アクセス指定子の概要

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アクセス指定子の役割と重要性

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C++ プログラミングにおいて、アクセス指定子はクラスや構造体のメンバー (変数や関数) に対してアクセス許可を設定するための重要な機能です。アクセス指定子によって、メンバーにアクセスできる範囲を制御することで、データの隠蔽とセキュリティ対策、クラスのインターフェース設計と情報の一貫性、継承とクラス階層におけるメンバーの制御など、様々なメリットを得ることができます。

C++ における主要なアクセス指定子

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C++ には、主に以下の 3 種類のアクセス指定子が存在します。

public アクセス指定子
クラス内外から自由にアクセスできるメンバーを示します。
private アクセス指定子
クラス内からのみアクセスできるメンバーを示します。
protected アクセス指定子
クラスとその派生クラスからのみアクセスできるメンバーを示します。

アクセス指定子の基本的な構文と記述方法

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アクセス指定子は、メンバーの宣言の前に記述します。以下に、各アクセス指定子の基本的な構文と記述方法を示します。

public アクセス指定子
  public:
    // メンバーの宣言
private アクセス指定子
  private:
    // メンバーの宣言
protected アクセス指定子
  protected:
    // メンバーの宣言
class MyClass {
  public:
    int publicMember; // public アクセス指定子
  private:
    int privateMember; // private アクセス指定子
  protected:
    int protectedMember; // protected アクセス指定子
};

アクセス指定子の種類と詳細

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public アクセス指定子

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メンバーにアクセスできる範囲

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publicアクセス指定子は、クラス内外から自由にアクセスできるメンバーを示します。つまり、クラスのインスタンスを作成したオブジェクトであれば、どこからでもアクセスすることができます。

メンバー関数のオーバーロードとアクセス指定子

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メンバー関数のオーバーロードにおいて、異なるアクセス指定子を持つ同名の関数を定義することはできません。例えば、以下のようなコードはエラーとなります。

class MyClass {
  public:
    void print(); // public アクセス指定子
  private:
    void print(); // private アクセス指定子
};

静的メンバーとアクセス指定子

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静的メンバーは、クラスオブジェクトではなくクラス自体に属するメンバーです。静的メンバーに対してアクセス指定子を設定することはできますが、静的メンバーへのアクセスはクラスオブジェクトを経由する必要はありません。

class MyClass {
  public:
    static int publicStaticMember; // public アクセス指定子
  private:
    static int privateStaticMember; // private アクセス指定子
  protected:
    static int protectedStaticMember; // protected アクセス指定子
};

private アクセス指定子

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メンバーの隠蔽とカプセル化

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privateアクセス指定子は、クラス内からのみアクセスできるメンバーを示します。つまり、クラスのインスタンスを作成したオブジェクトであっても、直接アクセスすることはできません。private アクセス指定子を使用することで、クラス内部のデータや実装を外部から隠蔽し、カプセル化を実現することができます。

メンバー関数による private メンバーへのアクセス

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publicメンバー関数から private メンバーにアクセスすることは可能です。ただし、private メンバーへのアクセスは、そのメンバー関数を所有するクラスのインスタンスを経由する必要があります。

class MyClass {
  private:
    int privateMember;
  public:
    int getPrivateMember() {
      return privateMember;
    }
};

友好関係クラスと private メンバーへのアクセス

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友好的関係クラスは、互いに private メンバーにアクセスできる特別な関係を結んだクラスです。友好的関係クラスに設定された private メンバーは、その関係クラスから直接アクセスすることができます。

class MyClass {
  private:
    int privateMember;
  friend class MyFriendClass;
  public:
    int getPrivateMember() {
      return privateMember;
    }
};
 
class MyFriendClass {
  public:
    void accessPrivateMember(MyClass& obj) {
      obj.privateMember = 10;
    }
 };

protected アクセス指定子

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継承と protected メンバー

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protectedアクセス指定子は、クラスとその派生クラスからのみアクセスできるメンバーを示します。protected メンバーは、派生クラスから継承することでアクセス可能になりますが、派生クラスのさらに派生クラスからは直接アクセスできません。

protected メンバーのアクセス範囲

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protectedメンバーのアクセス範囲は、以下のようになります。

基底クラス
直接アクセス可能
派生クラス
直接アクセス可能
派生クラスの派生クラス
直接アクセス不可
class BaseClass {
  protected:
    int protectedMember;
};
 
class DerivedClass : public BaseClass {
  public:
    void accessProtectedMember() {
      protectedMember = 10;
    }
};

