高等学校理科/地学基礎/宇宙の構成

スペクトル 編集

 
プリズムにより、光は曲がる。このとき光の波長ごとに曲がる大きさが違うので、虹(にじ)のような色の帯ができる。

プリズムを通った光は、赤から紫までの波長の光に分かれる。このような光の帯をスペクトルという。 光は、電磁波という波の一つである。光の色の違いは、波長の違いである。電磁波のうち、私たちが色や明るさとして見ることができる電磁波を、可視光(かしこう)または可視光線という。私たちヒトが見ている光は、可視光である。

可視光の波長は、おおむね380nm〜770nmである。( nm は長さの単位 ナノメートル のこと。)

1nm = 10-9m である。

 

光の波長の測定方法については、のちの節で発展項目として、ローランドの回折格子などについて解説するので、それを参照せよ。

また、光の速度は常に一定であることが物理学によって分かっている。

光には、私たちヒトの目に見えない光もある。赤外線や紫外線なども電磁波であるが、赤外線や紫外線は、私たちヒトの目には見えない。

 
連続スペクトル
 
輝線スペクトル
 
吸収線スペクトル
 
フラウンホーファー線

水素を発光させたものやナトリウム灯のスペクトルを調べると、特定の波長だけが線上に表れる輝線スペクトル(きせんスペクトル)になる。どの波長が表れれるかは元素の種類によって異なる。ちなみにナトリウム灯のスペクトルは、オレンジ色の線が2本ほど表れる。(※ ウィキに図が無いので、参考書などで各自、調べてください。)

逆に、太陽光のスペクトルを調べると、特定の波長が、いくつか抜けていて、その波長の部分だけ黒い線になっているスペクトルが表れる。これは、太陽大気などの物質に、その波長の光が吸収されたためである。よって、この抜けているスペクトルの波長と、知られている元素のスペクトルの波長とを、比べることで、太陽大気の元素の組成を調べることができる。

なおスペクトルで、物質に吸収されたため、暗くなって抜けていて黒い線の部分を、吸収線(きゅうしゅうせん)あるいは暗線(あんせん)という。

こうして太陽の元素の組成を調べたところ、太陽の元素のほとんどは水素であり、水素が92%ちかくある。残りのほとんどはヘリウムで、ヘリウムが約7%ある。

なお、太陽の吸収線のことをフラウンホーファー線という。

 
熱く熱された鉄から出る光。

また、恒星のスペクトルでの各色の光の強さを調べることで、その恒星の温度が分かる。その理由は、つぎのような理由である。

まず、近代のヨーロッパの科学者たちの調査で、製鉄所などで加熱されて造られている金属などのように、とても高温の物から出てくる光に含まれる色を調べたところ、温度が1000度や2000度くらいの時は、赤い光が多いが、もっと温度を上げていくと、だんだん白い光が多くなってくることが分かってきた。 さらに、もっともっと、温度を上げていくと、物体から出る光は、青白い光が多くなってくることが分かってきた。

近代の科学者は考えた。「地上の物体では、温度が高いほど、赤い光から青白い光になるという法則があるんだから、夜空にうかぶ星の色も、地上と同じように、青い星は、きっと温度が高いにちがいない」と、近代の科学者は考えた。 実際に、この考えが正しいことが、さまざまな研究から、確かめられている。

このようにして、太陽のスペクトルから求めた太陽表面の温度は、およそ6000℃である。温度の数値の根拠は、以降の「シュテファン=ボルツマンの法則」の章の解説を参照せよ。


シュテファン=ボルツマンの法則 編集

 
各温度における黒体輻射のエネルギー密度の波長ごとのスペクトル
 
地表面と地球大気表面における太陽放射スペクトルの比較

ウィーンの変位法則は、黒体の温度が高いほど、放射エネルギーが最大になる波長が短くなっていることを表し、その波長をλ(μm)・温度をT (K)としたとき以下の式で示せる。

λT = 2900

ウィーンは、ウィーンの法則を確かめる測定実験をする際、熱エネルギーの測定器にはボロメーターという装置を用いた。 [1] (※ ボロメーターについて、くわしくは、発展の節で説明する。)

シュテファン=ボルツマンの法則は、恒星の放射するエネルギーE は絶対温度T の4乗に比例するというもので、次の式で表される。

E = σT 4

発展:光のエネルギーと波長の測定方法 編集

(※ 高校の範囲外)

