風景画の水彩画 編集

下書き 編集

風景画では細かい部分まで描くことも多いので、下書きを鉛筆でうすくするのが普通です。

下書きなしで一発で絵の具の色を塗るなんて、プロ画家ですら無理です。市販の水彩風景画の技法書を見ても、鉛筆で下書きをしています[1]

鉛筆の濃さは、技法書によると B~2B がおすすめらしいです[2]。。

鉛筆が必要ということは消しゴムも当然ながら必要です[3]

普通の消しゴムと、練りゴムの2つを用意しておくと良いでしょう[4]。(石膏デッサンなどで用いる消しゴムと同タイプで十分でしょう。)

なお、下書きの線は、書き終わったら消しゴムで薄くします[5]


その他の画材 編集

学校で買い与えられる画材(絵の具セット)のほかにも、色々な画材をプロは使っています。

刷毛(はけ)、マスキングテープ、スポンジ、歯ブラシ(スパッタリングで使う)、・・・などなど。


「マスキングテープ」とは、粘着力の弱い紙テープの茶色いテープ(なお不透明)です。塗りたくない部分の上に、塗りたくない部分を隠すように貼ります。その上から絵の具のついた筆で塗ることで、テープで覆われた部分を塗らずに保護できる、という道具です。

マスキングテープを買う場合は、画材屋・文房具屋で売ってるタイプのものを買ってください。

ただし、美術室に備品としてマスキングテープが置いてある場合もよくあります[6]。ただし、教師がマスキングテープを使わしてくれるかどうか知りません。

美術室の備品のマスキングテープを使った場合、使い終わったら、もとあった場所に返しましょう。


この「マスキング」という概念は、美術以外でも製造業などでも使うので、覚えてください。

たとえば建築リフォームなどで家にペンキを塗りなおすときも、透明・半透明のビニールシートを張ることで(「養生」(ようじょう)と言う)、マスキングのような処理をしています。ペンキ塗装用のものは「養生シート」、「養生テープ」などと呼んでいます。もちろん、材質は、画材用のとは大きく違います。


コンピュータによるデジタル絵の発達した現代、プロ絵描きの仕事では絵の具を使う仕事は少なくなってしまいましたが、しかマスキングの概念はデジタル絵でも使う可能性がありますので、ぜひ用語を覚えてください。たとえば画像ソフトのフォトショップにも「マスク」「マスキング」などの用語があり、意味も似たような意味で、マスクした部分を塗らないように保護する的な意味です。

なお、マスキングテープは別に水彩画だけに限らず、ポスターカラーなどにも使えます。なので、風景画に限らずポスターなどのデザイン画にもマスキングテープは使えます。


さて、美術の水彩画の話に戻ります。

歯ブラシを生徒が使いまくると美術室が汚れかねないので、授業では禁止されるかもしれません。エプロンも必要になってしまうかもしれませんし。

いちおう、美術室にも刷毛やマスキングテープ、スポンジなどは数個は備品として置いてあるでしょうが、しかし授業中の生徒全員が借してしまうほどの量は無いので、授業では基本的には借りれないかもしれません。


普通科高校レベルの美術なら、いちいち最初から刷毛などを買う必要は無いでしょう。もし必要になりそうだったら、そのときに買えばいいだけです。

そのため、あらかじめ地元の画材屋などを探しておくと良いでしょう。店舗名が画材屋でなく文房具屋の場合もあります。もし大きめの文房具屋があれば、その店が画材屋を兼ねている場合もあります。

マスキングテープは、小型で持ち運びやすいタイプのものが売ってるので、事前に購入して絵の具セットに入れておくのも手かもしれません。

高校では描けないだろうもの 編集

木の葉1枚1枚は無理 編集

自然物などの風景は、完全に実写そのままには、描けません。森林や、川、などです。

だから教科書会社がwebサイトなどで例示に示す風景作品は、もしかしたら京都あたりの街並みの風景などかもしれません。観光地の街並みとか。


森林や街路樹などの風景の場合、たとえば、春・夏の木々の葉っぱを、1枚1枚、書こうとしても無理です。プロの風景画家ですら1枚1枚の葉は無理です。(秋の落ち葉は後述。)


