高等学校政治経済/経済/物価の動き

物価指数 編集

物価のうち、企業間で取引きされる卸売の段階での物価を企業物価という。 一方、物価のうち、一般の最終消費者が商品を購入するときの物価を消費者物価という。

この企業物価を算出する方法は、企業間の取引きで、よく取引きされる商品についてウェイトをつける計算方法で、企業物価指数を算出する必要がある。

いっぽう、消費者物価を算出するには、最終消費者がよく消費する商品についてウェイトをつける計算方法で、消費者物価指数を算出する必要がある。

消費者物価指数および企業物価指数とも、基準年を100とした指数である。

物価と市場メカニズム 編集

インフレの場合 編集

物価の持続的な上昇はインフレーション(inflation)と呼ばれる。

インフレの原因は一般的に、ある商品を買いたい人の多さに対して(つまり、需要に対して)、商品不足である(つまり供給不足)。

市場メカニズムを考えれば、その原因が思いつくだろう。 つまり、商品が少ないからこそ、あるお店で値上げをすれば、他のお店で買うこともできないだろうし(もしくは他のお店を探すのがメンドクサイ)、どうしても買う必要のある人がいれば(需要があれば)、たとえ値段が上昇しても、ガマンできる金額であれば(その金額の高さというデメリットよりも、「買いたい」という需要が強ければ)、消費者はそのお店でその商品を買うわけである。

このような仕組みを経済用語でまとめると、インフレの原因は一般的に、その物価水準において供給よりも需要が大きい時に、インフレが発生しやすい。

数式っぽく不等号で表せば、インフレが起きやすい場合とは、

需要 > 供給

である。

  • インフレの、原因による分類

需要の増加によって、需要が供給より大きくなって発生するインフレーションをディマンド・プル・インフレ(demandーpull inflation)という。

いっぽう、供給側の生産コストの上昇によって起きるインフレーションをコストプッシュ・インフレ(costーpush inflation)という。

  • インフレと通貨価値

インフレになると、インフレの原因がなんであれ、通貨の価値が下がったことになる。ひとつの物を買うのに、より多くの額面の金銭が必要んなるので、たとえば日本のインフレだとしたら、つまり貨幣1円あたりの価値が下がったことになる。

インフレ現象を、物を基準に見ると、通貨の価値が下がったことになる、 一方、通貨を基準にインフレをみると、インフレによって、物の金銭価値が上がることになる。

  • インフレと貯金・借金

インフレによって、貯金の価値は下がる。

また、借金の負担も、インフレによって、下がる。たとえば10万円の借金をしていても、インフレによって物価が10倍になれば、昔は1万円だった物をインフレ後に1つ売れば、それで借金が返せることになる。10倍インフレ前なら、1万円のものを10個売らなければならなかったわけだから。(じっさいのインフレでは、国の深刻な財政破綻などでないかぎり、このような急激なインフレは起きないのが普通。あくまで、わかりやすくする目的のため、急激なインフレで説明している。)

このように、インフレは、借金の借り手にとっては有利である。 裏をかえすと、借金の貸し手のとってはインフレは不利である。

なお、インフレによって、これから、名目上の利子率、利息率が上がる。

すると、これから借りる借金の利子も上がるので、これから借りる人にとっては、不利になる。しかし、すでに借りている人にとっては、その借金の契約条件での利子率が(例外として物価連動などの条件を利子率につけてないかぎり、)昔の利子率のままなので、これから借りる人よりも、昔に借りた人は利子率が低いことになる。


デフレの場合 編集

いっぽう、持続的な物価の下落はデフレーション(deflation)と呼ばれる。 デフレの原因は、一般的に、供給が余ってることである。

市場メカニズムとの関係を考えてみよう。 お店の都合からすれば、何らかの原因で、今までどおりの価格のままでは商品が売れないからこそ、しかたなく値段を下げる必要があるので、物価が下がるのである。

