まず、宇宙線の観測により、ミュー粒子というのが、発見されている。
範囲外: どうやって素粒子を観測するか
編集そもそも、どうやって素粒子を観測するかというと、いくつかの方法があるが、
- 写真乾板。(素粒子観測用の乾板を「原子核乾板」という)
- 霧箱
などが使われた。
産業などの実用化に成功している分野
編集霧箱(きりばこ)
編集(※ 高校で習う範囲内。X線や原子核の単元で、霧箱(きりばこ)を習う。)
霧箱(きりばこ)という、蒸気のつまった装置をつかうと、なんらの粒子が通過すると、その粒子の軌跡で、気体から液体から凝着が起きるので、軌跡が、目に見えるのである。(※ 検定教科書では、原子核の分野で、霧箱について習う。)(イメージ的には、飛行機雲のようなのを、イメージしてください。)
で、磁場を加えた場合の、軌跡の曲りぐあい等などから、比電荷までも予想できる。
このように、霧箱をつかった実験により、20世紀前半〜中盤ごろには、いろいろな粒子が発見された。
ミュー粒子以外にも、陽電子(ようでんし)が、霧箱によって発見されている。
(※ 範囲外:)世界初で陽電子を実験的に観測したアンダーソンは、霧箱に鉛板を入れることで陽電子を発見した。
というか、(ミュー粒子の発見よりも)陽電子のほうが発見は早い。
(※ 範囲外:)また、陽電子は、量子力学のシュレーディンガー方程式に、特殊相対性理論とを組み合わせた、「ディラックの方程式」から、理論的に予想されていた。
反物質
編集まず、「陽電子」という物質が1932年に鉛板を入れた霧箱(きりばこ)の実験でアンダーソン(人名)によって発見されており、陽電子は質量が電子と同じだが、電荷が電子の反対である(つまり陽電子の電荷はプラスeクーロンである)。(※ 鉛板については高校の範囲外。)
そして、電子と陽電子が衝突すると、2mc2のエネルギーを放出して、消滅する。(この現象(電子と陽電子が衝突すると2mc2のエネルギーを放出して消滅する現象)のことを、「対消滅」(ついしょうめつ)という。)
陽子に対しても、「反陽子」がある。反陽子は、電荷が陽子と反対だが、質量が陽子と同じであり、陽子と衝突すると対消滅をする。
中性子に対しても、「反中性子」がある。反中性子は、電荷はゼロだが(ゼロの電荷の±を反対にしてもゼロのまま)、質量が同じで、中性子と対消滅をする。
陽電子や反陽子や反中性子のような物質をまとめて、反物質という。
(※ 範囲外: )放射性同位体のなかには、崩壊のときに陽電子を放出するものがある。最先端の病院で使われるPET(陽電子断層撮像法)技術は、これを応用したものである。フッ素をふくむフルオロデオキシグルコースという物質はガン細胞によく取り込まれる。PET診断では、これに(フルオロデオキシグルコースに)放射性のフッ素 18F をとりこんだ放射性フルオロデオキシグルコースを用いている。(※ 啓林館の『化学基礎』の教科書に、発展事項としてフルオロデオキシグルコースがPET診断で使われてることが紹介されている。)
ミュー粒子
編集
反物質とは別に、ミュー粒子が、宇宙線の観測から、1937年に見つかった。
このミュー粒子は、電荷は、電子と同じだが、質量が電子とは違い、ミュー粒子の質量は、なんと電子の約200倍の質量である。
ミュー粒子は、べつに陽子や電子の反物質ではないので、べつに陽子とも対消滅を起こさないし、電子とも対消滅を起こさない。
なお、ミュー粒子にも、反ミュー粒子という、反物質が存在することが分かっている。
このような物質が、われわれの住んでいる地上で見つからないのは、単に地上の大気などと衝突して消滅してしまうからである。
なので、高山の頂上付近などで観測実験をすると、ミュー粒子の発見の可能性が高まる。
なお21世紀の現在、ミュー粒子を活用した技術として、現在、火山などの内部を観察するのに、活用されている。ミュー粒子は、透過力が高いが、地上の物質と反応して、わずかに消滅してしまうので、そのような性質を利用して、火山内部のように人間が入り込めない場所を観察するという技術が、すでにある。
- ミュー粒子などの素粒子を検出するために、写真乾板を使う。通常の写真乾板とは違い、粒子線のような細かいものを捕らえられるように調整されており、「原子核乾板」という。(「原子核乾板」については範囲外。)
- 乾板中の成分にミュー粒子が当たることで、電気化学的な反応が起こり、乾板が反応する。
- 早い話、X線とX線乾板の原理と同じような原理で、ミュー粒子を使った(火山などの)内部研究が行われてた。近年は、原子核乾板の代わりに、半導体センサーを使って、検出している(要するに、デジカメの光センサーなどと同じ原理)。
- ミュー粒子の発生方法
このような観測に使われるミュー粒子をどうやって発生させるのか?