光のエネルギーの測定方法 編集

1900年ごろ、すでに天文学者のラングレーによって、熱エネルギーの測定器としてボロメータという測定器が実用化していた。ボロメータとは、金属が温度変化した際の電気抵抗の変化を利用して、電気抵抗の変化から温度変化を読みとり、その温度変化から熱エネルギーなどのエネルギーを測定する装置である。

このボロメータを用いて、光の放射エネルギーも測定できた。

ウィーンは、ウィーンの法則を確かめる測定実験をする際、光のエネルギー測定のために、ボロメーターを用いた。この当時のボロメーターの精度の例として、温度が10-5上昇すると、抵抗値の変化率の3×10-8を読み取れるという高精度であったと言う。

ラングレーやヴィーンが用いていた頃のボロメーターでの測温用の金属には、白金が用いられていた。 そして、ボロメーターの精度の向上のため、ホイートストン・ブリッジ回路の中に、この電気抵抗を組み込むことで、精度を得ていた。

なお、21世紀の現在でも、白金は、電気抵抗式の測温素子として、よく用いられている。また、ホイートストン・ブリッジも、アナログ電気式の測定器で精度を得るための手法として、よく用いられている。さらに、ホイットストーン・ブリッジと測温素子の組み合わせによる温度測定器や放射エネルギー測定器などすらも、現在でもよく用いられている。

光の波長の測定方法 編集

この1900年ごろのウィーンの時代、光の波長測定の方法では、回折格子が用いられた。すでにローランドなどによって光の波長測定の手段として実用化していたローランド式などの回折格子が、よく用いられた。

そもそも、光の波長は、どうやって測定されたのだろうか。

1821年にドイツのレンズの研磨工だったフラウンホーファーが、回折格子を作るために細い針金を用いた加工装置を製作し、その加工機で製作された回折格子を用いて、光の波長の測定をし始めたのが、研究の始まりである。フラウンホーファーは、1cmあたり格子を130本も並べた回折格子を製作した。[2]

また、1870年にはアメリカのラザフォードがスペキュラムという合金を用いた反射型の回折格子を製作し(このスペキュラム合金は光の反射性が高い)、これによって1mmあたり700本もの格子のある回折格子を製作した。

 
メートル原器

より高精度な波長測定が、のちの時代の物理学者マイケルソンによって、干渉計(かんしょうけい)というものを用いて(相対性理論の入門書によく出てくる装置である。高校生は、まだ相対性理論を習ってないので、気にしなくてよい。)、干渉計の反射鏡を精密ネジで細かく動かすことにより、高精度な波長測定器をつくり、この測定器によってカドミウムの赤色スペクトル線を測定し、結果の波長は643.84696nmだった。マイケルソンの測定方法は、赤色スペクトル光の波長を、当時のメートル原器と比較することで測定した。[3]

なお、現代でも、研究用として干渉計を用いた波長測定器が用いられている。メートル原器は、マイケルソンの実験の当時は長さのおおもとの標準だったが、1983年以降はメートル原器は長さの標準には用いられていない。現在のメートル定義は以下の通り。

メートルの定義
真空中の光の速さ c を単位 m s−1 で表したときに、その数値を 299792458 と定めることによって定義される。
ここで、秒はセシウム周波数 ∆νCs によって定義される。

宇宙のすがた 編集

ハッブルの法則 編集

 
音源が左手に向かって等速で動いている場合。物体の運動方向の前方の波長は短くなり、反対側の波長は長くなる。

宇宙は膨張している。1929年、天文学者のハッブルは、つぎのような観測事実をもとに、銀河が遠ざかっていることを発見した。

ハッブルは観測によって、恒星から地球にとどく光のスペクトルが、地球から遠い星ほど、ドップラー効果によって、赤くなっていることを発見した。 地上で測定された各元素の輝線スペクトルよりも、星の光から観測したスペクトルのほうが距離に比例して赤く偏位しているのである。 この、遠い星ほど光が赤いという事実を、赤方偏移(せきほう へんい)という。

ドップラー効果については、物理科目で高校では習うはずなので、物理の参考書を読め。

サイレンを鳴らした車が自分の近くを通りすぎるとき、通りすぎる前と通り過ぎたあとで、音の高さが違って聴こえるのもドップラー効果である。 光にもドップラー効果はあり、私たちが作ったような自動車などが運動するような速度では速度が低すぎて光のドップラー効果は観測できないが、宇宙の規模での速度だと、もっと高い速度なので、光のドップラー効果も観測できる。