たとえば、もし消費者が、あまりその商品に需要がないのに、もし、その商品の値段が高ければ、そんな高額商品は買いたくないのが当然だろう。

でも、もし、その商品の値段がすごく下がれば、「こんぐらい安ければ、買ってもいいだろう」と思う消費者も増えるだろう。

つまり、値段が下がることで、需要が増える。もちろん、販売店の売上(うりあげ)は下がるが、まったく売れないよりかはマシである。お店の商品は、保管するだけでも、倉庫代などが掛かるのである。いわゆる「在庫品」(ざいこひん)には、費用が掛かるのである。

お店が商品の値段を下げたら、消費者の需要がこうして上がるが、一方、市場メカニズムにおける供給はどうなるのだろうか。値段を下げたところで、その瞬間には、その商品を保有しているお客さんの人数は変わらないので、値段(つまり物価)を下げても、べつに供給は増えない。

結局、値段を下げると、とりあえず、その瞬間には、需要だけが増加して、供給はそのまま不変である。

ともかく、需要不足だとデフレになりやすい。 読者は「不足」の基準を何にするかという疑問があるだろうが、とりあえず経済学では、インフレの場合の「 需要 > 供給」の条件で供給を基準にしたように、デフレも供給を基準に考えよう。

数式っぽく不等号で表せば、デフレが起きやすい場合とは、

需要 < 供給

である。(デフレの条件式の不等号の向きは、インフレの場合と逆向きである。)

物価と景気との関係 編集

インフレと景気との関係 編集

先ほどの節の説明のとおり、市場での商品不足は、インフレを引き起こしやすい。 一方、商品不足なら、もし商品を販売すれば、ほぼ確実に売れるだろうから、好景気を引き起こしやすい。

よって、このように商品不足の場合、インフレと好景気が連動する場合もある。

しかし例外もあるだろう。たとえば、インフレの原因が、たとえば国家財政における財政不安・財政危機などによって通貨の信用が暴落した場合や、あるいは戦争・大災害などにより工業地帯などが破壊されて商品不足などが起きた場合などには、消費者は将来不安のために生活必需品以外の消費を控える可能性もあるので、かならずしもインフレだからといって好景気になるとは限らない。

なお、不況とインフレ(物価高)が同時に進行する現象をスタグフレーション(stagflation)という。(停滞(スタグネーション)とインフレーションをあわせた用語)

1973年の石油危機は、「狂乱物価」(きょうらん ぶっか)と呼ばれる物価上昇(インフレ)をもたらし、スタグフレーションをもたらした。 (※ 第一学習社の検定教科書『高等学校 政治・経済』が、石油危機をスタグフレーションと認定している。)

なお、この1973年の石油危機のとき、トイレットペーパーが品薄になるというウワサが流れ、スーパーなどの日用品売場にトイレットペーパーを買い求める消費者が殺到した。

さて、インフレになると、場合によっては、金銭をもっていても価値が下がっていくので、貯金をするよりも、物を買って、物資として資産をたくわえようという意識が働く結果、消費が活発になり景気が良くなる場合もある。


デフレと景気との関係 編集

一方、商品が欲しくない、つまり需要不足( 需要 < 供給)なら、デフレが起きやすいのであった。

消費者がある商品が欲しくないってことは、その商品を扱ってる販売店や生産者からすれば、販売や生産を扱ってる商品が売れないので、その商品の販売会社・生産メーカーなどは倒産しかねないってことである。もし、多くの会社が潰れれば、不況になってしまう。

こういうデフレの場合、デフレと不景気が連動する場合もある。もちろん、例外もあるだろう。

ある会社がつぶれても、その会社の競争相手の別会社にとっては好都合かもしれない。あるいは技術改善によって価格の減少が起きる場合もある。

さて、インフレと不況が同時進行することを「スタグフレーション」と呼ぶのであった。

一方、不況とデフレが同時進行している場合を考えてみよう。

まず、なんらかの不況または景気不安によって、生産者・販売者らが生き残りのためのコスト・ダウンをして、デフレになったとしよう。

すると、そのコスト・ダウンによって、競合他社も値下げさぜるを得ず、さらに価格競争が起きる。すると、さらに、最初に値下げした業者も、競合他社に対抗するため、またまた値下げする。すると、どんどん販売価格が下がる。

