C++標準ライブラリ::queueヘッダー
編集はじめに
編集本書では、C++標準ライブラリにおける<queue>ヘッダーについて解説します。<queue>ヘッダーは、先入れ先出し (FIFO) キューと呼ばれるデータ構造を扱うためのテンプレートを提供します。キューは、要素の挿入と削除を一定の順序で行うことができるデータ構造であり、タスクの管理やイベント処理など、様々な場面で利用されます。
本章では、キューの概念、標準ライブラリのstd::queue
テンプレート、キュー操作関数、キューアダプタ、キューイテレータ、キューとスレッドについて解説します。これらの内容を理解することで、C++におけるキューの利用方法を習得することができます。
キューの定義
編集キューとは
編集キューは、先入れ先出し (FIFO) の原則に基づいて要素を処理するデータ構造です。FIFO の原則とは、「最初に挿入された要素が最初に削除される」という規則です。キューは、ベルトコンベアに例えられることがあり、ベルトコンベアに乗った要素は順番に処理されていきます。
キューの操作
編集キューには、以下の基本的な操作があります。
- push
- キューの末尾に要素を挿入します。
- pop
- キューの先頭から要素を削除し、返します。
- empty
- キューが空かどうかを調べます。
- size
- キューに含まれる要素数を返します。
キューの利点
編集キューには、以下の利点があります。
- シンプル
- 構造と操作がシンプルで理解しやすい。
- 効率的
- 挿入と削除の操作が一定時間で行える。
- 汎用性
- タスク管理、イベント処理など、様々な場面で利用できる。
キューと他のデータ構造の比較
編集キューは、他のデータ構造と比べて以下の特徴を持っています。
- スタック
- スタックは、先入れ後出し (LIFO) の原則に基づいて要素を処理するデータ構造です。キューとは異なり、最初に挿入された要素は最後に削除されます。
- リスト
- リストは、要素間の論理的な順序を持つデータ構造です。キューとは異なり、挿入と削除の操作がランダムに行えます。
- ハッシュ表
- ハッシュ表は、キーと値のペアを格納するデータ構造です。キューとは異なり、要素へのアクセスがキーに基づいて行えます。
標準ライブラリのstd::queue
テンプレート
編集
概要
編集標準ライブラリにおけるstd::queue
テンプレートは、汎用キューと呼ばれるデータ構造を定義します。汎用キューは、要素型をテンプレートパラメータとして受け取り、その型に基づいてキューを構築します。
テンプレートパラメータ
編集std::queue
テンプレートには、以下のテンプレートパラメータがあります。
- ValueType
- キューに格納される要素の型。
テンプレート特化
編集std::queue
テンプレートは、以下のテンプレート特化が定義されています。
- std
- :deque<ValueType> : 要素型が
std::deque
である場合。 - std
- :list<ValueType> : 要素型が
std::list
である場合。
これらのテンプレート特化は、それぞれ異なるキュー実装を提供します。
キュー操作関数
編集push
編集要素をキューの末尾に挿入します。
template <typename ValueType> void queue<ValueType>::push(const ValueType& value);
pop
編集キューの先頭から要素を削除し、返します。
template <typename ValueType> ValueType queue<ValueType>::pop();
empty
編集キューが空かどうかを調べます。
template <typename ValueType> bool queue<ValueType>::empty() const;
size
編集キューに含まれる要素数を返します。
template <typename ValueType> std::size_t queue<ValueType>::size() const;
その他の操作関数
編集標準ライブラリは、以下の操作関数も提供しています。
- front
- キューの先頭の要素を参照します。
- back
- キューの末尾の要素を参照します。
- swap
- 2つのキューの内容を交換します。
キューアダプタ
編集概要
編集キューアダプタは、標準ライブラリが提供するキュー実装を拡張するためのテンプレートクラスです。キューアダプタを用いることで、キューに独自の機能を追加したり、特定のニーズに合わせたキュー実装を作成することができます。
標準ライブラリのキューアダプタ
編集標準ライブラリは以下のキューアダプタを提供しています。
- std
- :queue : 汎用キューアダプタ。
- std
- :priority_queue : 優先度付きキューアダプタ。要素に優先度を割り当て、優先度が高い要素から処理されます。
キューアダプタの利用方法
編集キューアダプタを利用するには、以下の手順を行います。
- キューアダプタのテンプレートをインスタンス化します。
- インスタンス化されたキューアダプタを、通常のキューと同様に操作します。
