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このページでは、工業規格について、中学校技術科で学習する範囲で教授します。教科書や教員によっては、このページの内容をすべては学習しない場合などがあります。学校及び教員の指導に従って学習しましょう。


工業規格 編集

公式の規格 編集

国家の規格 編集

 
現行(2013年時点に確認)でのJISマーク(鉱工業品用)

ねじや歯車などの大量生産を行う部品などは、寸法などが規格によって定められている。

この規格があることによって、品質が安定するだけでなく、異なる会社が作った複数の部品を組み合わせて用いることも可能になっている(これを互換性(ごかんせい)と呼ぶ)。これにより、消費者は規格に沿った物を求めるため、規格のある分野は、なるべく規格に沿って作ることが望ましい(現実には、なるべく同じメーカー同士の部品を組み合わせた場合がより性能が良いことが多い[1])。

この規格化により、もし部品が故障した際も、代用になりえる部品が見つかりやすくなる。このような理由から、規格化された部品は、より多くの用途が見込めるので、企業にとっては経営的にも大量生産をしやすくなる。

日本国の工業規格では公的な工業規格として、日本産業規格であるJIS規格(ジスきかく)が制定されている。「JIS」とはJapanese Industrial Standards の略である。

「JIS規格」が工業の分野での、日本国の国家標準規格である。 この他、工業の業界それぞれごとに各種の規格がある。それらの規格はなるべくJISを反映するようになっているのが一般的である。 工業以外の分野では別の国家規格がある場合もある。たとえば農業では日本農林規格であるJAS規格(ジャスきかく)がある。

JIS規格の内容は、部品の寸法や形状などのほかに、製図のきまりごと自体もJIS規格で制定されている。

(※ 備考、範囲外?)なお、JIS規格の日本語名称を、むかしは「日本工業規格」と呼んでいたが、2019年に「日本産業規格」に名称変更した。英字略称は引き続き「JIS」のままである。社会のデジタル化や(後述する)ISO国際規格などとの整合性のため、JISの対象分野を(コンピュータなどの)データや(品質管理などの)サービスや経営管理の分野にもJIS規格の対象を広げる。
※ 農業に関しては、JIS(ジス)規格では扱わない。農業や農林水産業については別途、JAS(ジャス)規格(「日本農林規格」ともいう)という規格で扱われる。 日本語では農業や林業・水産業などの第一次産業も「産業」に含まれるハズである。しかしJISは、日本の他分野(JAS・日本農林規格など)の規格との整合性よりも、ISO国際規格との整合性のほうを(JISは)重視している。
※ なお日本での産業の分類として、
農業や林業・水産業や畜産業などは「第一次産業」、
工業および土建は「第二次産業」、
サービス業は「第三次産業」、
である。

国際規格 編集

国家の規格とは別に、国際規格がある。ISO(アイ・エス・オー)などの国際規格がある。

ISOとは工業などの分野で国際規格を制定している国際標準化機構(こくさい ひょうじゅんか きこう)のことである。ISOの公用語はフランス語、英語、ロシア語だが、国際標準化機構のことを英語では”International Organization for Standardization”という。 英語の正式名称の各語の頭文字 I,O,S とISOとで2文字目と3文字目で語順が違っているのが、別に「ISO」の語順は誤植ではなく、そのように機構の名称が規定されている。

日本の工業規格のJIS規格も、なるべくISO規格に内容を共通化している。日本国もISOの加盟国であり、日本からもISOに規格の提案を行っている。


国際規格には、ISOの他にもある。たとえば電気業界の国際規格のIEC規格などのように、業界ごとの規格がある。IECは国際電気標準会議のこと。

それらの各種の業界の国際規格も、なるべくISOなどの他の国際規格と内容が共通化するように調整している[2]

ISO規格の内容は工業の多くにわたり、ネジや歯車などの機械要素の規格や、写真のフィルムのISO感度など、ISOのいろいろな規格がある。

一般の書店や図書館などでは、ISOというと、ISO 14000シリーズ(環境マネジメントシステムに関する規格)やISO 26000(企業の社会的責任)などの社会的課題に関する分野の解説本またはISO 9000シリーズ(品質マネジメントシステムに関する規格)などの経営管理の解説本が多いかもしれないが、しかし2015年の時点でISO規格の大半の対象は機械工業や化学工業や電子工業・情報通信分野などといった工業・関連であり[3]、工業分野・電子情報通信をあわせて全ISO規格のうちの50%を超えている[4]