そして、販売価格が少ないので、せっかく商品を売っても、利潤が少ない。この結果、デフレによって所得が、名目だけでなく実質的にも低下したことになる。


そして、労働者の所得が低下すれば、当然、消費に使える金銭が減るので、消費が不活発になり、さらに不況になるだろう。

 
らせん

このように、なんらかの原因で、不況とデフレが同時進行することをデフレ・スパイラルという。(「スパイラル」とは、「らせん」という意味。「スパイラル」という単語自体には、その循環が、良い循環か、わるい循環かの、決まりはない。つまり、「デフレ・スパイラル」とは、けっして文字通りの単なる「デフレの循環」意味ではなく、「デフレが不況を深刻化させる」という価値判断を「デフレ・スパイラル」という単語は含んでいる。)

このデフレ・スパイラルが悪循環となって、景気を低迷させ続けかねない、というのが、近年の定説である。(検定教科書でも、そういう立場である。)

2002年に政府から「総合デフレ対策」が出るのは、おそらく上記のようなデフレ・スパイラルの不安があったのだろう。


経済史としては、実際にデフレ・スパイラルという現象が起きているかはともかく、1999年ごろから日本政府はそう認識したようであり、2002年以前から既にデフレを止めようとする政策は行われていた。

歴史的に実際、1999年以降の一時期、ゼロ金利政策(1999年)、量的緩和政策(2001年)などといったインフレ誘導的な政策が行われた[1]

平成の「長期デフレ」はやや疑問視されている

「デフレ・スパイラル」の検定教科書で説明しているような意味は、本当はウソかもしれず、単に2002年の「総合デフレ対策」のための政府見解なだけでしかないかもしれない。


2000年以降、世間での通説では「デフレを放置しつづけると不況が深刻化」みたいなのがデフレ・スパイラルの定義とされ、その実例が平成の長期不況だといわれるが、しかしそもそも令和の2020年代から振り返ると、平成の日本経済は、デフレ(物価下落)というよりかはディスインフレ(物価が上昇してない)というのが統計的な事実であった。

実際、内閣府の統計で西暦2000年を基準とした内閣府の消費者物価指数の統計を見ると、1992年以降から2010年まで100%±2%の程度を推移しつづけているのが実態である[2]

こういう分析は別にwikiのオリジナルではなく、たとえば大学1年レベルの普通の経済学の教科書でも(たとえば有斐閣(ゆうひかく)アルマの経済学シリーズ)、統計などをもとに、そもそも平成の日本経済が言われてるほどデフレでないことは普通に周知されている。(物価の基準を西暦何年に取るかによって物価指数の値は変わってしまうので一概には「デフレでないとは」言えない。)

内閣府のサイトを信用するなら昭和の好況だといわれた1980年代(物価は80~95%)よりも、むしろ平成の100%台のほうが物価は高い。


もちろん、第二次世界大戦の終わった戦後の復興期の日本でのインフレと比べれば平成には物価上昇率が低下またはゼロ付近になったが、しかし平成のそれは正確には「物価下落」(デフレ)ではなく「ディスインフレ」(非インフレ)というべきである。

つまり、仮に平成の不況の原因が物価だとしても、それは「ディス・インフレによる不況」にすぎず、けっしてデフレ不況ではない。

その他、ITメディアの経済記事でも似た分析があり、引用すると下記のように、

「このようにして物価と経済が連動して縮小し続けることを「デフレスパイラル」と呼びます。
 図4を見る限りでは、日本以外の先進国は軒並み物価が上昇し続けているので、「インフレ」であることが分かります。一方で、日本の物価は横ばいです。「継続して物価が下落し続けている」というわけでもないので、デフレスパイラルとまではいえません。むしろ、ここ数年ほどは若干上昇傾向なので、「極めて穏やかなインフレ」ともいえます。」[3](以上、引用)

と分析している。

そして2013年になれば、日本は自民党の安部政権でインフレ誘導をし始めたので、もう2013年以降からの日本の不況はデフレとはあまり関係ない。


平成の1990~2010年のこの時期、欧米の諸外国では物価指数がプラス気味でインフレ傾向だったので、もしかしたら「欧米先進国と比べて物価指数が低ければ不況になるのでは」という仮説はあるかもしれないが、しかしそれは「デフレ・スパイラル」の定義とされる物価の下落がさらなる次の物価下落と不況を呼ぶという理論とは何の関係もない。

