内乱記

          


目次 編集

内容目次」を参照せよ。


マッシリア攻囲戦(3) 編集

1節 編集

 
ローマ軍の攻城兵器。中央に土塁RAMP )、右下に工兵小屋GALLERY )、右上に攻城櫓TOWER )が見える。
2節弩砲バリスタBALLISTA )は左下に、亀甲車テストゥドTESTUDO )は左上に見える。
 
マッシリア攻囲戦の布陣図。図の中央部が、マッシリア(Massilia)の城市で、黒丸と太線が城壁。下が港(Old Harbour )で、左が地中海。右上がトレボニウスの陣営。
それらの中間に、土塁(Agger )、9節れんが塔(Brick Tower )、10節の遮蔽小屋(Musculus )。

カエサルの副官トレボニウスが、マッシリア攻囲に着手する

  • ①項 Dum haec in Hispania geruntur,
  • C. Trebonius legatus, qui ad oppugnationem Massiliae relictus erat,
  • duabus ex partibus aggerem, vineas turresque ad oppidum agere instituit.
    • 二方面から土塁アッゲル工兵小屋ウィネア攻城櫓トゥッリス城市オッピドゥムの方へ推進し始める。
      (訳注:ローマ軍の攻城兵器については、右の図を参照。)
  • ②項 Una erat proxima portui navalibusque,
    • 一つは、港や船団のすぐ近くであった。
      (訳注:右下の布陣図の右下部分を見よ。)
  • altera ad portam, qua est aditus ex Gallia atque Hispania,
    • もう一つは、ガリアおよびヒスパニアからの入口のところであり、
  • ad id mare, quod adtingit ad ostium Rhodani.
    • ロダヌス川の河口に接する海辺のところであった。
      (訳注1:下線部は、写本では adigit だが、adtingit あるいは adiacet と修正提案されている。)
      (訳注2:ロダヌス川 Rhodanus は、現在の南仏の大河 ローヌ川
      ローヌ川の河口とマルセイユの海岸は何十kmも離れている。)
  • ③項 Massilia enim fere tribus ex oppidi partibus mari adluitur;
    • マッシリアは、城市のほぼ三方面から海(の水)により洗われており、
  • reliqua quarta est, quae aditum habeat ab terra.
    • 残りの第四(の方面)は(ガリアの)陸地からの入口を持っている。
  • Huius quoque spatii pars ea, quae ad arcem pertinet,
    • この領域の、城砦に接する方面もまた、
  • loci natura et valle altissima munita
    • 地勢やとても深い谷により防御されており、
  • longam et difficilem habet oppugnationem.
    • 攻囲は、長く困難なものである。
  • ④項 Ad ea perficienda opera
    • その(攻囲の)工事を成し遂げるために、
  • C. Trebonius magnam iumentorum atque hominum multitudinem ex omni provincia vocat;
    • ガイウス・トレボニウスは、多くの駄獣だじゅうおよび多数の人員を属州全体から召集する。
      (訳注:ここで属州というのは、ガリア・トランサルピナ、後のガリア・ナルボネンシスだと思われる。)
  • vimina materiamque comportari iubet.
    • (トレボニウスは)細枝や材木を運び集めることを命じる。
  • Quibus conparatis rebus aggerem in altitudinem pedum LXXX exstruit.
    • それらの物が調達されると、高さ80ペース(=約24m)の土塁を築き上げる。

2節 編集

マッシリア勢が激しい抗戦により、トレボニウス勢の城攻め工事を遅らせる

  • ①項 Sed tanti erant antiquitus in oppido omnium rerum ad bellum apparatus
    • けれども、(マッシリアの)城市には、昔から戦争のためのあらゆる物の備えがわんさかとあったし、
  • tantaque multitudo tormentorum,
    • 射出機トルメントゥムがこれほどにも多数だったので、
  • ut eorum vim nullae contextae viminibus vineae sustinere possent.
    • それらの攻勢に、細枝で編み合わされたいかなる工兵小屋ウィネアも持ちこたえることができないほどであった。
 
再現されたバリスタ(弩砲)の例。
  • ②項 Asseres enim pedum XII cuspidibus praefixi
    • すなわち、鋭利な矢尻クスピスを先端に付けられた12ペース(=約3.6m)長の矢柄アッセルが、
  • atque hi maximis ballistis missi
    • これが大形の弩砲バリスタにより発射されて、
  • per IIII ordines cratium in terram defigebantur.
    • 工兵小屋ウィネアの)四層もの編み細工を貫通して地面に打ち付けられていたのだ。
  • ③項 Itaque pedalibus lignis coniunctis inter se
    • それゆえに、(太さ)1ペース(=約30cm)の材木が互いに連結されて、
  • porticus integebantur,
    • 歩廊ポルティクスが(屋根で)おおわれて、
  • atque hac agger inter manus proferebatur.
    • これにより(攻城用の)土塁アッゲルが手作業で推進されていた。
  • ④項 Antecedebat testudo pedum LX aequandi loci causa
    • 60ペース(=約18m)長もの亀甲車テストゥドが地面を平らにするために先導していた。
  • facta item ex fortissimis lignis,
    • (この亀甲車も歩廊と)同様にじょうぶな材木で作られており、
  • convoluta omnibus rebus,
    • あらゆる素材をからみ合わせており、
  • quibus ignis iactus et lapides defendi possent.
    • それら(の材質)により、(マッシリア勢から)投げつけられた火や石から防御することができた。
 
ローマ軍による攻囲戦の模型(アウァリクム攻囲戦)。
城壁に向かって上り坂の土塁が築かれ、その周囲に屋根でおおわれた細長い歩廊が平行して延びている。城壁の手前には攻城櫓工兵小屋などが見える。
  • ⑤項 Sed magnitudo operum,
    • けれども、(城攻めの)工事の大がかりさ、
  • altitudo muri atque turrium,
    • 城壁や攻城櫓トゥッリスの高さ、
  • multitudo tormentorum
    • 射出機トルメントゥムの多さが、
  • omnem administrationem tardabat.
    • (城攻めの)遂行すべてをはばんでいた。
  • ⑥項 Crebrae etiam per Albicos eruptiones fiebant ex oppido
    • アルビキ族によってさえも城市からたびたびの出撃がなされて、
  • ignesque aggeri et turribus inferebantur;
    • 土塁アッゲル攻城櫓トゥッリスに火が投げつけられていた。
  • quae facile nostri milites repellebant
    • それらを我が方(トレボニウス勢)の兵士たちは容易たやすく防いでおり、
  • magnisque ultro inlatis detrimentis eos, qui eruptionem fecerant,
    • 逆に、突撃をしていた(マッシリア勢の)者たちに、大きな損害を与えて、
  • in oppidum reiciebant.
    • 城市に追い返していた。

3節 編集

ポンペイウス配下のナシディウスが、艦隊を率いてマッシリアに来援する

 
BC2世紀のギリシアの軍船に装備されていた青銅製の衝角
 
シキリア海峡Siculum fretum)すなわち現在のメッシナ海峡は、画像左側のシキリアSicilia)すなわち現在のシチリア島と、画像右側のカラブリア(Calabria)すなわち現在のカラブリア州 の間に位置する。シキリア側にメッシナが見える。
  • in quibus paucae erant aeratae,
    • ──それらのうち数隻は青銅で飾られていたが、──
      (訳注:青銅製の衝角を備えた軍艦のことであると考えられる。
      ガードナー訳(J. P. Gardner, 1976)は fitted with bronze rams (青銅製の衝角を取り付けられた)、
      カーター訳(J. M. Carter, 1990)は warships (軍艦)、としている。)
  • L. Domitio Massiliensibusque subsidio missus
  • freto Siciliae imprudente atque inopinante Curione pervehitur
  • ②項 adpulsisque Messanam navibus
    • メッサナ(=現在のメッシナ)に船団を接岸させて、
  • atque inde propter repentinum terrorem principum ac senatus fuga facta
    • (当地の)有力者たちや参事会セナトゥスが思いがけない恐怖のためにそこから逃亡したので、
      (訳注:ラテン語では、首都ローマ以外の地方や異民族の議会も senatus(セナトゥス:元老院)と呼ぶが、council (参事会)などと訳される。議員は デクリオ decurio という。)
  • ex navalibus eorum <navem unam> deducit.
    • 彼らのドックから<1隻の船を>出帆させる。
  • ③項 Hac adiuncta ad reliquas naves
    • これが、ほかの船団に付け加えられて、
  • cursum Massiliam versus perficit
    • マッシリアへ向かって航海を成し遂げて、
  • praemissaque clam navicula Domitium Massiliensesque de suo adventu certiores facit
    • ひそかに小舟を先遣して、ドミティウスやマッシリア人たちに自らの到来について報知して、
  • eosque magnopere hortatur, ut rursus cum Bruti classe additis suis auxiliis confligant.
    • 自分(ナシディウス)の増援艦隊を加えて、ブルトゥスの艦隊と再び激突するように、彼らを大いに鼓舞する。

4節 編集

マッシリアの艦隊が、ナシディウスの艦隊と合流して、再戦に臨む

  • ①項 Massilienses post superius incommodum
    • マッシリア人たちは、この前の敗北の後で、
      (訳注:第1巻56節~58節を参照。マッシリア勢は、軍艦17隻を投入したが、9隻を失ったとしている。)
  • veteres ad eundem numerum ex navalibus productas naves refecerant
    • 古い船をドックから引っ張り出して、(以前と)同じ数になるまで修繕して、
  • summaque industria armaverant
    • たいへんな勤勉さで装備していた。
  • ── remigum, gubernatorum magna copia suppetebat ──
    • ── ぎ手たち、操舵手そうだしゅたちが豊富に手元にいた ──。
  • ②項 piscatoriasque adiecerant
    • かつ、漁業の(船団)も付け加えて、
  • atque contexerant, ut essent ab ictu telorum remiges tuti;
    • (敵の)飛び道具の衝撃から漕ぎ手たちを安全にするために(屋根で)おおって、
  • has sagittariis tormentisque conpleverunt.
    • 弓兵たちや射出機トルメントゥムを満載していた。
  • ③項 Tali modo instructa classe
    • こうしたやり方で艦隊が整えられて、
  • omnium seniorum, matrum familiae, virginum
    • (マッシリア住民の)すべての高齢者たち、家庭の母親たち、若い娘たちの、
  • precibus et fletu excitati, extremo tempore civitati subvenirent,
    • (マッシリアの都市)国家を最期の時から救ってくれ、という祈りや涙に駆り立てられて、
  • non minore animo ac fiducia, quam ante dimicaverant,
    • 以前に戦っていたときに劣らず度胸と自信をもって、
  • naves conscendunt.
    • (マッシリア勢は)船に乗り込む。
  • ④項 Communi enim fit vitio naturae, ut invisitatis atque incognitis rebus magis confidamus vehementiusque exterreamur;
    • 実際のところ、見慣れず、知られざる状況において、過信したり、あるいは激しくおびえてしまうのは、(人間)生来の共通の欠点である。
  • ut tum accidit.
    • (再戦の)この場合も、そうであったように。
  • Adventus enim L. Nasidii summa spe et voluntate civitatem conpleverat.
    • すなわち、ルキウス・ナシディウスの到来が、(マッシリアの)国家をこの上ない希望と熱意で一杯にしていた。
  • ⑤項 Nacti idoneum ventum ex portu exeunt
    • (マッシリアの艦隊は)ちょうど良い風を得て、港から出帆して、
  • et Tauroenta, quod est castellum Massiliensium, ad Nasidium perveniunt
    • マッシリア人たちのとりでがあるタウロイスの、ナシディウスのもとに到着し、
      (訳注:Tauroenta は、ギリシア語系 第3変化名詞 タウロイス《主格 Tauroīs, 属格 Tauroentis》の対格形の一つ。
      ギリシア語で タウロエイス《Ταυροέις ; Tauroeis》または タウロエンティオン《Ταυροέντιον ; Tauroention》などと呼ばれたらしい。)
 
マッシリアとタウロイスの海戦の位置。左上にマッシリア(伊 Marsiglia )、右下にタウロイス(伊 Tauroento )が位置する。
  • ibique naves expediunt
    • そこで船団に(海戦の)準備をして、
  • rursusque se ad confligendum animo confirmant
    • 再び(ブルトゥスの艦隊と)激突するために、闘志をふるい立たせ、
  • et consilia communicant.
    • 作戦計画を協議する。
  • Dextra pars attribuitur Massiliensibus, sinistra Nasidio.
    • 右翼にはマッシリア勢が割り当てられ、左翼にはナシディウスが(割り当てられる)。

5節 編集

カエサルの部将ブルトゥスも再び艦隊を出帆させる。マッシリア市民たちが戦勝を祈願

  • ①項 Eodem Brutus contendit aucto navium numero.
    • 船の数が増えて、ブルトゥスは同じところ(タウロイス)へ急ぐ。
  • Nam ad eas, quae factae erant Arelate per Caesarem,
    • すなわち、カエサル(の指図)によってアレラテで建造されていたものに、
  • captivae Massiliensium accesserant sex.
    • 捕獲されたマッシリア勢の6隻がさらに加わっていたのだ。
  • Has superioribus diebus refecerat atque omnibus rebus instruxerat.
    • これらを(2度目の海戦に)先立つ日々のうちに修繕して、あらゆる物を備え付けていた。
  • ②項 Itaque suos cohortatus,
    • こうして、(ブルトゥスは)配下の者たちを激励した。
  • quos integros superavissent, ut victos contemnerent,
    • (彼らは、敵艦隊の)無傷の者たちを撃破したのだから、(敵の)打ち負かされた者たちをめてかかれ、と。
  • plenus spei bonae atque animi adversus eos proficiscitur.
    • (そしてブルトゥスは)良き希望と闘志に満ちて、彼ら(マッシリア勢)に向かって出発する。
  • ③項 Facile erat ex castris C. Trebonii atque omnibus superioribus locis prospicere in urbem,
  • ut omnis iuventus, quae in oppido remanserat, omnesque superioris aetatis cum liberis atque uxoribus
    • どのように、(マッシリアの)城市に残っていたすべての若者たちや、より年長のすべての者たちが、子供たちや妻たちとともに、
      (訳注:ut 「どのように」は間接疑問を表わす疑問詞。)
  • publicis <locis> custodiisque aut muro ad caelum manus tenderent
    • 公け<の場>や歩哨所、あるいは城壁から、天に手を差し伸べて、
      (訳注:<locis> <の場> は写本にないが、挿入提案されている。)
  • aut templa deorum immortalium adirent
    • 不死なる神々の神殿を訪れて、
  • et ante simulacra proiecti victoriam ab dis exposcerent.
    • (神々の)像の前にひれして、神々に勝利を祈願していたのかが(見渡せた)。
  • ④項 Neque erat quisquam omnium, quin in eius diei casu suarum omnium fortunarum eventum consistere existimaret.
    • (マッシリア市民の)皆の誰もが、その日の(海戦の)首尾に、自分たち皆の命運の行き着くところがかかっていると、考えているようであった。
      (訳注:「Neque erat quisquam , quin ~「~ でないような者は、誰一人いなかった」=「誰もが ~ ようであった」)
  • ⑤項 Nam et honesti ex iuventute
    • すなわち、(マッシリアの)若者のうち立派な者たちも、
  • et cuiusque aetatis amplissimi nominatim evocati
    • それぞれの年代の高貴な者たちも、名指しで呼び出されて、
  • atque obsecrati naves conscenderant,
    • 後生だからと頼み込まれて、船団に乗り込んでいた。
  • ut si quid adversi accidisset, ne ad conandum quidem sibi quicquam reliqui fore viderent;
    • 結果として、もし何らかの不運が生じたならば、(最後の徹底抗戦を)試みるべき何ものも、自分たちには決して残されないであろう、と思っていたのだ。
  • si superavissent,
    • もし(マッシリア勢が)打ち勝った場合は、
  • vel domesticis opibus vel externis auxiliis de salute urbis confiderent.
    • (マッシリア)国内の兵力による、あるいは国外の救援による、都市の安全について確信していた。

6節 編集

マッシリアの艦隊とブルトゥスの艦隊の激突(タウロイスの海戦)

  • ①項 Commisso proelio
    • 戦闘が始まると、
  • Massiliensibus res nulla ad virtutem defuit;
    • マッシリア勢は、武勇において何ら事欠かなかった。
  • sed memores eorum praeceptorum, quae paulo ante ab suis aeceperant,
    • それどころか、少し前に味方から受けていた訓戒を心に留めており、
  • hoc animo decertabant, ut nullum aliud tempus ad conandum habituri viderentur,
    • (徹底抗戦を)試みるためのもう一度という機会は何ら持つことがないであろうと思い、そのような心積もりで決戦していた。
  • et quibus in pugna vitae periculum accideret,
    • かつ、戦いにおいて、彼らに生命の危険が生じたとしても、
  • non ita multo se reliquorum civium fatum antecedere existimarent, quibus urbe capta eadem esset belli fortuna patienda.
    • 都市ウルプスが占領されれば戦争の同じ命運フォルトゥナに甘んじるだろう(町に)残った市民たちの宿命ファトゥムに、自分たちはいくらか先行するに過ぎない、と考えていたのだ。
 
海戦において敵船に接舷するために用いられていた、多数のかぎを備えたもりの一種(英語 grappling hook
第1巻57節の図を再掲)。
  • ②項 Diductisque nostris paulatim navibus
    • 我が方の船団(=ブルトゥスの艦隊)が少しずつ(互いに)引き離されると、
  • et artificio gubernatorum et mobilitati navium locus dabatur,
    • (マッシリア勢の)操舵手そうだしゅたちの手腕や船団の機動力モビリタスに、好機ロクスが与えられて、
  • et si quando nostri facultatem nacti
    • もし、我が方(ブルトゥス艦隊)がついに機会を得て、
  • ferreis manibus iniectis navem religaverant,
    • 鉄製の引掛けマヌスを投げ入れて(敵方の)船をしばり付けると、
  • undique suis laborantibus succurrebant.
    • (マッシリア艦隊は)四方八方から苦戦している味方の救援に駆け付けていた。
  • ③項 Neque vero coniuncti Albicis comminus pugnando deficiebant
    • さらに、(マッシリア勢は)アルビキ族と共同で白兵戦で戦うことに不足はなかったし、
      (訳注:coniuncti Albicis は写本の記述だが、
      修正提案として coniuncti Albici あるいは coniunctis Albici(カーター) などがある。
      ガードナー訳(J. P. Gardner, 1976)They also acquitted themselves well in hahd-to-hand fighting, along with the Albici (また、彼らはアルビキ族と一緒に白兵戦で良くふるまった)
      カーター訳(J. M. Carter, 1990)And when the ships did lie together, the Albici were neither reluctant to fight hand-to-hand (船団が横付けになると、アルビキ族は白兵戦に気が進まなくもなかったし)、としている。)
  • neque multum cedebant virtute nostris.
    • 武勇において、我が方(ブルトゥス勢)にあまり劣らなかった。
  • Simul ex minoribus navibus magna vis eminus missa telorum
    • 同時に、遠方の小形の船団から発射された飛び道具の大攻勢が、
  • multa nostris de improviso imprudentibus atque impeditis vulnera inferebant.
    • 不意に、予期せず(白兵戦に)妨げられていた我が方(ブルトゥス勢)に多くの負傷をもたらしていた。
 
古代ローマ時代の三段櫂船の模型。
  • ④項 Conspicataeque naves triremes duae navem D. Bruti,
  • quae ex insigni facile agnosci poterat,
    • ──それは、旗から容易たやすく識別され得たのだが──
  • duabus ex partibus sese in eam incitaverant.
    • (マッシリア勢の2隻は)二方面からそれ(=ブルトゥスの旗艦)に突進して来た。
      (訳注:se(sese) incitare「突進する」)
  • Sed tantum re provisa Brutus celeritate navis enisus est, ut parvo momento antecederet.
    • けれども、ブルトゥスがその事に用心して、船の速さにかなり努力したので、わずかな瞬間で前進してしまった。
      (訳注:tantum ~, ut ・・・「・・・ ほど ~」「かなり~なので、・・・ほどだ」)
  • ⑤Illae adeo graviter inter se incitatae conflixerunt,
    • あれら(マッシリアの2隻)は突進して、互いに激しくぶつかったので、
  • ut vehementissime utraque ex concursu laborarent,
    • 衝突コンクルススのせいで、両方とも(ひどい損傷に)はなはだしく苦しんだほどで、
  • altera vero praefracto rostro tota conlabefieret.
    • 実際のところ、(2隻の)一方は、衝角ロストルムが粉砕されて、大破した。
  • ⑥Qua re animadversa,
    • その事に気付くと、
  • quae proximae ei loco ex Bruti classe naves erant,
    • ブルトゥスの艦隊のうち、その場にいちばん近かった船団が、
  • in eas inpeditas impetum faciunt celeriterque ambas deprimunt.
    • 動きがとれなくなっていたそれら(マッシリア勢の2隻)に突撃して、速やかに両船とも沈没させる。

