高等学校古典B/西鶴諸国ばなし
大晦日(おおつごもり)は合はぬ算用
編集- こういう話
ある浪人たちが宴会を開いた。客は七人。主催者も客も浪人である。
宴会の途中、主催者の持っていた小判十両を包み紙ごと客に見せ、宴会の終わりに回収して枚数を確認したら、なんと一両足りず九両である。客たちの間に、誰かが小判一両を盗んだのか、という疑いが生じてしまった。主催者は騒ぎをしずめようと、自分がもともと一両使ってしまっていたことにして、騒ぎをしずめようとしたが、客たちは、先ほどは確かに十両あったはずだ、と言い、騒ぎがしずまらない。ついには、運悪く小判を持ち合わせていた人が、疑いをかけられることを不名誉とし、自害するとまで言い出す。
さらにあたりを探していたら、今度は、もう二枚小判が出てきて、合計で十一両になってしまい、今度は逆に、小判が一両あまってしまった。 客の誰かが騒ぎをしずめるために、一両を出したのだろう、と主催者は考え、この一両を持ち主に返そうとするが、仲間を気づかってか名乗り出ない。
問題が解決しないので、いつまでたっても帰れない。
そこで、主催者は一計を思いつき、客を一人ずつ帰すことにして、帰る際に持ち主が見られることなく小判を持って帰れるように、離れの庭に小判一両を置くことにした。持ち主が回収してくれ、という事である。
客を全員帰してから、主催者が最期に庭を確認したら、小判がなくなっていたので、誰かが回収したはず、その誰かとは持ち主が回収したということにしよう、ということにした。
こうして、騒ぎを解決させた。
主人の機転、座慣れした武士の振る舞い、見事なものだ。
一
編集- 大意
原田内助(はらだ うちすけ)が、義理の兄から借金十両を借りた。
- 本文/現代語訳
榧(かや)・かち栗(ぐり)・神の松・やま草の売り声もせはしく、餅(もち)つく宿の隣に、煤(すす)をも払はず、二十八日まで髭(ひげ)もそらず、朱鞘(しゆざや)のそりをかへして、「春まで待てと言ふに、是非に待たぬか。」と、米屋の若い者を、にらみつけて、すぐなる今の世を、横にわたる男あり。名は原田内助(はらだないすけ)と申して、かくれもなき浪人。広き江戸にさへ住みかね、この四、五年、品川の藤茶屋(ふぢぢやや)のあたりに棚借りて、朝(あした)の薪(たきぎ)にことを欠き、夕べの油火(あぶらび)をも見ず。これはかなしき、年の暮れに、女房の兄、半井清庵(なからゐせいあん)と申して、神田の明神の横町(よこまち)に、薬師(くすし)あり。このもとへ、無心の状を、遣はしけるに、たびたび迷惑ながら、見捨てがたく、金子(きんす)十両包みて、上書きに「貧病の妙薬、金用丸(きんようぐわん)、よろづによし。」と記して、内儀のかたへおくられける。 |
(正月用の酒の肴の)カヤの実、かち栗、神棚の松、やま草の売り声も慌ただしく、餅をつく家の隣で、煤払い(すすはらい、意味:大掃除)もせず、二十八日までヒゲもそらず、朱塗りの鞘の刀の反りをかえして、(彼の家に来た借金取りに対しては)「(支払いは)春まで待てと言うのに、どうして待たないのか。」と(借金を取りに来た)米屋の若い者をにらみつけて、まっすぐな(=正しい)政治の行われている今の世を、まっすぐに暮らさない(=正しく暮らしていない)男がいる。名は原田内助(はらだ ないすけ)と申して、よく知られた浪人。広い江戸にさえ住めなくなり、この四、五年は、品川の藤茶屋の辺りに借家を借りており、朝の(炊事用の)薪(たきぎ)にも不自由し、夜の灯火の油もない。これはかなしき年の暮れに、(原田の)女房(=妻)の兄(=義理の兄)、半井清庵(なからいせいあん)と申して、神田明神の横町(よこまち)に住んでいる、医者がいる。この(半井の)もとへ、借金を頼む手紙を、(原田は)出して、たびたびのことで迷惑ではあるが、見捨てにくく、金子(きんす)十両を包んで、上書きに「貧乏という病の妙薬、金用丸、すべてに効く。」と記して、(原田内助の)妻のところへ送った。 |
- 語句(重要)
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- 語注