このように、「デフレ・スパイラル」はあまり現実の長期統計を説明できていない。


1990年以前、経済学においてインフレ不況の理論はあったが、デフレ不況の理論は乏しかった。なので、学問の改革をしようと経済学者たちはデフレ不況の理論を1990年代に精力的に研究して構築した。それ自体は素晴らしい研究業績である。戦前の日本での松方デフレやらの研究などもこの時代に進んだようであり、多くの学問的な業績が出ただろう。

しかしそれは、けっしてその研究当時の平成が長期デフレであったことの証拠にはならない。

たとえば明治時代の日本では文明開化によって欧米の考古学を導入したので古代日本の研究が進んだが、しかし明治時代は縄文時代ではない。犯罪心理学の研究者は犯罪者ではないし、推理小説の作家も犯罪者ではない。そもそも、江戸時代に国学者の本居宣長(もとおり のりなが)は平安時代の文学を研究したが、しかし江戸時代は平安時代でもない。

なのに、なぜ平成の経済学者がデフレ研究をすると、それだけで「平成時代はデフレ」という証拠として採用するのか、意味不明な思考回路である。


2002年に日本政府は(日本は)「デフレ・スパイラルに陥っている」と発表したといわれ、不況打開のための「総合デフレ対策」を発表した[4]。しかし、前提となるその政府の分析は上述コラムのように、2020年代の現代から見ると少し疑問がある。

たしかに1997年から見れば、デフレ傾向ではある。1997年から2002年まで、物価指数は減少を続けているし、97年の拓銀の破綻や98年の長銀の破綻で日本経済は不況ムードになった。

リーマンショック後の2009年の民主党政権の誕生時、民主党政府は日本経済が「デフレ」状況にあると宣言した。

当時、一部のマスコミ報道では、あたかも対立政党の自民党は日本経済がデフレであることをかたくなに認めなかったように一部では報道されたが、しかしそれは上述の2002年の「総合デフレ対策」を考えれば分かるように、まちがった報道であろう。

また、内閣府の統計を見ると、(リーマンショック後の時期である)2008年と2009年は物価指数が100%以上である(つまり、基準年よりもインフレ)。


「デフレ・スパイラル」の本当の理解には数学が必要

そもそも本来、経済学的には「デフレ・スパイラル」という言葉じたいには、不況か好況かは関係なく(どちらでもいい)、現在のデフレによって未来のデフレの程度が強化される現象のことが「デフレ・スパイラル」の本来の意味である可能性すらある。(※ 参考文献: 『小室直樹の経済原論』、初版は1998年11月、)。ただし、『小室直樹の経済原論』が出た当時、日本が不況だったので、小室はその原因をデフレに求めているが。


実際、小室の書籍で「インフレ・スパイラル」という表現も使われている。経済現象では、しばしば、賃金と物価がともに上昇しつづける現象がよく起こる。小室はそれを、典型的な「インフレ・スパイラル」の例だと述べている。[5]

なお、日本だけでなく米国でも、インフレ・スパイラル inflationary spiral と言う用語がスタグフレーションなどの議論で使われるツイッター Paul Krugman@paulkrugman の引用先の経済学者ブラッドフォード・デロング(カリフォルニア大学バークレー校教授)のツイート発言 。なお出典のひとつのクルーグマンは2008年のノーベル経済学者。どうもインフレ・スパイラルを無視してデフレ・スパイラルを語る論法は、日本でしか通用しないガラパゴスな経済認識のようだ。


