高等学校商業 経済活動と法/契約の効力
意思表示の効力発生時期
編集郵便などで法律的な意思表示をつたえる場合、遠隔地にいる相手(隔地者)に対しては、いつ、法的な効果が発生するのだろうか。
もし、郵便局の赤ポストに入れた時に法律的な効果が発生するとしてしまうと、相手が遠く離れたところに住んでいる場合、郵便局ポストから相手方の家のポストに届くまでに何日も掛かってしまうので、その間に期限切れなどにより法律的な効果が確定するなどの恐れもあり、不合理である。
なので民法では、隔地者に対して法律的な効果が発生する時期は、相手方の家のポストに入った時(「到達」のとき)に、法的な効果が発生する、という法律である。(民97) これを到達主義という。
「到達」とは、相手方の家のポストに入った時のことである。
郵便局員が相手方の家のポストにその郵便物を入れば、たとえ相手が自宅ポストを確認していなくても、法的な効果は発生する。 相手方の家のポストにさえ入れば、たとえ相手がその手紙を読んでいなくても、法的な効果は発生する。
なのでビジネスマンならば、自分の家のポストは毎日、きちんと確認しなければならないだろう。もちろん、会社の役員なども、自分の会社のポストを毎日きちんと確認する必要がある。
ただし例外的に、ある契約に対する申し込みの承諾(しょうだく)については、(例外的に)申し込み者が郵便局ポストに入れた時(「発信」のとき)に、法的な意思表示の効果が有効になる。(民526)これ(発信のときに意思表示が有効になること)を発信主義という。
「発信」とは、手紙の出し手が、郵便局ポストに入れたときである。
つまり「発信」と「到達」の順序は、
- 発信 → 到達
の順である。 なお、手紙を受け手が読んで内容を知ることを「了知」(りょうち)という。「発信」「到達」「了知」の順序をまとめると、
- 発信 → 到達 → 了知
の順になる。
まとめると、隔地者(遠隔地にいる者)に対する手紙など郵便物の意思表示の発生時期は、原則的には到達主義であるが、例外的に契約の申し込みに対する承諾では発信主義である。
受け手が了知しなくても法的な効果が発生するので、なので、ビジネスマンなら自宅の郵便ポストは毎日きちんと確認すべきだろう。
(範囲外: )なお、自宅が複数あって、離れた場所にそれぞれ自宅が場合などは、毎日それぞれの自宅ポストを確認しにアナタ自身が移動するのが大変なので、そういう場合は郵便局に「転送」(てんそう)を申し出て、どれか1つの自宅のポストに郵便物をまとめて送ってもらうと良い。「転送」とは、使ってない自宅ポストなどを宛て先(あてさき)にして送られた郵便物を、転送先の自宅ポストに送ってくれるサービスである。
平均的な収入の労働者でも、転送を使う場合がある。たとえば、勤務先の会社の近くにアパートを借りて住む場合、すでに実家が別の場所にあるなら、自宅宛ての郵便物を転送してもらう必要がある場合もある。(このように、たとい別荘などを保有している富豪でなくとも、転送が必要な場合がある。
(範囲外: )電子メールの契約については、民法の到達主義に関する法律の適用外であり、電子契約法などの特別法に基づく(もとづく)事になる。(参考文献: 有斐閣『民法総則』、加藤雅信) ※ 当Wikibooks教科書『高等学校商業 経済活動と法/契約の効力』での上述の効力発生時期についての説明は、特に断り書きのないかぎり、郵便局員などが実際に運ぶ手紙における、法的な効力の発生時期の説明である。
配達証明郵便と内容証明郵便
編集さて、郵便局員などが実際に運ぶ手紙についてのハナシに戻る。
- 配達証明郵便
配達証明郵便というサービスは、その郵便の発信日時の証明を、郵便局が証明してくれる郵便である。
なお一般の郵便には、このような配達証明のサービスは、ついてない。配達証明サービスをつけると、そのぶん、郵便料金は高くなる。
- 内容証明郵便
また、内容証明郵便というサービスは、その郵便の発信日時および「どんな内容の郵便を出したのか」という記録の証明を、郵便局が証明してくれる郵便である。けっして、手紙の内容そのものが合法かどうかは、内容証明郵便では証明しない。
一般の郵便には、このような内容証明のサービスは、ついてない。内容証明サービスをつけると、そのぶん、郵便料金は高くなる。
配達証明郵便と内容証明郵便とは,ちがうサービスである。
内容証明郵便の手続きはわりかし複雑である。内容証明郵便を出すには、同じ内容の手紙を3枚複写で作成する必要がある(1枚は郵便局で保管用、1枚は差出人の保管用、1枚は相手方に送付する. )とか、その手紙と封筒を開封したまま郵便局に持参するとか、要件がある。
高校範囲外の話題
編集範囲外: 配達証明つきの内容証明郵便
編集配達証明郵便とはちがう単なる内容証明郵便だけでは、相手方に郵便物が到達したかどうかは証明できない。なので、実務的には「配達証明つきの内容証明郵便」で発信する必要がある。
民法は、郵送物の法的効力については、前述したとおり到達主義をとっているので、もし相手側が「到達してない」と主張すれば、効力を発揮しないからである。