- ・やま草 - シダの一種。正月の飾りつけ用。
- ・神田の明神 - 今の東京都千代田区(ちよだく)神田(かんだ)にある神田明神(かんだみょうじん)。
- ・金子(きんす)十両 - 小判十枚。「両」は貨幣の単位。
- ・内儀 - 主婦の敬称。
- ・ - 。
二
編集- 大意
内助は義兄の援助に喜び、浪人仲間と宴会を開いた。 十両を包んだ紙の上書きが面白かったので、宴会を盛り上げるため、小判といっしょに紙の上書きを回覧して、仲間のみんなに包み紙の上書きを見せた。そして宴会の終わる頃、小判と包み紙を回収すると、なんと小判が一両足りない。
- 本文/現代語訳
内助よろこび、日ごろ別して語る、浪人仲間へ、「酒ひとつ盛らん。」と、呼びに遣はし、幸ひ雪の夜(よ)のおもしろさ、今までは、くづれ次第の、柴(しば)の戸を開けて、「さあこれへ。」と言ふ。以上七人の客、いづれも紙子(かみこ)の袖(そで)をつらね、時ならぬ一重羽織(ひとへばおり)、どこやらむかしを忘れず。常の礼儀すぎてから、亭主まかり出(い)でて、「私仕合はせの合力(かふりよく)を請(う)けて、思ひままの正月をつかまつる。」と申せば、おのおの、「それは、あやかりもの。」と言ふ。「それにつき上書きに一作あり。」と、くだんの小判をいだせば、「さても軽口なる御事。」と見て回せば、杯も数かさなりて、「よい年忘れ、ことに長座(ちやうざ)。」と、千秋楽をうたひ出し、燗鍋(かんなべ)・塩辛壺(しほからつぼ)を手ぐりにしてあげさせ、「小判もまづ、御仕舞ひ候(さうら)へ。」と集むるに、十両ありしうち、一両足らず。座中居直り、袖などふるひ、前後を見れども、いよいよないに極まりける。 |
内助は喜んで、ふだん特に親しくしている浪人仲間へ、「酒をちょっと盛ろう。」と呼びにやり、さいわい雪の夜で気色もすばらしく、今までは崩れるままになっていた柴の戸を開けて、「さあ、こちらに。」と言う。合計七人の客は、どなたも紙子を着て、季節はずれの一重羽織(であるが)、どことなく昔(のたしなみ)を忘れない(ように見える)。型どおりのあいさつが済んで、亭主が参上し、「私は、運の良い援助を受け、思い通りの正月をいたします。」と申すと、それぞれ、「それは(良いことだ)、あやかりたいものだ。」と言う。 (内助が)「それについて、この上書きに一作があります。」と、例の小判を出したので、(みんなは)「なんとまあ、軽妙な事。」と(上書きを)見て(手から手へと)回すうちに、杯の数も重なって、「よい年忘れで、(楽しくて)ことさらに長居(をぢてしまった)。」と、千秋楽(せんしゅうらく)の謡をうたい出し、燗鍋や塩辛の壺を手渡しで片付け、「小判もとりあえず、おしまいください。」と集めたところ、十両あったうちの一両が足りない。 一同は座りなおし、袖などをふるって、前後を見るけれども、確かにないという結論になった。 |
- 語句(重要)
- ・くだんの - 例の。件(くだん)の。「くだりの」(下りの)が音便によって「くだんの」になった。
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- 語注
- ・千秋楽(せんしゅうらく) - 宴会の終わりの挨拶のこと。
- ・紙子(かみこ) - 和紙で作られた着物。安価なため、貧しいものに流行った。
- ・燗鍋(かんなべ) - 酒を温めるための鍋。
三
編集- 大意
内助はその場を収めよう(おさめよう)と、すでに一両使っていたが忘れていたということにしたが、浪人仲間たちが言うには確かに十両あったはずだとなり、場が収まらない。衣服を脱いで探したら仲間の客がたまたま一両持ち合わせていたが、身の潔白を証明するため自害するとまで言い出す。さらに念入りにあたりを探すと、さらにもう二枚小判が出てきて、合計十一両になってしまった。 (浪人仲間が持ち合わせていた一両は合計から除いている。)
- 本文/現代語訳