7節 編集

マッシリア艦隊が壊滅し、ナシディウスはヒスパニア方面へ敗退

  • ①項 Sed Nasidianae naves nullo usui fuerunt
    • けれども、ナシディウスの船団は、何ら役立たず、
  • celeriterque pugna excesserunt;
    • 速やかに、戦列プグナから離脱した。
  • non enim has aut conspectus patriae aut propinquorum praecepta ad extremum vitae periculum adire cogebant.
    • なぜなら、これら(ナシディウスの船団)に生命の絶望的な危険を冒すことを強いる、祖国の視線 あるいは 親類縁者の訓戒がなかったからだ。
  • ②項 Itaque ex eo numero navium nulla desiderata est:
    • こうして、(ナシディウスの)船団のその数からは、何ら失われなかった。
  • ex Massiliensium classe V sunt depressae, IIII captae,
    • マッシリア勢の艦隊のうちで、5隻が沈没させられ、4隻が捕獲され、
  • una cum Nasidianis profugit;
    • 1隻はナシディウスらとともに逃亡した。
  • quae omnes citeriorem Hispaniam petiverunt.
    • それら(逃亡船団)のすべては、ヒスパニア・キテリオルに向かって行った。
  • ③項 At ex reliquis una praemissa Massiliam huius nuntii perferendi gratia
    • それに対して、残り(の船)のうち1隻がマッシリアに、この(敗戦の)報告を伝えるために、先遣されて、
  • cum iam adpropinquaret urbi,
    • すでに(マッシリアの)都市ウルプスに接近していたときに、
  • omnis sese multitudo ad cognoscendum effudit,
    • 群衆は皆(戦いの結果を)知るために(街に)あふれ出た。
      (訳注:se effundere「あふれ出る」)
  • et re cognita
    • (敗戦の)事態を知ると、
  • tantus luctus excepit, ut urbs ab hostibus capta eodem vestigio videretur.
    • たいへんな悲しみルクトゥスが(群衆を)とらえたので、同じ瞬間に都市ウルプスが敵方によって占領されたかに思われたほどであった。
  • ④項 Massilienses tamen nihilo setius ad defensionem urbis reliqua apparare coeperunt.
    • しかし、それでもやはり、マッシリア人たちは、都市ウルプスを防衛するべく、残りのものを準備し始めた。

8節 編集

トレボニウス勢が、マッシリア攻囲に役立つ高層の塔を考案

  • ①項 Est animadversum ab legionariis, qui dextram partem operis administrabant,
    • 右手の方面で(城攻めの)工事を遂行していた(トレボニウス勢の)軍団兵たちによって気付かれたことは、
  • ex crebris hostium eruptionibus magno sibi esse praesidio posse,
    • (以下のものを造れば)敵方のたびたびの出撃から、自分たちにとって大いに助けと成り得るということ。
  • si ibi pro castello ac receptaculo turrim ex latere sub muro fecissent.
    • もし、そこで、(マッシリアの)城壁のたもとに側面から、とりでや避難所のための塔を造ったなら。
  • Quam primo ad repentinos incursus humilem parvamque fecerunt.
    • 当初、(マッシリア勢の)不意の襲撃に応じて、それを低く小さいものとして造っていた。
  • ②項 Huc se referebant;
    • (トレボニウス勢は、攻勢から)ここへ引き揚げていた。
  • hinc, si qua maior oppresserat vis, propugnabant;
    • もし(マッシリア勢の)何らかの大攻勢が襲って来たならば、ここから応戦していた。
  • hinc ad repellendum et prosequendum hostem procurrebant.
    • 敵を撃退して追撃するために、ここから走り出ていた。
  • Patebat haec quoquoversus pedes XXX,
    • これは、30ペース(=約9m)四方に広がっていて、
  • sed parietum crassitudo pedes V.
    • けれども、壁の厚さは5ペース(=約1.5m)だった。
  • ③項 Postea vero,
    • しかし、後で、
  • ut est rerum omnium magister usus,
    • 万事において経験が教えてくれるように、
  • hominum adhibita sollertia
    • 人間たちの器用さが応用されて、
  • inventum est magno esse usui posse, si haec esset in altitudinem turris elata.
    • もし、この塔が高さにおいて高められれば、(城攻めに)大いに役立ち得ることが見出された。
  • Id hac ratione perfectum est.
    • それは、以下の方法で成し遂げられた。

9節 編集

トレボニウス勢が建造した木骨れんが塔の構造

  • (訳注:本節で言及されている、トレボニウス勢が建造した塔については、カエサル自身が現物を見ていないこともあるが、専門的な建築構法を筋道立てて十分にわかりやすく解説しているとは言いがたい。おそらくは、木材の骨組をれんが造の壁で支える木骨れんが造 [1]であると考えられる。)

<1階の壁構造の上に、梁や桁を渡して、2階の床の骨組を組み立てる>

  • ①項 Ubi turris altitudo perducta est ad contabulationem,
    • 塔の高さが(2階の)床板張りコンタブラティオ(を張るべき高さ)まで延ばされると、
  • eam in parietes instruxerunt, ita ut capita tignorum extrema parietum structura tegerentur,
    • (トレボニウス勢は、塔の)壁の中に、横架材ティグヌムの先端が壁の外側の構造でおおわれるようにして、それ(=床)を組み立てて、
      (訳注:建築物の横に渡されるはりけたは、横架材おうかざいと総称される。)
  • ne quid emineret, ubi ignis hostium adhaeresceret.
    • 敵方の火が燃え移るような何かが突き出ないようにした。

<2階の床の上に、れんがの壁を築いて、3階の床を組み上げる>

  • ②項 Hanc insuper contignationem,
    • この床の骨組コンティグナティオの上に、
  • quantum tectum plutei ac vinearum passum est, latericulo adstruxerunt
    • (敵の飛び道具から工兵を守るための)障壁車プルテウス工兵小屋ウィネア防御が許容する(高さ)だけ、小形れんがラテリクルスを積み上げて、
      (訳注:「障壁車プルテウスpluteus は、敵の攻撃から身を守るついたて形の防具で、車輪で動かすことができるが、おそらく屋根はない。
      tectum は、たいていは「屋根」(英 roof;仏 toit )と訳されるが、ここではあえて「防御」とした。)
  • supraque eum locum duo tigna transversa iniecerunt non longe ab extremis parietibus,
    • その場所の上に、2本の横架材ティグヌムを、外壁からあまり出ないように、横に渡して、
  • quibus suspenderent eam contignationem, quae turri tegimento esset futura,
    • それら(の横架材)によって、塔の防護物テギメントゥムとなるであろう、その床の骨組コンティグナティオを支えさせて、
  • supraque ea tigna derecto transversas trabes iniecerunt
    • それらの横架材ティグヌムの上に、垂直に交差するように(別の)横架材トラプスを置いて、
  • easque axibus religaverunt.
    • それらを厚板アクシスで固定した。

<梁を突き出させて、防護物をぶら下げる>

  • ③項 Has trabes paulo longiores atque eminentiores quam extremi parietes erant, effecerunt,
    • これらの横架材トラプスを、外壁よりも少し長く突き出させて、
  • ut esset ubi tegimenta praependere possent ad defendendos ictus ac repellendos,
    • そこに、(敵の飛び道具による)打撃イクトゥスを防いではね返すための防護物テギメントゥムがぶら下げられるようにした。
  • cum infra eam contignationem parietes exstruerentur;
    • そのとき、その床の骨組コンティグナティオの下方に、壁が建てられていた。

<床板の上に、れんが・粘土や布切れを敷く>

  • ④項 eamque contabulationem summam lateribus lutoque constraverunt,
    • その床板張りコンタブラティオのてっぺんにれんがラテル粘土ルトゥムを敷き詰めて、
  • ne quid ignis hostium nocere posset,
    • 敵方の火が(塔の)何かを損傷し得ないようにした。
  • centonesque insuper iniecerunt,
    • かつ、布切れのパッチワークを上に置いて、
  • ne aut tela tormentis missa tabulationem perfringerent,
    • (敵の)射出機トルメントゥムから発射された飛び道具が板張りタブラティオを突き破ることがないように、
  • aut saxa ex catapultis latericium discuterent.
    • あるいは、(敵の)投石機カタプルタからの石がれんが造りラテリキウム(の壁)を粉砕することがないようにした。
 
復元された古代ローマ時代のいかり錨索びょうさく(いかりづな、アンカーロープ)につながれている。むしろ状にして防舷材(英 fender )として用いられたと考えられる。

<錨索でつくったむしろを防護物にする>

  • ⑤項 Storias autem ex funibus ancorariis tres
    • 錨索びょうさくからつくられた3面のむしろをもまた、
  • in longitudinem parietum turris latas IIII pedes fecerunt
    • 塔の壁の長さに沿って4ペース(=約120cm)幅で作って、
  • easque ex tribus partibus, quae ad hostes vergebant,
    • それらを、敵方に面していた3方面から
  • eminentibus trabibus circum turrim praependentes religaverunt;
    • 塔のまわりに突き出していた横架材トラプスぶら下げて、しっかり留めた。
  • quod unum genus tegimenti aliis locis erant experti nullo telo neque tormento traici posse.
    • これが(敵から発射された)飛び道具の類いが射抜くことができない一種の防護物テギメントゥムだと、ほかの場所での経験から知っていたのだ。

<てこを使って、上の階に持ち上げる>

  • ⑥項 Ubi vero ea pars turris, quae erat perfecta, tecta atque munita est ab omni ictu hostium,
    • 組み立てられた塔の部分が、敵方のあらゆる(飛び道具による)打撃イクトゥスから防護され、防御されると、
  • pluteos ad alia opera abduxerunt;
    • 障壁車プルテウスを別の作業のところへ運び去った。
  • turris tectum per se ipsum pressionibus ex contignatione prima suspendere ac tollere coeperunt.
    • 塔の屋根を、最初の(2階の)床の骨組コンティグナティオから、てこのしかけにより、つるして、持ち上げ始めた。

<むしろの防護物に隠れて、れんがの壁を積み上げる>

  • ⑦項 Ubi, quantum storiarum demissio patiebatur, tantum elevarant,
    • むしろの垂れ下がりが許容する(高さ)だけ、上げて、
  • intra haec tegimenta abditi atque muniti
    • この防護物テギメントゥムの内側に隠れて、防御され、
  • parietes lateribus exstruebant
    • (工兵たちは)れんがで壁を積み上げていた。
  • rursusque alia pressione ad aedificandum sibi locum expediebant.
    • さらに、もう一度、てこによって、建築するための自分たちの場所を用意していた。

<さらに、床とむしろを持ち上げる>

  • ⑧項 Ubi tempus alterius contabulationis videbatur,
    • もうひとつの(上の階の)床板張りコンタブラティオの時と思われたときに、
  • tigna item ut primo tecta extremis lateribus instruebant
    • 最初に外側のれんが(の壁)で防護されたのと同じように、横架材ティグヌムを組み立てて、
  • exque ea contignatione rursus summam contabulationem storiasque elevabant.
    • その(3階の)床の骨組コンティグナティオから、(てこのしかけにより、最上階の)床板張りコンタブラティオとむしろを持ち上げていた。

<6階建ての塔を築いて、開口部を設ける>

  • ⑨項 Ita tuto ac sine ullo vulnere ac periculo
    • このようにして、安全に、何ら負傷や危険もなく、
  • sex tabulata exstruxerunt
    • 6階建て(の塔)を建てた。
  • fenestrasque, quibus in locis visum est, ad tormenta mittenda in struendo reliquerunt.
    • 建てるに当たって、飛び道具トルメントゥムを発射するためにふさわしいと思われる場所に、開口部フェネストラを残しておいた。

10節 編集

トレボニウス勢が、移動式アーケードを建造して、マッシリアの城壁に迫る

 
トレボニウス勢がマッシリア攻囲のために建造した移動式アーケード(攻城歩廊)の想像図(図の上部)。
 
本節の記述から考えられる山形ラーメン構造[2]の骨組。2本の材木(DUAE TRABES)を地面に置き、それぞれ円柱(COLUMELLA)を立てて、それらをゆるやかな勾配屈折した梁(CAPREOLIS)で連結し、それと交差させて母屋桁もやげた(TIGNUM)を配置する。その上に屋根の下地材として板材が固定され、れんが粘土かれる。
  • (訳注:本節で言及される構造物は、前節の木骨れんが造の塔とともに、後世の人たちの想像力をかき立て、いくつもの想像図が描かれて来た。しかしながら、カエサルが現物を見ていないこともあるが、構造物のどの部材がどの部材・構造とつながるのか、はなはだ不明瞭であり、こういうものであるとは断定しにくい。右の想像画もその一例であるが、ほかに右図と同様のアーケード[2]、柱が隠れた切妻屋根状のもの[3]、など、さまざまな想像図がある。)


  • ①項 Ubi ex ea turri, quae circum essent opera, tueri se posse sunt confisi,
    • (トレボニウス勢の将兵たちは)その(れんが造りの)塔から、周囲でなされている(城攻め)作業を自分たちが防護することができると確信するや否や、
  • musculum pedes LX longum ex materia bipedali,
    • 2ペース(=約60cm四方)もの建材から成る長さ60ペース(=約18m)の攻城歩廊ムスクルスを、
      (訳注:musculus という単語の原義は「小さなねずみ」だが、
      欧米の『内乱記』の訳書では「歩廊ギャラリー(英 gallery、仏 galerie )」と訳される。)
  • quem a turri latericia ad hostium turrim murumque perducerent, facere instituerunt;
    • 塔のれんが造り(の壁)から、敵方の塔や城壁まで至らせるものとして、造り始めた。
  • cuius musculi haec erat forma.
    • その攻城歩廊ムスクルスの形は、以下のものであった。


<地面に2本の土台を置き、円柱を立てる>

  • ②項 Duae primum trabes in solo aeque longae distantes inter se pedes IIII conlocantur
    • まず、2本の等しい長さの角材トラプスを、互いに4ペース(=約120cm)離して、地面に配置して、
  • inque eis columellae pedum in altitudinem V defiguntur.
    • それに、高さ5ペース(=約150cm)の小さな円柱コルメッラが打ち付けられる。


<円柱を屈折した梁でつないで、母屋桁を架け、板で固定する>

  • ③項 Has inter se capreolis molli fastigio coniungunt,
    • これら(2列の円柱)をゆるやかな勾配ファスティギウム屈折した梁カプレオルスにより、互いに連結して、
      (訳注:capreolus という単語の原義は「ノロジカ」。建築用語としては、支柱とか垂木たるきと訳されるが、むしろ山形ラーメンの屈折したはりというべきかも知れない。)
  • ubi tigna, quae musculi tegendi causa ponant, conlocentur.
    • そこに、攻城歩廊ムスクルスの屋根をくために置くはずの母屋桁ティグヌムが配置される。
  • Eo super tigna bipedalia iniciunt
    • その上に、2ペース(=約60cm)の板材ティグヌムを置いて、
      (訳注:tigna bipedalia を、カーター(J. M. Carter, 1990)は two-foot-square beams (2フィート四方の横架材)とするが、
      ガードナー(J. P. Gardner, 1976)は boards two feet square (2フィート四方の板材)と解釈する。)
  • eaque laminis clavisque religant.
    • それを、薄板ラミナクラウスで固定する。

<屋根に置くれんがが落ちないように、くいを打ち付ける>

  • ④項 Ad extremum musculi tectum trabesque extremas
    • 攻城歩廊ムスクルスの屋根の外側や、外側の(土台の)角材トラプスのたもとに、
  • quadratas regulas IIII patentes digitos defigunt, quae lateres, qui super musculo struantur, contineant.
    • 4ディギトゥス(=約7.5cm)四方の四角いくいを打ち付けて、攻城歩廊の上に並べられるれんがラテルを(屋根から落ちないように)保持させる。
 
古代ローマで作られた屋根瓦(オーストリア・エンスのローリアクム博物館蔵)。赤茶けた素焼きの焼き物はテラコッタれんが[3]と呼ばれる。

<屋根に防火用のれんがや粘土をく>

  • ⑤項 Ita fastigato atque ordinatim structo ut trabes erant in capreolis collocatae,
    • このようにして(屋根の骨組が)傾斜され、整然と並べられ、屈折した梁カプレオルス横架材トラプスが配列されるようにした。
  • [in] lateribus luto<que> musculus ut ab igni, qui ex muro iaceretur, tutus esset, contegitur.
    • 攻城歩廊ムスクルスは、(マッシリアの)城壁から投げつけられる火から安全になるように、れんがラテル粘土ルトゥムでおおわれる。

<れんがの上に、防水用の獣皮が貼られる>

  • ⑥項 Super lateres coria inducuntur,
    • れんがラテルの上に獣皮コリウムが貼られて、
  • ne canalibus aqua immissa lateres diluere possit.
    • (マッシリア勢の)水管から放出された水がれんがラテルを洗い流し得ないようにした。
  • Coria autem, ne rursus igni ac lapidibus corrumpantur, centonibus conteguntur.
    • 獣皮コリウムもまた、(マッシリア勢が)さらに(投げつける)火や石により破損されないように、布切れのパッチワークでおおわれる。

<ころで工作物を移動させ、マッシリアの城壁塔に接触させる>

  • ⑦項 Hoc opus omne tectum vineis ad ipsam turrim perficiunt
    • (トレボニウス勢は)まさに(れんが造りの)塔のたもとで、工兵小屋ウィネアに防護されて、この工作物を全体的に完成する。
  • subitoque inopinantibus hostibus
    • 敵方が不意のことに予期していないときに、
  • machinatione navali, phalangis subiectis,
    • 船舶の装置により、ころを(工作物の)下に置いて、
  • ad turrim hostium admovent, ut aedificio iungatur.
    • 敵方の城壁塔トゥッリスのもとへ近づけて、建造物アエディフィキウムに接合するようにする。

11節 編集

マッシリア勢の防戦もむなしく、トレボニウス勢が城壁塔を崩落させる

 
鉄梃かなてこは、てこの原理を応用した金属製の棒形の工具で、小形のものは釘抜きに用いられるが、大形のものは重い物体を動かしたり、固着した物体を引きはがすために用いられる。
  • ①項 Quo malo perterriti subito
    • この突然の災難に戦慄せんりつして、
  • oppidani saxa, quam maxima possunt, vectibus promovent
    • (マッシリアの)町の住民たちは、できるかぎりの大きな岩石を鉄梃かなてこにより前へ動かして、
  • praecipitataque muro in musculum devolvunt.
    • 城壁から投げ落として、攻城歩廊ムスクルスに転がし落とす。
  • Ictum firmitas materiae sustinet,
    • (攻城歩廊の)建材の強靭きょうじんさは(落ちて来た岩石の)打撃に持ちこたえ、
  • et quicquid incidit, fastigio musculi elabitur.
    • 落ちて来たものは何でも、攻城歩廊ムスクルスの(屋根の)傾斜によりすべり落ちた。
      (elabitur ではなく delabitur とする写本もあるが、どちらも「すべり落ちた」という意味。)
  • ②項 Id ubi vident, mutant consilium;
    • それを見るや否や、(マッシリア勢は)作戦を変更する。
  • cupas taeda ac pice refertas incendunt
    • 松脂まつやに樹脂ピッチがぎっしり詰められたたるに火をつけて、
      (訳注:樹脂ピッチ については、ガリア戦記 第7巻22節⑤項を参照のこと。籠城するガリア勢が攻囲するカエサル勢に対して使用していた。)
  • easque de muro in musculum devolvunt.
    • それらを城壁(の上)から攻城歩廊ムスクルス(の上)に転がし落とす。
  • Involutae labuntur,
    • (樽は)転がされながら(歩廊の屋根の上に)落下して、
  • delapsae ab lateribus longuriis furcisque ab opere removentur.
    • (歩廊の)両側にすべり落ちたところを(トレボニウス勢により)長い棒や熊手により、工作物のところから取り去られる。
  • ③項 Interim sub musculo milites
    • そうこうするうちに、攻城歩廊ムスクルスの(屋根の)下の兵士たちは、
  • vectibus infima saxa turris hostium, quibus fundamenta continebantur, convellunt.
    • 敵方の城壁塔の基礎を支えていた底辺の礎石そせきを、鉄梃かなてこで引っこ抜く。
  • Musculus ex turri latericia a nostris telis tormentisque defenditur;
    • 攻城歩廊ムスクルスは、れんが造りの塔から、我が方(トレボニウス勢)によって、飛び道具の類いにより、守られる。
      (訳注:telatormentum は、どちらも「飛び道具」の類いだが、前者は投槍や弓矢など、後者は投石機など機械から発射されるものを指す。)
  • hostes ex muro ac turribus submoventur:
    • 敵方は、城壁や城壁塔から、追い払われた。
  • non datur libera muri defendendi facultas.
    • 城壁を防衛する機会を自由に与えられないのだ。
  • ④項 Compluribus iam lapidibus ex illa quae suberat turri subductis
    • (マッシリアの城壁の)塔の下にあった、かなりの石がすでに取り除かれて、
  • repentina ruina pars eius turris concidit,
    • (礎石の)突然の瓦解により、その城壁塔の一部が崩落して、
  • pars reliqua consequens procumbebat,
    • 残りの部分も引き続いて倒壊していた。
  • cum hostes urbis direptione perterriti inermes
    • そのとき、敵方は、都市ウルプス略奪ディレプティオ(の可能性)に身震みぶるいして、非武装のままで、