また、配達証明つきの内容証明郵便では、郵便郵便料金は、内容証明料金に配達証明料金が上乗せされて、単なる内容証明郵便よりも、さらに高額になる。
範囲外
編集また、内容証明郵便は書式が決まっており、縦書きの場合なら1行26字で1枚20行までとか、要件がいろいろとある。なので実務のためには、あらかじめ内容証明郵便について勉強しておくこと。なお、文房具店などに内容証明郵便のための原稿用紙が売ってるので、必要な場合には、それを買うと良いだろう。
しかも、かならずしも、すべての郵便局では内容証明郵便をあつかっておらず、一部の郵便局だけが内容証明郵便のサービスを扱っている。なので、もし実務で内容証明郵便を使いそうな場合は、地元の郵便局などに内容証明サービスを扱ってるかを、事前にたずねておいて確認のこと。もし地元の郵便局では内容証明郵便を扱ってない場合には、内容証明を扱ってる最寄りの郵便局はどこかなど、たずねておくこと。
範囲外: 「内容証明郵便」への勘違いを悪用した詐欺
編集(範囲外: )※ 詐欺などの事例だが、あたかも内容証明郵便の内容そのものの合法性を、あたかも郵便局が証明してるかのように言って、不当な請求書などを送りつけてカネをだまし取ったり、あるいは逆に、払うべき金銭を踏み倒そうとするなどの例がある。
もし内容証明郵便などで覚えのない請求書が届き、「郵便局が内容を承認した内容なので、合法な請求だから、請求どおりにカネを払え」と郵便が来たら、単なる詐欺(さぎ)の論法なので、無視するか、あるいは警察などに被害届などを出すか、または裁判(民事訴訟)を起こそう。内容証明郵便は、けっして、その手紙の内容が合法かどうかについては、いっさい審査しない。
同様に、詐欺などで、手紙の発信者が裁判をちらつかせて、内容証明郵便で請求の手紙を送り、「請求書どおりにカネを払わないと、裁判を起こします。この手紙は内容証明郵便ですので、裁判所が証明しています。」などと発信者が口頭で発言したりしてても(手紙だと詐欺の証拠が残るので、口頭で発言したりする)、単なる詐欺の論法である。なぜなら、内容証明郵便は、そもそも裁判所の管轄ではないし、また、けっして手紙の内容の合法性を裁判所が審査する制度でもない。
なお、このような「内容証明郵便」への勘違い(てっきり「郵便局が合法性を審査して、合法だと承認した」(×)という勘違い)を悪用した詐欺を行う人物は、かならずしも悪徳企業だけとは限らない。
たとえば、もし、あなたの近くの人物と、法的なトラブルになった時にも、残念ながら、そういう詐欺的な行為を行う人物は、発生するかもしれない。たとえば住宅の近隣トラブルや、あるいは祖父母の死去などでの相続などでの遺産分配の親族どうしの意見の割れ、などのあった場合でも、相手方が自分の主張を「内容証明郵便」として郵便局に配達すれば、もし手紙の受け手が無知なら、その主張の合法性を郵便局が承認したと勘違いするわけだから、もしも無知な人が手紙の受け手なら、たとい不当な主張でも、手紙の不当要求や不当請求を信じてしまうだろう。
ひとくちに「近所住民」といっても、これから人生で何十年もアナタは生きるし、アナタは引越しや転勤などで様々な場所に引っ越すだろうし、近所の住民のほうだって引越し等によって住民が入れ替わっていく。その結果、何十人どころか100人以上もの色んな人が、あなたの自宅の近所の住民になる。残念ながら、その100人以上もの近所住民の中には、詐欺的な行為を平気で行う人物もいる。
相続でも同様である。あなたの親戚は、たくさん居るのだ。たとえアナタ自身が1人子だとしても、親戚の人数は、少なくとも、あなたの父母の兄弟姉妹(つまり叔父や叔母)、さらに、その叔父や叔母の結婚相手やその叔父夫婦の子供などを含めれば、親戚が十数人もの人数になる場合もある。残念ながら、その十数人もの中には、詐欺的な行為を平気で行う人物もいる可能性だってある。
このように内容証明郵便は、配達日時や配達内容を郵便局が記録してくれる郵便なので、もし、法律的に発信日時が重要になるような、重要な請求などの手紙を送る場合は、内容証明郵便を用いるのが良いだろう。
その他の詐欺師の手法と対策
編集内容証明の制度とは別だが、あたかも裁判所などの権限のあるように相手をおどす詐欺師などのよくやる手法のひとつとして、(アナタの)自宅や職場などに押しかけ、帰らないでいる不退去(ふたいきょ)がある。これは刑法で犯罪とされている不退去罪(ふたいきょざい)であるので(刑法130条)、不退去のものは、さっさと警察に通報しよう。
詐欺師がもし内容証明郵便を本当に出すと、郵便局などに記録が残ってしまうので、詐欺師によっては、記録の残らない不退去の手法に出ようとしてくる者たちも少なからずいる。もちろん、不退去は犯罪である。
あたかも、正当な権利があるかのようにダマした上で、要求が通るまで自宅などから帰らないというのがある。
日本の法律は、民間人どうしの自力救済を禁じているので、たとい示談(じだん)はありえても、けっして不退去が許されるなんて、アリエナイのである。