※ なお、小学校の社会科『小学校の社会5下 国土のようすと情報』(日本文教出版、平成22年3月10日検定済み、98ページ)で、ISOの環境の規格も紹介している。その小学校教科書によると、「学校版環境ISO」なるものがあるらしい。


最近(執筆時点は2013年)の専門的な規格の解説書などを読めば、ISOを反映しているのが一般である。 ただし古い規格の解説書だと、まだISO規格を反映されてない場合もあるので、文献調査をする場合は注意。

文献調査をする場合には注意。 各国は、もし自国の規格が国際規格に採用されると国際競争に有利なので、自国の規格を各国にも普及させようと熱心である。


その他(※ 範囲外)

英語では、『標準』も『規格』も、ともに英語では standard という[5]

しかし日本語では「標準」と「規格」を区別しており、ニュアンスが違う。

もし『規格』と言った場合には、たとえばJIS規格のように、国家機関や公共機関などの定める文書に基づいているという用法もある。

いっぽう『標準』と言った場合、もっと広い意味があり、「普及している」というような意味も『標準』にはある。

ただし現実には、国家機関でなく公開文書に基づいてなくても『大企業の独自規格』みたいな用法で『規格』が言われる場合もあるし、あるいは『わが社の工場での作業標準では~~』みたいな表現で『標準』が使われる場合もあるので、あまり用法の区別は厳密ではない。


※ 中学の範囲外 編集

「規制」とは違う 編集

法律にもとづく「○○しなければならない」などのような『規制』(きせい、英: regulation)とは、『規格』(きかく、英: standard)は意味が違います。

日本では便宜的に、工業などの分野における規制のことを「強制規格」という場合もありますが[6]、しかしそもそも英語が、規制(regulation)と規格(standard)では違っています。


JISの対象の産業 編集

JIS(日本産業規格、ジス)の対象は主に製造業や土木建築。

JAS(日本農林規格)の対象は農業。

いまのところ日本には、主にサービス業を対象とした規格は無い。JISはけっしてサービス業を対象にはしていない[7]

いっぽう、ISO規格は形式的にはサービス業も対象にしている[8]


しかし今後、日本でもISOをJISに反映するためや[9]、あるいはロボット分野におけるサービスロボットなどとの関連もあり[10]、日本のJISでも限定的だがサービスについて規定していく方向性のようである。


非公式の規格、「事実上の標準」 編集

正式の規格のほかにも、消費者に普及している製品を作ってる会社の製品の仕様が、まるで規格のような影響力を持っている場合もある。

たとえばパソコンのソフトウェアでは、OS(オペレーティング・システム)という基本ソフトにはマイクロソフト社の「ウィンドウズ」というシリーズのソフトウェア製品が普及しているので、アプリケーションの開発をしている会社などは、ウィンドウズの仕様にあわせてアプリケーションを作らざるを得ない。

このウィンドウズの例のように、市場で支配的な企業の製品の仕様が、まるで規格のような影響力を持つ例を、かつて1990年代ごろは「事実上の標準」(英語: de facto standard デ・ファクト・スタンダード)などと言った。


電気製品やコンピューターソフトなど、商品開発サイクルの短い分野では、決定まで何年もかかる公定の規格よりも、その時点での市場で一般的な規格である「事実上の標準」のほうが影響力が大きい場合もある。また、このような「事実上の標準」が後の国際規格の土台となる場合もありうる。


各企業も、自社の工業製品の社内規格が国家規格として採用されたり、あるいは社内規格が「事実上の標準」になると、自社の経営的にも便利なので、大企業などは市場における自社規格の普及活動に熱心である。

コンピューターソフトの会社などでは、消費者たちに自社の製品規格を普及させるために、あえて無料でソフトウェアやサービスなどを公開している場合もある。このような売り込みの手法も、ビジネス界ではある。たとえばインターネット検索の大手企業のグーグルは、検索エンジンを無料で使わせている。(2014年に本文を記述。) ちなみに、グーグルは、ネット上での広告掲載の収入などで利益を得ている。グーグルの検索サービスが普及すれば、その分だけ、広告収入を得やすくなる、という目論見(もくろみ)なわけだ。

技術開発における規格的な手法 編集

さて、製品の技術開発をするときも、なるべく互換性などを考えて開発すると便利である。

自社「規格」などの普及活動というと、ついつい「事実上の標準」などをめぐっての規格の主導権をめぐる競争などから、市場のシェア争いによって大企業が規格の主導権をにぎる事を連想しがちだが、しかし、もともと規格とは製品の部品の互換性などを高めるために規格が開発されているのである。