 
インフラは、聖職者やいけにえなどが身に着けた、はちまきのような白い帯状の頭飾りであったと思われる。(画像の出典は、1892年にパリで刊行された『古代ギリシア・ローマ辞典』[1]
  • cum infulis se porta foras universi proripiunt
    • (白い帯状の)頭飾りインフラとともに、城門から城外に、総勢が飛び出して、
      (訳注:se proripio「飛び出す」)
  • ad legatos atque exercitum supplices manus tendunt.
    • (カエサル方の)副官レガトゥスたちや軍隊のもとで、ひざまずいて、手を差し伸べる。
      (訳注:supplices「ひざを屈して」「嘆願して」)

12節 編集

略奪を怖れたマッシリア人たちがあわてて休戦を願い出る

  • ①項 Qua nova re oblata
    • その新たな事態が引き起こされて、
  • omnis administratio belli consistit
    • 戦争のすべての職務遂行が停止して、
  • militesque aversi a proelio
    • (トレボニウス配下の)兵士たちは、戦線から離脱して、
  • ad studium audiendi et cognoscendi feruntur.
    • (一体、何が起こったのか)聞き知ることの熱心さに駆り立てられる。
  • ②項 Ubi hostes ad legatos exercitumque pervenerunt,
    • 敵方(マッシリア人たち)が、副官レガトゥスたちや軍隊のもとに到着して、
  • universi se ad pedes proiciunt;
    • 全員が(自分の)足元に身を投げ出して、
  • orant, ut adventus Caesaris ex(s)pectetur:
    • (休戦して)カエサルの到着を待つように、嘆願する。
  • ③captam suam urbem videre;
    • (マッシリア人たち曰く)自分たちの都市ウルプスは占領されたと思っている。
  • opera perfecta, turrim subrutam;
    • (城攻めの)工作物は完成され、(城壁の)塔は倒壊させられた。
  • itaque ab defensione desistere.
    • このようにして(自分たちは、マッシリアの)防衛を諦める。
  • Nullam exoriri moram posse, quominus, cum venisset, si imperata non facerent ad nutum, e vestigio diriperentur.
    • (カエサルが)やって来て、もし(カエサルの)意向に応じて命令されたことを実行しなかったら、直ちに(町が)略奪されることをじゃま立てすることは何ら起こりえない、と。
  • ④項 Docent,
    • (彼らは)説明する。
  • si omnino turris concidisset,
    • もし、(マッシリアの城壁の)塔が完全に倒壊したとしたら、
  • non posse milites contineri, quin spe praedae in urbem inrumperent urbemque delerent.
    • 兵士たちが、戦利品の期待により都市に突入したり、都市を破壊したりしないように、静止することができない、と。
  • Haec atque eiusdem generis complura
    • これら、および同様の多くのことが、
  • ut ab hominibus doctis magna cum misericordia fletuque pronuntiantur.
    • (弁論に)熟練した人たちによってなされたように、哀れみや涙とともに語られる。

13節 編集

マッシリア人たちの嘆願により休戦するが、攻め手の兵士たちに不満が募る

  • ①項 Quibus rebus commoti
    • それらの事態に激しく動かされて、
  • legati milites ex opere deducunt, oppugnatione desistunt;
    • 副官レガトゥスたちは、兵士たちを(城攻めの)作業から引き上げさせ、攻囲を中止して、
  • operibus custodias relinquunt.
    • (城攻めの)構築物には歩哨を残す。
  • ②項 Indutiarum quodam genere misericordia facto
    • (嘆願するマッシリア人たちへの)哀れみにより、ある種(非公式)の休戦インドゥティアエが実現されて、
  • adventus Caesaris expectatur.
    • カエサルの到着が待たれる。
  • Nullum ex muro, nullum a nostris mittitur telum;
    • (マッシリアの)城壁からも、我が方(トレボニウス勢)からも、何ら飛び道具が放たれることはなく、
  • ut re confecta omnes curam et diligentiam remittunt.
    • 戦役レスが成し遂げられたかのように、(トレボニウス勢の)皆が細心の注意深さをゆるめる。
  • ③項 Caesar enim per litteras Trebonio magnopere mandaverat,
    • カエサルは、書状を通じて(彼の副官である)トレボニウスに、大いに指示していた。
  • ne per vim oppidum expugnari pateretur,
    • (マッシリアの)城市が力ずくで占領されることを容認しないように。
  • ne gravius permoti milites et defectionis odio et contemptione sui et diutino labore omnes puberes interficerent;
    • 兵士たちが、(マッシリアの)造反への反感や、自分たちへの軽視や、長期の労苦に激しく駆り立てられて、(マッシリアの)大人たち全員を殺戮さつりくしたりしないように、と。
  • quod se facturos minabantur,
    • (兵士たちは)それを実行するぞと高言していたし、
  • aegreque tunc sunt retenti, quin oppidum inrumperent, graviterque eam rem tulerunt,
    • そのとき、城市に突入して、その事態を激しく引き起こすことがないように、かろうじて制止されていた。
  • quod stetisse per Trebonium, quominus oppido potirentur, videbatur.
    • というのも、(マッシリアの)城市を支配下に置かないのは、トレボニウスの責任だと思われていたからだ。
      (訳注:per ~ stare quominus ・・・「・・・しないのは~(人物)のせいだ」)

14節 編集

トレボニウス勢の不意を衝いて、マッシリア勢が攻め手の工作物を焼き討ちする

  • ①項 At hostes sine fide tempus atque occasionem fraudis ac doli quaerunt
    • だが、敵方は、誠意フィデスがなく、権謀フラウス術数ドルスの時機と好機を見計らっていて、
  • interiectisque aliquot diebus
    • 数日を置いてから、
  • nostris languentibus atque animo remissis,
    • 我が方(トレボニウス勢)が、たるんで、気持ちをゆるめていたときに、
  • subito meridiano tempore,
    • 不意に、真昼の時刻に、
  • cum alius discessisset, alius ex diutino labore in ipsis operibus quieti se dedisset,
    • ある者は(持ち場から)離れており、別のある者は当の(城攻めの)作業での長い労苦から身を休ませていたときに、
  • arma vero omnia reposita contectaque essent,
    • 実際のところ、すべての武器が(元の場所に)戻されて、しまわれていたときに、
  • portis [se] foras erumpunt,
    • (マッシリア勢は)城門から、城外に出撃して、
      (訳注:下線部は、写本では se ~ rumpunt だが、se を削除して erumpunt とするように提案されている。)
  • secundo magnoque vento ignem operibus inferunt.
    • 強い追い風により、(城攻めの)構築物に火を放つ。
  • ②項 Hunc sic distulit ventus, uti uno tempore agger, plutei, testudo, turris, tormenta flammam conciperent
    • これを風が運び散らした結果、土塁アッゲル障壁車プルテウス亀甲車テストゥド攻城櫓トゥッリス射出機トルメントゥムに一時に火炎フランマが燃え移って、
      (訳注:sic ~ uti ・・・「・・・ように~」「~した結果・・・」)
  • et prius haec omnia consumerentur, quam, quemadmodum accidisset, animadverti posset.
    • (トレボニウス勢が、火事が)発生したと気付くことができるより前に、これらすべて(の城攻めの兵器)が焼き尽くされてしまった。
  • ③項 Nostri repentina fortuna permoti
    • 我が方(トレボニウス勢)は、突然の災厄フォルトゥナ戦慄せんりつして、
  • arma, quae possunt, adripiunt,
    • できるかぎりの武器をかき集めて、
  • alii ex castris sese incitant.
    • ほかのある者たちは、陣営から急いで行く。
  • Fit in hostes impetus eorum,
    • 敵方に対して、彼ら(トレボニウス勢)の突撃がなされる。
  • sed <de> muro sagittis tormentisque fugientes persequi prohibentur.
    • けれども、(マッシリアの)城壁から、弓矢や射出機トルメントゥムにより、敗走する(マッシリア勢の)者たちを(トレボニウス勢が)追撃することが防がれる。
  • ④項 Illi sub murum se recipiunt
    • あの者たち(マッシリア勢)は、城壁のそばに退却して、
  • ibique musculum turrimque latericiam libere incendunt.
    • そこで、(トレボニウス勢が建造した)攻城歩廊ムスクルスやれんが造りの塔を自由に焼き払う。
  • Ita multorum mens(i)um labor
    • こうして、何か月もかけた労苦(の産物)が、
  • hostium perfidia et vi tempestatis puncto temporis interiit.
    • 敵方の背信行為ペルフィディアと暴風の力に突かれて、たちまち灰燼かいじんに帰した。
  • ⑤項 Temptaverunt hoc idem Massilienses postero die.
    • これと同じことを、マッシリア勢は翌日も試みた。
  • Eandem nacti tempestatem
    • 同じような暴風を得て、
  • maiore cum fiducia ad alteram turrim aggeremque eruptione pugnaverunt multumque ignem intulerunt.
    • よりいっそうの大胆さフィドゥキアとともに、もう一方の攻城櫓トゥッリス土塁アッゲルを、出撃して戦い、大いに火をかけようとした。
  • ⑥項 Sed ut superioris temporis contentionem nostri omnem remiserant,
    • けれども、我が方(トレボニウス勢)は、前の時はすべての緊張をゆるめていたが、
  • ita proximi diei casu admoniti omnia ad defensionem paraverant.
    • 前日の結果に教えられて、防衛のためにすべてを準備していた。
  • Itaque multis interfectis
    • こうして、(マッシリア勢の)多くの者たちが殺戮さつりくされて、
  • reliquos infecta re in oppidum reppulerunt.
    • 残りの者たちは、事を達せぬままに、城市に追い返された。

15節 編集

トレボニウス勢が、破壊された堡塁に代わる新たな堡塁をたちまち建造する

  • ①項 Trebonius ea, quae sunt amissa,
  • multo maiore militum studio administrare et reficere instituit.
    • 兵士たちのはるかに大きな熱意により、従事して建て替えることを決意した。
  • Nam ubi tantos suos labores et apparatus male cecidisse viderunt
    • なぜなら、自分たちのたいへんな労苦と攻城設備が不幸にも灰燼かいじんに帰したのを目撃したし、
      (訳注:ubi(時を表す接続詞)の節は、convectis まで)
  • indutiisque per scelus violatis
    • (敵方の)不義スケルスによって休戦インドゥティアエ条約を破られて、
  • suam virtutem inrisui fore perdoluerunt,
    • 自分たちの武勇が物笑いの種になるであろうと、苦悩していたので、
  • quod, unde agger omnino conportari posset, nihil erat reliquum,
    • そこから、土塁アッゲル(の材料)を運び集められるようなところには、まったく何も残されていなかったので、
      (訳注:quod(理由を表す接続詞)の節も、convectis まで)
  • omnibus arboribus longe lateque in finibus Massiliensium excisis et convectis,
    • マッシリア人の領土においては、遠くまで広い領域で樹木が切り倒されて、運び集められていたので、
      (訳注:ubi節・quod節の終わり)
  • aggerem novi generis atque inauditum
    • 新たな形態で(今まで)聞いたことのないような攻城土塁アッゲルを、
  • ex latericiis duobus muris senum pedum crassitudine atque eorum murorum contignatione facere instituerunt,
    • 厚さ6ペース(=約180cm)の二つのれんが造りの壁と、それらの壁の屋根の骨組コンティグナティオを建造することを決めた。
  • aequa fere latitudine, atque ille congesticius ex materia fuerat agger.
    • (それは)材木を積み上げられたあの(燃やされてしまった)攻城土塁アッゲルと幅がほぼ等しいものであった。
      (訳注:latitudine「幅」は写本の記述であるが、altitudine「高さ」という修正提案が出されている。)


 
両端を(れんが壁という)支点で支えられただけの長いはりは、上から荷重がかかると曲げられやすく、構造力学上の弱点をもつ。中間部分を支柱で支えれば、荷重に強くなり、安定する。
  • ②項 Ubi aut spatium inter muros aut imbecillitas materiae postulare videretur,
    • (二つの)壁の間の空間、ないしは、材木の弱点が必要とするところに、
  • pilae interponuntur,
    • 支柱ピラが間に置かれ、
  • traversaria tigna iniciuntur, quae firmamento esse possint,
    • (二つの壁の)支えとなるべきはりが横に渡されて、
  • et quicquid est contignatum cratibus consternitur,
    • 梁が渡されたところはどこであれ、枝編み細工クラティスが敷き詰められて、
  • crates luto integuntur.
    • 枝編み細工クラティス粘土ルトゥムでおおわれる。
  • ③項 Sub tecto miles dextra ac sinistra muro tectus,
    • 兵士たちは、屋根の下で、右側と左側から壁で防護され、
  • adversus plutei obiectu,
    • 障壁車プルテウスを正面に(障害物として)置き、
  • operi quaecumque sunt usui sine periculo subportat.
    • 工事に役立つものは何でも、危険ななしに運び上げる。
  • ④項 Celeriter res administratur;
    • 務めは、速やかに果たされる。
  • diuturni laboris detrimentum sollertia et virtute militum brevi reconciliatur.
    • 長期間をかけた労作の損失が、兵士たちの器用さソッレルティア卓越さウィルトゥスにより、短期間に復旧される。
  • Portae, quibus locis videtur, eruptionis causa in muro relinquuntur.
    • (れんがの)壁には、出撃のためにふさわしいと思われる所に、出入口が残しておかれる。

16節 編集

マッシリア勢が、もはや徹底抗戦は不可能と判断して、再び和を請う

  • ①項 Quod ubi hostes viderunt,
    • 敵方は、それを見てとると、
      (訳注:ubi(時を表す接続詞) の節は、③項の intellegunt まで)
  • ea, quae diu longoque spatio refici non posse sperassent,
    • かなり長い期間をかけなければ再建できないと期待していたものが、
  • paucorum dierum opera et labore ita refecta,
    • わずかな日々の工事と労働で(以下のように)再建されて、
      (訳注:ita ~ ut ・・・「・・・のように~」「~の結果として・・・」)
  • ut nullus perfidiae neque eruptioni locus esset
    • いかなる(休戦条約破りという)背信行為も、出撃の余地もなく、
  • neque quicquam omnino relinqueretur, qua aut telis militibus aut igni operibus noceri posset,
    • 飛び道具で兵士たちに、あるいは火で堡塁に、損害を与え得るようないかなる方法も、まったく残されておらず、
  • ②項 eodemque exemplo sentiunt
    • 同じような先例によって考えると、
  • totam urbem, qua sit aditus ab terra, muro turribusque circumiri posse,
    • (ガリアの)陸地からの出入口があるような(マッシリアの)都市ウルプス全体が、(攻め手の)塁壁ムルス攻城櫓トゥッリスにより包囲され得るし、
  • sic ut ipsis consistendi in suis munitionibus locus non esset,
    • それゆえに、(マッシリア勢)自身が、自分たちの防壁ムニティオにおいて、持ちこたえる場所もなく、
  • cum paene inaedificata in muris ab exercitu nostro moenia viderentur ac telum manu coiceretur,
    • (マッシリアの)城郭都市モエニアは、我が方の軍隊(トレボニウス勢)によって塁壁ムルスの中にほとんと包囲されてしまって、手で飛び道具を投げられる始末なので、
  • ③項 suorumque tormentorum usum, quibus ipsi magna speravissent, spatii propinquitate interire
    • (マッシリア勢)自身が大いに期待をかけていた、自分たちの射出機トルメントゥム有益性ウススは、(彼我の)隔たりの近さによって失われ、
  • parique condicione ex muro ac turribus bellandi data
    • 壁や塔から戦うための同じ条件が与えられても、
  • se virtute nostris adaequare non posse intellegunt,
    • (マッシリア勢は)我が方(トレボニウス勢)に対して、武勇において肩を並べられない、と悟って、
      (訳注:ubi の節の終わり)
  • ad easdem deditionis condiciones recurrunt.
    • (前回と)同じ降伏条件(で降伏すること)に立ち戻る。

ヒスパニア戦役(5)─(ウァッロの降伏) 編集

17節 編集

ポンペイウスの副官ウァッロが、日和見な態度を捨てて動き出す

 
属州ヒスパニア・ウルテリオルHispania ulterior)の領域は、図の緑色系統の部分である。このうち、マルクス・テレンティウス・ウァッロが属州総督ポンペイウスから統治を任されていた領域は、ほぼ濃い緑色の部分である。
  • ①項 M. Varro in ulteriore Hispania
  • initio cognitis iis rebus, quae sunt in Italia gestae,
    • イタリアで(カエサルとポンペイウスらとの間で)遂行されていた戦役レスを知った当初は、
  • diffidens Pompeianis rebus amicissime de Caesare loquebatur:
    • ポンペイウス派の状況に疑念を抱き、カエサルについて好意的に話していた。
  • ②項 praeoccupatum sese legatione ab Cn. Pompeio,
  • teneri obstrictum fide;
    • 忠誠フィデスを誓うことに束縛されている。
  • necessitudinem quidem sibi nihilo minorem cum Caesare intercedere,
    • 自分にとっては、確かにカエサルとの浅からぬ親密な関係が介在しているが、
  • neque se ignorare, quod esset officium legati, qui fiduciariam operam obtineret,
    • 自分は、委託された仕事を達成するべき副官レガトゥスの職務がどのようなものであるか、知らないわけではない。
  • quae vires suae,
    • 自分の兵力ウィレスがどれほどなのかも、
  • quae voluntas erga Caesarem totius provinciae.
    • 属州(ヒスパニア・ウルテリオル)全体のカエサルに対する好意がどのようなものであるかも。
  • ③項 Haec omnibus ferebat sermonibus
    • (ウァッロは)これらをあらゆる言葉で語っていて、
  • neque se in ullam partem movebat.
    • (中立を保って、カエサルとポンペイウスの)どちらの側にも動こうとしなかった。
      (訳注:se movere「動く」)

ウァッロがポンペイウス派につく

  • ④項 Postea vero
    • だが、後になって、
  • cum Caesarem ad Massiliam detineri cognovit,
    • カエサルがマッシリアの辺りで引き留められていることを知り、
      (訳注:cum(時・理由を表す接続詞) の節は、perscribebat まで)
  • copias Petreii cum exercitu Afranii esse coniunctas,
  • magna auxilia convenisse,
    • 多数の支援軍アウクシリアが集結し、
  • magna esse in spe atque exspectari,
    • (さらなる)大勢が期待され、待たれており、
  • et consentire omnem citeriorem provinciam,
    • 属州(ヒスパニア・)キテリオルの全体が(ペトレイウスとアフラニウスにつくことで)一致して、
  • quaeque postea acciderant, de angustiis ad Ilerdam rei frumentariae, accepit,
    • そして後には、イレルダ周辺で(カエサル勢に)糧秣供給の窮乏についてどういうことが生じたか、把握して、
  • atque haec ad eum latius atque inflatius Afranius perscribebat,
    • かつ、アフラニウスがこれをより冗長に、より大げさにして、彼(ウァッロ)(への手紙)に書き記していたので
  • se quoque ad motus fortunae movere coepit.
    • 自分(ウァッロ)もまた、(中立的な態度を捨てて)運命の変動の方へ、動き始める。