物価が上がるから賃金が上がるのか、それとも賃金が上がるから物価が上がるのか、よく分からないが、つまり、どっちが先に上がったのかは不明だが、ともかく、

・・・ → 物価上昇 → 賃金上昇 → 物価上昇 → 賃金上昇 → ・・・

というような現象がよくあり、こういうのを小室は「インフレ・スパイラル」の一例とした。

デフレ・スパイラルは、上述のようなインフレ・スパイラルを逆にしたものにすぎない。


さて、さきほどの

・・・ → 物価上昇 → 賃金上昇 → 物価上昇 → 賃金上昇 → ・・・

を見ても、物価の変動と賃金の変動のどちらが先かが不明である。このため、物価と賃金のどちらが原因なのか、どちらが結果なのか、不明である。

つまり、物価と賃金のように相互作用するものは、「→」のような矢印を使って論理関係を記述するのが困難である。


しかし、経済学は、このような現象であっても、普通に各種の数値を計算することができることが知られている。

数学的には不正確な推論だが、

小室は、たとえば経済学の公式で

国民所得 Y = 消費 C + 投資 I

という昔からよく使われる公式を例に、下記のように説明している。

この公式は単なる一次方程式であるのにかかわらず、この数式を見るだけで、なんと国民所得と消費の関係について、仮に投資Iを一定値だとすれば、

数学的には「消費が1上がると、それから国民所得も1上がる」または「国民所得が1上がると消費が1上がる」の片方でしかないが、しかしこれを小室は拡張して、数値的には不正確だが、スパイラル「消費が上がると国民所得も上がり、それによってまた消費も上がる」ことのモデルとした。

数学的にはまったく不正確な計算だが、しかし実際の20世紀のケインズ政策的な公共投資がこれと似たような考え方で行われてきたので(ただし消費Cではなく投資Iが駆動源だが)、まったくのデタラメな推論とは言えないし、歴史的にはニューディール政策など多くのケインズ的な政策に実例すらある。(※ どうしても数学的な厳密性にこだわるなら、記号をイコール「=」ではなく別の記号に変えるなどの工夫が必要かもしれない。ただし、小室はそのような工夫はしてない。本ページでも説明の単純化のため、小室と同様の一次方程式の記法で表現する事とする。)


小室の著作では紹介されていないが、経済学では下記の式が昔から知られている。

すでに経済学者サムエルソンが、所得Yと消費Cを数列の方程式にして、計算を行っている。

サムエルソンなどにより、式

 
 
 

ただし、

  •  : GDP
  •   はt期の消費。 は基礎消費。
  •   はt期の投資。 は独立投資。
  •  : 消費性向
  •  : t期(時間)
  •  : 加速度係数

が提唱されている。これは数列の連立方程式である。計算は頑張れば高校レベルでも計算可能だが(数列の式なので)、高校生には時間の節約のため計算の説明は省略する(詳しくはwikipedia『w:乗数・加速度モデル』を参照)。これをサムエルソンの「乗数・加速度モデル」という。

小室はおそらくサムエルソンの式を参考にしたのだろう。しかし、スパイラルの説明では、小室はサムエルソンの式を紹介していない。


代わりに小室は、 単純な一次方程式

国民所得 Y = 消費 C + 投資 I

を使い、近似的な記法とみなした推論が必要だが、単純な方程式を使うことで、なんと相互関係も記述できてしまうとした[6]。(※ ただし、数値の具体的な算出には役立たない。)


小室によれば、国民所得の上昇を好景気だとすれば、

「Y=C+I」という式だけで、

・・・国民所得の上昇 → 消費の上昇 → 国民所得の上昇 → 消費の上昇 → ・・・

というスパイラルを表せたことになる[7]としている。


ところで、我々は物価を考察しているのであった。小室は特に物価の公式は例示してはいないが、本wikiで説明のために物価の式を非常に大雑把だが近似式であらわせば、

物価=材料費+賃金

とでもなるだろう(だと仮定する。実際はもっと複雑だが)。

すると、これは一次方程式だから、上述の議論と同様に、スパイラルが起きることになる。 小室は物価と賃金のあいだにもスパイラルがあるとして、それを「物価・賃金スパイラル」と呼んでいる[8]


さきほどの議論では、物価がインフレかデフレかの議論はしていないことに注目せよ。(なお、小室の参考文献の該当ページ P.369 ではインフレを例に説明している。)