実際、風景画の技法書を見ても、けっして1枚1枚は葉を描いていません[7]

観客の視点から見て、何枚かの葉の密集している塊を、色の塊で表現しているだけです。言葉で説明するのは難しいので、絵の仕事に進みたい人は、実際にその分野のプロの作品を見るのが早いでしょう。


なお,マツなど針葉樹は、ふつうの絵筆では書くのが無理です。ドライ ブラシなどを使うことになり[8]、とても高度な技法です。高校生はあきらめたほうが良いかもしれません(授業時間内に終わらない可能性が大)

マツ、シラカバ、その他針葉樹、これは難しいでしょう。普通の絵筆をつかって描きやすいのは広葉樹っぽい木でしょう。

デジタル絵の場合、もしかしたらそういう針葉樹っぽいブラシ機能のあるソフトウェアもあるかもしれません。しかし、おそらくデジタルでも、針葉樹の葉を1本1本ずつ描くのは無理でしょう。専用のブラシを使うことになるでしょうか。


そもそも、決して写真そのままのように描かなくても、「美術」の「美」のように、観客が見て美しければ良いのです。風景画の場合、風景によっては、写真のように描くのは無理です。

そもそも写真ぽい画像が必要なら、写真そのものを撮影すれば済みます。

なにか写真っぽくない加工を加えるからこそ、絵なわけです。


観客ごとにセンスが違うでしょうが、まあ、美術作品に金を払う人の鑑賞センスを納得させられれば大丈夫でしょう。


そもそも学校の授業で描く場合、授業時間内に描かないといけないので(放課後に残って描くにも限度がある)、決して写真のようには、あまり細かい葉までは描けません。


秋の落ち葉の密集した地面も、全部を描くのは無理なので、手前~半分くらいまでは描くことになるでしょうか。[9]

もっとも、学校では、落ち葉の難しさを見越して、秋には風景画の課題を出さないかもしれません。(石膏デッサンやデザインなどの課題にするかもしれません。)

秋は葉はすぐに落ちてしまい、木の色も形も変わるのが早いので、(写真撮影でもしない限りは)描くのは大変です。


画用紙の白色の活用

水彩画の場合、白色を表現したい場合、なるべく画用紙の白色をそのまま使うのも、手のひとつです。プロですら、木の裏は、画用紙の背景の白色をそのまま使うこともあります[10]

決して、色を塗らない部分があるのは、手抜きでもなければ、未完成でもないのです。


もっとも、プロ作品の木の描写で、青空を背景に、木々の葉が見える構図を描いているプロ作品もありますが[11]、しかし高校生レベルできれいに青空の前の木の上部を描くには、なかなか時間が掛かってしまい難しい構図だと思います。

もしデジタル絵だったらレイヤー機能などのあるソフトならば青空レイヤーの上に木レイヤーとかの合成処理も短時間でパパッと可能かもしれませんが、しかし手書きの水彩画ではレイヤー処理は無理です。


学校美術のように時間の問題がある場合、画風に、ある程度の不自由の妥協せざるを得ない部分もあるでしょう。

木の裏とは別に、木の上空の離れたほうに青空を描くとしても、しかし空のうちの低空の木に近いほうは白色をそのまま使うなどして、妥協せざるを得ないかもしれません(なお、空気遠近法などの表現なども兼ねるので、妥協して低空部分を白くしても問題ない)。低空の部分に色をつけるにしても、低空部はだいぶ色が薄くなり、素人目には無色に近くなります[12]


なお、紅葉などの葉の色の異なる木と木の色は、少しくらいは混ざっても問題ありません。プロの作品もそうです[13]。そもそも水彩画は、そのような色の混ざり具合を楽しむためのものです。