18節 編集

ウァッロが戦争準備を整えるが、劣勢のため、南岸の町ガデスを目指す

  • ①項 Dilectum habuit tota provincia,
  • legionibus conpletis duabus
    • 2個軍団レギオを(軍団兵で)満たして、
  • cohortes circiter XXX alarias addidit.
    • 翼軍アラのおよそ30個支援部隊コホルスを付け加えた。
      (訳注:翼軍アラ ala は、共和制期においてはおおむね支援軍アウクシリアのことを指す。
          コホルス(cohors)という単語は、軍団兵(=ローマ人)については歩兵大隊を指すが、
          従軍する同盟部族については支援部隊(英 auxiliary troopsを指すと思われる。)
  • Frumenti magnum numerum coegit,
    • 多数の穀物を徴集して、
  • quod Massiliensibus, item quod Afranio Petreioque mitteret.
    • それをマッシリア人たちに、さらにアフラニウスとペトレイウスに送っていた。
  • Naves longas X Gaditanis ut facerent imperavit,
    • 10隻の軍船を、ガデスの住民たちに建造するように命令した。
      (訳注:ガデス Gades は、現在のカディス Cádiz 。)
  • conplures praeterea Hispali faciendas curavit.
    • さらに多く(の軍船)がヒスパリスにて建造されるように、手配した。
      (訳注:ヒスパリス Hispalis は、現在のセビリア Sevilla 。)
  • ②項 Pecuniam omnem omniaque ornamenta ex fano Herculis in oppidum Gades contulit;
  • eo sex cohortes praesidii causa ex provincia misit
    • そこに、6個歩兵大隊コホルスを守備隊のために、属州から派遣した。
  • Gaiumque Gallonium, equitem Romanum, familiarem Domitii,
    • ドミティウス御家人ファミリアリスで、ローマ人騎士階級エクィテスのガイウス・ガッロニウスは、
  • qui eo procurandae hereditatis causa venerat missus a Domitio,
    • その者は、(ドミティウスの)相続財産を管理するために、ドミティウスによって派遣されて、そこに来ていたのだが、
  • oppido Gadibus praefecit;
    • (その彼を)ガデス(の町の)指揮者に任じた。
  • arma omnia privata ac publica in domum Gallonii contulit.
    • 私物も公けのものも、すべての武器を、ガッロニウスの邸宅に運び集めた。
  • ③項 Ipse habuit graves in Caesarem contiones.
    • (ウァッロ)自身は、カエサルに対して、厳しい演説コンティオをした。
  • Saepe ex tribunali praedicavit
    • (将帥の)指揮台トリブナルから、たびたび(以下のことを)公言した。
  • adversa Caesarem proelia fecisse,
    • カエサルは、苦戦をして、
  • magnum numerum ab eo militum ad Afranium perfugisse;
    • 彼(カエサル)のもとから兵士たちの多数がアフラニウスのもとへ寝返った。
  • haec se certis nuntiis, certis auctoribus comperisse.
    • これを、自分(ウァッロ)は、確かな報告者ヌンティウスにより、確かな証言者アウクトルにより、知ったのだ。
  • ④項 Quibus rebus perterritos cives Romanos eius provinciae
    • それらの事態に怖気おじけ付いている、その属州のローマ市民たちに対して、
  • sibi ad rem publicam administrandam
    • 国務を遂行するためということで、自分(ウァッロ)に、
  • HS CLXXX (sestertium centies et octogies)
  • et argenti pondo XX (viginti) milia,
  • tritici modios CXX milia polliceri coegit.
    • 12万モディウス(≒104.7万リットル)の小麦粉(の供出)を約束することを強いた。
  • ⑤項 Quas Caesari esse amicas civitates arbitrabatur,
    • (ウァッロは)カエサルに好意的であると思われていた町や部族キウィタスに、
      (訳注:関係代名詞 quas の先行詞 civitates が、関係節の中に入っている。)
  • his graviora onera iniungebat
    • これらに、より重い負担を負わせて、
  • praesidiaque eo deducebat
    • そこに(監視させるための)守備隊を移動させ、
  • et iudicia in privatos reddebat qui verba atque orationem adversus rem publicam habuissent;
    • (元老院派の)公儀に逆らう発言や演説をしていた民間人たちに、訴訟を起こして、
      (訳注:iudicium reddere「裁判を行なう」)
  • eorum bona in publicum addicebat.
    • 彼らの資産を(差し押さえて)国有財産に割り当てた。
  • Provinciam omnem in sua et Pompei verba iusiurandum adigebat.
    • 属州全体が、自分(ウァッロ)とポンペイウスに忠誠を誓うことを強いていた。
      (訳注:in ~ verva ius iurandum「~に忠誠を誓うこと」)
  • ⑥項 Cognitis iis rebus quae sunt gestae in citeriore Hispania, bellum parabat.
    • (ウァッロは)ヒスパニア・キテリオルで遂行されていた戦役レスを知って、戦争を準備していた。
  • Ratio autem haec erat belli,
    • そして、戦争の手段は以下のようなものであった。
  • ut se cum II legionibus Gades conferret,
    • (ウァッロが)2個軍団とともにガデスに行き、
  • naves frumentumque omne ibi contineret;
    • 船団と穀物をすべて、そこに保持しておく。
  • provinciam enim omnem Caesaris rebus favere cognoverat.
    • なぜなら、属州全体がカエサルに好意を示していることを知っていたからだ。
  • In insula frumento navibusque comparatis
    • (ガデスの)島に、穀物と船団を準備すれば、
  • bellum duci non difficile existimabat.
    • (カエサルに対して)戦争を遂行することは困難ではない、と判断していた。
  • ⑦項 Caesar, etsi multis necessariisque rebus in Italiam revocabatur,
    • カエサルは、多くのやむをえない事柄で、イタリアに呼ばれていたとはいえ、
      (訳注:etsi ~, tamen ・・・「~とはいえ、それでも・・・」)
  • tamen constituerat nullam partem belli in Hispaniis relinquere,
    • それでも、ヒスパニアに何らかの戦争のかけらも残すまいと決意していた。
  • quod magna esse Pompei beneficia et magnas clientelas in citeriore provincia sciebat.

19節 編集

カエサルがヒスパニア南部を目指し、諸都市がウァッロから離反する

  • ①項 Itaque duabus legionibus missis in ulteriorem Hispaniam cum Q. Cassio, tribuno plebis,
  • ipse cum DC equitibus magnis itineribus praegreditur
    • (カエサル)自身は、騎兵600騎とともに強行軍で先行して、
  • edictumque praemittit, ad quam diem magistratus principesque omnium civitatum sibi esse praesto Cordubae vellet.
    • かつ、すべての町や部族キウィタスの官吏や指導者たちが期日までにコルドゥバで自分(カエサル)に会う準備をするように望む、という布告を先に送る。
  • ②項 Quo edicto tota provincia pervulgato
    • その布告が、属州全体に広く知られると、
  • nulla fuit civitas, quin ad id tempus partem senatus Cordubam mitteret,
    • その時までに参事会セナトゥスの一員をコルドゥバに派遣しないような、いかなる町や部族キウィタスもなかったし、
      (訳注:nulla fuit ~, quin ・・・(接続法)「・・・でないような、いかなる~もなかった」)
  • non civis Romanus paulo notior, quin ad diem conveniret.
    • いくらか有名なローマ市民で、期日までに(コルドゥバに)参集しない者はなかった。

コルドゥバの離反

  • ③項 Simul ipse Cordubae conventus per se portas Varroni clausit,
    • 同じ頃、コルドゥバのローマ市民協議会コンウェントゥス自体が、自らの意思でウァッロに対して城門を閉ざして、
  • custodias vigiliasque in turribus muroque disposuit,
    • 城壁塔トゥッリスや城壁に、歩哨や夜警を配置した。
  • cohortes duas, quae colonicae appellabantur, cum eo casu venissent,
    • 入植者部隊コロニカエ」と呼ばれていた2個歩兵大隊コホルスが、たまたま、そこに来ていたときに、
  • tuendi oppidi causa apud se retinuit.
    • 城市を護るために、自らのもとに留めた。

カルモの離反

  • ④項 Isdem diebus Carmonenses, quae est longe firmissima totius provinciae civitas,
    • 同じ日々に、属州全体でずば抜けて堅固な町であるカルモの住民たちは、
      (訳注:カルモ Carmo は、現在の カルモナ Carmona。)
  • deductis tribus in arcem oppidi cohortibus a Varrone praesidio,
    • 城市の砦の中に、ウァッロによって守備隊として3個歩兵大隊コホルスを移されていたが、
  • per se cohortes eiecit portasque praeclusit.
    • 自らの意思で、歩兵大隊コホルスを追い出して、城門を閉ざした。

20節 編集

ガデスの町や兵らが離反して、ウァッロはカエサルに投降の意思を伝える

  • ①項 Hoc vero magis properare Varro, ut cum legionibus quam primum Gades contenderet,
    • だが、ウァッロは、これにより、諸軍団レギオとともにガデスにできるだけ早く急行するべく、いっそう急ぎ、
      (訳注:quam primum「できるだけ早く」)
  • ne itinere aut traiectu intercluderetur;
    • (陸地での)行軍、あるいは(島への)渡航を遮断されないようにした。
  • tanta ac tam secunda in Caesarem voluntas provinciae reperiebatur.
    • カエサルに対する属州(の人々)の心情ウォルンタスがこれほどにも好意的セクンダだとわかったのだ。
  • ②項 Progresso ei paulo longius litterae Gadibus redduntur,
    • 彼(ウァッロ)がいくらかより遠くへ進んで行くと、ガデスからの書状が渡される。
  • simulatque sit cognitum de edicto Caesaris,
    • (書状によれば)カエサルの布告について知られるや否や、
  • consensisse Gaditanos principes cum tribunis cohortium quae essent ibi in praesidio,
    • ガデスの指導者たちは、そこに守備隊として駐留していた歩兵大隊コホルス次官トリブヌスたちと結託して、
  • ut Gallonium ex oppido expellerent,
    • (ウァッロにより指導者に任じられていたはずの)ガッロニウスを城市オッピドゥムから追放するようにし、
  • urbem insulamque Caesari servarent.
    • 都市ウルプスと島を、カエサルのために保持するようにした。
  • ③項 Hoc inito consilio
    • この計画が始められると、
  • denuntiavisse Gallonio, ut sua sponte, dum sine periculo liceret, excederet Gadibus;
    • ガッロニウスに対し、危険なしに許される間に、自発的にガデスから退去するように、警告した。
  • si id non fecisset, sibi consilium capturos.
    • もし、そうしなければ、自分たちの計画に着手する、と。
  • Hoc timore adductum Gallonium Gadibus excessisse.
    • この怖れに駆り立てられて、ガッロニウスはガデスから退去した。
  • ④項 His cognitis rebus
    • これらの事態を知ると、
  • altera ex duabus legionibus, quae vernacula appellabatur,
    • 2個軍団レギオのうち、現地徴募軍団と呼ばれていた一方は、
  • ex castris Varronis adstante et inspectante ipso signa sustulit
    • ウァッロの陣営から、(ウァッロ)当人がかたわらに立って見ている前で、軍旗を運び去り、
  • seseque Hispalim recepit
    • ヒスパリスに撤退して、
      (訳注:ヒスパリス Hispalis は、現在のセビリアに当たる。)
  • atque in foro et porticibus sine maleficio consedit.
    • 公共広場フォルム歩廊ポルティクスに、損害なしに、陣取った。
  • ⑤項 Quod factum adeo eius conventus cives Romani comprobaverunt,
    • その行為を、当地のローマ市民協議会は、承認して、
      (訳注:adeo ~, ut ・・・「・・・ほど、~」「~ので、・・・ほどである」)
  • ut domum ad se quisque hospitio cupidissime reciperet.
    • めいめいが(現地徴募軍団を)自宅に熱烈な歓迎をもって受け入れたほどであった。
  • ⑥項 Quibus rebus perterritus Varro,
    • それらの事態に恐れをなしたウァッロは、
  • cum itinere converso sese Italicam venturum praemisisset,
    • 進路を変えて、自分はイタリカに到着するであろう、と(伝令をイタリカに)先遣したのに、
      (訳注:イタリカ Italica は、古代の町で、トラヤヌス帝ハドリアヌス帝の出身地として知られる。)
  • certior ab suis factus est praeclusas esse portas.
    • (イタリカの)城門が閉ざされていることを、配下の者たちから知らされた。
  • ⑦項 Tum vero omni interclusus itinere
    • まさに、そのとき、(ウァッロは)すべての進路をふさがれて、
  • ad Caesarem mittit paratum se esse legionem, cui iusserit, tradere.
    • カエサルのもとに、自分は(カエサルが)命じた者に軍団を引き渡す用意がある、と(伝令を)遣わす。
  • Ille ad eum Sex. (Sextum) Caesarem mittit atque huic tradi iubet.
    • 彼(カエサル)は、彼(ウァッロ)のもとに、セクストゥス・カエサルを遣わして、この者に(軍団を)引き渡すことを命じた。
  • ⑧項 Tradita legione Varro Cordubam ad Caesarem venit;
    • 軍団が引き渡されると、ウァッロは、コルドゥバのカエサルのもとにやって来る。
  • relatis ad eum publicis cum fide rationibus,
    • 彼(カエサル)に公有財産の勘定を誠実に報告し、
  • quod penes eum est pecuniae, tradit,
    • 彼(ウァッロ)の手中にある金銭を(カエサルに)引き渡して、
  • et, quid ubique habeat frumenti et navium, ostendit.
    • 穀物や船団の何をどこに持っているか、示す。

21節 編集

カエサルがヒスパニア南部を平定して、マッシリアへ戻る


コルドゥバでの戦後処理

  • ①項 Caesar contione habita Cordubae
  • omnibus generatim gratias agit:
    • すべての者たちに、階層ごとに感謝した。
  • civibus Romanis, quod oppidum in sua potestate studuissent habere,
    • ローマ市民たちには、城市を自分たちの影響力のもとに保持することに努めたゆえに。
  • Hispanis, quod praesidia expulissent,
    • ヒスパニア人たちには、(ウァッロ配下の)守備隊を(町から)追い出したがゆえに。
  • Gaditanis, quod conatus adversariorum infregissent seseque in libertatem vindicavissent,
    • ガデスの住民たちには、敵対勢力の企てをくじいて、自らを解放したがゆえに。
  • tribunis militum centurionibusque, qui eo praesidii causa venerant, quod eorum consilia sua virtute confirmavissent.
    • そこに守備のために来ていた軍団次官トリブヌス・ミリトゥムたちや百人隊長ケントゥリオたちには、彼ら(住民たち)の考えを、自らの武勇で確かなものにしたがゆえに。
  • ②項 Pecunias, quas erant in publicum Varroni cives Romani polliciti, remittit;
    • ローマ市民たちがウァッロに対し、国有財産プブリクムに収めると約束していた金銭を、(カエサルが)免除する。
  • bona restituit iis quos liberius locutos hanc poenam tulisse cognoverat.
    • 率直に発言して、この罰金に耐えたことがわかった者たちの財産を(カエサルが)元通りにした。
  • ③項 Tributis quibusdam publicis privatisque praemiis
    • (カエサルは)幾人かの者たちには、公的および私的な恩賞を与えて、
  • reliquos in posterum bona spe complet
    • 残りのものたちを、将来の良い期待でいっぱいにし、
  • biduumque Cordubae commoratus Gades proficiscitur;

ガデスでの戦後処理

  • pecunias monimentaque quae ex fano Herculis conlata erant in privatam domum,
    • ヘルクレスの神殿から(ガッロニウス)個人の邸宅に運び集められていた金銭や記念物を
  • referri in templum iubet.
    • 聖殿に戻すことを命じる。

属州ヒスパニア・ウルテリオルをカッシウスにゆだねる

  • ④項 Provinciae Q. Cassium praeficit;
  • huic IIII legiones adtribuit.
    • この者に、4個軍団レギオをゆだねる。

タッラコでの戦後処理

  • Ipse iis navibus quas M. Varro quasque Gaditani iussu Varronis fecerant,
    • (カエサル)自身は、ウァッロの命令によりウァッロとガデスの住民たちが建造していた船団で、
  • Tarraconem paucis diebus pervenit.
  • Ibi totius fere citerioris provinciae legationes Caesaris adventum exspectabant.
  • ⑤項 Eadem ratione privatim ac publice quibusdam civitatibus habitis honoribus
    • (カエサルは、コルドゥバと)同じやり方で、いくつかの町や部族キウィタスに、私的および公的に敬意を表して、
  • Tarracone discedit
    • タッラコを立ち去り、
  • pedibusque Narbonem atque inde Massiliam pervenit.

カエサルが独裁官に指名される

  • Ibi legem de dictatore latam seseque dictatorem dictum a M. Lepido praetore cognoscit.
    • そこ(マッシリア)で、独裁官ディクタトルについての法律が提出されて、自分(カエサル)が法務官プラエトルマルクス・レピドゥスによって独裁官に指名されたことを知る。

マッシリア攻囲戦(4)─(マッシリアの降伏) 編集

22節 編集

ドミティウスが逐電し、ついにマッシリアがカエサルの軍門に降る

  • ①項 Massilienses omnibus defessi malis,
    • マッシリア人たちは、(攻囲戦の)あらゆる災厄マルムに疲れ果てて、
  • rei frumentariae ad summam inopiam adducti,
    • 糧食供給の著しい欠乏を余儀なくされ、
      (訳注:rēs frūmentāria「糧食供給」)
  • bis proelio navali superati,
    • 2度の海戦に打ち負かされ、
  • crebris eruptionibus fusi,
    • たびたびの突撃でも敗走させられ、
  • gravi etiam pestilentia conflictati ex diutina conclusione et mutatione victus
    • さらに、長期間の包囲と栄養源をそこなったことによる、重度の伝染病にも苦しめられて、
  • ── panico enim vetere atque hordeo corrupto omnes alebantur,
    • ──なぜなら、皆が古いあわや腐敗した大麦かてとしており、
  • quod ad huiusmodi casus antiquitus paratum in publicum contulerant ──
    • というのも、(彼らは)このような状況に以前から備えて、国庫に運び込んでいたからなのであるが、──
  • deiecta turri,
    • 城壁塔が打ち崩され、
  • labefacta magna parte muri,
    • 城壁の大半がぐらつかせられて、
  • auxiliis provinciarum et exercituum desperatis, quos in Caesaris potestatem venisse cognoverant,
    • カエサルの軍門に降ったと(マッシリア人たちが)知っていた属州や軍隊からの救援に絶望して、
  • sese dedere sine fraude constituunt.
    • (前回の降伏のような)術策なしに、降伏することを決める。
  • ②項 Sed paucis ante diebus
    • けれども、数日前に、
  • L. Domitius cognita Massiliensium voluntate
  • navibus III (tribus) comparatis,
    • 3隻の船団を準備して、
  • ex quibus duas familiaribus suis adtribuerat,
    • そのうち2隻を、自分の一族郎党ファミリアリスに割り当て、
  • unam ipse conscenderat,
    • 1隻に(ドミティウス)自身が乗船して、
  • nactus turbidam tempestatem profectus est.
    • 荒れ狂う嵐を得て、出発した。
  • ③項 Hunc conspicatae naves quae iussu Bruti consuetudine cotidiana ad portum excubabant,
    • ブルトゥスの命令により、日常の習慣で港の辺りを警戒していた船団が、これに気付いて、
  • sublatis ancoris sequi coeperunt.
    • いかりを上げて、追跡し始めた。
  • ④項 Ex his unum ipsius navigium contendit et fugere perseveravit
    • これらのうち(ドミティウス)自身の1隻の小舟は、急ぎ、逃げおおせて、
  • auxilioque tempestatis ex conspectu abiit,
    • 嵐の助けにより、視界から消え失せた。
  • duo perterrita concursu nostrarum navium sese in portum receperunt.
    • (残りの)2隻は(ブルトゥス配下の)我が方の船団の攻撃を怖れて、港に引き返した。
  • ⑤項 Massilienses arma tormentaque ex oppido, ut est imperatum, proferunt,
    • マッシリア人たちは、(カエサルから)命令されたように、城市から武具や射出機を運び出し、
  • naves ex portu navalibusque educunt,
    • 港やドックから船団を引き出して、
  • pecuniam ex publico tradunt.
    • 公庫から金銭を引き渡す。
  • ⑥項 Quibus rebus confectis
    • それらの事が成し遂げられると、
  • Caesar magis eos pro nomine et vetustate quam pro meritis in se civitatis conservans,
    • カエサルは、都市国家の自分に対する報償のためというよりも、(マッシリアの)名前と古さのために、ゆるして、
  • duas ibi legiones praesidio relinquit,
    • そこに、2個軍団レギオを守備隊として残して、
  • ceteras in Italiam mittit;
    • ほか(の諸軍団)をイタリアに派遣する。
  • ipse ad urbem proficiscitur.
    • (カエサル)自身は首都ウルプス(ローマ市)へ向けて出発する。

アフリカ戦役(1)─ウティカの戦い 編集

(関連記事:en:Battle of Utica (49 BC)

23節 編集

 
クリオのアフリカ戦役の関連図。クリオが率いる2個軍団と騎兵500は、まずボン岬のアンクィッラリア(Anquillaria)に上陸し、クルペア(Clupea)で待ち構えていたルキウス・カエサルをハドルメトゥム(Hadrumetum)まで逃走させ、現在のチュニスの辺りを通過して、ウティカ(Utica)の手前まで進軍する。

カエサルの部将クリオが、シキリア島を発って、アフリカ属州に上陸する

  • ①項 Isdem temporibus C. Curio in Africam profectus ex Sicilia
  • et iam ab initio copias P. Attii Vari despiciens
    • すでに、はじめから、プブリウス・アッティウス・ウァルスの軍勢を見下しており、
      (訳注:プブリウス・アッティウス・ウァルスは、
      イタリア中部の町アウクシムム(現在のオージモを占拠していたが、
      第1巻13節でカエサルの到来とともに追い払われて部隊を失い、
      第1巻31節では属州アフリカを占領していた。)
  • duas legiones ex IIII quas a Caesare acceperat, D equites transportabat
    • カエサルから引き受けていた4個(軍団)のうち、2個軍団レギオと、500の騎兵を渡海させていたが、
  • biduoque et noctibus tribus navigatione consumptis
    • 二日三晩を航行に費やして、
  • adpellit ad eum locum qui appellatur Anquillaria.
    • アンクィッラリアと呼ばれる地点に接岸する。
 
クルペア(Clupea)またはクルペアエ(Clupeae)、現在はチュニジア北東部のケリビア(Kelibia)の港湾地区を望む。この町は、BC5世紀にカルタゴ人によって城砦都市として建設された。ローマ時代にさかのぼるというケリビア城砦(Kelibia Fort)が現在も残る。
  • ②項 Hic locus abest a Clupeis passuum XXII milia
    • この場所は、クルペア(エ)(という町)から22ローママイル(=約23.5km)離れており、
  • habetque non incommodam aestate stationem et duobus eminentibus promunturiis continetur.
    • 夏季には都合良い停泊地スタティオとなり、二つの突き出た岬で取り巻かれている。
  • ③項 Huius adventum L. Caesar filius cum X longis navibus ad Clupeas praestolans,
    • 彼(クリオ)の到来を、息子ルキウス・カエサルが10隻の軍船とともに、クルペアエの辺りで待ち構えていた。
      (訳注:この息子ルキウス・カエサルは、第1巻8節②項で既述のように、
      『内乱記』の著者カエサルの従兄弟・副官であるルキウス・ユリウス・カエサル4世Lucius Julius Caesar Ⅳ
      の息子ルキウス・ユリウス・カエサル5世Lucius_Julius_Caesar_V)である。)
  • quas naves Uticae ex praedonum bello subductas
    • それらの船団は、海賊掃討戦争からウティカに撤退させていたのを、
  • P. Attius reficiendas huius belli causa curaverat,
    • プブリウス・アッティウス(・ウァルス)がこの戦争のために、修繕するように取り計らっていたのだが、
  • veritus navium multitudinem ex alto refugerat
    • (クリオの)船団の多さに怖気おじけ付いて、沖合いから逃れて、
  • adpulsaque ad proximum litus trireme constrata
    • 甲板を張った三段櫂(船)さんだんかいせんを最寄りの岸に接岸させて、
 
