高等学校商業 経済活動と法/自然人の行為能力と制限行為能力者制度

自然人の行為能力と制限行為能力者制度 編集

意思能力と行為能力 編集

私たちが経済行為をするとき、あるいはそれ以外でも、他者とかかわるとき、正常な意思と意識と判断のもと行われていることが常に期待されている。

常識的にも法律的にも、3歳の子供(普通幼稚園には3/31に3歳の子が年少組として、4月に入学しますよね)の行為は、成人の行為とはかなり違った視点で見られるだろう。まず仮に借金したところで、この借金は無効と取り扱われて、妥当ですし、法律的にもそうなっています。

民法 第一編 総則 第二章 人 第二節 意思能力 第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

意思能力(いしのうりょく)とは、意思表示などの法律上の判断において自己の行為の結果を判断することができる能力(精神状態・精神能力)、のこと、ですね。(これはWikipediaから引用)

※ 「意思能力」は学説では古くからあったが、民法の条文では、2017年制定で2020年から施行の改正民法まで、条文には「意思能力」の規定が無い状態が長らく続いていた。そこで、2017年に制定した改正民法では、「意思能力」に関する規定が条文に新設された。当然、2020年現在の改正民法では、「意思能力」の無い契約は無効であると民法の条文でも明確に定められている。
※ ただし、改正民法の条文では、具体的に何が「意思能力」の不足している例なのかの定義は具体例は無く、よって裁判の判例(はんれい)などにその言葉の解釈と判断の参照を委ねる(ゆだねる)ことになる。

そして、幼児には、一般に意思能力は認められないだろう。重度の酩酊者(めいていしゃ)は、ビールの注文の意思能力は認められても、不動産の売買などについては意思能力を認められない。(※参考文献: 有斐閣『民法総則』加藤雅信、第2版、76ページ)

売買や借金や各種の契約などのように、自分の意志によって権利や義務を発生させる行為のことを法律行為(ほうりつ こうい)という。

意思能力の無い人物による法律行為は無効となり、また、その取引(とりひき)をなかったことにできる。

幼児や酩酊者などのような類型的な場合なら、意思能力のなかった事の証明は割と簡単であるが、しかし、それ以外の一般的な場合だと、意思能力の無かったことの証明が難しい場合も多い。

かといって未成年者や、成年でもある程度の問題を抱えているように思われる人が、借金などの不利な契約をしてしまうと、周囲の人間や両親親類、その人に何らかのかかわりのある人達は困惑し、事実上不利益を得るだろう。

未成年者の場合は保護者の同意を得ずに行える行為を、法律によって制限している。

いっぽう、一般の成年の大人のように、契約などの法律行為を1人で行える資格のことを、行為能力という。

法律的にこの行為能力がないと示した人物は、事実上法律行為が制限される。

このように行為能力が制限された人物のことを制限行為能力者という。

(※ 範囲外: 現代の「制限行為能力者」に当たる概念は、かつては「無能力者」と言われていました。現代では民法上は「制限行為能力者」という用語に改められていますが、文献などでは「無能力者」という表現が使われていることもあるでしょう。要するによくある昔使われていた差別的な表現というやつですが、基本的に人間は差別大好き、過激な言葉で他人を貶めるのが大好きなので、言葉を言い換えても、人を貶めたい、差別したいという気持ちは一向に無くなりませんし、新たな、抗議しづらい差別的、侮蔑的な表現は今日も次々生み出されて、社会のあらゆるところで使われています。)

一般的には、未成年や重症のアルコール、薬物中毒者、重い精神病や認知症にある者は、制限行為能力者になりうる。

民法では、制限行為能力者を、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人、の4つに分類している。

制限行為能力者 編集

未成年者 編集

未成年者とは、20歳未満の者である。(但し 2022/4/1施行の改正民法で 18歳未満に引き下げられる)。未成年者が法律行為をするには、原則として、法定代理人の同意が必要である。(民5)

未成年者の法定代理人とは、親権者(父母) (民818、819)、親権者がいない場合は未成年後見人である。(民839、841)