宇宙線から飛んでくるミュー粒子をそのまま使うという方法もありそれを実行している研究者もいるが、それとは別の手法として、加速器などで人工的にミュー粒子などを発生させるという方法もある。
加速器を使った方法は、下記の通り。
まず、シクロトロンやサイクロトロンを使って、電子などを超高速に加速させ、それを一般の物質(グラファイトなど)に当てる。
すると、当然、いろんな粒子が発生する。
そのうち、パイ中間子が、磁気に反応する(と考えられている)ので、大きな電磁石コイルで、パイ中間子を捕獲する。
このパイ中間子が崩壊して、ミュー粒子が発生する。
※ 範囲外: 宇宙線の発生原因は不明
編集そもそも宇宙線が何によって発生しているかの発生原因は、現時点の人類には不明である。(※ 参考文献: 数研出版の資料集の『図説物理』)
超新星(ちょうしんせい)爆発によって宇宙線が発生するのでは、という説もあるが、とにかく宇宙線の発生原因については未解明である。
範囲外?: スピン
編集電子や陽子や中性子などは、「スピン」という磁石のような性質をもっている。磁石にN極とS極があるように、スピンにも、2種類の向きがある。スピンのこの2種類の向きは、「上向き」と「下向き」に、よく例えられる。磁石の磁力の発生原因は、磁石中の分子の最外殻電子のスピンの向きが同一方向にそろっているから、であると考えられている。
すべての分子は、電子や陽子や中性子を含むのに、なのに多くの物質が、あまり磁性を発生しないのは、反対符号のスピンをもつ電子が結合しあうことで、打ち消しあうからである。
(てっきり、電子と陽子のような電荷をもつ粒子にしかスピンがないと誤解している人もいるが、中性子にもスピンはある。)
中学高校で観測するような普通の方法では、スピンが観測できない。しかし、分子などの物質に磁気を加えつつ高周波を加えるなどすると、スピンの影響によって、その分子の振動しやすい周波数が違うなどの現象をもちいて、間接的に(電子などの)スピンを観測できる。(なお、核磁気共鳴法(NMR、nuclear magnetic resonance)の原理である。 ※ 理論的な解析は、大学レベルの力学の知識が必要になるので省略する。) 分子中の水素原子や、ある種の放射性同位体(中性子がたった1個ふえただけの同位体)など、高周波の影響を受けやすく、その理由のひとつが、スピンによるものだと考えられてる。(※ なお、医療で用いられるMRI(magnetic resonance imaging)は、この核磁気共鳴法(NMR)を利用して人体内部などを観測しようとする機器である。)
さて、じつは素粒子も、スピンをもつのが普通である。
ミュー粒子はスピンをもつ。
ミュー粒子の「スピン」という性質による磁気と、ミュー粒子の透過性の高さを利用して、物質内部の磁場の観測方法として既に研究されており、このような観測技術を「ミューオンスピン回転」という。超伝導体の内部の観測などにも、すでに「ミューオンスピン回転」による観測が研究されている。
ウィキペディア記事『w:ミュオンスピン回転』によると、ミューオンの崩壊時に陽電子を放出するので、陽電子の観測技術も必要である。(高校の範囲外であるが、)これからの学生は、いろいろと勉強する事が多い。
まだ産業実用化してない分野
編集「中間子」が、原子の分析などの先端科学分野に利用されてるのを除けば、以降の節での紹介分野は、あまり、産業・工業の技術的には実用化していない。
陽子と中性子のアイソスピン
編集陽子と中性子は、質量はほとんど同じである。電荷が違うだけである。
そして、電子と比べると、陽子も中性子も、質量がかなり大きい。
この事から、「陽子や中性子にも、さらに中身があり、別の粒子が詰まっているのでは?」という疑問が生まれてきて、陽子や中性子の内部の探索が始まった。
しかし、現在でも、陽子や中性子の内部の構造は、実験的には取り出せてはいない。(※ 陽子や中性子の内部構造として説明されている「クォーク」は、単独では発見されていない。クォークは単に、内部の説明のための、概念である。)