// std::queueアダプタの利用例 std::queue<int> q; q.push(1); q.push(2); q.push(3); while (!q.empty()) { int value = q.pop(); std::cout << value << " "; }
キューイテレータ
編集概要
編集キューイテレータは、キュー内の要素を順にたどることができるイテレータです。キューイテレータを用いることで、キュー内の要素をループ処理したり、特定の要素にアクセスしたりすることができます。
キューイテレータの種類
編集キューイテレータには、以下の種類があります。
- const_iterator
- 読み取り専用のイテレータ。キュー内の要素を参照することはできますが、変更することはできません。
- iterator
- 読み書き可能なイテレータ。キュー内の要素を参照したり、変更したりすることができます。
キューイテレータの利用方法
編集キューイテレータを利用するには、以下の手順を行います。
- キューの
begin()
メンバ関数によって、キューの先頭のイテレータを取得します。 - イテレータを
++
演算子によってインクリメントすることで、次の要素へ移動します。 - イテレータがキューの終端 (
end()
) に達するまで、2. の操作を繰り返します。
// キューイテレータの利用例 std::queue<int> q; q.push(1); q.push(2); q.push(3); for (std::queue<int>::iterator it = q.begin(); it != q.end(); ++it) { std::cout << *it << " "; }
キューとスレッド
編集概要
編集キューは、マルチスレッドプログラミングにおいて、タスク間の同期と通信を行うために有用なデータ構造です。キューにタスクを格納することで、複数のスレッドがタスクを効率的に処理することができます。
スレッドセーフなキュー
編集複数のスレッドから安全にアクセスできるキューを、スレッドセーフなキューといいます。スレッドセーフなキューは、排他制御機構を用いて、データ競合を防止します。
キューとスレッドの利用例
編集以下は、キューとスレッドを用いたタスク処理の例です。
- メインスレッドは、タスクを生成してキューに格納します。
- ワーカースレッドは、キューからタスクを取り出して処理します。
#include <queue> #include <thread> std::queue<int> q; void worker_thread() { while (true) { if (!q.empty()) { int task = q.pop(); // タスクを処理 } else { // キューが空の場合の処理 } } } auto main() -> int { // タスクを生成してキューに格納 q.push(1); q.push(2); q.push(3); // ワーカースレッドを起動 std::thread worker(worker_thread); // メインスレッドの処理 // ... worker.join(); return 0; }
まとめ
編集本章では、C++標準ライブラリの<queue>ヘッダーについて解説しました。
<queue>ヘッダーは、先入れ先出し (FIFO) キューと呼ばれるデータ構造を扱うためのテンプレートを提供します。キューは、要素の挿入と削除を一定の順序で行うことができるデータ構造であり、タスク管理、イベント処理など、様々な場面で利用されます。
本章では、以下の内容を解説しました。
- キューの概念
- 標準ライブラリの
std::queue
テンプレート - キュー操作関数
- キューアダプタ
- キューイテレータ
- キューとスレッド
これらの内容を理解することで、C++におけるキューの利用方法を習得することができます。
今後の学習
編集本章で学んだ内容を活かして、以下の点について学習を深めていきましょう。
- 標準ライブラリが提供するその他のキュー関連テンプレート (例:
std::priority_queue
) - キューを用いた具体的なアプリケーション (例: タスクスケジューラ、パイプライン処理)
- スレッドセーフなキューの実装方法
- キューとその他のデータ構造の組み合わせ
これらの学習を通して、C++におけるキューの活用範囲を広げ、より高度なプログラミングスキルを習得することができます。
附録
編集練習問題
編集- 以下のコードを実行し、結果を説明してください。
#include <queue> auto main() -> int { std::queue<int> q; q.push(1); q.push(2); q.push(3); while (!q.empty()) { int value = q.pop(); std::cout << value << " "; } return 0; }
- キューを用いて、タスクを生成して処理するプログラムを作成してください。タスクは、1から10までの整数を順に表示する処理とします。
- 2つのキューを用いて、タスク間の優先度を設定するプログラムを作成してください。高優先度のタスクは、低優先度のタスクよりも先に処理されるようにします。