ドップラー効果では、波の発生源が遠ざかるほど、波長は長くなり、つまり振動数が低くなる。

青い光と比べて、赤い光は、波長が長く、振動数が低い。つまり、赤くなるほど、波長が長くなっている。 そして、地球から遠い恒星ほど、赤い光になっているのだから、遠い星ほど、より速く遠ざかっていることになる。

つまり、遠ざかる速度 v が、観測地点である地球からの距離 r に比例している。比例定数を H とすれば、式は

v = Hr

で表される。 この比例定数Hを、発見者のハッブルの名前にちなんで、ハッブル定数という。

そして、このような事実から、宇宙は膨張している事がわかる。

このような宇宙の膨張の法則をハッブルの法則という。

(※ ここに、ハッブルの測定結果のグラフを追加。)

さて、このように、宇宙にある星どうしは、おたがいに、どんどん遠ざかっている。つまり、宇宙は、膨張している。

裏をかえせば、過去にさかのぼると、昔は今よりも、星どうしの距離が近かったのである。ならば、宇宙が誕生した瞬間は、すべての星が、一点に集まっているはずである。

膨張の速度から逆算すると、宇宙が誕生した時期が分かる。宇宙は約137億年前に誕生した。

宇宙の始まりの瞬間は、以上の論理から、物質の密度がとても高かったことが考えられている。現在の宇宙にある物質すべてが、一点に集まっていたからである。

また、宇宙の始まりのときの温度については、宇宙での元素の種類や割合などの理由から、宇宙の始まりの温度は、とても高温であったと考えられている。

ビッグバン 編集

 

宇宙の始まりの瞬間は、きわめて高温・高密度であったと考えられている。そして、それが急激に膨張していったと考えられている。このような説をビッグバンといい、1948年に物理学者のガモフによって提唱された。

太陽と恒星 編集

太陽 編集

  • フレア

皆既日食のときに光球の外側にピンク色っぽい大気の層が見え、この層を彩層(さいそう)という。このピンク色の光の原因は、水素のスペクトル光であるHα線(エイチ・アルファーせん)の赤色である。また、彩層の外側にうすく広がる気体の部分をコロナという。彩層の一部が突然明くなることがあり、この現象をフレアという。 フレアのときに、強いX線や紫外線が放出されることで、地球では通信障害を起こすことがあり、この通信障害の現象をデリンジャー現象という。

  • 太陽風

太陽からは、水素や電子などの粒子が、数百km/s の速さで、大量に流れだしてる。これを太陽風(たいようふう、solar wind)という。太陽風は電離しており、電気を帯びている。これは、太陽の内部はとても高温のため、水素やヘリウムなどの原子核から電子が電離してしまうためである。

  • オーロラ
 
アラスカでのオーロラ

太陽風が地球に打ちつけられた時、北極・南極の極付近では、発光現象を起こすことが知られており、この極付近での発光現象をオーロラという。


太陽の誕生と進化 編集

太陽の光かがやく原動力は、水素の核融合であると考えられている。そして太陽での水素の核融合の結果、ヘリウムが生成していると考えられている。

太陽にかぎらず、このように天体の中心部で水素の核融合が起き続けている状態の恒星のことを主系列星(しゅけいれつ せい)という。

現在の太陽は主系列星である。


いっぽう、宇宙には観測事実として、赤くて巨大(と考えられている)な恒星が存在する。おうし座のアルデバラン、さそり座のアンタレスなどが、そのような赤くて巨大な星である。

これらの赤くて巨大な星は、主系列星が中心部の水素を核融合で使い果たした状態だろうと考えられている。


太陽も、中心部の水素を核融合で使い果たすと、主系列星ではなくなり、赤くて巨大な星になると考えられている。

主系列星は星の一生のうちの比較的に前半であり、赤くて巨大な星は星の一生うちの比較的に後半である。


(※ 範囲外 :)赤くて巨大な星がなぜ星の一生の後半であるかが分かったかというと、参考文献 『星の進化論とHR図表』、小暮智一(元 京都大学教授) 著 、天文教育 2011年5月号によると、(20世紀前半の科学者が?)地球から観測できる数万光年は離れた複数の赤くて巨大な星どうしを比べたところ、性質がどれも似ており、そのことから、数万光年ぶんの時間よりも遥かに長い時代(つまり数億年)を過ごした星の寿命の後半であると20世紀当時の人は判断したようである。


現在は主系列星の太陽の水素は核融合で消耗しつづけており、その水素が尽きるであろう約50億年後に、太陽はヘリウムを中心核にもつ星へと変化するだろうと考えられている。