ハドルメトゥムHadrumetum)すなわち現在のチュニジア北部の町スースSousse)に残る城砦跡。ハドルメトゥムはフェニキア人が建設した古い都市で、ハドルメントゥムまたはアドラメトゥムなどとも呼ばれる。スースの旧市街は、ユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録されている。
  • et in litore relicta pedibus Hadrumetum perfugerat.
    • (船団を)海岸に残して、陸路でハドルメトゥムに逃れていた。
  • ④項 Id oppidum C. Considius Longus unius legionis praesidio tuebatur.
    • その城市を、ガイウス・コンシディウス・ロングスが1個軍団の守備隊で防衛していた。
  • Reliquae Caesaris naves eius fuga se Hadrumetum receperunt.
    • (ルキウス・)カエサルの船団は、彼の逃亡により、ハドルメトゥムに撤退していた。
  • ⑤項 Hunc secutus Marcius Rufus quaestor navibus XII,
    • 彼(ルキウス・カエサル)を、財務官クァエストル マルキウス・ルフスが12隻の船団でもって追跡していて、
  • quas praesidio onerariis navibus Curio ex Sicilia eduxerat,
    • それら(の船団)は、クリオが貨物船団の守備としてシキリアから出帆させていたのだが、
  • postquam in litore relictam navem conspexit, hanc remulco abstraxit;
    • (クルペアエ辺りの)海岸に残された(ルキウス・カエサルの)船を目にした後で、
  • ipse ad C. Curionem cum classe redit.
    • (マルキウス・ルフス)自身はガイウス・クリオのもとに艦隊とともに戻る。

24節 編集

 
バグラダ川(Bagrada)またはバグラダス川(Bagradas)すなわち現代のチュニジアメジェルダ川Medjerda River)の流れ。

クリオ勢がウティカを目指して行軍し、周辺を偵察する

  • ①項 Curio Marcium Uticam navibus praemittit;
    • クリオは、(財務官)マルキウス(・ルフス)を船団とともに、ウティカに先遣する。
  • ipse eodem cum exercitu proficiscitur
    • (クリオ)自身は、同じところへ軍隊とともに出発し、
  • biduique iter progressus ad flumen Bagradam pervenit.
    • 2日間の行程を前進して、バグラダ川のたもとに到着する。
  • ②項 Ibi C. Caninium Rebilum legatum cum legionibus reliquit;
    • そこに、副官レガトゥス ガイウス・カニニウス・レビルスを諸軍団レギオとともに残した。
      (訳注:ガイウス・カニニウス・レビルスは、第1巻26節③項でカエサルの副官として、
      ブルンディシウムの攻防をめぐって友人であるポンペイウスの親類スクリボニウス・リボと交渉した。)
  • ipse cum equitatu antecedit ad Castra exploranda Cornelia, quod is locus peridoneus castris habebatur.
    • (クリオ)自身は、陣営にふさわしい所と思われていた“コルネリウスの陣営”の辺りを偵察するために、騎兵隊とともに先行する。
      (訳注:コルネリウスの陣営(Castra Cornelia)は、大スキピオ第二次ポエニ戦争終盤のウティカ攻囲The siege of Utica に際して建設した城砦。)
  • ③項 Id autem est iugum derectum eminens in mare,
    • さらに、それは海に突き出たまっすぐな尾根であり、
  • utraque ex parte praeruptum atque asperum,
    • 両側面は険しくデコボコしており、
  • sed tamen paulo leniore fastigio ab ea parte, quae ad Uticam vergit.
    • にもかかわらず、ウティカに面する側からは、少しゆるやかな斜面になっている。
  • ④項 Abest derecto itinere ab Utica paulo amplius passus mille.
    • ウティカからは、まっすぐな行程で1ローママイル(=約1.5km)より少し遠くに離れている。
      (訳注:いくつかの写本では1ローママイル passus mille とあるが、
      アレシア古戦場の発掘者ストッフェル(Stoffel )は3ローママイル passuum millibus III (約4.5km)と修正提案している。)
  • Sed hoc itinere est fons, quo mare succedit longius, lateque is locus restagnat;
    • けれども、この行程には湧き水があり、それにより海水がより遠くまで登って来て、その場所は広域にわたり水浸しになる。
  • quem si qui vitare voluerit, VI (sex) milium circuitu in oppidum pervenit.
    • もし、それを避けたいと望むのであれば、6ローママイル(=約9km)の回り道をして城市に到達する。

25節 編集

クリオ勢が、元老院派アッティウス・ウァルス配下のヌミディア騎兵を破る

  • ①項 Hoc explorato loco
    • この地域を偵察して、
  • Curio castra Vari conspicit muro oppidoque coniuncta ad portam, quae appellatur bellica,
    • クリオは、ウァルスの陣営が、戦争門ベッリカと呼ばれている城門に、城壁と城市を介してつながっているのを目にする。
      (訳注:下線部は、写本では bellica「戦争の(門)」だが、Belica「ベリカ」と修正提案されている。
      ガードナー訳(J. P. Gardner, 1976)では、‘War-gate’ 「戦争の門」としている。
      カーター訳(J. M. Carter, 1990)は、named after Baalバアル神にちなんで名付けられた」と訳している。)
 
チュニジアのマクタル(Makthar)に遺されたローマ時代の円形劇場の遺構。
  • admodum munita natura loci,
    • (ウァルスの陣営は)地勢によりじゅうぶんに防備を固められ、
  • una ex parte ipso oppido Utica,
    • 一方の側からは、城市ウティカそれ自体により(守られ)、
  • altera a theatro, quod est ante oppidum,
    • もう一方からは、城市の前面にある円形劇場によって(守られ)、
  • substructionibus eius operis maximis, aditu ad castra difficili et angusto.
    • (円形劇場は)その巨大な構造物の基礎をもち、(ウァルスの)陣営に至る狭く困難な出入口をもっている。
  • ②項 Simul animadvertit multa undique portari atque agi plenissimis viis,
    • 同時に(クリオは)、いたるところで、道いっぱいに多くの物が運搬され、動かされていることに気付く。
  • quae repentini tumultus timore ex agris in urbem conferantur.
    • それらは、不意に起こった動乱への怖れにより、田舎アゲルから都市ウルプスに運ばれているのだ。
      (訳注:下線部は、写本では cōnferantur [接続法・現在] だが、ルネサンス期の印刷本では cōnferēbantur [直説法・未完了] になっている。)
  • ③項 Huc equitatum mittit, ut diriperet atque haberet loco praedae;
    • (クリオは)ここへ、騎兵隊を派遣して、略奪して戦利品にしようとしていた。
  • eodemque tempore his rebus subsidio DC equites Numidae ex oppido peditesque CCCC mittuntur a Varo,
    • 同じ頃、これらの物品(運搬)の援助として、城市からヌミディア人の騎兵600騎と歩兵400が(アッティウス・)ウァルスによって派遣される。
  • quos auxilii causa rex Iuba paucis diebus ante Uticam miserat.
    • それらは、(ヌミディアの)王 ユバが、支援のために、数日前にウティカに派遣していたものだ。
  • ④項 Huic et paternum hospitium cum Pompeio
    • 彼(ユバ)にとっては、ポンペイウスとは父祖以来の賓客ひんきゃくの関係があり、
  • et simultas cum Curione intercedebat,
    • クリオとは犬猿の仲であった。
  • quod tribunus plebis legem promulgaverat, qua lege regnum Iubae publicaverat.
    • というのも、護民官(のとき、クリオ)は、ユバの王権を没収(してローマの属州と)する法(案)を公表していたからだ。
  • ⑤項 Concurrunt equites inter se;
    • (クリオ勢とウァルス勢、双方の)騎兵たちは、互いに激突する。
  • neque vero primum impetum nostrorum Numidae ferre potuerunt,
    • だが、我が方(クリオ勢)の最初の突撃を、ヌミディア人たちは持ちこたえることができなかったばかりか、
  • sed interfectis circiter CXX
    • (ヌミディア兵)約120名が殺戮さつりくされ、
  • reliqui se in castra ad oppidum receperunt.
    • 残りの者たちは、城市(ウティカ)のそばの(ウァルスの)陣営に退却した。
  • ⑥項 Interim adventu longarum navium
    • そのうちに、軍船が到着したので、
  • Curio pronuntiari onerariis navibus iubet, quae stabant ad Uticam numero circiter CC,
    • クリオは、ウティカの近辺に停泊していた約200隻もの貨物船団に対して(以下の)通告をすることを(軍船に)命じる。
  • se in hostium habiturum loco, qui non ex vestigio ad Castra Cornelia naves traduxisset.
    • ただちに、コルネリウスの陣営のそばに船団を移送しない者を、自分たちは敵とみなすであろう、と。
  • ⑦項 Qua pronuntiatione facta
    • その通告がなされると、
  • temporis puncto sublatis ancoris
    • またたく間に錨を上げて
  • omnes Uticam relinquunt
    • すべて(の船)がウティカを後にして、
  • et, quo imperatum est, transeunt.
    • 命令されたところへ航行する。
  • Quae res omnium rerum copia complevit exercitum.
    • その事が、あらゆる豊富な物品により、(クリオの)軍隊を満たした。

26節 編集

クリオ勢が、ウティカの近くに陣営を築き、ヌミディア王ユバの援兵を撃退する

  • ①項 His rebus gestis
    • これらの事が成し遂げられると、
  • Curio se in castra ad Bagradam recipit
  • atque universi exercitus conclamatione imperator appellatur
    • 軍隊の総勢により大声で大将軍インペラトルと呼びかけられる。
  • posteroque die Uticam exercitum ducit
  • et prope oppidum castra ponit.
    • 城市の近くに陣営を設置する。
  • ②項 Nondum opere castrorum perfecto
    • 陣営の工事がまだ成し遂げられぬうちに、
  • equites ex statione nuntiant magna auxilia equitum peditumque ab rege missa Uticam venire;
    • 騎兵と歩兵からなる大勢の支援軍アウクシリアが王(ユバ)によって派遣されてウティカにやって来る、と歩哨の騎兵たちが報告する。
  • eodemque tempore vis magna pulveris cernebatur,
    • 同時に、大量の砂ぼこりが見分けられて、
      (訳注:vis magna「大量」)
  • et vestigio temporis primum agmen erat in conspectu.
    • その瞬間に(ヌミディア勢の)前衛部隊が視界に入って来た。
  • ③項 Novitate rei Curio permotus
    • クリオは、思いがけない事態に動揺して、
  • praemittit equites, qui primum impetum sustineant ac morentur;
    • (ヌミディア勢の)最初の突撃を持ちこたえて、妨げるべく、騎兵たちを先遣する。
  • ipse celeriter ab opere deductis legionibus aciem instruit.
    • (クリオ)自身は、工事(現場)から諸軍団レギオを移動させて、戦列アキエスを整列する。
  • ④項 Equitesque committunt proelium,
    • (先遣された)騎兵たちは交戦し、
  • et, priusquam plane legiones explicari et consistere possent,
    • 軍団レギオが完全に展開されて(敵の突撃を)持ちこたえ得るより前に、
  • tota auxilia regis impedita ac perturbata,
    • 王(ユバ)の支援軍アウクシリア全体が(クリオの騎兵隊によって、進撃を)妨げられ、混乱させられて、
  • quod nullo ordine et sine timore iter fecerant,
    • ── というのも、(ヌミディア勢は、隊列の)秩序もなく(敵襲への)心配もなく行軍していたからであるが ──
  • in fugam [se] coniciunt
    • (クリオの騎兵隊は、ヌミディア勢を)敗走に追いやる。
  • equitatuque omni fere incolumi, quod se per litora celeriter in oppidum recepit,
    • (ヌミディア人の)騎兵隊は、海岸沿いに速やかに城市に退却したので、ほぼ全員が無傷のままだったが、
  • magnum peditum numerum interficiunt.
    • (クリオの騎兵隊は、ヌミディア人の)歩兵の多数を殺戮さつりくする。

27節 編集

クリオ配下の一部の将兵がアッティウス・ウァルス陣営に寝返り、両軍が対峙する

  • ①項 Proxima nocte centuriones Marsi duo ex castris Curionis
    • その日の夜に、マルスィ族出身の2名の百人隊長ケントゥリオクリオの陣営から
      (訳注:proxima nocte「次の夜に」=「その日の夜に」)
      (訳注:マルスィ族 Marsi はイタリア中部の部族で、第1巻15節⑦項でドミティウスによって徴兵されていた。)
  • cum manipularibus suis XXII ad Attium Varum perfugiunt.
    • 自分たちと同じ歩兵中隊マニプルスの兵22名とともに、アッティウス・ウァルスのもとに寝返る。
  • ②項 Hi, sive vere quam habuerant opinionem ad eum perferunt,
    • この者らは、あるいは、彼らが本当に持っていた考えオピニオを彼(アッティウス・ウァルス)に伝えているのか、
      (訳注:sive ~, sive ・・・「あるいは~、あるいは・・・」)
  • sive etiam auribus Vari serviunt
    • あるいは、ウァルスの耳に心地よいことをいっているのか、
      (訳注:auribus ~ servire「~の両耳に役立つ」)
  • ── nam, quae volumus, ea credimus libenter
    • ── なぜなら、われわれ(人間というもの)は、欲するところのことを喜んで信じ込み、
      (訳注:下線部は、写本では et だが、「et ~ et ~」の構文になるのを避けるため、ea に修正提案されている。)
  • et quae sentimus ipsi, reliquos sentire speramus ──
    • われわれ自身が感じていることを、ほかの者たちも感じていることを期待するものであるからだ ──
  • confirmant
    • (マルスィ族の者らは、ウァルスに)請け合う。
  • quidem certe totius exercitus animos alienos esse a Curione
    • 確かに、軍隊全体の心がクリオから離れており、
  • maximeque opus esse in conspectum exercitus venire et conloquendi dare facultatem.
    • (ウァルスが、クリオ配下の)軍隊から見えるところにおもむいて、話し合いの機会を与えることが特に必要である、と。
  • ③項 Qua opinione adductus
    • その意見に導かれて、
  • Varus postero die mane legiones ex castris educit.
    • ウァルスは、翌日の朝早くに、諸軍団を陣営から進発させる。
  • Facit idem Curio,
    • クリオもおなじことをして、
  • atque una valle non magna interiecta suas uterque copias instruit.
    • 大きくはない一つの谷を間にはさんで、双方とも自らの軍勢を整列させる。

28節 編集

アッティウス・ウァルス配下のクィンティリウス・ウァルスが、クリオの将兵たちに寝返りを呼びかける

  • ①項 Erat in exercitu Vari Sex. (Sextus) Quintilius Varus,
    • (プブリウス・アッティウス・)ウァルスの軍隊に、セクストゥス・クィンティリウス・ウァルスという者がいて、
  • quem fuisse Corfinii supra demonstratum est.
  • Hic dimissus a Caesare in Africam venerat,
  • legionesque eas transduxerat Curio, quas superioribus temporibus Corfinio receperat Caesar,
    • クリオは、かつてコルフィニウムでカエサルが(ドミティウスの軍勢から)受け入れていた諸軍団を(アフリカ属州に)渡海させていて、
  • adeo ut paucis mutatis centurionibus idem ordines manipulique constarent.
    • 百人隊長ケントゥリオの若干名が交替していても、同じ階級オルド歩兵中隊マニプルスが動かなかったほどである。
      (訳注:adeo ut ~「~ほど」 ; ordo - ordines「階級」または「部隊、歩兵小隊(百人隊)」)
  • ②項 Hanc nactus appellationis causam
    • この呼びかけの口実を得て、
  • Quintilius circumire aciem Curionis atque obsecrare milites coepit,
    • クィンティリウス(・ウァルス)は、クリオ戦列アキエスを取り巻いて、(クリオ配下の)兵士たちにお願いし始めた。
  • ne primam sacramenti, quod apud Domitium atque apud se quaestorem dixissent, memoriam deponerent,
    • ドミティウス財務官クァエストルである自分(クィンティリウス・ウァルス)のもとで述べた(徴兵時に新兵が忠誠を誓う)宣誓サクラメントゥムの当初の記憶を捨てないでくれ、
  • neu contra eos arma ferrent, qui eadem essent usi fortuna eademque in obsidione perpessi,
    • 同じ運命フォルトゥナをともにし、同じ攻囲オブシディウムに耐え抜いた者たちに対して、武力に訴えないでくれ、
  • neu pro iis pugnarent, a quibus <per> contumeliam perfugae appellarentur.
    • (自分たちを)侮辱して脱走兵ペルフガと呼んだ者たちに味方して戦わないでくれ、と。
  • ③項 Huc pauca ad spem largitionis addidit,
    • (クィンティリウス・ウァルスは)これに、施しへの期待のために、わずか(な言葉)を付け加えて言った。
  • quae ab sua liberalitate, si se atque Attium secuti essent, exspectare deberent.
    • もし、自分(クィンティリウス・ウァルス)とアッティウス(・ウァルス)に味方してくれるのならば、自分の気前よさに期待するべきだ、と。
  • ④項 Hac habita oratione
    • このように演説をしてまわったが、
  • nullam in partem ab exercitu Curionis fit significatio,
    • クリオの軍隊からは、いかなる部隊パルスにおいても(寝返りの)兆候はなく、
  • atque ita suas uterque copias reducit.
    • こうして、双方とも自らの軍勢を撤退させる。

29節 編集

クリオの陣営が、流言飛語により、疑心暗鬼に陥る

  • ①項 At in castris Curionis magnus omnium incessit timor animis.
    • ところが一方で、クリオの陣営において、皆の心に、大きな恐怖が降りかかる。
  • Is variis hominum sermonibus celeriter augetur.
    • それは、人々のさまざまな会話により、速やかに増される。
  • Unusquisque enim opiniones fingebat,
    • なぜなら、おのおのが意見をつくり上げて、
  • et ad id, quod ab alio audierat, sui aliquid timoris addebat.
    • 他の者から聞いていたことに、自らの何らかの怖れを付け加えていたからだ。
  • ②項 Hoc ubi uno auctore ad plures permanaverat,
    • これが、一人の発信者アウクトルからより多くの者たちへ達するや否や、
  • atque alius alii tradiderat, plures auctores eius rei videbantur.
    • それぞれが別の者に伝えて、その事柄の発信者がより多数であると思われていたのである。

(訳注:これ以降の青字の箇所は、写本の文章が著しく壊れていると考えられ、多くの修正提案が出されているが、いずれの修復も完全ではない。
それぞれの校訂者・訳者によって解釈にいくらか食い違いが見られるが、ここでは試訳を示す。)

  • ③項 ・・・ Civile bellum ・・・ ;
    • (それこそが)内戦(というものだった)
  • genus hominum; quod liceret libere facere et sequi quod vellet.
    • ある種の人々は、許容されることを自由に行ない、(彼らが)望むことに従う。
      (訳注:下線部は、一部の写本 M・U・R では liceret だが、ほかの写本 S・L・N,T・V では licere となっている。)
  • legiones hae, quae paulo ante apud adversarios fuerant;
    • 少し前には敵方(ポンペイウス派)のもとにいた、これらの諸軍団は、
  • nam etiam Caesaris beneficium mutaverat ・・・ consuetudo qua offerrentur ・・・ ;
    • (コルフィニウムで籠城していた彼らを助命した)カエサルの恩恵でさえも変え(られなかっ)た・・・(兵士仲間により)提供されていた親密さというものは・・・
  • municipia etiam diversis partibus coniuncta ・・・
    • (兵士らの出身地である)自治都市ムニキピウムによって(カエサル派とポンペイウス派という)派閥の異なる者たちさえも結びつけられて・・・
  • ── aeque ex Marsis Paelignisque veniebant ──,
    • ──マルシ族やパエリグニ族も同じように(クリオ配下として属州アフリカに)来ていたのだが、──
      (訳注:下線部は、写本では neque だが、aeque と修正提案されている。)
  • ut qui superiore nocte in contuberniis commilitesque ・・・;
    • (地縁・血縁による内通の)結果として、前の夜には天幕をともにしていた、兵隊仲間たちは・・・(敵方の陣営に身を投じた)。
  • nonnulli ・・・ graviora; sermones militum ・・・ ;
    • 少なからぬ、より深刻な(内通の疑いが)・・・兵士たちのうわさ話(にのぼっている)・・・
  • dubia durius accipiebantur.
    • (内通の)疑念は、より厳しく受け取られていた。
  • nonnulla etiam ab iis, qui diligentiores videri volebant, fingebantur.
    • そのうえ、より念入りに警戒されることを望む者たちによって、(内通に関する)少なからぬことが、つくり上げられていた。

