法学民事法商法コンメンタール会社法第2編 株式会社第4章 機関

条文

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取締役の報酬等)

第361条
  1. 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
    1. 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
    2. 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
    3. 報酬等のうち当該株式会社の募集株式(第199条第1項に規定する募集株式をいう。以下この項及び第409条第3項において同じ。)については、当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
    4. 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第238条第1項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第409条第3項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
    5. 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該イ又はロに定める事項
      イ 当該株式会社の募集株式 取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
      ロ 当該株式会社の募集新株予約権 取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
    6. 報酬等のうち金銭でないもの(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)については、その具体的な内容
  2. 監査等委員会設置会社においては、前項各号に掲げる事項は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければならない。
  3. 監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、第1項の報酬等の範囲内において、監査等委員である取締役の協議によって定める。
  4. 第1項各号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
  5. 監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができる。
  6. 監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることができる。
  7. 次に掲げる株式会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く。以下この項において同じ。)の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議による第1項各号に掲げる事項についての定めがある場合には、当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定しなければならない。ただし、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められているときは、この限りでない。
    1. 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの
    2. 監査等委員会設置会社

改正経緯

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2019年改正により以下のとおり改正。

  1. 第1項
    1. 第2号に続けて、第3項から第5号までを新設挿入。
    2. 旧第3号の号数を繰り下げ第6号とし、「(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)」を挿入。
  2. 第4項を以下のとおり改正。
    (改正前)第1項第2号又は第3号に掲げる事項
    (改正後)第1項各号に掲げる事項
  3. 第7項を新設。

解説

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  • 報酬等とは報酬、賞与、その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益をいう。
  • いわゆるお手盛り防止の規定である。
  • 第7項「当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」を定める法務省令
    会社法施行規則第98条の5

