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財産 編集

自然人や法人は、「権利の主体」である。

いっぽう、財産は、権利の対象となりうる。 なので、財産は「権利の客体」と呼ばれる。

民法でいう「物」とは、形のある有体物(ゆうたいぶつ)のことである。(民85) 有体物とは、固体または液体、気体などの形状のもの。土地・建物・本・洋服・水・石油 などは有体物である。

電気は形がないが、電気は取引の対象になってるので、例外的に電気は物として扱われる、


不動産と動産 編集

不動産とは、土地、および土地に定着している物。 不動産でいうところの、土地に定着している物とは、建物、石垣、橋、など。

つまり、不動産とは、土地、建物、石垣、橋 など。

土地や建物は、不動産登記簿での登記の対象になる。(不動産登記法 2条)

動産とは、不動産以外の物である。(民 86)

主物と従物 編集

金庫と鍵(かぎ)の関係が、主物(しゅぶつ)と従物(じゅうぶつ)の関係である。

金庫が主物であり、鍵が従物である。

建物と畳(タタミ)は、主物と従物の関係である。建物が主物で、タタミが従物である。

このように、物の物とのあいだで、一方が他方に付属する関係の場合、それぞれ主物と従物という。 補われるほうの物が主物であり、補うほうの物が従物である。

主物を売る時は、原則として従物も一緒に相手に売られる。 例えば金庫を売るなら、特にことわりの無いかぎり、その金庫の鍵も一緒に買主に売られるのが原則である。


元物と果実 編集

民法でいう「果実」(かじつ「)とは、日常用語での「果実」とは、意味が異なる。 民法でいう果実(かじつ)とは、物から得られる収益のことである。

例えば、建物を貸すことで、家賃が得られる。この場合、家賃が、民法でいう「果実」である。いっぽう、この場合の「建物」は「元物」(げんぶつ)である。

民法の果実には、天然果実(てんねん かじつ)と法定果実(ほうてい かじつ)がある。

田畑から得られる米、果物(くだもの)、乳牛から得られる牛乳などは天然果実(てんねんかじつ)に分類される。

畑から得られるリンゴやミカンなど普通のくだものは、天然果実である。

建物から得られる家賃は、法定果実(ほうていかじつ)に分類される。

賃料、利息などの収益が、法定果実である。(民88)


物権と債権 編集

物権 編集

所有権(しょゆうけん)は、他人の介在なしに、自由に使用、貸し出し、売却などができ、このように所有権は物を自由に支配できる。たとえば一般のスーパーマーケットで物を買ったりする場合、その物を所有権を買っている事になる。

所有権は、物権の一種である。

物権(ぶっけん)とは、人が、ある一定の物を、排他的に支配できる権利のことである。

読者は「物権」といわれれば、とりあえず「所有権」のような権利を思い浮かべればいい。

なお、所有権は、たとい、その物を実際に手元で持たなくても、買い主がその物の所有権を買いさえすれば、その物の所有権を手に入れることができる。所有権をこういう仕組みにする事により、その物を貸し出して賃料(ちんりょう)などの利益を得るなど取り引きも可能にしている。(※ 参考文献: 中央大学出版部『高校生からの法学入門』、中央大学法学部 編、初版、72ページ)

債権 編集

いっぽう、カネの貸し借りなどに関する、貸し主が借り主からカネを返してもらう権利は、「債権」(さいけん)というのに分類される。債権は、物権ではない。(債権については、のちに債権に関する単元で説明する。この単元では、この節以外では、おもに物権について説明する。)

いったん話題を債権でなく物権にハナシを戻す。

(物件のハナシ:) ある物についての所有権(これは物権である。債権ではない。)は、世界中のどんな他人に対しても主張できる。つまり、所有者は、自分こそが、その物の所有者であることを、法的には主張でき、売買や譲渡などの所有権を移転させる行為をしないかぎり、他人を勝手に所有者にさせる事を規制できるだろう。(このような性質を「絶対性」という。) また、所有権にかぎらず、物権は、世界中のどんな他人に対しても、その物権の権利者は、権利を主張できる。

(以下、債権のハナシ:)

いっぽう、カネの貸し借りのような話題、つまりカネを返してもらう債権(さいけん)については、カネを借りた相手以外には、無関係(借金取りや、裁判官などの関係者を除けば)の話題である。(※ 参考文献: 三省堂『現代法入門』、神田英明ほか、ページ83)