あるじの申すは、「そのうち一両は、さる方へ払ひしに、拙者の覚え違へ。」と言ふ。「ただ今までたしか十両見えしに、めいよのことぞかし。とかくはめいめいの見晴れ。」と上座(じやうざ)から帯をとけば、その次も改めける。三人目にありし男、渋面(じふめん)つくつてものをも言はざりしが、膝(ひざ)立て直し、「浮世(うきよ)には、かかる難儀もあるものかな。それがしは、身ふるふまでもなし。金子一両持ち合はすこそ、因果なれ。思ひもよらぬことに、一命を捨つる。」と思ひ切つて申せば、一座口をそろへて、「こなたに限らず、あさましき身なればとて、小判一両持つまじきものにもあらず。」と申す。「いかにもこの金子の出所(でどころ)は、私持ち来たりたる、徳乗(とくじよう)の小柄(こづか)、唐物屋十左衛門(からものやじふざゑもん)かたへ、一両二歩(ぶ)に、昨日(さくじつ)売り候ふこと、まぎれはなけれども、折ふしわるし。つねづね語り合はせたるよしみには、生害(しやうがい)におよびしあとにて、御尋ねあそばし、かばねの恥を、せめては頼む。」と申しもあへず、革柄(かはづか)に手を掛くる時、「小判はこれにあり。」と、丸行灯(まるあんどん)の影より、投げいだせば、「さては。」と事を静め、「ものには、念を入れたるがよい。」と言ふ時、内証より、内儀声を立てて、「小判はこの方へまゐつた。」と、重箱の蓋(ふた)につけて、座敷へいだされける。これは宵に、山の芋(いも)の、煮しめ物を入れて出だされしが、その湯気にて、取りつきけるか。さもあるべし。これでは小判十一両になりける。いづれも申されしは、「この金子、ひたもの数多くなること、めでたし。」と言ふ。 |
主催者(=内助)の言うには、「そのうち一両は、ある所に支払ったので、(十両あると思ったのは)私の記憶違いでした。」と言う。(しかし、)「たった今まで、確かに十両あったのに、不思議なことだ。ともかく、各自の身の潔白を(証明せよ)。」と上座(にいた人)から帯を解くので、その次(の人)も(帯を解いて身を)改めた。三人目にいた人が、渋い顔をして、物を言い、「世の中には、このような不運な事もあるものだ。拙者は衣服をふるうまでもない。小判一両を持ち合わせていることこそ、(不運な)運命のめぐりあわせだ。(疑いをかけられるのは、)思いもよらないこと、(自害して)一命を捨てる。」と思い切って申すので、一同は口をそろえて、「あなたに限らず、(浪人して)落ちぶれてるからって、小判一両を持ち合たないはずではない。(=浪人でも小判一両くらい持ち合わせてる場合だってある)」と申す。(答えて、自害すると言い出した三人目が言うには、)「そのとおり、このお金の出所は、私が持っていた徳乗(とくじよう)の小柄(こづか)を、唐物屋十左衛門(からものや じゅうざえもん)の所へ、一両二歩(ぶ)で、昨日売りましたこと(が一両の出所)、間違いはないけれども、時期が悪い。」 いつも(親しく)語り合はせている縁(えん)としては(ぜひ皆様)、自害におよんだ後に、お調べあそんで、屍(しかばね)の恥を(晴らしてくれるよう)、せめては頼む。」と申しも終わらないうちに、(刀の)革柄(かわづか)に手を掛ける時、(誰かが、)「小判はここにある。」と、丸行灯(まるあんどん)の影より投げだせば、「さては(見つかった)。」と事を静め、「ものには、念を入れるがよい。」と言ふ時、台所より、妻が声を立てて、「小判はこちらの方へ来ていました。」と、重箱の蓋(ふた)につけて、座敷へだした。これ(=重箱)は宵に、山芋の煮しめ物を入れて出したが、その湯気にて、取りつきけるか。そういうことも、ありうるだろう。(しかし、)これでは小判十一両になってしまった。どの人も申すには、「この金子、ひたすら数が多くなること、めでたい。」と言う。 |
- 語句(重要)
- ・それがし - 拙者(せっしゃ)。男性の自称。鎌倉時代以降に用いられた。
- ・持つまじきにもあらず - 「まじき」は打消当然の助動詞「まじ」の連体形、「ず」は打消しの助動詞「じ」の連体形。二重否定によって、強い肯定を表している。
- ・あさましき身 - 落ちぶれた身。