歴史的には、まず、陽子と中性子の内部構造として、架空の素粒子を考えられ、陽子と中性子は、それらの素粒子の状態が違うだけ、と考えられた。
いっぽう、電子には、内部構造がない、と考えらている。
され、20世紀なかば、量子力学では、そのころ、すでに、電子の状態として「スピン」という概念が、みつかっていた。量子力学では、化学結合で価電子が2個まで結合して電子対になる理由は、このスピンが2種類しかなくて、反対向きのスピンの電子2個だけが結合するからである、とされている。
スピンの2種類の状態は、「上向き」「下向き」というふうに、よく例えられる。(実際の方向ではないので、あまり深入りしないように。)
このような量子力学を参考にして、陽子と中性子でも「アイソスピン」という概念が考えられた。(※ 「アイソスピン」は高校範囲外。)
陽子と中性子は、アイソスピンの状態が違うだけ、と考えられた。
クォーク
編集その後、20世紀半ば頃から、「アイソスピン」を発展させた「クォーク」という理論が提唱された。
架空の「クォーク」という3個の素粒子を仮定すると、実在の陽子や中性子の成り立つモデルが、実験結果をうまく説明できる事が分かった。
電荷( )をもつ素粒子「アップクォーク」と、±( )をもつ素粒子「ダウンクォーク」があって、
- で陽子、
- で陽子、
と考えると、いろいろな素粒子実験の結果をうまく説明できる事が分かった。
なお、電子には、このような内部構造はない、と考えられいる。
アップクォークは「u」と略記され、ダウンクォークは「d」と略記される。
陽子のクォーク構造はuudと略記される(アップ、アップ、ダウン)。
中性子のクォーク構造はuddと略記される(アップ、ダウン、ダウン)。
加速器実験と中間子
編集なお、上記の説明では省略したが、おおよそ1950〜60年代ごろまでに、高山での宇宙線の観測や、あるいは放射線の観測や、またあるいはサイクロトロンなどによる粒子の加速器衝突実験により、陽子や中性子のほかにも、同程度の質量のさまざまな粒子が発見されており、それら新種の粒子は「中間子」に分類された。
そもそも、「クォーク」の理論は、このような20世紀半ばごろまでの実験や観測から何百個もの新種の粒子が発見されてしまい、そのような経緯があったので、クォークの理論が提唱されたのである。
さて、「中間子」(ちゅうかんし、mason メソン)とは、もともと理論物理学者の湯川秀樹が1930年代に提唱した、陽子と中性子とを引き付けているとされる架空の粒子であったが、20世紀なかばに新種の粒子が発見された際、「中間子」の名前が使われることになった。
さて、実験的に比較的早い時期から発見された「中間子」では、「パイ中間子」がある。ある種類のパイ中間子は、アップクォークと反ダウンクォークからなり、π+と略記される。(ダウンクォークの反物質が、反ダウンクォーク。) π+=
別のある種類のパイ中間子は、ダウンクォークと反アップクォークからなり、πーと略記される。π-=
このように、ある粒子内のクォークは合計2個のであっても良い場合もある。(かならずしも、陽子のようにクォーク3個でなくてもかまわない場合もある。)
(※ このような実験例から、粒子内に合計5個のクォークや7個のクォークを考える理論もあるが、しかし高校物理の範囲を大幅に超えるので、説明を省略。)
また、中間子は、自然界では短時間のあいだだけ、存在できる粒子だという事も、観測実験によって、分かってきた。(中間子の存在できる時間(「寿命」)は短い。すぐに、他の安定な粒子に変換してしまう。)
第2世代以降の素粒子
編集しかし、アップとダウンだけでは、説明しきれない粒子が、どんどんと発見されていく。クォークの提唱時の当初は、おそらく、 「クォークのアップとダウンで、きっと、ほとんどの中間子の構造を説明できるだろう」 と期待されていたのだろうが、しかし、宇宙線から1940年代に発見された「K中間子」の構造ですら、アップとダウンでは説明できなかった。