木以外のものがある場合でも同じです。

手前の色の物体と、背景の色が違う場合、手前の色の輪郭線をわずかに色を濃くするなどのテクニックもありますす[14]



川とか池とかの流体・液体 編集

川とか池とかは、授業で描くことは無いでしょう。

ふつうの学校では、学内に川が無いのと、学外でスケッチするにしても安全上の問題があります。(ただし金持ちの私立高校だと、噴水とかあるかもしれませんが。)


もし、こういう液体モノを描くとしたら「流れるものの絵はとても難しい」のだと一般に美術では知られているのを念頭においてください。難しいです。


ネットで出典が見つからなかったので、その出典の書籍を出しますが、昭和の数学者・数学教育者の遠山啓(とおやま ひらく)という有名な人の教育書の著作集に、たまたま美術の話題があって、遠山が子供時代に川か海かの絵に苦戦した経験談があって、同時代の数学者の矢野健太郎が「川とか海とかは描くのが難しいんですよ」的なことを遠山に伝えたという話が遠山の教育書に載っています。

昭和だけだと出典不足なので平成の1990年代の出典を出すと、アニメ映画版の新世紀エヴァンゲリオン旧劇(1997年版)のパンフレットや当時のインタビュー記事などでも、液体の作画の難しさを話しています(映画中に液体の作画がある。ネタバレ防止のため詳細は伏せる)。


さて、水彩画では、水しぶきとかは、色は基本的には白です(影などを薄い青でつける場合もある)。

もしかしたら実際の水しぶきとは少し違うかもしれません。もしかしたら実際の水しぶきは、もっと透明も混ざってたりするのかもしれませんが、しかし労力的(ほか予算など)にそこまで透明で描くのは無理です。


なお、数十時間を描けて描く水彩画のプロですら水しぶきを不透明にしているのですから、ましてやアニメ産業とかの水しぶきはなおさら不透明の白い塊(かたまり)です。

なお、ゲーム産業も基本的には、そういう感じです。ゲーム機では精密な流体シミュレーションとかは出来ません。流体シミュレーションには大型コンピュータ(いわゆる「スパコン」的なもの)などが必要になるので、小型化の要求されるゲーム機では波しぶきとかのシミュレーションは難しいのです(ゲーム機では子供でも持てるサイズですので)。

だから、ゲームソフトの波とか波しぶきとか、じつはデジタルペンなどによる手書きによるパターンアニメだったりします[15]

なお、アニメ映画とかだと作品によっては流体シミュレーションをしてリアルな透明感ある波や水しぶきなどを描いている場合もありますが、その場合に使っているコンピュータは、スパコン的な高性能なコンピュータであり、決して一般の家電量販店にあるような普通のコンピュータではなかったりします。少なくともノートパソコンやタブレットなどだと、無理です(少なくとも西暦2020年の人類の科学力ではそうです)。デスクトップパソコンで何とか可能であり、そのデスクトップの中でも高性能・高価格なパソコンが必要であり、処理には時間も掛かります。

意外かもしれませんが、流体シミュレーションにおいては、ゲームソフトよりも実は一部のアニメ映画のほうが、設備のコンピュータのハード性能的には高性能なのです。

  1. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、
  2. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P11
  3. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P11
  4. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P11
  5. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P14
  6. ^ 山崎正明『中学校美術 指導スキル大全』、明治図書、2022年5月初版第1刷刊、P100
  7. ^ 小林啓子『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、
  8. ^ 小林啓子『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P28
  9. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P55
  10. ^ 小林啓子『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P22
  11. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P106
  12. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P94
  13. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P94
  14. ^ 小林啓子 著『いちばんていねいな自然の風景の水彩レッスン』、日本文芸社、2016年5月31日 第1刷発行、P56
  15. ^ 蛭田健司『ゲームクリエイターの仕事 イマドキのゲーム制作現場を大解剖』、翔泳社、2016年4月14日 初版 第1刷 発行、P108