しかし、未成年でも、単に物を受け取ったり、借金を免除してもらうなどの、未成年が単に利益・権利を得たり義務をまぬがれるだけの行為については、法定代理人の許可は不要である。(民5(1))

また、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様に自由に扱うことができる。(民5(3))

未成年者でも営業ができるが、法定代理人の同意が必要である。法定代理人があらかじめ許可した営業については、未成年者は単独で営業をできる。(民6)

被補助人、被保佐人、成年被後見人 編集

成年であっても、精神上の障害などの理由で、十分に正当な意思や判断を保持できないと考えられる場合は、本人や家族などの請求により、家庭裁判所の審判によって、被保佐人、被補助人、成年被後見人などになりうる。そして、行為能力が制限される。

行為が大きく制限される順に、成年被後見人、被保佐人、被補助人である。(※ 参考文献: 有斐閣『基本民法 I』大村敦志、第3版、平成23年、172ページ.)

成年被後見人 編集

精神上の障害などにより、意思や判断の正当な状況を保持できないと考えられる者に対して、本人や家族などの請求で、家庭裁判所は後見開始の審判をすることができる。そして後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人となり、成年後見人が付される。(民7,8)

成年被後見人は、他の被保佐人、被補助人と比べ行為の制限が大きく、成年被後見人の行った法律行為については、成年被後見人の同意がなくても、その行為の取り消しができる。(※参考文献: 有斐閣『民法総則』加藤雅信、第2版、84ページ)

成年被後見人が行った法律行為は、日用品の購入などの基本的な一定の行為を除いて、本人または成年後見人によって、取り消し可能である。

また、預金の管理など、重要な財産の管理については、成年後見人が行う。(※ 参考文献: 東京法令出版『経済活動と法』(検定教科書)、長瀬二三男、17ページ)

原則としては、18歳以上の日本国民に選挙権が与えられている。しかし様々な理由、根拠で例外は生じる。受刑者や特定の法に違反した者に対して、法の下時期を明示したうえで選挙権は拒否されている。成年被後見人に対しても、過去、公職選挙法に明文化された上で選挙権を有しないとされていたが、2013年東京地方裁判所での違憲判決をきっかけに法改正され、現在選挙権は認められている。

被保佐人 編集

保佐人の同意を得ないで行われた不動産の売買や借金の契約などは、被保佐人本人または保佐人の請求によって取り消すことができる。(民13)

被補助人 編集

補助人が、預金の管理などをする場合は、被補助人の同意が必要である。(※ 参考文献: 東京法令出版『経済活動と法』(検定教科書)、長瀬二三男、17ページ)

制限行為能力者と取引をした相手方の保護 編集

制限行為能力者と取引をした相手方は、1か月以上の期間を定めて、法定代理人・保佐人・補助人に対し、取引を認めるかどうかの確答をせよと催告(さいこく)することができる。

その期間内に確答しない場合、法律上は、制限行為能力者側がその取引を認めたことになる。(民20(2))

なお、制限行為能力者が相手方をだます手段を用いて(詐術(さじゅつ))、自分は行為能力者であると偽った場合、保護されず、その取引を取り消すことができない。(民21)

法定後見制度と任意後見制度 編集

法定後見制度 編集

成年被後見人、被保佐人、被補助人の制度は、法定後見制度である。

任意後見制度 編集

まだ判断・意思の充分な人が、将来的に判断能力の不十分になることにそなえて、本人のかわりに財産管理や療養看護などの事務をおこなうための任意後見人を代理権を与えるという任意後見契約を結ぶという任意後見制度がある。

おもに高齢者を想定して、任意後見制度が導入された。(※参考文献:有斐閣『民法 総則・物権』山野目章夫、201ページ)

たとえば、ある高齢者が任意後見制度を利用する場合、任意後見制度では、本人(つまり高齢者)の判断・意思が不十分になったら、任意後見人が、代理を行い始める。

また、任意後見人が不正などなく代理業務を行っている事を監視するための任意後見監督人が、家庭裁判所によって選任される。

任意後見人の選任は、家庭裁判所の選任ではない。家庭裁判所が選任するのは、任意後見監督人である。

「後見事項の登記に関する法律」によって、一定の事項が登記(とうき)される。(後見登記に関する法律 5条)