- ・さもあるべし - そういうこともあるだろう。
- ・いづれも - どの人も、どなたも、などの意。
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- 語注
- ・めいよ - 不思議なこと。面妖(めんよう)のなまりか。
- ・十面 - 不機嫌な面。
- ・徳乗(とくじょう) - 後藤徳乗(ごとうとくじょう)という彫金家のこと。
- ・唐物屋 - 中国からの輸入品などを売っている店。工芸品なども扱っていた。
- ・歩 - 江戸時代の貨幣の単位。四分で一両になる。
- ・生害 - 自害。
- ・かばね - しかばね(屍)。
- ・内証 - 奥の間、台所など。応接間では無い場所。この作品では台所のことだろう。
- ・ひたもの - ひたすら。
- ・ - 。
四
編集- 大意
内助の考えるに、だれかが騒ぎを沈めるため一両を出したことになり、その一両を内助は持ち主に返そうとするが、誰も名乗り出ない。また、解決しないので、帰るに帰れない。そこで内助は、小判を外の庭の手水鉢の上に置いて、帰る際に持ち主に取ってもらうように言い、そして一人ずつ戸を閉めて帰すことにした。その後、内助が見ると、小判はなくなっていたので、つまり誰かが持ち帰ったことになる。
こうして、騒ぎは解決した。
主人の機転、座慣れした武士の振る舞い、見事なものだ。
- 本文/現代語訳
亭主申すは、「九両の小判、十両の詮議(せんぎ)するに、十一両になること、座中金子を持ち合はせられ、最前の難儀を、救はんために、御出だし(いだし)ありしは疑ひなし。この一両我が方(かた)に、納むべき用なし。御主(ぬし)へ返したし。」と聞くに、たれ返事のしてもなく、一座異なものになりて、夜更け鶏(どり)も、鳴く時なれども、おのおの立ちかねられしに、「このうへは亭主が、所存の通りにあそばされてたまはれ。」と、願ひしに、「とかくあるじの、心まかせに。」と、申されければ、かの小判を一升枡(いつしようます)に入れて、庭の手水鉢(てうづばち)の上に置きて、「どなたにても、この金子の主、取らせられて、御帰りたまはれ。」と、御客一人づつ、立たしまして、一度一度に戸をさしこめて、七人を七度(たび)に出だして、その後(のち)内助は、手燭(てそく)ともして見るに、たれとも知れず、取つて帰りぬ。 あるじ即座の分別、座なれたる客のしこなし、かれこれ武士のつきあひ、格別ぞかし。 |
亭主(=内助)が申すには、「九両の小判、十両(あったはずだとの)の詮議をしているうちに、十一両になっていること、座中のかたが金子を持ち合わせておられて、目の前の難題を解決するために、お出しになったということに疑いない。この一両を私が受け取る理由が無い。持ち主に返したい。」と聞くが、誰も返事をする人もなく、一座の雰囲気がへんなものになって、夜更け鳥も鳴く時分であるのに、それぞれ帰りづらくなってしまい、(客の誰かが言うには、)「この上は主人の思うとおりになさってください。」と願ったところ、(ほかの客たちも)「とにかく主人の考えに任せる。」と申されたので、あの小判を一生枡に入れて、庭の手水鉢(ちょうずばち)の上に置いて、「どなたであっても、この金子の持ち主が、お取りになって、お帰りください。」と、客を一人ずつ立たせ申して、一回一回ごとに戸を閉めて、七人を七回に分けて(送り)出して、その後内助は、手燭をともして(一生枡を)見ると、(一両を)誰とも分からないが取って帰っていた。 主人の即座の機知、座なれた客のふるまい、あれもこれも武士の付き合いというものは格別なものであるよ。 |
- 語句(重要)
- ・返事のしてもなく - 「して」は「仕手」と書き、する人のこと。
- ・しこなし - ふるまい。うまい処理。
- ・ - 。
- 語注
- ・一生枡(いっしょうます) - 一升が入る枡。「升」(しょう)は容積の単位。一升は約一・八リットル。
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品詞分解