そして、ヘリウムを中心核にもつ結果、重力によってヘリウムは中心に集まり収縮していく。

いっぽう、その頃には太陽を囲む外側で水素による核融合が起き、その結果、太陽は膨張し、太陽は赤く見える星になると考えられている。


太陽にかぎらず、このような状態(中心部の水素が尽きて、周辺部の水素で核融合している状態)の恒星のことを赤色巨星(せきしょく きょせい)という。

おうし座のアルデバラン、さそり座のアンタレスなどが赤色巨星である。


  • ヘリウムの核融合

赤色巨星になったあとの星では、ヘリウムは当初は核融合しないで、核融合しないので重力によって中心部に ヘリウム が収縮していく。

しかし、収縮によって温度も上昇するので、約1億℃になり、ヘリウムが核融合するようになる。

このヘリウムの核融合により、酸素と炭素が作られる。

そして、太陽は巨星になる。


  • 星の死

太陽はどうだか知らないが、歴史上、実際に上空で消滅した星があり、平安時代の『明月紀』などの古文書などにも記載されている(同時期に中国や中東などの文献にも同類の天文学の記録があり、史実だろうと思われている)。

このように、恒星は寿命を迎える。


太陽の場合、水素もヘリウムも使い果たして巨星になったあと、ガスが散逸していき、小さくなり(とはいっても、地球よりかは遥かに大きいが)中心部の密度の高い白色矮星(はくしょくわいせい)という状態になると考えられ、ガスを放出して、しだいに冷却していく。残った酸素や炭素は、核融合を起こさないと考えられている。


太陽よりも質量が8~10倍以上はある恒星の場合、水素を中心部も周辺部もすべて水素を使い果たすと爆発を起こすと考えられており、この現象を超新星(ちょうしんせい)または超新星爆発という。

(※ 範囲外 :)近年にも、2006年にペルセウス座の超新星が観測されている。歴史的にも、1604年にケプラーがヘビ使い座で超新星を観測しており、1885年にアンドロメダ銀河で超新星爆発が観測されている。また、平安時代の『明月紀』にある記述もおうし座の超新星だろうと考えられている。


銀河系 編集

ブラックホール 編集

宇宙には、どんな波長の電磁波も吸収してしまうブラックホールという場所がいくつもある事が分かっている。

ブラックホールは、ある天体の密度が大きすぎて重力が大きくなりすぎた結果、光すらも外に出ない結果、ブラックホールが発生すると考えられている。(※ 高校の範囲外だが、物理学におけるアインシュタインなどの相対性理論によると、重力によって光は曲がる。なので、重力が強すぎると、光は外に出ていないと考えられている。)

ブラックホールの種類にもよるが、一般にブラックホールの密度は、太陽の数百万倍ほどであると考えらている。


ブラックホールは、寿命の尽きた恒星のうち、密度が比較的に大きめだった天体が超新星爆発を経ての変化の結果だという説もある。(※ 啓林館や第一学習社の検定教科書が紹介している。)


地球から見ると、天の川 の いて座 の方向にブラックホールだと思われている場所がある。

ダークマター 編集

曲線運動をしている銀河は、その曲線運動の中心あたりに、円運動の中心になるような重力の発生源があると考えられている。

このように、運動の形状や速度などを分析することにより、銀河での重力の分布を算出することができる。


そのようにして算出した重力分布をみると、電磁波では何も観測されていない場所にも強い重力をもつものが分布している場所も多くある。なので宇宙には、電磁波では観測できないが重力を発生させる事のできる物質のような何かが存在すると考えられており、そのような重力発生を引き起こしているのに見えない宇宙の物質のことを暗黒物質あるいは英語でダークマターという。

ダークマターの正体は、まだ不明である。

参考文献 編集

  1. ^ 『20世紀の物理学』、丸善株式会社、編集:「20世紀の物理学」編集委員会、平成11年発行、参考ページ:P.25、 第1章『1900年当時の物理学』、参考文献記事の原著者:ブライアンピパード、参考文献記事の翻訳者:牧二郎および神吉健、
  2. ^ 『現代総合科学教育大系 SOPHIA21 第7巻 運動とエネルギー』、講談社、発行:昭和59年4月21日第一刷発行発行
  3. ^ 川上親考ほか『新図詳エリア教科辞典 物理』、学研、発行:1994年3月10日新改訂版第一刷、P.244 および P.233