法学民事法商法コンメンタール会社法第1編 総則

条文 編集

(自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任)

第9条
自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

解説 編集

会社における名板貸についての規定である。改正前は商法第26条に定められていた。

会社が名板貸人の責任を負うのは、商号使用の許諾が明示的に行われた場合に限られず、黙示的に行われた場合であっても名板貸人の責任を負うことがある。

名板貸人の責任が肯定されるためには、特段の事情がある場合を除いて、両会社の事業が同種であることを要する。

関連条文 編集

判例 編集

  1. 手附金返還請求(最高裁判決昭和30年9月9日)
    他人に自己の商号の使用を許諾した者の責任
    売買契約の締結につき、売主に自己の商号の使用を許諾した者は、右売主が売買の合意解除に際し買主に対し手附金を返還することを約した場合、右手附金返還債務につき商法第23条の規定による責任を免れない。
  2. 売掛代金請求(最高裁判決昭和32年1月31日)
    自己名義をもつて薬局開設の登録申請をすることを他人に許容した者と商法第23条の責任
    他人の依頼に基き、自己名義をもつて薬局開設の登録申請をすることを他人に許容した者は、その登録がなくても、当該薬局の取引上の債務につき、商法第23条による責任を負担するものと解すべきである。
  3. 木材代金請求(最高裁判決昭和33年2月21日)
    商法第23条の責任が認められた一事例
    建築請負を業務とする株式会社が事実上の連絡のため某出張所を開設し、甲がその出張所長と称し、同出張所名義をもつて、同出張所の独立会計により、他と請負契約をなした場合にかかる事例が既往に二、三あり、会社もその事実を諒知していたときは、会社は甲に自己の商号を使用して営業をなすことを許諾したものとみとめるべきである。
  4. 売掛代金請求(最高裁判決昭和34年6月11日)
    商法第23条の「自己ノ氏ヲ使用シテ営業ヲ為スコトヲ他人ニ許諾シタル」場合にあたる事例。
    Aの氏を有し、以前A製材組合の商号で木材業をしたことのある者が、木材業を営む甲のため、自己の居宅内およびその附近の一部を甲の事務所、木材置場として使用させ、玄関の土間の部分に「A木材」の看板を掲げることを許す等、原審認定のような事情があつたときは、右の者は、同人の氏を使用して営業をなすことを甲に許諾したものと解して妨げない。
  5. 売掛代金請求(最高裁判決昭和36年12月5日)
    商法第23条の適用範囲。
    自己の商号を使用して営業をなすことを許諾した者は、その者の営業の範囲内の行為についてのみ商法第23条の責任を負うと解すべきである。
    • 名板貸人(被告)はミシンの製造販売を目的とするものであつて、電気器具の販売はその目的に含まれておらず、その種の営業を営んではいないところ、名板借人は名板貸人から同会社北海道営業所という名称を用いてミシンの販売をすることを許されていたが、同人は勝手に電気器具の販売をも営み、原告と前記名称を用いて原判示電気器具の取引をしたというのである。そうとすれば、本件取引は名板貸人(被告)の営業の範囲内の行為に属せず、したがつて、名板貸人(被告)は本件取引について責を負うものではない。
  6. 貸金請求(最高裁判決昭和38年7月23日)
    取引の相手方に重大な過失があるときと商法第23条の適用の有無。
    取引の相手方に営業主と誤認するにつき重大な過失がある場合には、商法第23条の適用がない。
  7. 売掛代金請求(最高裁判決 昭和41年01月27日)
    名板貸人を営業主と誤認するについて重大な過失があつた相手方に対する商法第23条所定の名板貸人の責任の有無。
    名板貸人は、自己を営業主と誤認するについて重大な過失があつた者に対しては、商法第23条所定の責任を負わないと解するのが相当である。
  8. 売掛代金請求(最高裁判決昭和41年5月17日)
    名板貸人を営業主と誤認するについて相手方に重大な過失があるとされた事例
    D名義で手形を振出す等の行為があつた場合、相手方が該営業主をBと誤信したのは重大な過失がある。
  9. 損害賠償請求(最高裁判決昭和41年6月10日)
    自動車運送事業の営業名義を貸与した者が名義借受人の雇傭する運転手の過失による自動車事故について損害賠償責任があるとされた事例
    免許を受けて自動車の運送事業を営む者が他人をして違法にその営業名義を使用して自動車運送事業を営ませた場合、名義貸与者とその借受人の事業の執行方法につき原判決確定の事実関係があるときは、名義借受人の雇傭する運転手がその事業の執行に関し第三者に加えた自動車事故による損害について、名義貸与者は賠償責任を負担する。
  10. 約束手形金請求(最高裁判決昭和42年2月9日)
    名板貸人名義の偽造手形と商法第23条の適用
    名板借人が名板貸人の意思にもとづかないで同人名義をもつて手形を振り出した場合でも、名板貸人は、商法第23条の規定により、その手形金支払の責任を負う。
  11. 為替手形金請求(最高裁判決昭和42年6月6日)
    手形行為と商法第23条
    銀行との当座預金取引および手形行為について自己の氏名商号の使用を許諾したにすぎない者は、右許諾を受けた者が許諾者名義で引き受けた為替手形につき、商法第23条による責任を負わない。