編集一
編集榧・かち栗・神の松・やま草 の(格助) 売り声 も(格助) せはしく(シク・用) 、餅 つく(四・体) 宿 の(格助) 隣 に(格助) 、煤 を(格助) も(係助) 払は(四・未) ず(助動・打消・用) 、二十八日 まで(副助) 髭 も(係助) そら(四・未) ず(助動・打消・用) 、朱鞘 の(格助) そり を(格助) かへし(四・用) て(接助)、「春 まで(副助) 待て(四・命) と(格助) 言ふ(四・体) に(接助)、 是非に(副) 待た(四・未) ぬ(助動・打消・体) か(係助)。」と(格助)、 米屋 の(格助) 若い(ク・体・音便) 者 を(格助) 、にらみつけ(下二・用) て(接助)、 すぐなる(ナリ・体) 今 の(格助) 世 を(格助) 、横 に(格助) わたる(四・体) 男 あり(ラ変・体)。 名 は(係助) 原田内助 と(格助) 申し(四・用) て(接助)、 かくれ も(係助) なき(ク・体) 浪人。 広き(ク・体) 江戸 に(格助) さへ(副助) 住みかね(下二・用)、 こ(代) の(格助) 四、五年、 品川 の(格助) 藤茶屋 の(格助) あたり に(格助) 棚 借り(四・用) て(接助)、朝 の(格助) 薪 に(格助) こと を(格助) 欠き(四・用)、 夕べ の(格助) 油火 を(格助) も(係助) 見(上一・未然) ず(助動・打消・終)。 これ(代) は(格助) かなしき(シク・体)、 年 の(格助) 暮れ に(格助)、女房 の(格助) 兄、 半井清庵(なからゐせいあん) と(格助) 申し(四・用) て(接助)、 神田 の(格助) 明神 の(格助) 横町 に(格助)、 薬師 あり(ラ変・終)。 こ(代) の(格助) もと へ(格助)、 無心 の(格助) 状 を(格助)、 遣はし(四・用) ける(助動・過・体) に(接助)、 たびたび(副) 迷惑ながら、見捨てがたく(ク・用)、金子(きんす)十両 包み(四・用) て(接助)、 上書き に(格助) 「貧病 の(格助) 妙薬、金用丸、よろづ に(格助) よし(ク・終)。」 と(格助) 記し(四・用) て(接助)、内儀 の(格助) かた へ(格助) おくら(四・未) れ(助動・尊・用) ける(助動・過・体)。
二
編集内助 よろこび(四・用)、 日ごろ(副) 別して(副) 語る(四・体)、浪人仲間 へ(格助)、「酒ひとつ 盛ら(四・未) ん(助動・勧・終)。」 と(格助)、 呼び に(格助) 遣はし(四・用)、 幸ひ(副) 雪 の(格助) 夜 の(格助) おもしろさ、 今 まで(副) は(係助)、 くづれ次第 の(格助)、 柴 の(格助) 戸 を(格助) 開け て(接助)、 「さあ(感) これ(代) へ(格助)。」 と(格助) 言ふ(四・終)。 以上 七人 の(格助) 客、 いづれ(代) も(係助) 紙子 の(格助) 袖 を(格助) つらね(下二・用)、 時 なら(助動・断・未) ぬ(助動・打消・体) 一重羽織 、どこやら(副) むかし を(格助) 忘れ(下二・未) ず(助動・打消・終)。 常 の(格助) 礼儀 すぎ(上二・用) て(接助) から(格助)、 亭主 まかり出で(下二・用) て(接助)、「私(代) 仕合はせ の(格助) 合力 を(格助) 請け て(接助)、思ひまま の(格助) 正月 を(格助) つかまつる。」 と(格助) 申せ(四・已) ば(接助)、おのおの()、「それ(代) は(係助)、あやかりもの。」 と(格助) 言ふ(四・終)。 「それ(代) に(格助) つき(四・用) 上書き に(格助) 一作 あり(ラ変・終)。」 と(格助)、 くだんの(連体) 小判 を(格助) いだせ(四・已) ば(接助)、 「さても(感) 軽口なる(ナリ・体) 御事。」 と(格助) 見 て(接助) 回せ() ば(接助)、杯 も(係助) 数 かさなり(四・用) て(接助)、 「よい(ク・体、音便) 年忘れ、 ことに(副) 長座。」 