要するに「債権」は、契約が完了するまでのあいだ、その契約を完了させるための努力を実行しろ、と相手方に命令できる権利である。カネの貸し借りの契約なら、借り主は、貸し主に「全額返済するまで、借りたカネをきちんと返しつづけろ」と命令してるわけだ。で、契約の当事者以外は、そもそも債権とは無関係なわけだ。なお、債務(さいむ)は、債権の相手方の義務である。

なお、売買における、代金をもらった売り主が、商品を買い主に引き渡す義務も、債務である。いっぽう、代金を支払った側である買い主が、売り主に対し、買った商品を引き渡すように請求できる事は、債権である。

債権とは何かをより厳密に説明すると、

債権とは、他人に対して、一定の行為を請求できる権利である。(※ 参考文献: 川井健『民法入門 第7版』、有斐閣、195ページ)(※ 参考文献: 野村豊弘『民事法入門』、有斐閣、第6版、27ページ)(※ それぞれの参考文献をもとに「債権」の定義を統合。)

などのように、法学書などでは「債権」とは何かが説明されている。

物権の種類 編集

このように物権は、所有権のように(原則的に)他人を排除できる強い権利であるため、法律であらかじめ物権の種類が定められており、勝手に物権を創出することは禁止されてる。このこと(勝手に物権を創出することは禁止)を、物権法定主義という。

民法で、物権の種類として定められている権利は、所有権、占有権、 地上権、永小作権(えいこさくけん)、地役権(ちえきけん)、入会権(いりあいけん)、 留置権、先取特権、質権、抵当権 の10種類である。

地上権、永小作権、地役権、入会権 を用役物権(ようえき ぶっけん)という。

留置権、先取特権、質権、抵当権 を担保物権(たんぽ ぶっけん)という。

所有権 編集

土地の所有者は、その土地を、他人の介在なしに、自由に使用、貸し出して地代を得たり、そのほか売却などができ、このように所有権は物を自由に支配できる。

実際には、公共の福祉や、各種の法令(土地収容法や建築基準法など)の範囲内などのもと、土地を使用・貸し出しなどをすることになる。 しかし、それらの法令の範囲内なら、いっさい自由に、その土地を支配することができる。


また、土地や建物の支配については「相隣関係」という制約があって、隣接する他人の土地や建物に迷惑をかけないように調整しなければならない様々な制約がある。


  • 相隣関係の例

自分の土地であっても、他人の土地から50cm未満の箇所には、建物を建てられない。


他人の土地に囲まれて、そのままだと公道にでれない袋地(ふくろぢ)の所有者は、公道に出るために、囲んでいる側の他人の土地(囲繞地:「いじょうち」または「いにょうち」)を、一定の制限はあるが通行できる。また、囲んでいる側の土地所有者は、その通行を許可しなければならない。(民210) この権利を囲繞地通行権という。


  • 所有権と占有について

ある人(たとえばA氏とする)が所有物を他人(例えばBとする)に盗まれたり奪われても、所有権は移動しない。(中央大学出版部『高校生からの法学入門』、初版、63ページ) もし、Aが所有物(例えば自転車)をBによっても盗まれても、その所有物の所有権はAのままである。 このように、所有権は強い権利である。

しかし、Aに所有権があるからといって、自分で勝手に奪い返すのは禁止されているので(自力救済の禁止)、かわりに、裁判所などに訴えるなどして、国家権力によって取り返してもらう必要がある。

自転車をBに盗まれた場合、その自転車は、Bが占有(せんゆう)している事になる。

「占有」(せんゆう)とは、ある物を手元に所持していたり、その物が建物なら住んでいたり、その人の家の中にその物を置いていたり、など、管理下に置いていることである。

占有は、その物が正当に手に入れたかどうかを問わない。

もちろん、正当に入手した物を所持してる場合も、占有である。例えば、正当に店頭で購入した洋服を着ている場合も、その洋服を占有している事になる。

占有(せんゆう)と所有(しょゆう)は違う概念なので、混同しないように。

このように、ある物を占有をしている人は、被害者による自力救済が禁止されてるので、たとえその占有物が盗んだものであっても、占有者は当面はその物を所持できる権利があり、このような権利を占有権(せんゆうけん)という。