関連条文

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判例

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  1. 株主総会決議無効確認請求(最高裁判決 昭和39年12月11日) 商法第269条(現本条)
    株主総会における株式会社役員退職慰労金支給に関する「金額、支給期日、支払方法を取締役会に一任する」との決議を有効とした事例。
    株式会社役員に対する退職慰労金支給に関する「金額、支給期日、支払方法を取締役会に一任する」との株主総会決議をした場合でも、右決議は、当該会社において慣例となつている一定の支給基準によつて支給すべき趣旨であるときは、商法第269条の趣旨に反して無効であるということはできない。
    • 株式会社の役員に対する退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り、商法280条(取締役に関する規定の監査役への準用)、同269条にいう報酬に含まれるものと解すべく、これにつき定款にその額の定めがない限り株主総会の決議をもつてこれを定むべきものであり、無条件に取締役会の決定に一任することは許されないこと所論のとおりであるが、被上告会社の前記退職慰労金支給決議は、その金額、支給期日、支給方法を無条件に取締役会の決定に一任した趣旨でなく、前記の如き一定の基準に従うべき趣旨であること前示のとおりである以上、株主総会においてその金額等に関する一定の枠が決定されたものというべきであるから、これをもつて同条の趣旨に反し無効の決議であるということはできない。
  2. 貸金等(最高裁判決 昭和55年7月18日) 商法第269条(現本条)
    取締役が支給を受くべき退職慰労金と商法269条の適用
    取締役が退職に際して支給を受くべき退職慰労金が、従業員にも共通に適用される退職慰労金支給規定において勤続年数と退職時の報酬日額を基礎にして算出すべきものとされている場合であつても、右慰労金は商法269条所定の報酬にあたる。
  3. 退職金(最高裁判決 昭和56年5月11日) 中小企業等協同組合法第2章中小企業等協同組合第5節管理(商法第269条を準用)
    中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合が総会の議決により代表理事の報酬限度額を定めた場合において使用人の担当すべき事務にも従事した代表理事に右限度額を超えて報酬を支払うことの許否
    中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合が総会の議決により代表理事の報酬を定めた場合には、代表理事が当該組合の事務分掌上は使用人の担当すべき事務に従事したときであつても、特段の事情のない限り、組合が総会の議決した限度額を超えて代表理事に報酬を支払うことは、その名目を問わず、許されない。
  4. 株主総会決議無効確認請求(最高裁判決 昭和60年3月26日) 商法第269条(現本条)
    取締役の報酬額には使用人兼務取締役の使用人分給与は含まれない旨を明示してされた取締役の報酬額改訂の株主総会決議と商法269条
    取締役の報酬額には使用人兼務取締役の使用人分給与は含まれない旨を明示して取締役全員の報酬総額を改訂する株主総会決議がされた場合において、少なくとも使用人として受ける給与の体系が明確に確立されており、かつ、使用人として受ける給与がそれにより支給されている限り、右株主総会決議は、商法269条に違反せず、また、同条の脱法行為に当たらない。
  5. 取締役報酬(最高裁判決 平成4年12月18日) 商法第269条(現本条)
    取締役の報酬を無報酬に変更する旨の株主総会決議と報酬請求権の帰すう
    取締役の報酬につき、株主総会がこれを無報酬に変更する旨の決議をしても、当該取締役は、右変更に同意しない限り、報酬請求権を失わない。
    • 株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。
  6. 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成17年2月15日) 商法第269条(現本条)
    1. 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合における当該役員報酬の支払の効力
      株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合には,当該決議の内容等に照らして商法269条及び商法279条1項の規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り,当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになる。
    2. 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において被告とされた役員らが同訴訟提起後に当該報酬につき株主総会の決議を経たことを主張することと訴訟上の信義
      株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において,被告とされた役員らが同訴訟提起後に当該報酬につき株主総会の決議を経たことを主張することは,当該決議に同訴訟を同役員らの勝訴に導く意図があったとしても,それだけでは訴訟上の信義に反して許されないものとはいえない。
  7. 株主総会決議無効確認請求(最高裁判決 平成21年12月18日)
    株式会社が株主総会の決議等を経ることなく退任取締役に支給された退職慰労金相当額の金員につき不当利得返還請求をすることが信義則に反せず権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
    (事情によっては、会社が総会の決議等を経ることなく退任取締役に支給された退職慰労金について不当利得返還請求をすることは信義則に反し権利の濫用に当たる場合もある)
    株式会社が退任取締役に対し株主総会の決議等を経ることなく支給された退職慰労金相当額の金員につき不当利得返還請求をする場合において,(1)当該会社では発行済株式総数の99%以上を保有する代表者が内規に基づく退職慰労金の支給を決裁することにより株主総会の決議に代えてきた,(2)退任取締役が上記内規に基づく退職慰労金の支給を催告したところその約10日後に上記金員の送金がされ,これにつき代表者の決裁はなかったものの,当該会社が退任取締役に対しその返還を明確に求めたのは送金後1年近く経過してからであったなど判示の事実関係の下においては,代表者が上記送金をその直後に認識していた事実や退任取締役が従前退職慰労金を支給された退任取締役と同等以上の業績を上げてきた事実の有無等につき審理判断することなく,当該会社による上記請求は信義則に反せず,権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。
  8. 退職慰労金等請求事件(最高裁判決 平成22年3月16日)
    株主総会の決議を経て内規に従い支給されることとなった会社法361条1項にいう取締役の報酬等に当たる退職慰労年金につき,集団的,画一的な処理が制度上要請されているという理由のみから,内規の廃止により未支給の退職慰労年金債権を失わせることの可否
    株主総会の決議を経て,役員に対する退職慰労金の算定基準等を定める会社の内規に従い支給されることとなった会社法361条1項にいう取締役の報酬等に当たる退職慰労年金について,退任取締役相互間の公平を図るため集団的,画一的な処理が制度上要請されているという理由のみから,上記内規の廃止の効力を既に退任した取締役に及ぼし,その同意なく未支給の退職慰労年金債権を失わせることはできない。
  9. 退職慰労金等請求事件(最高裁判決 令和6年7月8日) 
    退任取締役の退職慰労金について内規に従って決定することを取締役会に一任する旨の株主総会決議がされた場合に、上記退任取締役に対し上記内規の定める基準額から減額した退職慰労金を支給する旨の取締役会決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえないとされた事例
    退任取締役の退職慰労金につき、退任時の報酬月額等により一義的に定まる額を基準とするが、退任取締役のうち在任中特に重大な損害を与えたものに対しこの基準額を減額することができること等を定める内規が存在する株式会社の株主総会において、取締役を退任する者の退職慰労金について、上記内規に従って決定することを取締役会に一任する旨の決議がされた場合に、次の1.〜4.など判示の事情の下では、上記会社の取締役会がした、上記の者に対し、同人の退職慰労金に係る基準額として算出した3億7720万円から減額した額である5700万円の退職慰労金を支給する旨の決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。
    1. 上記取締役会は、上記の者が、代表取締役在任中に、①長期間にわたって上記会社から社内規程所定の上限額を超過する額の宿泊費等を受領し、このことが発覚した後には、いったん負担した当該超過分に係る源泉徴収税相当額を上記会社に転嫁するとともに、社内規程に違反する宿泊費等の支給を実質的に永続化する目的で自らの報酬を増額したこと、②複数年度にわたり、交際費として従前の支出額を大幅に超過する額を上記会社に支出させるなどしたこと等を考慮して上記決議をした。
    2. 上記の者と利害関係のない弁護士等で構成された調査委員会による調査等の結果をとりまとめた調査報告書では、上記①の行為は特別背任罪に該当する疑いがあり、上記②の行為も正当化することができず、上記の者はこれらの行為により上記会社に多大な損害を与えたとの指摘がされた。
    3. 上記決議は上記調査報告書の内容を踏まえたものであったところ、上記調査委員会が調査等に当たって収集した情報に不足があったことはうかがわれない。
    4. 上記取締役会は、上記①の行為につき告訴をして退職慰労金を支給しないとする上記調査委員会から提示された案も検討したが、審議の結果、告訴をせずに退職慰労金を大幅に減額する旨の判断に至った。

前条:
会社法第360条
(株主による取締役の行為の差止め)
会社法
第2編 株式会社

第4章 機関

第4節 取締役
次条:
会社法第362条
(取締役会の権限等)
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