と(格助) 、千秋楽 を(格助) うたひ出し(四・用)、 燗鍋・塩辛壺 を(格助) 手ぐり に(格助) し(サ変・用) て(接助) あげ(下二・未然) させ(助動・使・用)、「小判 も(係助) まづ(副)、御仕舞ひ(四・用) 候へ(補丁・四・命)。」 と(格助) 集むる(下二・体) に(接助)、十両 あり(ラ変・用) し(助動・過・体) うち、 一両 足ら(四・未) ず(助動・打消・終)。 座中 居直り(四・用)、 袖 など(副) ふるひ(四・用)、 前後 を(格助) 見れ ども(接助)、 いよいよ(副) ない(ク・体、音便) に(格助) 極まり() ける(助動・過去・体)。
三
編集あるじ の(格助) 申す(四・体) は(係助)、「そ(代) の(格助) うち 一両 は(係助)、 さる(連体) 方 へ(格助) 払ひ(四・用) し(助動・過・体) に(接助)、 拙者 の(格助) 覚え違へ。」 と(格助) 言ふ(四・終)。「ただ今 まで(副助) たしか(副) 十両 見え(下二) し(助動・過・体) に(接助)、 めいよ の(格助) こと ぞ(終助) かし(終助)。 とかく(副詞) は(係助) めいめい の(格助) 見晴れ。」 と(格助) 上座 から(格助) 帯 を(格助) とけ(四・已) ば(接助)、 そ(代) の(格助) 次 も(係助) 改め(下二・用) ける(助動・過・体)。 三人目 に(格助) あり(ラ変・用) し(助動・過・体) 男、 渋面 つくつ(四・連用、音便) て(接助) もの を(格助) も(係助) 言は(四・未) ざり(助動・打消・用) し(助動・過・体) が(接助)、 膝 立て直し、「浮世 に(格助) は(係助)、かかる(ラ変・体) 難儀 も(係助) ある もの かな(終助)。 それがし(代) は(係助)、身ふるふ(四段・体) まで(副助) も(係助) なし(ク・終)。 金子 一両 持ち合はす(四・体) こそ(係助、係り)、 因果 なれ(助動・断・已、結び)。 思ひ(四・用) も(係助) よら(四・未) ぬ(助動・打消・体) こと に(格助)、 一命 を(格助) 捨つる(下二・体)。」 と(格助) 思ひ切つ(四・連用、音便) て(接助) 申せ(四・已) ば(接助)、 一座 口 を(格助) そろへ(下二・用) て(接助)、「こなた(代) に(格助) 限ら(四・未) ず(助動・打消・用)、あさましき(シク・体) 身 なれ(助動・断・已) ば(接助) とて(格助)、 小判 一両 持つ(四・終) まじき(助動・打消当然・体) もの に(助動・断定・用) も(係助) あら(補動・ラ変・未然) ず(助動・打消・終止)。」 と(格助) 申す(四・終)。 「いかにも(副) こ(代) の(格助) 金子 の(格助) 出所 は(係助)、 私(代) 持ち来たり(四・用) たる(助動・完・連体)、 徳乗 の(格助) 小柄、唐物屋十左衛門かた へ(格助)、一両二歩(ぶ) に(格助)、昨日 売り(四・用) 候ふ(補丁・四・体) こと、まぎれ は(係助) なけれ(ク・已然) ども(接助)、折ふし わるし(ク・終)。 つねづね(副) 語り合はせ(下二・用) たる(助動・完・体) よしみ に(格助) は(係助)、生害 に(格助) および(四・用) し(助動・過・体) あと にて(格助)、御尋ね(下二・用) あそばし(補尊・四段・連用) 、かばね の(格助) 恥 を(格助) 、せめて(副) は(係助) 頼む(四・終)。」 と(格助) 申し(四・用) も(係助) あへ(補動・下二段・未然) ず(助動・打消・用)、 革柄 に(格助) 手 を(格助) 掛くる(下二・体) 時、「小判 は(係助) これ(代) に(格助) あり(ラ変・終)。」 と(格助)、 丸行灯 の(格助) 影 より(格助)、 投げいだせ(四・已) ば(接助)、 「さては(接)。」 と(格助) 事 を(格助) 静め(下二・用)、 「もの に(格助) は(係助)、 念 を(格助) 入れ(下二・用) たる(助動・了・体) が(格助) よい(ク・体、音便)。」 