たとえば、自動車会社などは、自社がいくつかの製品を作っているときに、部品の共通化などができる場合は、共通化したほうが、予備の在庫などを少なくできるので、部品の費用を安くできる。企業での部品の共通化の実例は、自社内だけでなく提携している企業とも部品を共通化して、なるべく費用を下げる場合もある。

自動車業界だけでなく、コンピューター業界でも、規格的な開発手法がある。

たとえばコンピューターソフトのOS(基本ソフト)も、もともとOSは、「ファイルの操作」など、どのアプリケーションなどでも共通化して用いている機能を、アプリケーションの開発者がわざわざ基本的な機能を開発する手間をはぶくために、基本的な機能を一つのソフトウェア製品として製品化したものがOS(基本ソフト)である。


だから、規格的な開発をする技術者には、「共通化できそうな事を発見できる能力」が、自社規格・業界規格などの開発者には必要である。「この箇所は共通化すればいいのに、まだ誰も共通化しておらず、そのため利用者は無駄な費用を払っているじゃないか?」というような事を発見するのが、仕事である。

理科など科学の研究では、いろんな現象の観察から、共通する法則を抜き出している。数学の研究でも、いろんな計算例をもとに、公式や定理など、共通する法則を抜きだしている。

同じように、規格の技術開発も、部品の共通化など、共通化できることを発見する観察力が必要で、そのような共通化を進める実行力が必要であろう。

そもそも、技術における「研究」というのは、このように、まだ他人が気づいていない共通パターンを発見する事であろう。

何のことはない、「自社規格の普及活動」「自社規格の開発」などといっても、研究者や技術者が、あたりまえの研究活動や、あたりまえの技術開発をしているだけである。

日常における作業の共通化と効率化 編集

部品などの共通化によって効率をあげる、という話は、一見、中学生には関係がなさそうである。中学生には、部品生産をする機会は、あまり無いだろうから。

しかし、物づくりにかぎらなければ、たとえば作業の共通化などは、実は学校生活などでも多く例が見受けられる。

たとえば、昼の給食の時間のとき、学生たちは、いちいち給食室に一人ずつ移動して、給食を持ち帰るだろうか?

実際には係の者や当番の者などが、クラスの人数分の給食の入った鍋などをまとめて、教室に運ぶはずである(もしくは、既に給食のおばさんが、教室前までに鍋の載った荷台を運んでいる)。このように、けっしてクラスのみんなが、いちいち給食室に移動する必要はなく、担当者だけが移動すれば済む。さらに教室内での給食の分配も、クラス内の給食当番が、クラスみんなの分の給食の分配をするはずである。

こういう作業の共通化の工夫も、作業の共通化によって効率化がされる事の実例である。


似たような作業の共通化は、きっと、学校生活のいたるところにある。

そもそも中学校教育じたいが、わざわざ家庭教師などを市民ひとりひとりが雇わなくてもすむように、住民の子供を「学校」という場所に集めさせて、まとめて教育を行うことで、なるべく安い費用で効率的に教育を行っているという事業でもある。

作業の共通化の事例は、なにも学校だけではないだろう。家庭生活にも多く例はあるだろう。

たとえば、親が子供の食事の支度をするときに、子供が2人以上いる家庭の場合、わざわざ兄弟姉妹一人ひとりの食事を別々に食事をつくるだろうか?

あまり、そういう別々に食事を作る事例は無いだろう。ふつう、親は子供の食事をつくるときは、まとめて作るだろう。まとめて作ったほうが、親の食事の支度の手間も少ないし、家族みんなで一緒に食事をしたほうがコミュニケーションにもなるからである。


作業の共通化の例は、屋外にも多く例があるはずだ。あまりにも例は多く、いちいち例を挙げてられないので、ここでは例示しない。


経済競争と規格とモジュール化 編集

民間企業どうしの競争において、規格への適合をすすめた会社が、他社との競争において、販売競争において有利になる事も多い。 理由は、次の通り。

パソコンの例 編集

現代でこそ、パソコンのマウスがこわれても、マウスだけを新品に交換すれば、済むようになっている。パソコンのマウスがこわれた際に、いちいちパソコンごと買い換えたりはしないだろう。