仮想関数と protected アクセス指定子

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仮想関数において、基底クラスで protected アクセス指定子を持つ仮想関数を、派生クラスでオーバーライドする場合は、派生クラスの仮想関数は protected アクセス指定子を持つ必要があります。

class BaseClass {
  protected:
    virtual void protectedFunction();
};
 
class DerivedClass : public BaseClass {
  protected:
    void protectedFunction() override {
      // 派生クラスで独自の処理を行う
    }
};

アクセス指定子の応用例

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データの隠蔽とセキュリティ対策

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アクセス指定子を使用することで、クラス内部のデータや実装を外部から隠蔽し、カプセル化を実現することができます。カプセル化により、データの整合性やセキュリティを向上させることができます。

class BankAccount {
  private:
    int balance; // private アクセス指定子で隠蔽
  public:
    void deposit(int amount) {
      balance += amount;
    }
 
    int getBalance() {
      return balance; // public メンバー関数から間接的にアクセス
    }
};

クラスのインターフェース設計と情報の一貫性

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アクセス指定子を使用することで、クラスのインターフェースを明確に定義し、情報の一貫性を保つことができます。

class Shape {
  public:
    virtual double getArea() = 0; // 抽象基底クラスでインターフェースを定義
};
 
class Circle : public Shape {
  public:
    double radius;
 
    double getArea() override {
      return radius * radius * M_PI;
    }
};
 
class Rectangle : public Shape {
  public:
    double width;
    double height;
 
    double getArea() override {
      return width * height;
    }
};

継承とクラス階層におけるメンバーの制御

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アクセス指定子を使用することで、継承関係におけるメンバーのアクセスを制御することができます。

class Animal {
  public:
    void makeSound() {
      // 基底クラスで共通の処理を行う
    }
};
 
class Dog : public Animal {
  public:
    void makeSound() override {
      // 派生クラスで独自の処理を行う
    }
};
 
class Cat : public Animal {
  public:
    void makeSound() override {
      // 派生クラスで独自の処理を行う
    }
};

テンプレートとアクセス指定子の組み合わせ

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テンプレートとアクセス指定子を組み合わせることで、汎用的なクラス設計を実現することができます。

template <typename T>
class Container {
  private:
    std::vector<T> data;
  public:
    void add(const T& item) {
      data.push_back(item);
    }
 
    T get(int index) {
      return data[index];
    }
};

高度なプログラミング技法におけるアクセス指定子の活用

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アクセス指定子は、様々な高度なプログラミング技法において活用することができます。

デストラクタ
デストラクタは private アクセス指定子で定義することで、外部からの意図しないオブジェクトの破棄を防ぐことができます。
シングルトンパターン
シングルトンパターンにおけるインスタンス管理に private アクセス指定子を使用することで、クラス内に唯一のインスタンスを生成・保持することができます。
ファクトリーメソッド
ファクトリーメソッドにおいて、生成するオブジェクトの種類を private メンバーで隠蔽し、public メンバー関数から間接的に生成することで、インターフェースを明確にすることができます。
シングルトンパターン
class Singleton {
  private:
    Singleton() {} // コンストラクタを private アクセス指定子で定義
    static Singleton& getInstance() {
      static Singleton instance;
      return instance;
    }
 
  public:
    void doSomething() {
      // インスタンス固有の処理を行う
    }
};
 
auto main() -> int {
  Singleton& instance = Singleton::getInstance();
  instance.doSomething();
  return 0;
}
ファクトリーメソッド
class ShapeFactory {
  private:
    Shape* createShape(ShapeType type) {
      switch (type) {
      case ShapeType::Circle:
        return new Circle();
      case ShapeType::Rectangle:
        return new Rectangle();
      default:
        return nullptr;
    }
  }
 
  public:
    Shape* createShape(ShapeType type) {
      return createShape(type); // private メンバー関数を呼び出す
    }
};
 
 auto main() -> int {
     ShapeFactory factory;
     Circle* circle = factory.createShape(ShapeType::Circle);
     Rectangle* rectangle = factory.createShape(ShapeType::Rectangle);
 
    // circle と rectangle を使用して処理を行う
 
    delete circle;
    delete rectangle;
    return 0;
}

アクセス指定子の注意点とベストプラクティス

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過剰なカプセル化による使いにくさの回避

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過剰なカプセル化は、クラスの使いにくさを招く可能性があります。必要以上に private メンバーを使用してしまうと、クラス内部のデータや操作方法が外部から分かりにくくなり、メンテナンス性や拡張性が低下する可能性があります。

適切なアクセス指定子の選択による保守性の向上

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適切なアクセス指定子を選択することで、クラスの保守性を向上させることができます。一般的には、メンバーはできる限り public アクセス指定子で定義し、必要な場合のみ private または protected アクセス指定子を使用するようにします。