このほか、加速器の発達などにより、アップとダウンの組み合わせだけで説明できる数を超えて、どんどんと新種の「中間子」が発見されてしまい、もはやアップとダウンだけでは、中間子の構造を説明しづらくなってきた。
また、アップとダウンだけでは、ミュー粒子が、説明できない。
また、加速器実験により、1970年代に「D中間子」など、さまざまな中間子が、実験的に実在が確認された。
このように、アップとダウンだけでは説明のできない、いろいろな粒子が存在することが分かり、そのため、素粒子理論では、「アップ」(u)と「ダウン」(d)という2種類の状態の他にも、さらに状態を考える必要に、せまられた。そして、新しい状態として、まず「チャーム」(記号c)と「ストレンジ」(記号s)が考えられた。加速器実験の技術が発展し、加速器実験の衝突のエネルギーが上がってくると、さらに「トップ」(記号t)と「ボトム」(記号b)というのが考えられた。
なお、ミュー粒子には内部構造はないが、陽子や中性子に電子を対応させるのと同様に(第1世代)、チャームやストレンジからなる陽子的・中性子的な粒子とミュー粒子を対応させた(第2世代)。同様に、トップやボトムからなる粒子にミュー粒子を対応させた(第3世代)。
種類 | 電荷 | 第1世代 | 第2世代 | 第3世代 |
---|---|---|---|---|
クォーク | アップ (u) | チャーム (c) | トップ (t) | |
ダウン (d) | ストレンジ (s) | ボトム (b) | ||
レプトン | 電子 (eー ) | ミュー粒子 (μー ) | タウ粒子 (τー ) | |
電子ニュートリノ(νe ) | ミューニュートリノ(νμ ) | タウニュートリノ(ντ ) |
電子やミュー粒子は内部構造をもたないと考えられており、「レプトン」という、内部構造をもたないとされるグループに分類される。
「K中間子」は、第1世代のクォークと第2世代のクォークから成り立っている事が、分かっている。(※ 検定教科書の範囲内。)
そして、2017年の現在までずっと、クォークの理論が、素粒子の正しい理論とされている。
用語
編集素粒子の観点から分類した場合の、陽子と中性子のように、クォーク3個からなる粒子のことを、まとめて「バリオン」(重粒子)という。パイ中間子(π+= )など、クォークが2個の粒子は、バリオンに含まない。
しかし、中間子のなかにも、ラムダ粒子(uds、アップダウンストレンジの組み合わせ)のように、クォーク3個からなる粒子もある。ラムダ粒子なども、バリオンに含める。
陽子と中性子やラムダ粒子などといったバリオンに、さらに中間子(中間子は何種類もある)を加えたグループをまとめて、「ハドロン」という。
なお、普通の物質の原子核では、陽子と中性子が原子核に集まっているが、このように陽子と中性子を原子核に引き合わせる力のことを核力という。核力の正体は、まだ、あまり解明されていない(少なくとも高校で教えるほどには、まだ充分には解明されていない)。
ともかく、バリオンには、核力が働く。通説では、中間子にも、核力は働くとされている。つまり、ハドロンに、核力が働く。
ハドロンは、そもそもクォークから構成されている事から、「そもそもクォークに核力が働くのだろう」的な事が、考えられている。
理論では、クォークとクォークどうしを引き付けあう架空の粒子として「グルーオン」が考えられており、物理学者から理論が提唱されているが、その正体は、まだ、あまり解明されてないが、しかし物理学者たちは「グルーオンを発見した」と主張している。
現在の物理学では、クォークが単独では取り出せていないのと同様に、グルーオンも単独では取り出せてはいない。
さて、物理学では、20世紀から「量子力学」という理論があって、この理論により、物理法則の根源では、波と粒子を区別するのが無意味だと言われている。そのため、かつては波だと考えられていた電磁波も、場合によっては「光子」という粒子として扱われるようになった。
