高等学校工業 電子回路/増幅回路の基礎
トランジスタやダイオードは、温度が高くなると、抵抗が下がり、さらに電流が流れやすくなる。そして、電流が流れやすくなると、その電流による熱により、さらに温度が上がる。すると、さらに抵抗が下がるので、どんどん電流が流れてしまい、どんどん温度が上がってしまい、ついには、破壊されてしまうという、熱暴走が起きる危険がある。
このような熱暴走を起こさないため、さまざまな回路が考えられている。
自己バイアス回路
編集自己バイアス回路は、つぎのような仕組みにより、熱暴走をふせいでいる。
- 1) 前提として、なんらかの理由で IC が増加したとする。
- ↓
- 2) すると、RCIC が増加するので、 VCE=VCC-RCIC により、 VCEが減少する。
- ↓
- 3) VCEが減少したことにより、IBも減る。
- ↓
- 4) ベース電流IBが減ったことにより、コレクタ電流も減るので、IC が減る。
という仕組みで、熱暴走をふせぐ。
なお、この回路は「電圧帰還バイアス回路」(voltage feedback bias circuit)ともいう。
電流帰還バイアス回路
編集- 1) もしICが増加すると、REの両端の電圧 VREも増加する。
- ↓
- 2) すると、VBEが減少するので(なぜなら VBE=VB-VREであり、後述するがVBは(ほぼ)一定なので。)、IBが減る。
- ↓
- 3) IBが減れば、トランスジスタ出力側のICも減る。
こういう仕組みで、安定化する。
ほとんどの回路の場合、I1やI2に比べて、IBは微小である。
なので、実用上は、ほとんどの場合、
- I1 ≒ I2
である。 おおよそI1が、IBの10倍以上なら、I1 ≒ I2と近似してよい。
このことから、電圧VEの大きさは、オームの法則により、ベース電圧が
というふうに簡単に求まる。
そして、ベース電圧VBが一定値であるという事実が、さきほどの式から分かる。
こうして、仕組みの説明(2)で、VBがほぼ一定と見なせる、と言ったことの根拠が、証明された。
この回路は、安定性は高いが、抵抗による消費電力が大きいのが欠点である。
交流信号の増幅
編集
増幅器は、入力信号のオン/オフの切り替えに、反応させやすい回路構造が、望ましい。
そして、スイッチなどを、オン/オフの切り替えをすると、電圧波形や電流波形は起伏ができるから、交流っぽい形になっていく。
ところで、コンデンサ素子は、交流電流を通す性質がある。なので、コンデンサは、交流信号を通す。
ならば、増幅器とコンデンサを組み合わせると、都合がいい。
交流信号を増幅するには、図のように、コンデンサを使えばいい。(※ 高校物理で習うように、)コンデンサは、交流電流を通す。
ただし、この回路図での交流電源の電圧の大きさは、直流電源の電圧 Vccよりも、小さめにしておく必要がある。直流電圧よりも交流電圧 viを小さめにしておけば、交流電圧の波形の谷のぶぶんの状態でも、 つねに
- Vcc+vi>0
の状態になるので、 ベース電圧がつねにプラスなので、ベース電流を流しつづけられる。
図のように、REに並列に加えるコンデンサCEをバイパスコンデンサ(by-pass capacitor)という。
CEは、REの電圧変化による、増幅度の低下を防ぐ目的である。
なお、C1は、交流電圧だけを通過させて、トランジスタのベースに渡すためのコンデンサである。
C2は、トランジスタ出力のうち、交流電圧の成分だけを通すためのコンデンサである。
入力インピーダンス(h_ie)
編集-
トランジスタの静特性 (2SC1815)
-
入力インピーダンス h_ie の説明。
傾きが分かりやすいように、やや大げさにグラフを描いてある。
トランジスタの静特性の第3象限のVBE - IB 特性を見てほしい。
上式のhieによって、そのトランジスタの入力インピーダンス(input impedance)を定義する。
ベースの交流電圧をibとして、ベースエミッタ間に印加される交流信号をvbeとすれば、
である。
また、この式を電圧についてまとめると、
である。
電圧増幅率
編集トランジスタ回路の電圧増幅率 Av の定義は、入力電圧をviとして、出力電圧をvoとしたとき、
で定義される。
さきほどの節で導入した入力インピーダンスを使って入力電圧を書き換えることができる。
のことだから、つまり、
よって
である。
入力インピーダンスで書き換えた入力電圧の式を、電圧増幅率の定義式に代入すれば、
である。
右図2.1のような回路の場合、
よって、
と求まる。
なお電流増幅率 Aiは、定義式は
である。つまり
である。
電力増幅率 APは、定義式は
である。つまり
である。