: 菅家後集(かんけこうしゅう) )
書き下し文
編集一たび(ひとたび)謫落(たくらく)せられて柴荊(さいけい)にありてより
万死(ばんし)兢兢(きょうきょう)たり 跼蹐(きょくせき)の情(じょう)
都府桜(とふろう)は纔かに(わずかに)瓦(かわら)の色を看(み)
観音寺(かんのんじ)は只(ただ)鐘(かね)の声を聴く
中懐(ちゅうかい)は好しおはん 孤雲(こうん)を逐ひて(おいて)去り
外物(がいぶつ)は相(あい)逢わん(あいて) 満月の迎ふ
此の地 身検繋(けんけい)せらるること無しと雖も(いえども)
何為れぞ(なんすれぞ)寸歩(すんぽ)も門を出でて行かん
語釈
編集- 菅原道真(すがわら の みちざね)- 平安時代の政治家・学者・詩人。政敵の藤原時平の讒言(ざんげん)により、九○一年に右大臣から太宰権帥に左遷(させん)された。
- 謫落(たくらく) - 罪によって官職を落とされて流される。
- 柴荊(さいけい) - 粗末な住居。ここでは太宰府の官舎のこと。
- 兢兢(きょうきょう) - 恐れ慎むさま。恐れおののくさま。 (※「競競」ではないので間違えないように。)
- 跼蹐(きょくせき) - 「跼」とは縮こまる、身をかがめる。「蹐」とは、抜き足差し足。よって「跼蹐」とは、身の置きどころのない境遇を表したのか。
- 詩経(しきょう)にある「跼天蹐地」(きょくてんせきち)の略。頭が天にぶつかるの恐れるかのように身をかがめ、地を恐れ抜き足で歩くことから。
- 都府桜(とふろう) - 「都府」(とふ)は太宰府(だざいふ)。「都府桜」とは正門の高桜。
- 観音寺(かんのんじ) - 観世音寺(かんぜのんじ)のこと。太宰府の東方にあった。
- 中懐(ちゅうかい) - 胸中の思い。
- 孤雲(こうん) - 離れ雲。
- 外物(がいぶつ) - 自分以外の、外の世界。
- 検繋(けんけい) - 束縛。「検」は取り調べのこと。
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語彙
編集- 万死(ばんし) - 何回も死ぬような思いや苦痛。
- 寸歩(すんぽ) - きわめて近い距離。
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現代語訳
編集ひとたび官職を落とされて(筑紫(つくし)に)流されて、粗末な官舎に住んで以来、
万死に値する重い罪に恐れおののき、身の置きどころの無い思いだ。
太宰府の正門の高桜は、わずかに瓦の色を見ることができるが、
観音寺はただ鐘の音を聴くだけである。
胸中の思いは、さて、離れ雲のようで。
我が身以外の世界には、(私は)満月の迎えるように円満な気持ちで接しよう。
この地では、身柄を縛られることはないけれど、
どうして一歩たりとも門を出るだろうか。(いや出はしない。)
形式
編集七言律詩
押韻
編集「荊」「情」「声」「迎」「行」が同じ韻。
解説
編集遣唐使を廃止したことでも有名な、平安時代の政治家である菅原道真(すがわらの みちざね)が、太宰府(だざいふ)に左遷されたあとの、道真(みちざね)の心境を読んだ詩。