30節 編集

クリオが軍議を催して、主戦論と撤退論が出される

  • ①項 Quibus de causis consilio convocato
    • そのような状況から(クリオは、幕僚たちの)会議を召集して、
  • de summa rerum deliberare incipit.
    • 重大事項について審議し始める。

主戦論

  • ②項 Erant sententiae,
    • (次のような)意見があった。
  • quae conandum omnibus modis castraque Vari oppugnanda censerent,
    • あらゆる方策が試みられて(アッティウス・)ウァルスの陣営が襲撃されるべきだと思う、と。
  • quod <in> huiusmodi militum consiliis otium maxime contrarium esse arbitrarentur;
    • というのも、兵士たちがこのような判断力コンシリウムにおいて、無為に過ごすことオティウムが最も有害であると、思われたからである。
  • postremo praestare dicebant per virtutem in pugna belli fortunam experiri,
    • (彼らは)言った:要するに、戦いにおいて、武勇をもって武運を試す方がましである。
  • quam desertos et circumventos ab suis gravissimum supplicium perpeti.
    • 配下の者たちによって見放され、計略にかけられて、最も重い責め苦を味わうよりは。

撤退論

  • ③項 Erant, qui censerent de tertia vigilia in Castra Cornelia recedendum,
    • (他方で)第三夜警時の頃に、コルネリウスの陣営に後退するべきだ、と考える者たちもいた。
      (訳注:第三夜警時は、真夜中から日の出までの間の前半の時間帯を指す。『古代ローマの不定時法』を参照。)
  • ut maiore spatio temporis interiecto militum mentes sanarentur,
    • (後退の結果として)より多くの時間が置かれれば、兵士たちの心も正常になるだろうし、
  • simul, si quid gravius accidisset,
    • 他方で、もし何らかのより重大なことが生じたならば、
  • magna multitudine navium et tutius et facilius in Siciliam receptus daretur.
    • 多数の船団でもって、より安全に、よりたやすく、シキリアに撤退(する機会)が与えられるのだ。

31節 編集

クリオが軍議において、両極端な主張を戒めて、慎重な判断を説く


“主戦論は向こう見ずで、撤退論は臆病だ”

  • ①項 Curio utrumque improbans consilium,
    • クリオは(主戦論と撤退論の)双方の作戦計画コンシリウムを却下すると、
  • quantum alteri sententiae deesset animi, tantum alteri superesse dicebat:
    • 一方の提案センテンティア闘志アニムスが欠けている分だけ、他方(の提案)には(闘志が)過剰である、と言った。
      (訳注:quantum ~, tantum ・・・「~ほど、・・・だ」)
  • hos turpissimae fugae rationem habere, illos etiam iniquo loco dimicandum putare.
    • 後者がとても恥ずべき敗走を意図しており、前者は不利な立場でさえも戦うべきだと思っている、と。

主戦論を戒める

  • ②項 "Qua enim," inquit, "fiducia et opere et natura loci munitissima castra expugnari posse confidimus?
    • 「実際、いかなる自信フィドゥキアにより、構築物と地勢により難攻不落の(アッティウス・ウァルスの)陣営を攻略できると信じるのだろうか?」と(クリオは)言った。
  • ③項 Aut vero quid proficimus, si accepto magno detrimento ab oppugnatione castrorum discedimus?
    • 「いやむしろ、もし(我々が)大きな損害をこうむって、陣営の攻囲から撤退するならば、何(の成果)を得るだろうか?」
  • Quasi non et felicitas rerum gestarum exercitus benevolentiam imperatoribus et res adversae odia concilient!
    • 「軍事作戦の幸運が将軍たちに軍隊の好意を(もたらし)、(作戦の)不運が(軍隊の)反感をもたらすのだ。」
      (訳注:quasi non ~「あたかも~でないかのように」=「~である」)

撤退論を戒める

  • ④項 Castrorum autem mutatio quid habet nisi turpem fugam et desperationem omnium et alienationem exercitus?
    • 「一方で、陣営を(後方へ)移し変えることは、不名誉な退却と、まったくの絶望と、軍隊の離反、以外に何を得るというのだ?」
  • Nam neque prudentes suspicari oportet sibi parum credi,
    • 「実際、分別のある者たちには、自分らがあまり信用されていないのではないか、と疑いを持たれるべきではないし、
      (訳注:下線部は、写本では prudentes または prudentis とあるが、pudentes と修正提案されている。)
  • neque improbos scire sese timeri,
    • 無分別な者たちには、自分らが怖れられていると気づかれるべきではない。
  • quod illis licentiam timor augeat noster,
    • というのも、後者(無分別な者たち)にとっては、我らの怖れが(彼らの)勝手気ままを増すことになるし、
  • his studia deminuat."
    • 前者(分別のある者たち)にとっては、献身ストゥディウムを弱めることになるからだ。」
      (訳注:studium「熱意」または「忠誠」「献身」)

“敵を利することのないように、内通の疑いをうやむやにするべきだ”

  • ⑤項 "Quodsi iam," inquit, "haec explorata habeamus, quae de exercitus alienatione dicuntur,
    • (クリオは)言った:「だがもし、軍隊の離反について(陣中で)言われていることに確証を得たとして、
  • quae quidem ego aut omnino falsa aut certe minora opinione esse confido,
    • ── そのことは、まったく偽りであるか、あるいは、噂されるほど確かなものではない、とエゴは確かに信じているが、──
  • quanto haec dissimulari et occultari, quam per nos confirmari praestet?
    • これを、我々によって知らないふりをしたり、隠したりすることが、確証することよりも どれほどましなのか?」
  • ⑥項 An non, uti corporis vulnera, ita exercitus incommoda sunt tegenda, ne spem adversariis augeamus?
    • 「それとも、敵方の希望を増さないように、軍隊の不利なことを(兵士らの)身体の負傷のように秘密にするべき、ではないとでもいうのか?」

“真夜中に退却するなどもってのほかだ”

  • ⑦項 At etiam, ut media nocte proficiscamur, addunt,
    • 「しかし、それどころか、(撤退論を主張する者たちが)真夜中に出発するように、と付け加えているが、
      (訳注:at etiam「しかし、それどころか」)
  • quo maiorem, credo, licentiam habeant, qui peccare conentur.
    • (寝返りという)あやまちを犯そうと企てる者たちが、それによって(寝返りの)機会を大きくしようとしているのだ、と私は確信する。
  • Namque huius modi res aut pudore aut metu tenentur,
    • なぜなら、(寝返りという)このような事は、恥じらいプドル、あるいは怖れメトゥスによって抑制されるものだが、
  • quibus rebus nox maxime adversaria est.
    • それらの事(=恥じらいや怖れ)にとって、夜はとりわけ障害となるからだ。」

“あらゆる手段を検討して、慎重に判断しようではないか”

  • ⑧項 Quare neque tanti sum animi, ut sine spe castra oppugnanda censeam,
    • 「それゆえに、(成功の)望みなく陣営を攻囲するべきと思うほど(私は)やる気まんまんではないし、
  • neque tanti timoris, uti spe deficiam,
    • 絶望してしまうほど臆病になっているのでもない。
  • atque omnia prius experienda arbitror
    • むしろ、すべて(の可能な手段)を試してみるべきだと(私は)思うし、
  • magnaque ex parte iam me una vobiscum de re iudicium facturum confido."
    • 事態の大半において、私は諸君とともに判断するであろう、と(私は)確信する。」

32節 編集

クリオが将兵を集め、長い熱弁をふるって士気を鼓舞する

  • ①項 Dimisso consilio, contionem advocat militum.
    • クリオは、幕僚たちの)会議を解散させて、兵士たちの集会を召集する。
  • Commemorat,
    • (クリオは、兵士たちに)思い起こさせる。
  • quo sit eorum usus studio ad Corfinium Caesar,
  • ut magnam partem Italiae beneficio atque auctoritate eorum suam fecerit.
    • その結果として、彼らの気高い行為ベネフィキウム模範アウクトリタスにより、イタリアの大部分を(カエサル)自らのものとした、ということを。


  “カエサルは、イタリアを平定した諸君に、属州をゆだねたのだ!”

  • ②項 "Vos enim vestrumque factum," inquit, "omnia deinceps municipia sunt secuta,
    • (クリオは)言った:「なぜなら、諸君および諸君の行為に、(イタリアの)すべての自治都市ムニキピウムが次々に従ったからだ。
  • neque sine causa et Caesar amicissime de vobis et illi gravissime iudicaverunt.
    • カエサルが諸君にれ込んでいるのも、あの連中(ウァルスら)が(諸君を)厄介に思っているのも、理由のないことではない。」


  • ③項 Pompeius enim nullo proelio pulsus
    • 「なぜなら、ポンペイウスは、いかなる戦闘で打ち破られたのでもなく、
  • vestri facti praeiudicio demotus Italia excessit;
    • 諸君の行動からの予測により、追いやられるようにして、イタリアを退去したのだ。
  • Caesar me, quem sibi carissimum habuit,
    • カエサルは、自らにとって最もたいせつに思っていた私(クリオ)を、
  • provinciam Siciliam atque Africam,
  • sine quibus urbem atque Italiam tueri non potest,
    • ── それら(の属州)なしでは首都ウルプス(ローマ市)とイタリアを守れぬのだが、──
  • vestrae fidei commisit.
    • 諸君の忠誠フィデスにゆだねたのだ。」


 寝返りを呼びかけるクィンティリウス・ウァルスを非難

  • ④項 At sunt qui vos hortentur, ut a nobis desciscatis.
    • 「だが、諸君を我々(クリオの軍勢)から離脱するように駆り立てる者らがいる。
  • Quid enim est illis optatius, quam uno tempore et nos circumvenire et vos nefario scelere obstringere?
    • いかにも、あやつらにとって、一時いちどきに、我が方を計略にかけつつ、諸君によこしまな(寝返りという)罪を負わせる、ということよりも望ましいことがあるだろうか?
  • aut quid irati gravius de vobis sentire possunt,
    • あるいは、(ウァルスら)苛立いらだたたしい連中は、諸君について(これ以上に)厄介な何かを思いつけるのだろうか?
  • quam ut eos prodatis, qui se vobis omnia debere iudicant, in eorum potestatem veniatis, qui se per vos perisse existimant?
    • 諸君にすべてを負うていると思っている者らを裏切って、諸君によって滅ぼされたと思っている者らの権限下に移る、よりも(厄介なことを敵が思いつけるか?)。」
      (諸君に頼り切っているクリオらを裏切って、コルフィニウムで諸君の投降により滅ぼされたと思っているウァルスのもとに移ること以上に、厄介なことがあるか?)


 “カエサルのヒスパニアでの輝かしい勝利を聞いているだろう!”

  • ⑤項 An vero in Hispania res gestas Caesaris non audistis?
    • 「それとも、本当に、ヒスパニアにおけるカエサルの戦功を(諸君は)聞いていないのか?
  • duos pulsos exercitus, duos superatos duces, duas receptas provincias?
    • 二つの軍隊を撃破し、二人の将帥ドゥクスを打ち負かし、二つの属州を接収したのを(聞いていないのか)?
  • haec acta diebus XL, quibus in conspectum adversariorum venerit Caesar?
    • これらのことは、カエサルが敵方の視界に現われ出てから40日間でなされたのを(聞いていないのか)?


 "元老院派は、すでに戦争の敗者なのだ!"

  • ⑥項 An, qui incolumes resistere non potuerunt, perditi resistant?
    • 「それとも、無傷なのに(カエサルに)抗し得なかった者たちが、(ヒスパニアの敗戦で)弱っているのに抗し得るのか?
  • vos autem incerta victoria Caesarem secuti
    • さらに、諸君は、勝利が不確実なときにはカエサルに従ったのに、
  • diiudicata iam belli fortuna victum sequamini,
    • すでに戦争の運命が見分けられたのに、敗者に(諸君は)従うのか?
  • cum vestri officii praemia percipere debeatis?
    • 諸君の尽力への報酬を(諸君は)獲得すべきときなのに。」


 “諸君のドミティウスへの忠誠は、すでに無効だ!”

  • ⑦項 Desertos enim se ac proditos a vobis dicunt
    • 「確かに、(ウァルスらは)諸君によって見放され、裏切られたと言っているし、
  • et prioris sacramenti mentionem faciunt.
    • より以前の(イタリアでの徴兵時の忠誠の)誓約に言及している。」


  • ⑧項 Vosne vero L. Domitium, an vos Domitius deseruit?
  • Nonne extremam pati fortunam paratos proiecit ille?
    • あの者(ドミティウス)が、最悪の境遇をこうむる覚悟をしていた者たち(=諸君)を捨てたのではないかね?
  • nonne sibi clam vobis salutem fuga petivit?
    • (ドミティウスは)諸君に知られずに、逃亡することにより、自らの安全を求めたのではないかね?
  • nonne proditi per illum Caesaris beneficio estis conservati?
    • (諸君は)あの者によって裏切られて、カエサルのおかげで保護されたのではないかね?」


 
束桿そっかんを携える古代ローマの先導吏リクトルの再現(手前の人物)
  • ⑨項 Sacramento quidem vos tenere qui potuit,
    • 「実際、(ドミティウスへの忠誠の)誓約によって、諸君を束縛できるものだろうか?
  • cum proiectis fascibus et deposito imperio privatus et captus ipse in alienam venisset potestatem?
    • (ドミティウスは)束桿そっかんを投げ出し、軍隊司令権インペリウムを捨てて、私人として自身が捕らわれ、他人の軍門に降ったのに。」
      (訳注:束桿そっかんは、軍隊司令権インペリウムの象徴として、司令官に付き従う先導吏リクトルが携えていた。)


  • ⑩項 Relinquitur nova religio, ut
    • 「(私たちには、以下のような)前例のない義務感レリギオがおしつけられている。
  • eo neglecto sacramento, quo tenemini,
    • 諸君が義務付けられている(カエサルとクリオへの忠誠についての)誓約を軽視して、
  • respiciatis illud, quod deditione ducis et capitis deminutione sublatum est.
    • 将帥ドゥクスたちの降伏および市民権喪失によって取り消されたものを顧慮せよというものだ。」
      (訳注:capitis deminutio「市民権喪失」・・・ローマ市民としての身分(caput)が没収されること。
      ドミティウスコルフィニウムで降伏して、市民権を喪失したので、忠誠の誓いは取り消されたというカエサル陣営の理屈である。)


 “諸君は、私からの報酬を少ないと思っているだろう?”

  • ⑪項 At, credo, si Caesarem probatis, in me offenditis.
    • 「ところが一方で、(諸君が)カエサルのことを認めていたとしても、私に対して不満に思っているのではないかと考えている。
      (訳注:si ~「~としても」 ;credo「信じる」あるいは「考える」「思う」)
      下線部は、古い写本では iam me だが、より新しい写本では in me となっている。
  • Qui de meis in vos meritis praedicaturus non sum,
    • 諸君に対する私(から)の報酬については、自慢するつもりはない。
      (訳注:下線部は、写本では praeiudicaturus「前もって判断するであろう」だが、
      praedicaturus「公言するであろう」あるいは「賞賛 / 自慢するであろう」と修正提案されている。)
  • quae sunt adhuc et mea voluntate et vestra exspectatione leviora;
    • それら(の報酬)は、今なお、私の気持ちにおいても、諸君の期待においても、取るに足りない(額だ)。
  • sed tamen sui laboris milites semper eventu belli praemia petiverunt,
    • しかしそれでも、兵士たちというものは、常に戦果によって、自らの働きの報酬を求めて来たのだ。
  • qui qualis sit futurus, ne vos quidem dubitatis:
    • それ(=戦果)がどのようなものとなるか、諸君は決して疑っていない。
  • diligentiam quidem nostram aut, quem ad finem adhuc res processit, fortunam cur praeteream?
    • はっきり言って、私の用心深さを、あるいは、今まで戦況が推移した限りでの(私の)武運を、どうして言わずにおけようか?」


 “諸君は、私の采配と武運に不満なのか?”

  • ⑫項 An paenitet vos, quod salvum atque incolumem exercitum nulla omnino nave desiderata traduxerim?
    • 「それとも、私(クリオ)が軍隊を安全かつ無傷のまま、いかなる船もまったく失うことなしに渡海させたことが、諸君に不平を抱かせるのか?
      (訳注:paenitet ~, quod ・・・「・・・ことが~を 後悔させる(不平を抱かせる・残念に思わせる)」)
  • quod classem hostium primo impetu adveniens profligaverim?
    • (アフリカに)到着して(すぐに)敵方の艦隊を、最初の攻撃で打ちのめしたことが(諸君に不平を抱かせるのか)?
  • quod bis per biduum equestri proelio superaverim?
    • 2日間で2度の騎兵戦で(敵勢を)打ち破ったことが(諸君に不平を抱かせるのか)?
  • quod ex portu sinuque adversariorum CC naves oneratas abduxerim
    • 敵方の港や湾内から200隻の貨物船を奪い去ったことを、
  • eoque illos compulerim, ut neque pedestri itinere neque navibus commeatu iuvari possint?
    • あの者らに、陸路であれ船団であれ、軍需品の援助をできないように強要したことが(諸君に不平を抱かせるのか)?」


 “諸君が寝返りたいのなら、敗者に付くがよい”

  • ⑬項 Hac vos fortuna atque his ducibus repudiatis
    • 「(もし、私=クリオに不平を抱いているのなら)諸君は、この武運やこれらの将帥ドゥクスたち(に従うこと)を拒絶して、
  • Corfiniensem ignominiam, Italiae fugam, Hispaniarum deditionem,
  • ── Africi belli praeiudicia, ──
    • ──(これらは)アフリカでの戦争(の結果)を予測させるものであるが、──
  • sequimini!
    • (諸君は、これらの敗戦の)後をたどるがいい。」


 “諸君が敵に寝返るつもりなら、決して私を大将軍とは呼んでくれるな!”

  • ⑭項 Equidem me Caesaris militem dici volui,
    • 「私としては、カエサルの兵隊と(だけ)呼ばれることを望んだが、
  • vos me imperatoris nomine appellavistis.
    • 諸君は、私を大将軍インペラトルの名で呼んでくれた。
  • Cuius si vos paenitet, vestrum vobis beneficium remitto,
    • もし、諸君がそれらに不平を抱いているのなら、(私は)諸君に対して諸君からの好意をお返ししよう。
  • mihi meum restituite nomen,
    • 私に対しては、(大将軍ではなく、クリオという)私の名前に戻してくれ。
  • ne ad contumeliam honorem dedisse videamini."
    • (私を)笑いものにするために、(大将軍という)名誉を与えたのだ、と思わないように。」

33節 編集

クリオの演説にふるい立った兵士らが忠誠を誓い、両軍が再び対峙する

  • ①項 Qua oratione permoti milites
    • (クリオの)その演説に揺り動かされた兵士たちは、
  • crebro etiam dicentem interpellabant,
    • (クリオが)話しているのをさえ、たびたび、言葉をさえぎって、
  • ut magno cum dolore infidelitatis suspicionem sustinere viderentur,
    • 不忠であるとの疑い(を持たれていること)に、大きな憤りとともに耐えているように思われた。
  • discedentem vero ex contione universi cohortantur,
    • 他方で(クリオが)集会から立ち去るのを、(兵士たち)全員が激励する。
  • magno sit animo, necubi dubitet proelium committere et suam fidem virtutemque experiri.
    • (クリオが)大胆になって、交戦して、自分らの忠誠と武勇を試すことを、どんな場合もためらわないでください、と。


  • ②項 Quo facto
    • それがなされると、
  • commutata omnium et voluntate et opinione
    • 皆の気持ちも意見も動かされて、
  • consensu suo<rum>
    • 味方の満場一致により、
  • constituit Curio, cum primum sit data potestas, proelio rem committere,
    • クリオは、機会が与えられるや否や、戦闘に命運レスをゆだねること、を決定する。
  • posteroque die productos eodem loco, quo superioribus diebus constiterat,
    • 翌日(クリオは)、先日に布陣していたのと同じ場所に(軍勢を)出撃させて、
  • in acie collocat.
    • 戦列アキエスに配列する。


  • ③項 Ne Varus quidem Attius dubitat copias producere,
    • (アッティウス・)ウァルスは、軍勢を出撃させることを決してためらわず、
      (訳注:ne ~ quidem「決して~ない」)
  • sive sollicitandi milites sive aequo loco dimicandi detur occasio,
    • 兵士たちをあおり立てるか、あるいは、有利な場所で戦うことで、好機を与えられるように、
  • ne facultatem praetermittat.
    • 機会を利用しそこなうことがないようにする。

34節 編集

クリオ勢が、アッティウス・ウァルス勢を大いに打ち破る(ウティカの戦い)

  • ①項 Erat vallis inter duas acies, ut supra demonstratum est,
    • 前に述べたように、(クリオ勢とアッティウス・ウァルス勢の)二つの戦列アキエスの間には、谷があって、
      (訳注:27節③項で述べられている。)
  • non ita magna, at difficili et arduo ascensu.
    • さほど大きくはないが、登るには面倒でしかった。
  • Hanc uterque, si adversariorum copiae transire conarentur, exspectabat,
    • 双方とも、対戦相手の軍勢がこれを踏み越えることを試みるかどうかと、期待していて、
  • quo aequiore loco proelium committeret.
    • より有利な場所で戦闘を始めようとしていた。