  12. 売掛代金請求(最高裁判決昭和43年6月13日)
    1. 商号の使用を許諾した者の営業とその許諾を受けた者の営業との業種が異なる場合と商法第23条の責任
      他人に自己の商号を使用して営業を営むことを許諾した場合においても、その許諾を受けた者が当該商号を使用して業種の異なる営業を営むときは、特段の事情がないかぎり、商号許諾者は、商法第23条の責任を負わない。
    2. 右の場合において商法第23条の責任があるとされた事例
      甲が、乙に対し「D」という商号および自己の氏名の使用を許諾し、乙がこれを使用して営業した場合において、甲の営業の業種が電気器具販売業であり、乙の業種が食料品販売業であつても、乙が、甲の従前の使用人であり、甲の営業当時のまま「D」という看板を掲げて同一の店舗で「D」および甲名義を使用して営業をしているなど判示の事情があるときは、乙を甲と誤認して取引をした者に対し、甲において商法第23条の責任を負うべき特段の事情があると解するのが相当である。
  13. 示談金(最高裁判決昭和52年12月23日)
    営業につき他人からその名義の使用を許された者が営業活動上惹起された交通事故に基づく損害賠償義務者であることを前提として被害者との間で示談契約を締結した場合に商法23条の適用が否定された事例
    営業につき他人からその名義の使用を許された者が、営業活動上惹起された交通事故に基づく不法行為上の損害賠償義務者であることを前提とし、被害者との間で、単にその支払金額と支払方法を定めるにすぎない示談契約を締結した場合には、右契約の締結にあたり、被害者が名義貸与者をもつて営業主と誤認した事実があつたとしても、右示談契約に基づき支払うべきものとされた損害賠償債務は、商法23条にいう「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」にあたらない。
  14. 契約金等(最高裁判決 昭和53年3月28日)
    団体の名目的な代表者となることを団体の事業を専行処理している他人に許諾した場合におしてその他人が団体名義で第三者とした取引と民法の表見代理に関する規定及び商法23条の規定の類推適用の有無
    権利能力なき社団又は財団としての実態をも有しない団体の名目的な代表者となることを、その団体の事業を専行処理している甲に対して許諾したにすぎない乙は、甲が右団体名義で第一者とした取引につき、その取引の実質は乙と右第三者との取引に等しいものであることが甲と右第三者との間において了解されていたというような特段の事情のない限り、民法の表見代理に関する規定及び商法23条の規定の類推適用によつて右取引についての責任を負うものではない。
  15. 約束手形金(最高裁判決 昭和55年7月15日)
    自己の名称を使用して営業を営むことを許諾した場合において、被許諾者が右名称を使用して営業を営むことがなくても、商法23条の類推適用があるとされた事例
    • 名板借人は、その名義で営業を営むことはなかったが、名板貸人名義で手形を振り出した事案で、名板貸の成立を認めた。
  16. 売掛代金(最高裁判決 昭和58年1月25日)
    営業につき他人名義の貸与を受けた者が取引行為の外形をもつ不法行為により負担した損害賠償債務と商法23条にいう「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」
    営業につき他人名義の貸与を受けた者が取引行為の外形をもつ不法行為により負担した損害賠償債務も、商法23条にいう「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」に含まれる。
  17. 損害賠償(最高裁判決 平成7年11月30日)
    スーパーマーケットに出店しているテナントと買物客との取引に関して商法23条の類推適用によりスーパーマーケットの経営会社が名板貸人と同様の責任を負うとされた事例
    甲の経営するスーパーマーケットの店舗の外部には、甲の商標を表示した大きな看板が掲げられ、テナントである乙の店名は表示されておらず、乙の出店している屋上への階段の登り口に設置された屋上案内板や右階段の踊り場の壁には「ペットショップ」とだけ表示され、その営業主体が甲又は乙のいずれであるかが明らかにされていないなど判示の事実関係の下においては、乙の売場では、甲の売場と異なった販売方式が採られ、従業員の制服、レシート、包装紙等も甲とは異なったものが使用され、乙のテナント名を書いた看板がつり下げられており、右店舗内の数箇所に設けられた館内表示板にはテナント名も記載されていたなど判示の事情が存するとしても、一般の買物客が乙の経営するペットショップの営業主体は甲であると誤認するのもやむを得ないような外観が存在したというべきであって、右外観を作出し又はその作出に関与した甲は、商法23条の類推適用により、買物客と乙との取引に関して名板貸人と同様の責任を負う。

前条:
会社法第8条
(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)
会社法
第1編 総則
第2章 会社の商号
次条:
会社法第10条
(支配人)
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