さて、日本の1980年代あたりまでのバブル経済では、

物価の上昇と(インフレ)、国民所得の上昇がおおむね連動していた。つまり

・・・国民所得の上昇 → 物価の上昇 → 国民所得の上昇 → 物価の上昇 → ・・・

というスパイラルである。

なので、つまりデフレが起きれば、インフレの場合の逆の結果が起きるだろうという予想が、(バブル崩壊後の1990年代では)自然であろう。

すると、つまりバブル崩壊後の経済予想として、

・・・国民所得の下落 → 物価の下落 → 国民所得の下落 → 物価の下落 → ・・・

という予想が自然である。これがデフレ・スパイラルの一例である。


小室は、参考文献として1992年の評論家・宮崎義一(みやざき よしかず)の『複合不況』をあげているが、しかし宮崎は「複合不況」という表現を用いている。(「デフレ・スパイラル」ではない)

なお、小室は経済学はフィードバックを伴うから実験できないと述べているが[9]、しかし、それは間違いだろう。なぜなら、たとえば工業高校の電気系学科で習うフィードバック回路など、普通に実験ができるので、この理由は間違いだろう。

小室は述べていないが、量子力学では実験そのものが原理的に誤差を引きおこす現象が知られているが(「不確定性原理」)、しかし量子力学のそれはフィードバックとは呼ばずに普通は「擾乱」(じょうらん)などと言う。ただし量子力学の擾乱は、原子や電子などの微細なもの(物理学におけるミクロ)に対する現象であるから、マクロ経済のようなマクロ解析に量子論の「擾乱」を当てはめるのも間違いだろう。

どちらにせよ、小室の「フィードバック」を原因とする説明は間違いであろう。

さて、話題をスパイラルに戻すと、ともかく、デフレ・スパイラルの対義語として「インフレ・スパイラル」という用語も1990年代の過去に小室の書籍などで提唱されており、このインフレ・スパイラルによって、1989年の不動産バブル崩壊までの物価上昇を説明する言説なども1990年代には あった。たとえば、

地価が上がる → 値上がりを期待して不動産屋が買い占める → ますます地価が上がる → ますます不動産屋が土地を買い占める → ……

とか

物価が上がる → 貨幣への期待が下がる → ますます物価が上がる → ますます貨幣への期待が下がる → ……

のような現象を「インフレ・スパイラル」と呼んでいたわけだ。

なお、小室の書籍では、バブルの物価高については、地価ではなく一般的に「価格」という表現を用いて、

→価格上昇 → 予想 → 価格上昇 → 予想 → 価格上昇 →・・・

と表現している[10]

デフレ・スパイラルの本来の意味は、上記の土地と不動産屋の例の逆のような現象が起きるだろうという予想であり、つまり、

物価が下がる → 投資家になんらかの行動を引き起す → 投資家のその行動の結果、ますます物価が下がる → 投資家にその行動がますます加速する → ますます物価が下がる → ……

というような予想が、本来の「デフレ・スパイラル」の意味であった。


この本来の「インフレ・スパイラル」や「デフレ・スパイラル」の意味のほうが、経済学的には、不況かどうかの主観的な判断もなく客観的であり、そのため数式にもしやすく、本来の意味のほうが数理的にも経済学的にも望ましいかもしれない。


しかし、デフレ・スパイラルの用語が流行した1990年代、日本で不況が深刻化したので、当時の経済評論で、不況と本来の意味の「デフレ・スパイラル」を関連させる言説が流行していくうちに、いつしか世間では、「デフレ・スパイラル」の意味が変わり、不況とデフレが同時進行することに意味が変わっていった。

なので、検定教科書などにある「デフレ・スパイラル」の意味は、経済数学などでは、あまり意味も無い。

サムエルソンの「乗数・加速度モデル」と、小室の著作にかかれた「インフレ・スパイラル」と「デフレ・スパイラル」の関係を知っていれば、つまりデフレ・スパイラル論は、インフレなどの研究に活用された「乗数・加速度モデル」の手法および成果を近似的に用いてデフレを研究・制御・記述などをしようという手法であろう。


日本では1990年代には経済学者の小室直樹などがデフレ・スパイラルとインフレ・スパイラルを本来の意味で使っていたが、小室の痛烈なマスコミ批判によって小室はテレビなどでは取り上げられず不遇であり、テレビの経済番組やその手下たちの経済評論では、表面的に「デフレ・スパイラル」の経済学的な原理を知らない評論家たちによって流行語として取り上げられるようになっていたのである。また、世間の大衆は、サムエルソンの公式のような数学の連立の数列方程式などを理解しないので、本来の意味では理解できない。