  • 一物一権主義と、その例外

原則的に所有権については、ひとつの物については、最大で一人の所有者しか存在しない。これを一物一権主義という。

ただし、例外であるが、複数の人物が共有する場合、たとえば人Aと人Bがカネを出し合ってバイクを買って、二人で使うような場合、AとBはそれぞれ、その物(例ではバイク)の共有者には、なれる。(※ 共有も、検定教科書の範囲内。東京法令出版の教科書に記述あり。) 「共有」については民法249条に規定がある。

※ 本教科書 Wikibooks『高等学校商業 経済活動と法』では、以降、「所有」といったら、特に断り書きのないかぎり、原則的に1人の所有者のみであると考えることにして、いっぽう共有は想定しないとする。
  • 所有権の歴史

世界各国や日本の古代や中世において、所有権は、かならずしも1つの物に1つの所有者とはかぎらず、例えば封建時代などでは、ある1つの土地について、領民の所有権と、領主の所有権があったりする場合もあった。しかし現代では、このような封建的な「所有」のありかたは、日本や欧米各国では認めていない。(※ 参考文献: 有斐閣『法律学入門 第3版増補訂』、佐藤幸治ほか、)

現代のビジネスでは、所有権を原則的にひとりに限ることにより、売買の交渉などでは1人の所有者を相手にして交渉すればいいので、ビジネスがすばやく行えるようになるという長所もある。


用役物権 編集

地上権 編集

他人の土地において、建物などの工作物を建てたり、植林などのために、その土地を使用できる権利のことが地上権(ちじょうけん)である。(民265) 地下にトンネルを通したり、上空にモノレールを通すことも地上権に含まれる。

永小作権 編集

他人の土地において、小作料を支払って、農耕や耕作を行う権利のことが永小作権(えいこさくけん)である。(民270)

地役権 編集

通行したり引水したりなどの、自分の土地の利益のために、他人の土地を使用できる権利のことが地役権(ちえきけん)である。(民280)

入会権 編集

農村などにおいて、古くからの慣習にもとづいて、農村の人々が山や原野で、たきぎをひろったり、草をひろったりする権利のことが入会権(いりあいけん)である。(民263、294)


物権的請求権 編集

ある物に対する所有権というのは、その物を占有して支配していいという権利であるので、もし占有が第三者によって侵害されたら、当然、その侵害をやめるように、その第三者に請求できるという権利がある。このような権利を物権的請求権といい、返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権の3つがある。

返還請求権 編集

物を盗まれた人は、その物を現在、占有している人に、返してもらうよう、請求できる。これを返還請求権という。

たとえば、BがAから盗んだ物を占有している場合、物を盗まれた人Aは、この物を盗んで占有している相手 Bに、返還を請求できる。

A から盗んだ人Bがその物を占有しておらず、その物をCが占有しているという場合、AはCに返してもらうように請求できる。

物を盗まれても、所有権は移動しないのが、ポイントである。つまり、所有権は、盗まれたAにあるまま。 Bによって物が盗まれたとき、占有の状態はBに移動するが、しかし所有権は、いっさい移動しない。

つまり、ある物の所有権をもつ人が、その物を占有している人に対して返還を請求する権利が、返還請求権である。


妨害排除請求権 編集

Bが、他人Aの所有する土地に、勝手に自動車を停めたりいた場合、土地の所有者AはBに対して、自動車を停めるのをやめるように請求できる。(※ 検定教科書(東京法令出版)にある例)このような権利が、妨害排除請求権である。

所有する土地を勝手につかわれたAは、Aによる占有をさまたげられてるのだから、その状態(占有をさまたげる行為)を排除するように請求できる、というわけである。

ゴミを勝手に捨てられた土地の所有者が、ゴミを勝手にすてた相手に、ゴミの撤去を請求できるのも、妨害排除請求権である。(※ 有斐閣『民法 総則・物権』山野日章夫) (私見: ゴミの不法投棄の対策などで重要だろう。)


妨害予防請求権 編集

隣地に崖(がけ)があって、その崖が崩れおちそうなら、その崩落の予防を隣地の所有者に請求できる。(※ 有斐閣『民法総則』、加藤雅信) このような権利が、妨害予防請求権である。

隣地の木が、自分の土地に倒れてきそうなら、その予防を請求できる。(※ 検定教科書(東京法令出版)にある例) これも妨害予防請求権である。