中学校国語 古文/枕草子
『枕草子』(まくらのそうし)とは、清少納言(せい しょうなごん)という実在の女が、ひごろ、感じたことを書いた文章である。現代(げんだい)でいう、いわゆる「随筆」(ずいひつ)である。枕草子は、物語ではない。平安時代の作品である。
うつくしきもの
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うつくしきもの。瓜(うり)に描きたる(かきたる)ちごの顔。すずめの子の、ねず鳴きするに踊り( 頭(かしら)は尼(あま)そぎなるちごの、目に髪(かみ)のお |
現代語訳 かわいらしいもの。瓜に描いてある幼児の顔。(また、他にも、かわいらしいものとしては、)すずめの子が、(人が)ねずみの鳴きまねをしてチュウチュウとすると、踊るようにして、やってくる(のも、かわいらしい)。 (他にも。)二歳か三歳ぐらいの幼児が、急いで這ってくる途中に、とても小さいごみがあったのを、目ざとく見つけて、とても愛らしげな指(ゆび)につまんで、大人などに見せているのは、とてもかわいらしい。 髪をおかっぱにしている幼児の、目に髪の毛がおおいかぶさっているのを、かきあげもしないで、首をかしげて何かを見ているのも、かわいらしい。 (第一四五段) |
語註など
- ちご
- 幼児、乳幼児、子ども、乳飲み子、など。
- 尼そぎ
- 当時の尼は、髪の毛を肩のあたりで切りそろえていた。そのような髪型。
- ねず鳴き
- ねずみの鳴き声をまねて、ちゅうちゅうと言うこと。
- うつくし
- 小さいものなどを、かわいらしいと思う気持ち。
- をかし
- 「をかし」には、多くの意味がある。「趣がある。」「かわいらしい。」「美しい」「興味深い」・・・など。ここでは文脈から、「かわいらしい」という意味。
- 単語(※ 高校レベル)
「をかし」と「あはれ」の違い: 「をかし」も「あはれ」も、ともに「趣(おもむき)が深い」と訳される場合があるが、しかし意味あいは微妙に異なる。「をかし」は基本的に、やや明るい感じにさせるものを言う場合に使う傾向がある。 いっぽう、「あはれ」は、しみじみとした気分にさせるものを言う[1]。
春はあけぼの
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現代語訳 |
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春は、明け方(あけがた)が良い。 だんだん、白くなっていく山ぎわが、 少し明るくなって、紫がかった雲が、細くたなびいているのが、良い。 |
(読み: はる わ あけぼの。 ようよう しろく なりゆく やまぎわ、 すこし あかりて、むらさきだちたる くも の ほそく たなびきたる。)
- あけぼの ・・・ 意味は「明け方」(あけがた)、「夜明け」(よあけ)など。
- やうやう ・・・ 「ようよう」と読む。意味は、「だんだん」。
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夏は夜が良い。 月のあるころは言うまでも無い。(言うまでもなく、良い。) 月のない闇夜(やみよ)ですらも、蛍の多く飛び立っているのが見れて良い。 ただ、一ひき、二ひきなど、少しずつ飛んでいくのも、おもむきがある。 雨などがふるのも、おもむきがある。 |
- 発展:「さらなり」 ※ 高校レベル
「さらなり」の和訳の「言うまでもない」は、けっして意訳ではない。ほかの古典作品でも「言うまでもない」という意味である。
高校レベルだが「大鏡」(おおかがみ)という古典でも「さらなり」という単語があり、ここでも「言うまでもない」という意味である。
大鏡・6・冒頭部「延喜の御時に古今撰ぜられしをり、貫之はさらなり」(以下略)とあるのだが、これは意味は「延喜の時代、古今和歌集を撰じられたとき、紀貫之(きのつらゆき、※ 和歌ですごく有名な歌人のひとり)は言うまでもなく、」という内容である。
- をかし
- 「をかし」で一つの単語であり、古語での意味は、「おもむきがある。」という意味。現代で言う「面白おかしい」とは意味がちがうので、注意。古文の重要単語なので、おぼえよう。
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秋は夕暮れが良い。 夕日がさして、山ぎわに近くなったころに、からすが、ねぐらに帰るために、三羽・四羽、あるいは二羽・三羽、飛んでゆくのも、しみじみとしている。 まして、かりなどの列をつくっているようすが、(遠くを飛んだりして)小さく見えるのは、とても、おもむきがある。日がしずんでしまって、風の音や虫の声が聞こえてくるのは、言うまでも無い。(言うまでもなく、とても、おもむきがある。) ※ 「言ふべきにあらず。」の訳を、「言うことが出来ない。」「言いようが無い。」という訳をする場合もある。「言いようが無いほど、おもむきがある。」というような意味。 |
- いと(をかし) ・・・ 「いと」の意味は「とても」。「いとをかし」で、「とても、おもむきがある。」などの意味になる。「いと」と「をかし」は古文の重要単語なので、おぼえよう。
- あはれ ・・・ 「あわれ」と読む。意味は「しみじみとしている。」とか、「ものがなしい。」など。現代で言う、「かわいそう」という意味の「哀れ」(あわれ)とは、古語では意味がちがうので注意。古文の重要単語なので、おぼえよう。
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冬は、早朝が良い。雪のふりつもった朝は、言うまでもない。(言うまでもなく、良い。) 霜(しも)がおりて、たいそう白くなっているのも、また、そうでなくとも、たいそう寒い朝に火などを急いで起こして炭火を持って、廊下(ろうか)などをわたるのも、(冬らしくて)とても似つかわしい。(しかし、)昼になって、寒さがしだいにゆるんでいくと、火おけの火が、灰がちに白くなっているのは、みっともない。 |
- つとめて ・・・ 意味は「早朝」
- 現代語の「つめたい」とは無関係なので、混同しないように。
(※高校の範囲)「つきづきし」 ・・・ 意味は「似つかわしい」。
清少納言
編集清少納言は、清原元輔(きよはらのもとすけ、908年 - 990年)の娘。清少納言の本名は不明。 清原の姓にちなんで「清少納言」と呼ばれた。
清少納言は、平安時代の女房(にょうぼう)の一人。女房とは、宮中の女官。
清少納言は、枕草子の作者である。
一条天皇の時代に、藤原定子(ふじわらのていし)の女房として宮中に仕えた。藤原定子は、一条天皇の中宮。
藤原定子は女。「中宮」とは、天皇の妻たちの一つ。
源氏物語の作者の紫式部とともに、平安時代の王朝についての代表的な作家として、清少納言は有名。
- ^ (※ 高校生用の単語集)吉沢康夫『入試対応 必修古文単語 735』三省堂、2011年12月10日 第14刷発行 、P142