世間の大衆は、1990年代当時の経済学者の書いた本など読まないので「デフレ・スパイラル」の本来の意味など確認しようともしないので、意味が修正されずに、現在まで続いている。

日本のセンター試験や大学入試などに出てくるような経済史の暗記などは、本来の経済学とは全くの別物である。本来の経済学は、微分積分などを使って、経済を数式で表すことにより、政策などのために、投資額や予算などの具体的な金額を算出するための理論体系が経済学である。


デフレと貯金 編集

さて、デフレになると、商品が安く買えるので、貯金のある人にとっては有利である。(なお、インフレは、貯金の価値を減らすのであった。このように、インフレとデフレは、貯金の価値に対して、逆に作用する。)

さて、貯金のない人にとっては、これからオカネを稼がないといけないが、デフレになると、せっかくオカネを稼ぐために働いても、すでに貯金のある人と同じ金額を貯めるまでに、より長い期間が必要である。

たとえば、かりに、日本のサラリーマン平均年収1000万円のインフレ時代があったとして、その後、デフレによって、平均年収100万円になったとしよう。(じっさいには、このような急激なデフレは起きないのが普通。あくまで、わかりやすくする目的のため、急激な例で説明している。)

この条件の場合、むかしは、1000万円を1年で稼げたことになる。しかし、デフレ後だと10年間、働き続けないといけない。

デフレが起きても、けっして、それまでの貯金が消失するわけではない。なので、年収1000万円時代の人の貯金が消えるわけではない。

このように、貯金の無い人にとって、デフレは不利である。(なお、インフレなら、貯金のない人には有利なのである。)

(※ 範囲外:)ケインズ経済学の元ネタでもある経済学者ケインズは、緩やかなインフレを、金利生活者にとっての「安楽死」と表現した[11]。結局、インフレでもデフレでも、誰かが不利益をこうむる(少なくとも一時的には)。2010年以降、インフレを求める意見は市井(しせい)に多いが、しかしケインズ経済学を根拠にインフレ誘導政策を要求するなら、それは「安楽死」である自覚ぐらいはもってもらいたいものである。さて、ケインズ自身は高齢者社会保障にはあまり関心は無かっただろうが、じつは年金受給者は「金利生活者」のようなものでもある[12]。あるいは、仮に年金自身は物価に対して中立的だと仮定しても(つまり、年金を「金利」とみなすべきではないとしても)、それでも一般的に高齢者は若者に比べて貯蓄が多いの実際であり、なのでよく経済評論ではインフレは高齢者に不利だとも言われる。いちおう、日本の年金は「マクロ経済スライド」といって、インフレの場合は年金給付額もそのぶん多くなるのだが、その負担は若者に行っているわけである。ともかく、誰も負担しない物価政策など、ありえない。ケインズ風に言うなら、どの政策でも誰かを「安楽死」させるわけだ。

一般に、金利生活者や年金生活者、あるいは貨幣として多額の貯蓄を持った生活者は、インフレは望まない傾向があるとされる[13]。一方、企業者や経営者はデフレやそれに伴う不況を嫌う傾向があるとされ


日本の近年の景気 編集

1973年の第一次石油危機にインフレになり、また1979年の第二次石油危機のときもインフレになり、1980年代後半から80年代末ごろまでインフレになっただ。しかし、1990年頃のバブル崩壊後からは、ずっとデフレ傾向が続いている。

2016年の現在、日本では、デフレが不況を深刻化・長期化させる原因だろうと考えられており、そのため政府は、財政政策などによって、物価上昇率2%ていどの、ゆるやかな物価上昇率のインフレを目指してると思われている。(※ 清水書院の検定教科書『高等学校 新政治・経済』など、いくつかの教科書出版社の検定教科書に、そういう見解がある。)

