ゆく河の流れ 編集

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  • 本文/現代語訳

ゆく河(かわ)の流れ(ながれ)は絶えず(たえず)して、しかも、もとの水(みず)に あらず。 よどみに 浮かぶ(うかぶ) うたかたは、かつ消え(きえ) かつ結びて(むすびて)、久しく(ひさしく)とどまりたる ためしなし。 世(よ)の中(なか)に ある 人(ひと)と すみかと、また かくのごとし。

流れゆく川の流れは絶えることなくて、それでいて、もとの水ではない。よどみに浮かぶ水の泡は、一方では消え、一方では出来て、長い間とどまっている例はない。世の中にある人と住みかとは、また、このようである。

  • 大意

世の中のものはすべて、いつかは死んで滅びる。一見すると、長年変わりのないように見える物でも、たとえば川の流れのように、古いものが消えては、新しいものが来ているという結果、外から見ると川の形が変わらずに見えているだけに過ぎないように、じつは川の中身が変わっており、川の昔の水は流されてしまうように、決して、ある人が永久に繁栄しつづけることは出来ない。


  • 語句(重要)
・絶えずして - 「絶え」は動詞「絶ゆ」の未然形。「して」は接続助詞。
よどみ - 川などの流れの一部分が、障害物で停滞すること、または停滞した部分。現在でも、文学に限らず、川や風などの液体・気体の流れで、障害物などにより、周囲よりも流れが遅くなり停滞している箇所がある場合、そのように流れの停滞している箇所の事を、「よどみ」(淀み)と言う。
かつ消えかつ結びて - 「かつ」は副詞。「かつ」の意味は「一方では」。「一方では消えて、もう一方では出来て」。
ためし - 前例。先例。
かくのごとし - このようなものである、の意味。「ごとし」は比況の助動詞であり、意味は「まるで・・・のようだ」。
  • 語注
・うたかた - 水面の泡。はかない物のたとえ。
・ - 。

対句になってる箇所 編集

「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。」

「よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」

において、それぞれ対句は、

・「ゆく川の」 と 「よどみに浮かぶ」
・「流れは」 と 「うたかたは」
・「絶えずして」 と 「かつ消えかつ結びて」
・「しかも・・・あらず」 と 「ひさしく・・・ためしなし」

などのように対句になっている。参考書によって区切り方が微妙に違うので、あまり厳密には、こだわらなくて良いだろう。

次の文の 「世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」にも対句がある。

・「人」 と 「すみか」

が対句になっている。

品詞分解 編集

ゆく(動詞・四段・連体) 河(名詞) の(格助詞) 流れ(名詞) は(係助詞) 絶え(動詞・下二段・未然) ず(助動詞・打消・連用) して(接続助詞)、 しかも(接続詞)、 もと(名詞) の(格助詞) 水 に(格助) あら(補助動詞・ラ変・未然) ず(助動・打消・終止)。 よどみ(名) に(格助) 浮かぶ(四段・連体) うたかた(名) は(係助)、 かつ(副詞) 消え(下二・用) かつ(副詞) 結び(四・用) て(接助)、 久しく(形容詞・シク・用) とどまり(四段・用) たる(助動・存続・体) ためし(名) なし(形・ク・終)。 世の中(名) に(格助) ある(動・ラ変・体) 人(名) と(格助) すみか(名) と(格助)、 また(副詞) かく(副詞) の(格助) ごとし(助動・比況・終止)。