インターフェース設計におけるアクセス指定子の考慮

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クラスのインターフェース設計においては、アクセス指定子を考慮して明確なインターフェースを定義する必要があります。public メンバー関数は、外部からどのように利用できるかを明確に示し、private メンバー関数は内部実装のみに使用することを明確にする必要があります。

継承におけるアクセス指定子の影響

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継承関係においては、アクセス指定子がどのように影響するのかを理解する必要があります。派生クラスは、基底クラスの protected メンバーに直接アクセスすることができますが、public メンバーにアクセスする場合は、基底クラスの public メンバー関数を経由する必要があります。

テンプレートとアクセス指定子の組み合わせにおける注意点

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テンプレートとアクセス指定子を組み合わせる場合は、テンプレートパラメータの型によってアクセス可能なメンバーが変わる可能性があることに注意する必要があります。テンプレートクラスを使用する際には、テンプレートパラメータの型によってどのようなメンバーがアクセス可能なのかを理解する必要があります。

その他の関連トピック

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アクセス指定子と名前空間

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名前空間とアクセス指定子を組み合わせることで、名前の衝突を防ぎ、コードの読みやすさを向上させることができます。

アクセス指定子とコンパイラオプション

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コンパイラによっては、アクセス指定子に関する警告やエラーを抑制するオプションが用意されています。これらのオプションを活用することで、コンパイル時のエラーや警告を減らすことができます。

アクセス指定子に関する高度な C++ 機能

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C++20 などの新しい規格では、アクセス指定子に関する高度な機能が追加されています。例えば、friend templateprotected friend などの機能を使用することで、より柔軟なアクセス制御を実現することができます。

C++11以降のアクセス指定子の新しい意味

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C++11以降、アクセス指定子にはいくつかの新しい意味が追加されています。以下に、主要な新機能を紹介します。

inline 指定子とアクセス指定子の組み合わせ

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C++11以降、inline 指定子とアクセス指定子を組み合わせることができます。inline 指定子付きのメンバー関数は、インライン化の対象となり、コンパイル時に展開される可能性があります。

class MyClass {
  private:
   int x;

  public:
    // インライン化される public メンバー関数
    inline int GetValue() {
      return x;
    }
 
};

final 指定子とアクセス指定子の組み合わせ

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C++11以降、final 指定子とアクセス指定子を組み合わせることができます。final 指定子付きのメンバー関数は、オーバーライドすることができなくなります。

class MyClass {
  private:
    int x;

  public:
    // オーバーライドできない public メンバー関数
    final int GetValue() {
      return x;
    }
 
};

explicit 指定子とアクセス指定子の組み合わせ

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C++11以降、explicit 指定子とアクセス指定子を組み合わせることができます。explicit 指定子付きのコンストラクタは、暗黙の型変換による引数変換を抑制します。

class MyClass {
  private:
    int x;
  public:
    // 暗黙の型変換を抑制するコンストラクタ
    explicit MyClass(int value) : x{value} {}
 
};

テンプレートパラメータとしてのアクセス指定子

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C++11以降、テンプレートパラメータとしてアクセス指定子を使用することができます。これにより、テンプレートクラスのメンバーのアクセス範囲をテンプレートパラメータによって制御することができます。

template <typename T, typename Access>
class MyContainer {
  private:
    std::vector<T> data;
  public:
    using value_type = T;
 
    void add(const T& value) {
      // ...
    }
 
    T& operator[](int index) {
      // ...
    }
 
};
 
// public アクセス指定子を持つコンテナ
MyContainer<int, public> publicContainer;
 
// private アクセス指定子を持つコンテナ
MyContainer<int, private> privateContainer;

static_assert マクロとアクセス指定子の組み合わせ

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C++11以降、static_assert マクロとアクセス指定子を組み合わせることができます。これにより、コンパイル時にアクセス指定子の整合性をチェックすることができます。

class MyClass {
  private:
    int x;
  public:
    // コンパイル時に `x` が `private` メンバーであることをチェック
    static_assert(std::is_same_v<decltype(x), private>, "x is not a private member");
 
};

これらの新機能は、C++ プログラミングにおけるアクセス指定子の柔軟性と表現力をさらに高めています。

まとめ

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アクセス指定子は、C++ プログラミングにおいて重要な機能であり、様々な場面で活用することができます。この章では、アクセス指定子の概要、種類、詳細、応用例、注意点、ベストプラクティス、その他の関連トピックについて説明しました。

アクセス指定子を適切に理解し、活用することで、より安全で保守性の高い C++ プログラムを開発することができます。