このように、政策によって、望ましいインフレ率を実現しようということをインフレ・ターゲットという。

日本では、デフレからの脱却という意味でインフレ・ターゲットという意味が使われるが、一方、発展途上国では、急激なインフレによる経済不安のため、インフレ率を抑えようという意味でも、「インフレ・ターゲット」という単語が用いられる。

ハイパー・インフレとクリーピング・インフレ 編集

第二次大戦前のドイツで起きたような急激なインフレのように、短期間で物価が大幅に上昇する急激なインフレをハイパー・インフレ(hyper inflation)という。

いっぽう、年率数パーセントていどの持続的なインフレをクリーピング・インフレ(creeping inflation)という。クリーピングとは、「しのびよる」という意味。

※ 範囲外: 貨幣錯覚 編集

物価政策による景気刺激策は、国民の経済への「勘違い」を利用しています。

ケインズ経済学に「貨幣錯覚」という概念があります。これは、多くの消費者は、実質値ではなく名目値で判断するという、経済学の経験則です。

20世紀の第二次世界大戦後の時代、欧米の多くの国で、工業化などによる物価の上昇にもかかわらず、土木公共事業などによってり仕事を強制的につくる事で、景気を刺激して向上させる事により(いわゆる「ケインズ政策」 )、結果的に、物価上昇と景気上昇とを20世紀後半は連動させてきた。

そのため21世紀の現代にも、物価と景気を混同する勘違いをしている者が、どこの国にも一定の割合でいる。

しかし、このように物価上昇と景気を連動させるような経済政策の欠陥として、

・ 物価が再現なく上がりつづける危険性。
・ 土木公共事業のための歳出(さいしゅつ)や、業者などへの補助金などにより、国の財政の借金が増えてしまう。

という問題点がある。

なお、「工業化」などによる発展という理念が、土木公共事業などの公共投資を正当化するための口実であった。そして、工業化による経済発展による税収増加が、公共投資したぶんの金額を回収するための手段でもあった。

なので、もし、その国が、工業化のための公共投資を行ったのに、政府が期待したほどには税収が増えなかった場合に、もはや公共事業などの景気刺激策を政府が続けるのが困難になり、不景気に陥りかねない。

それでも景気刺激などのための公共事業や補助金政策などを減らさずに景気刺激策を続けようとする場合、政府は、その景気刺激策のための資金をあつめる必要があり、税金を増やすか、国債を追加発行する必要がある。

  1. ^ NHK 『第10回 市場経済における金融の働き | 公共 | 高校講座』 8:00 あたり
  2. ^ 長期経済統計 物価 - 内閣府
  3. ^ 本当に日本は「デフレ」なのか、「物価」から見る日本の「実質的経済」の実力 「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(5)(3/4 ページ)2021年07月12日 11時00分 公開, 小川真由/小川製作所,MONOist
  4. ^ 教養番組「知の回廊」20 「日本経済のゆくえ」 中央大学
  5. ^ 小室直樹、『小室直樹の経済原論』(復刊本)、東洋経済新報社、2015年6月11日発行(原著は1997年の刊行)、P330
  6. ^ 小室直樹、『小室直樹の経済原論』(復刊本)、東洋経済新報社、2015年6月11日発行(原著は1997年の刊行)、P363
  7. ^ 小室直樹、『小室直樹の経済原論』(復刊本)、東洋経済新報社、2015年6月11日発行(原著は1997年の刊行)、P365
  8. ^ 小室直樹、『小室直樹の経済原論』(復刊本)、東洋経済新報社、2015年6月11日発行(原著は1997年の刊行)、P369
  9. ^ 小室直樹、『小室直樹の経済原論』(復刊本)、東洋経済新報社、2015年6月11日発行(原著は1997年の刊行)、P362
  10. ^ 小室直樹、『小室直樹の経済原論』(復刊本)、東洋経済新報社、2015年6月11日発行(原著は1997年の刊行)、P384
  11. ^ 『第5章 ケインズの経済学』 P48 2022年4月6日に確認.
  12. ^ コトバンク『世界大百科事典 第2版「金利生活者」の解説』 2022年4月6日に確認.
  13. ^ コトバンク『世界大百科事典 第2版「金利生活者」の解説』 2022年4月6日に確認.