このように、ある波や力場(りきば)などを、理論面では粒子に置き換えて解釈して扱う作業のことを、物理学では一般に「量子化」という。
グルーオンも、クォークとクォークを引き付ける力を、量子化したものであろう。電荷との類推で、クォークにも色荷(カラー荷)というのが考えているが、その性質は、あまり解明されてない(少なくとも高校で教えるほどには、まだ充分には解明されていない)。
グルーオンのように、力を媒介する粒子のことをゲージ粒子という。
力の種類 | ゲージ粒子 |
---|---|
電磁気力 | 「光子」 (電磁場を量子化したもの) |
「強い力」 (クォークを引き付けあう力のこと) |
グルーオン |
「弱い力」 (β崩壊をつかさどる「力」のこと) |
ウィークボソン |
万有引力(「重力」) |
グラビトン (未発見) |
重力を媒介する架空の粒子のことを重力子(グラビトン)というが、まだ発見されていない。物理学者たちも「グラビトンは、まだ未発見である」と主張している。
電磁気力を媒介する粒子は光子(フォトン)というが、これは単に、電磁場を仮想的な粒子として置き換えて扱っただけである。フォトンは、高校物理の電磁気分野で習うような古典的な電磁気計算では、まったく役立たない。
なお、光子もゲージ粒子に含める。
つまり、光子やグルーオンは、ゲージ粒子である。
ベータ崩壊をつかさどる力のことを「弱い力」といい、この力を媒介する粒子を「ウィークボソン」というが、性質は、よく分かっていない。しかし物理学者たちは「ウィークボソンを発見した」と主張している。
そもそも「ボソン」とは何か?
量子力学のほうでは、電子のような、一箇所にたかだか数個までしか存在できない粒子をまとめてフェルミオンという。フェルミオン的でない別種の粒子としてボソンがある。光子も、ボソンとして扱われる。
「ウィークボソン」とは、おそらく、弱い力を媒介するボソンだからウィークボソンと呼んでいるのだろう。
さて、電荷との類推で、「弱い力」に関する「弱荷」(じゃくか)というのも提唱されているが、しかし、その性質は、あまり解明されてない(少なくとも高校で教えるほどには、まだ充分には解明されていない)。
さて、「弱い力」のある一方、グルーオンの媒介する力のことを「強い力」ともいう。
※ 範囲外: コバルト60のベータ崩壊と「弱い力」
編集1956年に、電子のスピンの方向と、ベータ崩壊粒子の出て来る方向との関係を見るための実験として、コバルトの放射性同位体であるコバルト60をもちいて次のような実験が、アメリカで行われた。
コバルト元素(元素記号: Co )の放射性同位体であるコバルト60を極低温に冷却し、磁場をかけて多数のコバルト原子の電子殻の孤立電子スピンの方向をそろえた状態で、コバルト60がベータ崩壊して発生するベータ粒子の出る方向を調べる実験が、1956年にアメリカで行われた。
鉄とニッケルとコバルトは、それぞれ金属単体で磁性体になる元素である。元素単体で磁性体になる元素は、この3つ(鉄、ニッケル、コバルト)しかない。(なお、放射性同位体でない通常のコバルトの原子量は59である。)
この3つ(鉄、ニッケル、コバルト)のなかで、コバルトが一番、磁気に寄与する電子の数が多いことが量子力学の理論により既に知られたいたので(コバルトがもっとも、d軌道の電子の数が多い )、ベータ崩壊とスピンとの関係をみるための実験に、コバルトの放射性同位体であるコバルト60が使われたのである。
実験の結果、コバルト60がベータ崩壊してベータ粒子の出てくる方向は、コバルト60のスピンの磁気の方向と(同じ方向よりも)逆の方向に多く放出されているのが観測された。これは、2種類(スピンと同方向にベータ粒子の出る場合と、スピンと反対方向にベータ粒子の出る場合)の崩壊の確率が異なっており、ベータ崩壊の確率の(スピン方向を基準とした場合の)方向対称性が敗れていることになる。
このような実験事実により、「弱い力」は非対称である、というが定説である。