  • ②項 Simul ab sinistro cornu P. Attii
  • 同時に、プブリウス・アッティウス(・ウァルス)の(軍勢の)左翼から、
  • equitatus omnis et una levis armaturae interiecti conplures,
    • すべての騎兵隊が、その間に配置された多くの軽武装(歩)兵と一緒に、
  • cum se in vallem demitterent, cernebantur.
    • 谷間に降りるのが、(クリオ勢により)見分けられた。
      (訳注:se demittere「降りる」)


  • ③項 Ad eos Curio equitatum et duas Marrucinorum cohortes mittit;
    • 彼ら(ウァルス勢)のもとへ、クリオは、騎兵隊とマッルキニ族からなる2個歩兵大隊コホルスを派遣する。
      (訳注:マッルキニ族 Marrucini は、パエリグニ族 Paeligni と同じくイタリア中部の部族で、
      テアテ Teate すなわち現在のキエーティの周辺にいた。)
  • quorum primum impetum equites hostium non tulerunt,
    • 彼ら(クリオ勢)の最初の突撃に、敵方(ウァルス勢)の騎兵たちは持ちこたえ(られ)ず、
  • sed admissis equis ad suos refugerunt;
    • けれども、馬を走らせて、味方のもとへ逃げ込んだ。
  • relicti ab his, qui una procurrerant levis armaturae,
    • 一緒に進撃していた軽武装(歩)兵は、彼ら(騎兵隊)によって取り残されて、
  • circumveniebantur atque interficiebantur ab nostris.
    • 我が方(クリオ勢)によって取り囲まれて、殺戮さつりくされた。
  • Huc tota Vari conversa acies suos fugere et concidi videbat.
    • (アッティウス・)ウァルスの全戦列アキエスがこちらへ向きを変えて、味方(の軽装歩兵)が敗走して戦死していくのを見ていた。


  • ④項 Tum Rebilus, legatus Caesaris,
  • quem Curio secum ex Sicilia duxerat,

── その者は、クリオがシキリアから自分と一緒に連れて来ており、

  • quod magnum habere usum in re militari sciebat,
    • というのも、(彼が)軍事における多くの経験を持っていることを(クリオが)知っていたからであるが、 ──
  • “perterritum,” inquit, "hostem vides, Curio;
    • (レビルスは)言った:「敵がおびえているのを見ていますね、クリオ。
    • quid dubitas uti temporis opportunitate?"
    • ちょうど良い頃合いを役立てるのに、何を迷っておられるのか?」


  • ⑤項 Ille unum elocutus, ut memoria tenerent milites ea, quae pridie sibi confirmassent,
    • 彼(クリオ)は、兵士たちが前日に自分を励ましてくれたことを覚えておくように、と一言だけ述べると、
  • sequi sese iubet et praecurrit ante omnes.
    • 自分に続け、と命じて、全軍の前を先に駆けて行く。
  • Adeoque erat impedita vallis, ut in ascensu nisi sublevati a suis primi non facile eniterentur.
    • 谷に妨げられたので、登り道において、味方によって手助けされない限り、前衛の者たちが容易によじ登れないほどであった。
      (訳注:adeo ~, ut ・・・「・・・ほど~である」「~なので、・・・ほどである」)


  • ⑥項 Sed praeoccupatus animus Attianorum militum timore et fuga et caede suorum
    • けれども、アッティウス(・ウァルス)勢の兵士たちの意識は、味方の敗走と虐殺への恐怖心で先に占められており、
  • nihil de resistendo cogitabat,
    • (クリオ勢に)抵抗することに何ら考えが及ばなかったし、
  • omnesque iam se ab equitatu circumveniri arbitrabantur.
    • 皆が、自分たちはすでに(クリオ勢の)騎兵隊によって包囲されたと判断していたのだ。
  • Itaque priusquam telum adigi posset aut nostri propius accederent,
    • こうして、飛び道具が投げつけられ得るか、あるいは我が方(クリオ勢)がより近くに近づくより以前に、
      (訳注:priusquam ~ aut ・・・「~あるいは・・・より以前に」)
  • omnis Vari acies terga vertit seque in castra recepit.
    • (アッティウス・)ウァルスの全戦列アキエスが敵に背を向けて、陣営に退却する。


訳注:クリオ勢がアッティウス・ウァルス勢を破ったこの戦いは、ウティカの戦い Battle of Utica と呼ばれている。)

35節 編集

アッティウス・ウァルス勢が陣営に逃げ帰り、ウティカ市街に身を寄せる

  • ①項 Qua in fuga
    • その敗走中に、
  • Fabius Paelignus quidam ex infimis ordinibus de exercitu Curionis
    • クリオの軍隊の最下級の者たちのうちの、パエリグニ族のファビウスというある者が、
  • primum agmen fugientium consecutus
    • 敗走している(アッティウス・ウァルス勢の)前衛に追いついて、
  • magna voce Varum nomine appellans requirebat,
    • ウァルスを、大声で名前を呼びながら、探し求めていて、
  • uti unus esse ex eius militibus et monere aliquid velle ac dicere videretur.
    • あたかも(ファビウスが)彼(ウァルス)の兵士たちのうちの一人で、何らかのことを忠告したり、申し立てたりすることを望んでいるように思われた。


  • ②項 Ubi ille saepius appellatus aspexit ac restitit
    • 彼(ウァルス)が何度もくりかえし(名前を)呼ばれて、(ファビウスの方に)目を向けて、立ち止まり、
  • et quis esset aut quid vellet quaesivit,
    • (呼びかけてくる者が)何者か、あるいは、何を望んでいるのか、と問いただすや否や、
  • umerum apertum gladio appetit,
    • (ファビウスは、ウァルスの盾で防護されていなかった)無防備の肩を、長剣グラディウスで襲撃して、
  • paulumque afuit quin Varum interficeret;
    • もう少しでウァルスを殺害するところであった。
      (訳注:absum の非人称的用法。
      paulum abest quīn ~「~ことから、少ししか離れていない」=「もう少しで~ところである」
      paulum āfuit quīn ~「~ことから、少ししか離れていなかった」=「もう少しで~ところであった」)
  • quod ille periculum sublato ad eius conatum scuto vitavit.
    • というのも、彼(ウァルス)は、彼(ファビウス)の企てに対して、長盾スクトゥムを持ち上げて危険をまぬがれたからだ。
  • Fabius a proximis militibus circumventus interficitur.
    • ファビウスは、すぐ近くの兵士たちに取り囲まれて、たおされる。


  • ③項 Hac fugientium multitudine ac turba
    • 敗走して来るこれら大勢の群集によって、
  • portae castrorum occupantur atque iter impeditur,
    • 陣営の諸門はふさがれて、通路は妨げられる。
  • pluresque in eo loco sine vulnere quam in proelio aut fuga intereunt,
    • 戦闘中あるいは敗走中(に死ぬ)よりも、より多くの者たちが、負傷する間もなく(群集に押しつぶされて)その場所で息絶える。
  • neque multum afuit quin etiam castris expellerentur,
    • 陣営からほとんど追い払われさえしたも同然で、
      (訳注:これも absum の非人称的用法。「あたらずといえども遠からず。」
      nōn multum abest quīn ~「~ことから、あまり離れていない」=「ほとんど~ところである」
      nōn multum āfuit quīn ~「~ことから、あまり離れていなかった」=「ほとんど~ところであった」)
  • ac nonnulli protinus eodem cursu in oppidum contenderunt.
    • 少なからぬ者たちが、まっすぐ同じ方向へ駆けて、城市(ウティカ)の中に急いだ。


  • ④項 Sed cum loci natura et munitio castrorum adiri tunc <prohibebat>,
    • けれども、そのとき、陣営の地勢と防塁ムニティオが(城攻め側が)近寄ることを<妨げていた>
      (訳注:prohibebat 「妨げていた」は写本にはなく、挿入提案されている。)
  • <tum> quod ad proelium egressi Curionis milites
    • <のみならず、また>クリオの兵士たちは野外の遭遇戦プロエリウムのために出撃しており、
      (訳注:tum は古い写本にはなく、より後代の写本で挿入された。
      cum ~, tum ・・・「一方では~、他方では・・・」「~のみならず、また・・・」)
  • iis rebus indigebant quae ad oppugnationem castrorum erant usui.
    • 陣営の攻囲のために使われるものを欠いていたのだ。


  • ⑤項 Itaque Curio exercitum in castra reducit
    • こうして、クリオは軍隊を陣営の中に撤退させる。
  • suis omnibus praeter Fabium incolumibus,
    • ファビウスを除けば、自軍は全員が無事で、
  • ex numero adversariorum circiter DC interfectis ac mille vulneratis;
    • 敵方の兵数のうち、約600名が戦死して、約1000名が負傷する(戦果だった)。
  • qui omnes discessu Curionis multique praeterea
    • クリオの撤退によって、(敵方の負傷者の)全員と、さらに多くの者たちが、
  • per simulationem vulnerum ex castris in oppidum propter timorem sese recipiunt.
    • 負傷のふりをして、陣営から城市の中に、恐怖のために退却する。


  • ⑥項 Qua re animadversa Varus et terrore exercitus cognito
    • (アッティウス・)ウァルスは、その事態に気付き、軍隊の恐怖心を知ると、
  • bucinatore in castris et paucis ad speciem tabernaculis relictis
    • 陣営の中に、ラッパ手と、見せかけのためわずかな天幕を残して、
  • de tertia vigilia silentio exercitum in oppidum reducit.
    • 第三夜警時の頃に、静寂のうちに軍隊を城市の中に撤退させる。
      (訳注:第三夜警時は、真夜中から日の出までの間の前半の時間帯を指す。『古代ローマの不定時法』を参照。)


アフリカ戦役(2)─バグラダ川の戦い 編集

(関連記事:en:Battle of the Bagradas (49 BC)

36節 編集

 
ウティカUticam)の遺跡に残る住宅跡。

クリオがウティカの攻囲に着手するが、窮したウティカの人々にヌミディア王の大軍到来が伝えられる

  • ①項 Postero die Curio obsidere Uticam valloque circummunire instituit.
    • 翌日に、クリオは、ウティカを包囲することと、防柵ウァッルムをめぐらすことに取りかかる。
  • Erat in oppido
    • (ウティカの)城市に存在していたのは、
  • multitudo insolens belli diuturnitate otii,
    • ポエニ戦争が終結してから)平和オティウムが長かったことにより、戦争に慣れていない群衆と、
  • Uticenses pro quibusdam Caesaris in se beneficiis illi amicissimi,
    • カエサルの自分たちに対する何らかの恩恵のために、彼(カエサル)にとても好意的なウティカっ子たちと、
  • conventus is qui ex variis generibus constaret,
    • さまざまな階層から成るローマ市民協議会コンウェントゥス
      (訳注:下線部は、写本では si だが、削除する、あるいは is と書き換える修正提案が出されている。)
  • terror ex superioribus proeliis magnus.
    • (それと)先の戦闘に由来する大きな恐怖心(であった)。


  • ②項 Itaque de deditione omnes iam palam loquebantur
    • こうして、(町の人々は)皆がもはや、あからさまに(クリオ勢への)降伏について話し合っていて、
      (訳注:下線部は、写本では in だが、iam に修正提案されている。)
  • et cum P. Attio agebant,
    • プブリウス・アッティウス(・ウァルス)と協議していた。
  • ne sua pertinacia omnium fortunas perturbari vellet.
    • (アッティウス・ウァルスが)自らの強情さによって、皆の運命を混乱させないように望む、と。


  • ③項 Haec cum agerentur,
    • これが協議されているときに、
  • nuntii praemissi ab rege Iuba venerunt,
    • (ヌミディアの)王 ユバによって先に遣わされた伝令たちがやって来て、
  • qui illum adesse cum magnis copiis dicerent
    • 彼(ユバ)が大軍勢とともに間近に迫っている、と述べ、
  • et de custodia ac defensione urbis hortarentur.
    • 都市ウルプスの警戒や防御について励ました。
  • Quae res eorum perterritos animos confirmavit.
    • その事が、彼ら(ウティカの人々)のおびえ切っていた心を元気づけた。

37節 編集

ヌミディア王ユバの大軍接近を知って、クリオがコルネリウスの陣営まで退却して増援を待つ

  • ①項 Nuntiabantur haec eadem Curioni,
    • これと同じことがクリオにも報告されていたが、
  • sed aliquamdiu fides fieri non poterat;
    • けれども、しばらくの間、信用することができなかった。
  • tantam habebat suarum rerum fiduciam.
    • (クリオは)自らの軍事行動レスに、それほどの自信を持っていたのだ。


  • ②項 Iamque Caesaris in Hispania res secundae in Africam nuntiis ac litteris perferebantur.
  • Quibus omnibus rebus sublatus
    • それらすべての事柄に(気持ちが)高揚させられて、
  • nihil contra se regem nisurum existimabat.
    • 王(ユバ)が自分(クリオ)に対抗して、何ら争うことはないであろう、と判断していた。


ユバの大軍の接近を知ったクリオが、あわてて後方へ撤退する

  • ③項 Sed ubi certis auctoribus comperit minus V et XX milibus longe ab Utica eius copias abesse,
    • けれども、信頼できる証言者アウクトルたちにより、彼(ユバ)の軍勢がウティカから25ローママイル(=約37km)より離れていないことを確認するや否や、
  • relictis munitionibus sese in Castra Cornelia recepit.
    • 堡塁(の工事)を放り出して、コルネリウスの陣営に撤退する。
      (訳注:コルネリウスの陣営については、24節②項を参照。)


  • ④項 Huc frumentum comportare,
    • ここへ、穀物を運び込むこと、
  • castra munire, materiam conferre coepit
    • 陣営の防御を固めること、建築材料を運び集めること、を始めて、
  • statimque in Siciliam misit, uti duae legiones reliquusque equitatus ad se mitteretur.
    • すぐさま、2個軍団と残りの騎兵隊を自分のもとへ送り出すように、シキリアへ(伝令を)遣わした。


  • ⑤項 Castra erant ad bellum ducendum aptissima
    • (コルネリウスの)陣営は、戦争を長引かせるためには、最もふさわしいものであった。
      (訳注:ad bellum dūcendum 「戦争を指揮するために」あるいは「戦争を長引かせるために」)
 
塩田の例(カーボベルデ)。
  • natura loci et munitione
    • 地勢や防塁ムニティオの点で、
      (訳注:下線部は、写本では et loci だが、loci et に修正提案されている。)
  • et maris propinquitate et aquae et salis copia,
    • 海から近いこと、および水も塩もたくさん貯えてある点で。
  • cuius magna vis iam ex proximis erat salinis eo congesta.
    • それら(の塩)は、すでにすぐ近くの塩田サリナスからそこに大量に集められていた。
      (訳注:magna vīs ~「大量の~」)


  • ⑥項 Non materia multitudine arborum,
    • 建築材料は、樹木の多さにより、
  • non frumentum, cuius erant plenissimi agri,
    • 穀物は、耕地にいっぱいあったので、
  • deficere poterat.
    • 不足しようがなかった。
      (訳注:nōn ~, nōn ・・・, dēficere poterat「~も、・・・も、不足しようがなかった」)
  • Itaque omnium suorum consensu
    • こうして、配下の者たちの満場一致により、
  • Curio reliquas copias exspectare et bellum ducere parabat.
    • クリオは、残りの軍勢を待つことと、戦争を長引かせることを、準備していた。
      (訳注:dūcere「指揮すること」あるいは「長引かせること」)

38節 編集

ユバの大軍が帰国したという流言を信じ、クリオが騎兵隊を先遣してサブッラ指揮下のヌミディア勢を夜襲させる

 
レプティス・ミノル(Leptis minor)あるいはレプティス・パルウァLeptis Parva)、すなわち現在のチュニジア東部のレムタLemta)またはラムタLamta)の街並み。別名レプティミヌス(Leptiminus)が訛ってレムタ(Lemta)になったと考えられる。
フェニキア人が建てたこの町は、ヌミディアと争い、すぐ近くで勃発したタプススの戦いに際しては、カエサルに味方した。
  • ①項 His constitutis rebus probatisque consiliis
    • これらの事柄が同意され、作戦計画コンシリウムが承認されると、
      (訳注:cōnstituere「決定する」あるいは「同意する」)
  • ex perfugis quibusdam oppidanis audit
    • (クリオは)町の住民のある脱走者たちから(以下のことを)聞く。
  • Iubam revocatum finitimo bello et controversiis Leptitanorum restitisse in regno,
    • ユバは、近隣との戦争やレプティス住民との紛争により、呼び戻されて、王国に留まって、
      (訳注:レプティス Leptis と呼ばれる町は、世界遺産で知られるリビアのレプティス・マグナと、本項で言及されるレプティス・ミノルがあった。)
  • et Saburram, eius praefectum, cum mediocribus copiis missum Uticae adpropinquare.
    • 彼の軍指揮官 サブッラが、中規模の軍勢とともに派遣されて、ウティカに接近している、と。
      (訳注:下線部の et は、β系写本にはない。)


  • ②項 His auctoribus temere credens
    • (クリオは)これらの証言者アウクトルたちを、むやみに信用してしまい、
  • consilium commutat et proelio rem committere constituit.
    • 作戦計画コンシリウムを変更して、(陣営での籠城戦ではなく)野外の遭遇戦プロエリウム命運レスをゆだねることを決意した。
      (訳注:proelio rem committere「戦闘に命運をゆだねること」 33節②項にも同じフレーズが出ていた。)
  • Multum ad hanc rem probandam adiuvat
    • (クリオが)この事を承認するうえで、大いに助長したのは、
  • adulescentia, magnitudo animi,
    • 青年らしい若さアドゥレスケンティア、堂々たる闘志アニムスであり、
  • superioris temporis proventus,
    • (アッティウス・ウァルスを打ち負かした)先の好結果であり、
  • fiducia rei bene gerendae.
    • 作戦レスを立派に遂行した自信(である)。
 
バグラダ川(Bagrada)またはバグラダス川(Bagradas)すなわち現代のチュニジアメジェルダ川Medjerda River)の流れ。


  • ③項 His rebus inpulsus
    • (クリオは)これらの事に駆り立てられて、
  • equitatum omnem prima nocte ad castra hostium mittit ad flumen Bagradam;
    • すべての騎兵隊を、よいの口ごろに、バグラダ川のたもとの敵方の陣営へ向けて派遣する。
  • quibus praeerat Saburra, de quo ante erat auditum;
    • (その敵方の陣営は)前に聞いていたように、サブッラが統率していた。
  • sed rex cum omnibus copiis insequebatur
    • けれども、王(ユバ)は全軍勢とともに後続していて、
      (訳注:下線部の cum は、π系写本にはない。)
  • et sex milium passuum intervallo ab Saburra consederat.
    • サブッラ(の陣営)から6ローママイル(=約9km)の間隔をおいて野営していた。
      (訳注:下線部の ab は、π系写本では a となっている。)


  • ④項 Equites missi nocte iter conficiunt,
    • (クリオによって)派遣された騎兵たちは、夜間の行軍を完遂して、
  • imprudentesque atque inopinantes hostes adgrediuntur.
    • (夜襲を)予期せずに油断している敵方に襲いかかる。
  • Numidae enim quadam barbara consuetudine nullis ordinibus passim consederant.
    • なぜなら、ヌミディア人たちは、いわば蛮族の習慣により、何ら秩序もなくあちらこちらに野営していたからだ。


  • ⑤項 Hos oppressos somno et dispersos adorti
    • (クリオの騎兵たちは)彼ら(ヌミディア兵)が眠気に襲われて分散しているところを襲撃して、
  • magnum eorum numerum interficiunt;
    • 彼ら(ヌミディア兵)の多数を殺戮さつりくする。
  • multi perterriti profugiunt.
    • (ヌミディア兵のうち)多くの者たちが、恐れおののいて逃げ出す。
  • Quo facto
    • それが遂行されると、
  • ad Curionem equites revertuntur
    • 騎兵たちは、クリオのもとへ引き返して、
  • captivosque ad eum reducunt.
    • 彼のもとへ捕虜たちを連れ帰る。


(訳注:孫子いわく、「餌兵じへいには食らうことかれ」・・・・・・えさに食いつくように、おとりの敵兵を攻撃してはならない。)


39節 編集

クリオが15個歩兵大隊コホルスを率いて陣営を発ち、サブッラの追撃にとりかかる

  • ①項 Curio cum omnibus copiis quarta vigilia exierat
    • クリオは、全軍勢とともに第四夜警時に出陣していた。
      (訳注:第四夜警時は、真夜中から日の出までの間の後半の時間帯「明け方」を指す。『古代ローマの不定時法』を参照。)
  • cohortibus V castris praesidio relictis.
    • (ただし)5個歩兵大隊コホルスを陣営の守備隊として残して。
      (訳注:クリオは、23節①項で保持していた4個軍団のうち2個軍団だけをアフリカに渡海させた。
      37節④項ではシキリア島に残した2個軍団を呼び寄せようとするが、それらの2個軍団の到着を待たずに、
      2個軍団=20個歩兵大隊のうち5個を陣営に残して出陣したので、15個歩兵大隊を率いていることになる。
      共和制末期の1個歩兵小隊が約80名とすると、1個歩兵大隊が約480名、クリオの15個歩兵大隊は約7200名という計算になる。)
  • Progressus milia passuum VI equites convenit,
    • 6ローママイル(=約9km)前進して(夜襲から戻って来た)騎兵隊と出会い、
  • rem gestam cognovit;
    • 戦功を知った。
  • ex captivis quaerit, quis castris ad Bagradam praesit;
    • (クリオは)捕虜たちに、バグラダ川のたもとの陣営を統率しているのは誰か?、と尋問した。
  • respondent Saburram.
    • (捕虜たちは)サブッラと答える。