と(格助) 言ふ(四・体) 時、 内証 より(格助)、 内儀 声 を(格助) 立て(下二・用) 、「小判 は(係助) こ(代) の(格助) 方 へ(格助) まゐつ(四・用、音便) た(助動・完・終、口語)。」 と(格助)、 重箱 の(格助) 蓋(ふた) に(格助) つけ(下二・用) て(接助)、座敷 へ(格助) いださ(四・未) れ(助動・尊・用) ける(助動・過・体)。 これ(代) は(係助) 宵 に(格助)、 山の芋 の(格助)、 煮しめ物 を(格助) 入れ(下二・用) て(接助) 出ださ(四・未) れ(助動・受・用) し(助動・過・体) が(接助)、 そ(代) の(格助) 湯気 にて(格助)、 取りつき(四・用) ける(助動・過・体) か(係助)。 さ(副) も(係助) ある(ラ変・連体) べし(助動・推・終)。 これ(代) で(助動・断・用) は(係助) 小判 十一両 に(格助) なり(四・用) ける(助動・過・体)。 いづれ(代) も(係助) 申さ(四・未) れ(助動・尊・用) し(助動・過・体) は(係助)、 「こ(代) の(格助) 金子、ひたもの(副) 数 多く(ク・用) なる(四・体) こと、 めでたし(ク・終)。」 と(格助) 言ふ(四・終)。
四
編集亭主 申す(四・体) は(係助)、 「九両 の(格助) 小判、 十両 の(格助) 詮議 する(サ変・体) に(接助)、 十一両 に(格助) なる(四・体) こと、 座中 金子 を(格助) 持ち合はせ られ(助動・尊・用)、 最前 の(格助) 難儀 を(格助)、 救は(四・未) ん(助動・婉曲・連体) ため に(格助)、 御出だしあり(連語) し(助動・過・体) は(係助) 疑ひなし(ク・終)。 こ(代) の(格助) 一両 我(代) が(格助) 方 に(格助) 、 納む(下二・終) べき(助動・当・体) 用 なし(ク・終)。 御主 へ(格助) 返し(四・用) たし(助動・願・終)。」 と(格助) 聞く(四・体) に(接助)、 たれ(代) 返事 の(格助) して も(係助) なく(ク・用)、 一座 異な(ナリ・体、口語) もの に(格助) なり(四・用) て(接助)、 夜更け鶏 も(係助)、鳴く(四・体) 時 なれ(助動・断・已) ども(接助)、 おのおの(副) 立ちかね(下二・未) られ(助動・自発・用) し(助動・過・体) に(接助)、 「こ(代) の(格助) うへ は(係助) 亭主 が(格助)、 所存 の(格助) 通り に(格助) あそばさ(四・未) れ(助動・尊敬・用) て(接助) たまはれ(補尊・四・命)。」 と(格助) 、願ひ(四・用意) し(助動・過・体) に(接助)、 「とかく(副) あるじ の(格助)、 心まかせ に(格助)。」 と(格助) 、 申さ(四・未) れ(助動・尊・用) けれ(助動・過・已) ば(接助)、 か(代) の(格助) 小判 を(格助) 一升枡 に(格助) 入れ(下二・用) て(接助)、 庭 の(格助) 手水鉢 の(格助) 上 に(格助) 置き(四・用) て(接助)、「どなた(代) に(助・断・用) て(接助) も(接助)、 こ(代) の(格助) 金子 の(格助) 主、 取らせ(下二・未) られ(助・尊敬・用) て(接助)、 御帰り(四・用) たまはれ(補尊・四・命)。」 と(格助) 、御客 一人づつ、立た(四・未) しまし(助・尊・用) て(接助)、 一度一度に(副) 戸 を(格助) さしこめ(下二・用) て(接助)、 七人 を(格助) 七度 に(格助) 出だし(四・用) て(接助)、そ(代) の(格助) 後 内助 は(係助)、 手燭 ともし(四・用) て(接助) 見る(上一・体) に(接助)、 たれ(代) と(格助) も(係助) 知れ(下二・未) ず(助動・打消・用)、 取つ(四・用、音便) て(接助) 帰り(四・用) ぬ(助・完・終)。
あるじ 即座 の(格助) 分別、 座 なれ たる(助動・存続・体) 客 の(格助) しこなし、 かれこれ(代) 武士 の(格助) つきあひ、 格別 ぞ(終助) かし(終助)。