パソコンのキーボードやディスプレイなどが壊れていなければ、使い回しできる。

「マウスだけを交換すればよい」という少ない手間で修理できるという事は、視点をかえれば、少ないお金で修理できる、・・・という側面もある。

壊れていない箇所は使い回しできるという事は、費用の節約につながる。

このように、マウスとキーボードを別々の商品・製品と考えるように、部品の機能ごとに、べつべつの製品として扱えるようにする事を、モジュール化という。

1つのマウスだけで1つのモジュールであるとして考える。1つのキーボードだけで、1つのモジュールであるとして考える。

モジュールどうしを組み合わえることで、パソコンという1つの完成品が、成り立っていると考える。

モジュールどうしを組み立てて機能するようになっているのは、あらかじめ、(国家制定の規格か民間の自主的な規格かは、ともかく、)規格を統一しているからである。


これは、経済的な視点で見れば、規格の統一によって、ある製品をつくる際の生産コストを、大幅に安くできるという事でもある。


商人の立場で考えよう。マウスが壊れただけの消費者に、数十万円の新品パソコンごと売ろうとする商人(かりにA氏とする)と、数千円のマウスを売ろうとする別の商人(かりにB氏とする)が居たとする。どちらの商人の商品が売れるだろうか?

まあ、普通の場合は、マウスだけを売ってくれる商人B氏のマウスのほうが、売れるだろう。消費者からすれば、安いし。 このように、規格を統一してモジュール化をする事によって、モジュールごとの販売も可能になる。

そして、モジュールごとの販売が可能になる事によって、販売価格を大幅に下げる事ができる。そして販売価格を大幅に下げることに成功すれば、他社との販売競争において勝利でき、自社をもうけさせる事ができる。なので、規格への適合をすすめた会社が、結果的に他社との競争において、販売競争において有利になる事も多い。

しかも、ついでに、余計なゴミもでない。もし、パソコン全体ごと買い換えたら、前のパソコンは中古品などとして処分する必要がある。いっぽう、マウスだけを買い換えるなら、処分する必要のある部品は前の壊れたマウスだけで済む。

このように、モジュール化は、資源の節約にも、つながる。


さて、上述では例としてパソコンをあげたが、なにも部品のモジュール化の手法は、コンピューター産業にかぎらない。

自転車の例 編集

たとえば自転車でも、タイヤがパンクして壊れた場合に、いちいち自転車全体を交換しないハズだ。

自転車のタイヤがパンクしたとき、チェーンやギアごと交換したりはしないハズだ。通常、自転車のタイヤがパンクしたら、タイヤだけを交換すれば済むような設計になっている。このように、一般の自転車は、モジュール化をしてある設計である。

タイヤ修理のさいに、タイヤだけを交換すれば良く、けっしてチェーンやギアを交換する必要はない。なので、修理交換の費用が安上がりだし、余計なゴミも出ない。ゴミとして処分する必要のあるのは、前のパンクしてしまったタイヤだけである。


参考文献・脚注など 編集

  1. ^ たとえばスウェージロック継手とフジキン継手の互換性など、工業系では常識である。
  2. ^ 江藤学『標準化教本 世界をつなげる標準化の知識』、日本規格協会、2016年7月29日 初版第1刷、169ページ
    にて、ISO,IEC,ITUの3組織の調整機関として2001年に世界標準化協力WSC(W3Cとは別モノ)が組織された。
  3. ^ 江藤学『標準化教本 世界をつなげる標準化の知識』、日本規格協会、2016年7月29日 初版第1刷、176ページ、本文
  4. ^ 江藤学『標準化教本 世界をつなげる標準化の知識』、日本規格協会、2016年7月29日 初版第1刷、176ページ、図6.2 表『分野別 ISO 規格数(2015年)』
  5. ^ 江藤学『標準化教本 世界をつなげる標準化の知識』、日本規格協会、2016年7月29日 初版第1刷、13ページ
  6. ^ 江藤学『標準化教本 世界をつなげる標準化の知識』、日本規格協会、2016年7月29日 初版第1刷、13ページ
  7. ^ 江藤学『標準化教本 世界をつなげる標準化の知識』、日本規格協会、2016年7月29日 初版第1刷、65ページ
  8. ^ 江藤学『標準化教本 世界をつなげる標準化の知識』、日本規格協会、2016年7月29日 初版第1刷、65ページ
  9. ^ 『市場調査のISOがJIS規格に』 2020年4月8日に閲覧
  10. ^ 『ロボットサービスの安全マネジメントに関する規格JIS Y1001発行』 2020年4月8日に閲覧