  • ②項 Reliqua studio itineris conficiendi quaerere praetermittit
    • (クリオは、敵兵を追う)進軍を遂行することに没頭するあまり、ほかのことを尋問しそこなう。
  • proximaque respiciens signa,
    • すぐ近くの軍旗(を掲げる部隊)を振り返って、
  • “videtisne,” inquit, “milites, captivorum orationem cum perfugis convenire?
    • こう言った:「兵士たちよ、捕虜たちの供述は(ウティカからの)脱走者たち(の話)と一致していると思うよな?
  • abesse regem,
    • 王(ユバ)は来ていないのだ。
  • exiguas esse copias missas, quae paucis equitibus pares esse non potuerint?
    • (クリオ勢の)わずかな騎兵たちと拮抗し得ないほど(王 ユバによって)派遣された軍勢は微々たるものなのではないかね?」


  • ③項 Proinde ad praedam, ad gloriam properate,
    • 「それゆえに、(諸君は)戦利品に向かって、栄光に向かって、急ぐのだ。
  • ut iam de praemiis vestris et de referenda gratia cogitare incipiamus.”
    • もはや、諸君への恩賞について、(諸君の)尽力へ報いることについて、考えるとしよう。」


  • ④項 Erant per se magna, quae gesserant equites,
    • 騎兵たちが果たしたことは、それ自体が大きなものであった。
  • praesertim cum eorum exiguus numerus cum tanta multitudine Numidarum conferretur.
    • とりわけ、彼ら(クリオの騎兵隊)の微々たる数と、あれほど大勢のヌミディア兵とが比較されたならば。
  • Haec tamen ab ipsis inflatius commemorabantur,
    • しかしながら、これは(騎兵たち)当人たちによって吹聴されて述べられていた。
  • ut de suis homines laudibus libenter praedicant.
    • 人間たちというものが、自らの功績を進んでひけらかすように、だ。


  • ⑤項 Multa praeterea spolia praeferebantur,
    • さらに、多くの略奪品が運び込まれていたし、
  • capti homines equitesque producebantur,
    • 捕らえられた歩兵たちホミネスや騎兵たちが連れて来られていたので、
      (訳注:homines = homō の複数形「歩兵」)
  • ut quicquid intercederet temporis, hoc omne victoriam morari videretur.
    • 何であれ(戦闘開始までに)経過する時間はすべて、勝利を遅らせるものと思われたほどであった。


  • ⑥項 Ita spei Curionis militum studia non deerant.
    • こうして、クリオの期待に対して、兵士たちの献身は欠けていなかった。
  • Equites sequi iubet sese
    • (クリオは)騎兵たちに、自分に続けと命じて、
  • iterque accelerat, ut quam maxime ex fuga perterritos adoriri posset.
    • 敗走のゆえにひるんでいる者たちをできるかぎり攻め立てられるように、進軍を急がせる。
      (訳注:ex fuga「敗走のゆえに」;ex は理由を表している。)
  • At illi itinere totius noctis confecti subsequi non poterant,
    • ところが、あの者たち(=クリオ配下の騎兵たち)は、夜通しの進軍により消耗しており、追跡することができず、
  • atque alii alio loco resistebant.
    • おのおのがそれぞれの場所に停まっていた。
  • Ne haec quidem res Curionem ad spem morabatur.
    • それでも、このような事情が、クリオを(勝利の)希望に向かって(進むことを)妨げることはなかった。

40節 編集

ヌミディア王ユバが増援部隊を派遣したので、サブッラはクリオ勢を待ち構える

  • ①項 Iuba certior factus a Saburra de nocturno proelio
    • ユバは、サブッラから夜中の戦闘について知らされると、
      (訳注:Iubam certiorem facere de ~「ユバに、~について知らせる」
           Iuba certior factus de ~「ユバは、~について知らされる」)
  • II milia Hispanorum et Gallorum equitum, quos suae custodiae causa circum se habere consuerat,
 
ザマの戦いでローマ軍歩兵隊を攻撃するカルタゴ軍の戦象たち』(Éléphants de guerre carthaginois attaquant l'infanterie romaine à la bataille de Zama
(アンリ=ポール・モット画 Henri-Paul Motte, 1890年)
  • et peditum eam partem, cui maxime confidebat,
    • 最も信頼していた歩兵ペデス部隊パルスを、
  • Saburrae summittit;
    • サブッラに増援する。
      (訳注:下線部は、π系写本では summīsit(完了形) になっている。)
  • ipse cum reliquis copiis elephantisque LX lentius subsequitur.
    • (ユバ)自身は、残りの軍勢および60頭のとともに、後を追いかける。


  • ②項 Suspicatus praemissis equitibus ipsum adfore Curionem
    • 先に遣わされた騎兵たちをクリオ自身が援助するであろうと推測して、
      (訳注:adfore (affore)は adsumassum)の 未来・能動・不定法の一つ。)
  • Saburra copias equitum peditumque instruit
    • サブッラは、騎兵と歩兵の軍勢を整列させて、
  • atque his imperat, ut simulatione timoris paulatim cedant ac pedem referant;
    • (クリオ勢の追撃を)怖れているふりをして、徐々に後退して、きびすを返すようにと、彼らに命令する。
      (訳注:pedem referre「踵を返す」「退却する」)
  • sese, cum opus esset, signum proelii daturum
    • 自分(サブッラ)が、必要である(と判断した)ときに戦闘の号令を出すであろう、
  • et, quod rem postulare cognovisset, imperaturum.
    • 事態が必要とすると(サブッラが)認識したことを命令するであろう、と。


  • ③項 Curio ad superiorem spem addita praesentis temporis opinione
    • クリオは、以前からの希望に、現時点での見解を付け加えて、
  • hostes fugere arbitratus
    • 敵方が敗走していると思い込んで、
  • copias ex locis superioribus in campum deducit.
    • 軍勢を、高地から平原へと、率いて下る。


(訳注:孫子いわく、「いつわりてぐるに従うことかれ」・・・・・・負けたふりをしてわざと敗走するのは敵の計略であるから、これを追撃してはならない。)


41節 編集

サブッラが戦列を整え、ヌミディア騎兵隊2000騎以上がクリオ勢を包囲攻撃する(バグラダ川の戦い)


クリオが、平原に下って軍勢を休息させる
  • ①項 Quibus ex locis cum longius esset progressus,
    • (クリオは)それらの(高い)所から、より遠くへ前進したのに、
  • confecto iam labore exercitu
    • 軍隊はすでに疲労ラボルにより消耗していたので、
  • XVI milium spatio constitit.
    • 16ローママイル(=約24km)の道のりのところで停止した。
      (訳注:下線部は、写本では XVI (16マイル)だが、アレシア古戦場の発掘者ストッフェル(Stoffel )は XII (12マイル=約18km)と修正提案している。)

 

サブッラは、歩兵を動かさず、騎兵だけを突撃させる
  • ②項 Dat suis signum Saburra,
    • サブッラは、配下の者たちに号令を出し、
      (訳注:dare signum「号令を出す」)
  • aciem constituit et circumire ordines atque hortari incipit;
    • 戦列アキエスを配置して、諸部隊オルドを巡回して激励し始める。
  • sed peditatu dumtaxat procul ad speciem utitur,
    • けれども、歩兵隊ペディタトゥスによっては、せいぜい遠くから外見を示すだけで、
  • equites in aciem immittit.
    • (クリオ勢の)戦列アキエスには、騎兵たちを突進させる。
      (訳注:40節①項で、サブッラは王ユバから騎兵2000騎を増援されている。)


クリオ勢は、勇敢に戦うが、騎兵の過半を欠く
  • ③項 Non deest negotio Curio
    • クリオは、務めをおろそかにはせず、
  • suosque hortatur, ut spem omnem in virtute reponant.
    • すべての希望を武勇にかけるように、と配下の者たちを鼓舞する。
      (訳注:reponēre ~ in ・・・「~を・・・にかける」)
  • Ne militibus quidem, ut defessis,
    • 兵士(=重装歩兵)たちは、疲れ果てていたとしても
      (訳注:ここで ut は譲歩「~の割りには」「~としても」を表わす関係副詞。)
  • neque equitibus, ut paucis et labore confectis,
    • 騎兵たちは、少数だし、疲労ラボルにより消耗していたとしても
  • studium ad pugnandum virtusque deerat;
    • 戦うための熱意や武勇を欠いてはいなかった。
      (訳注:ne ~, neque ・・・, ○○ deerat 「~も、・・・も、○○を欠いてはいなかった」)
  • sed hi erant numero CC,
    • けれども、後者(騎兵たち)は、その数が200騎ほどで、
  • reliqui in itinere substiterant.
    • 残り(の騎兵たち)は、行軍中に停止していたのだ。
      (訳注:23節①項で既述のように、クリオが渡海させた騎兵は500騎だけなので、残り300騎は途中で休息していたことになる。)


クリオ勢の騎兵200騎が奮戦するが、力及ばず
  • ④項 Hi quamcumque in partem impetum fecerant, hostes loco cedere cogebant,
    • 彼ら (クリオ勢の騎兵200騎) は、どこへ(敵の)部隊パルスに突撃をしかけても、敵方に陣地から退却することを強いていた。
      (訳注:quāmcumquēquācumquē は関係副詞「どこへ~であろうと」)
  • sed neque longius fugientes prosequi
    • けれども、敗走する者たちを追撃することも、
  • nec vehementius equos incitare poterant.
    • より猛烈に馬を駆ることもできなかった。
      (訳注:neque ~ nec ・・・ poterant 「~も・・・もできなかった」)


サブッラの騎兵2000騎以上が、クリオ勢を包囲し、打ち破り始める
  • ⑤項 At equitatus hostium ab utroque cornu circumire aciem nostram
    • それに対して、敵方の騎兵隊エクィタトゥスは、我が方(クリオ勢)の戦列アキエスを、両翼から包囲することと、
  • et aversos proterere incipit.
    • (クリオ勢が)背を向けたところを馬蹄ばていにかけること、に取りかかる。
      (訳注:prōtere 「踏みつぶす」「打ち破る」
      「馬蹄に掛ける」=「敵を打ち破る」)


ヌミディア勢が、巧みな用兵でクリオ勢を圧倒し、クリオ勢は進退きわまる
  • ⑥項 Cum cohortes ex acie procucurrissent,
    • (クリオ勢の)諸歩兵大隊コホルス戦列アキエスから突出して来ると、
      (訳注:prōcurrere 「突き進む」「突出する」)
  • Numidae integri celeritate impetum nostrorum effugiebant
    • 無傷のヌミディア勢が、我が方(クリオ勢)の突撃をすばやく回避して、
  • rursusque ad ordines suos se recipientes circumibant
    • (突出していたクリオの歩兵大隊が)再び味方の戦闘隊形オルドのもとに引き返そうとするところを包囲して、
  • et ab acie excludebant.
    • (クリオ勢の)戦列アキエス(に戻ること)から遮断していた。
      (訳注:柔道の創始者 嘉納治五郎は、柔道の極意を「押さば引け、引かば押せ」と言ったという。)
  • Sic neque in loco manere ordinesque servare
    • このように(クリオ勢にとっては)、陣地にとどまって戦闘隊形オルドを維持することも、
  • neque procurrere et casum subire
    • 戦列アキエスから)突き進んで(本隊から遮断される)災難を耐え忍ぶことも、
  • tutum videbatur.
    • 安全とは思われなかった。
      (訳注:neque ~ neque ・・・ ○○ videbatur 「~も・・・も、○○とは思われなかった」)


ヌミディア勢は増援部隊によって膨れ上がり、包囲され続けるクリオ勢は力尽きる
  • ⑦項 Hostium copiae submissis ab rege auxiliis crebro augebantur;
    • 敵方の軍勢は、王(ユバ)によって増援された戦力アウクシリアにより、たびたび増強されていた。
  • nostros vires lassitudine deficiebant,
    • 我が方(クリオ勢)は、疲弊により、勢いウィスを欠いていた。
  • simul ii qui vulnera acceperant,
    • 同時に、(クリオ勢の)負傷していた者たちは、
  • neque acie excedere, neque in locum tutum referri poterant,
    • 戦列アキエスから後退することも、安全な場所に搬送されることも、できなかった。
  • quod tota acies equitatu hostium circumdata tenebatur.
    • というのも、(クリオ勢の)全戦列アキエスが、敵方の騎兵隊により包囲されたままで、押さえ込まれ続けていたからだ。


クリオ勢の負傷兵たちが、戦死への恐怖と悲しみに打ちひしがれる
  • ⑧項 Hi de sua salute desperantes,
    • 彼ら(負傷兵たち)は、自らの身の安全について絶望して、
  • ut extremo vitae tempore homines facere consuerunt,
    • 人間というものが人生の最後の時にそうするのが常であるように、
      (訳注:consuerunt は、動詞 cōnsuēscō の直接法・完了・3人称複数形 cōnsuēverunt において、r の前の ve が脱落した形態。)
  • aut suam mortem miserabantur
    • 自らの死を嘆き悲しみ、
  • aut parentes suos commendabant, si quos ex eo periculo fortuna servare potuisset.
    • あるいは、(戦死の)危険から運命(の女神)が救い上げてくれ得る者たちがいたならばと、自らの親たちのことを託していた。
  • Plena erant omnia timoris et luctus.
    • (その場の雰囲気)すべてが、(死への)恐怖ティモル悲しみルクトゥスでいっぱいだった。

42節 編集

ヌミディア勢に包囲攻撃されたクリオ勢が壊滅し、わずかな騎兵が陣営に逃げ戻る(クリオの敗死)

  • ①項 Curio, ubi perterritis omnibus neque cohortationes suas neque preces audiri intellegit,
    • クリオは、(配下の兵士たち)皆がひるんでおり、(クリオ)自らによる激励も、心から頼んだことも、聞き入れられないことを理解するや否や、
      (訳注:neque ~ neque ・・・ audiri 「~も・・・も聞き入れられない(こと)」)
  • unam ut in miseris rebus spem reliquam salutis esse arbitratus
    • 嘆かわしい事態にあるとしても、身の安全のための唯一の希望が残されていると判断して、
      (訳注:ut は、譲歩「~としても」を表す関係副詞)
  • proximos colles capere universos atque eo signa inferri iubet.
    • すぐ近くの丘を総勢で占領することと、そこに軍旗を運ぶことを、命じる。
  • Hos quoque praeoccupat missus a Saburra equitatus.
    • これもまた、サブッラによって派遣された騎兵隊が先に占領する。


クリオ勢が、この上ない絶望感に襲われる
  • ②項 Tum vero ad summam desperationem nostri perveniunt
    • そのとき、まさに、我が方(クリオ勢)は、決定的な絶望に至る。
  • et partim fugientes ab equitatu interficiuntur, partim integri procumbunt.
    • 一部の者たちは、敗走するところを(ヌミディア)騎兵隊によって殺され、(別の)一部の者たちは、無傷のまま(絶望感に打ちひしがれて)倒れこむ。


  • ③項 Hortatur Curionem Cn. Domitius, praefectus equitum, cum paucis equitibus circumsistens,
    • 騎兵隊の指揮官グナエウス・ドミティウスは、わずかな騎兵たちとともにクリオを取り巻きながら、(以下のように)励ます。
      (訳注:hortāri ut ~「~のように励ます」)
  • ut fuga salutem petat atque in castra contendat,
    • (クリオが、戦場から)脱出して身の安全を求め、(コルネリウスの)陣営に急ぐように、と。
  • et se ab eo non discessurum pollicetur.
    • 自分(ドミティウス)たちは彼(クリオ)のもとから離れることはないでしょう、と(クリオに)約束する。


クリオの最期
  • ④項 At Curio
    • だが、クリオは、
  • numquam se amisso exercitu, quem a Caesare <suae> fidei commissum acceperit,
    • カエサルから<自分(クリオ)を>信頼して託され、引き受けた軍隊を失ったのだから、
  • in eius conspectum reversurum confirmat
    • 彼(カエサル)の眼前に、自分(クリオ)は決して戻ることはないであろう、と断言して、
      (訳注:numquam se reversurum confirmat 「自分は決して戻ることはないであろう、と断言する」)
  • atque ita proelians interficitur.
    • こうして(クリオは)戦って討ち取られる。


数百騎の敗残兵がコルネリウスの陣営に逃げ戻るが、軍団兵(重装歩兵)は全滅する
  • ⑤項 Equites ex proelio perpauci se recipiunt;
    • 戦闘からは、ごくわずかな騎兵たち(だけ)が(陣営に)引き上げる。
  • sed ii, quos ad novissimum agmen equorum reficiendorum causa substitisse demonstratum est,
    • けれども、行軍隊列アグメンの最後尾のところにいた者たちは、馬の元気を回復させるために停止していたことを前述したが
      (訳注:下線部は、41節③項で reliqui in itinere substiterant 残り(の騎兵たち)は、行軍中に停止していたのだ と述べたことを指す。)
  • fuga totius exercitus procul animadversa sese incolumes in castra conferunt.
    • (休息していた騎兵たちは)軍隊全体の敗走に遠くから気づいて、無傷のままで(コルネリウスの)陣営にたどり着く
      (訳注:下線部は、se cōnferre 「行く」「赴く」)
  • Milites ad unum omnes interficiuntur.
    • 歩兵ミレスたちは、一人の例外もなく殺戮さつりくされる。
      (訳注:ad unum omnēs 「最後の一人まで」「一人残らず」)


(訳注:サブッラ率いるヌミディア勢がクリオを敗死させたこの戦いは、バグラダ(ス)川の戦いBattle of the Bagradas )と呼ばれている。
フロンティヌスSextus Iulius Frontinus)は著書『戦術論』(Strategemata)の中で、ユバの戦術がクリオを敗死させた、と指摘している。)

43節 編集

敗戦を知った財務官マルキウス・ルフスがシキリアへの帰還を手配するが、海岸一帯は恐慌状態に陥る


財務官ルフスが、撤兵のために出航を準備させる
  • ①項 His rebus cognitis
    • これら(敗戦)の事態を知ると、
  • Marcius Rufus quaestor in castris relictus a Curione
    • クリオによって(コルネリウスの)陣営に残されていた財務官クァエストルマルキウス・ルフスは、
      (訳注:マルキウス・ルフス Marcius Rufus は、23節⑤項に登場し、船団を指揮していた。)
  • cohortatur suos, ne animo deficiant.
    • 気を落とすな、と配下の者たちを励ます。
      (訳注:animō dēficere 「気落ちする」)
  • Illi orant atque obsecrant, ut in Siciliam navibus reportentur.
    • 彼ら(将兵たち)は、シキリアに船団で連れ戻してくれるようにと、心から願い、頼み込む。
  • Pollicetur
    • (ルフスは、将兵たちを連れ戻すことを)約束して、
  • magistrisque imperat navium, ut primo vespere omnes scaphas ad litus appulsas habeant.
    • 船長たちに、夕暮れ時の初め頃に、すべての小舟スカファを海岸に接岸させておくように命令する。
      (訳注:magister nāvis 「船長」 > magistrīs nāvium 複数・与格「船長たちに」)


将兵たちが、ユバやアッティウス・ウァルスの襲撃におびえる
  • ②項 Sed tantus fuit omnium terror,
    • けれども、皆の恐怖はたいへんなものであったので
      (訳注:下線部は、tantus fuit ~ , ut ・・・ 「・・・ほど~はたいへんであった」「~がたいへんなので、・・・ほどであった」)
  • ut alii adesse copias Iubae dicerent,
    • ある者たちは、ユバの軍勢が迫っている、と言っていたし、
  • alii cum legionibus instare Varum iamque se pulverem venientium cernere,
    • (別の)ある者たちは、(アッティウス・)ウァルスが諸軍団とともに追撃して来て、すでに襲来する者たちの砂ぼこりを見分けた(と言っていたし)、
  • quarum rerum nihil omnino acciderat,
    • ── それらの事態は、何らまったく起こらなかったのだが ──
  • alii classem hostium celeriter advolaturam suspicarentur.
    • (また別の)ある者たちは、敵方の艦隊が速やかに急襲して来る、と推測していた、ほどであった
  • Itaque perterritis omnibus sibi quisque consulebat.
    • このようにして、皆が震え上がり、おのおのが自分の身(の安全)を気にかけていた。


艦隊や貨物船団が、軍勢を置き去りにしたまま、あわてて逃亡してしまう
  • ③項 Qui in classe erant, proficisci properabant.
    • (すでに)艦隊に(乗船して)いた者たちは、(アフリカ属州からの)出発を急いでいた。
  • Horum fuga navium onerariarum magistros incitabat;
    • 彼らの逃走が、貨物船団の船長たちを駆り立てていた。
  • pauci lenunculi ad officium imperiumque conveniebant.
    • (このため)わずかな小帆船レヌンクルス(だけ)が、職責オッフィキウム命令インペリウムのために集まったのだった。


大勢の将兵たちが海岸に押し寄せ、一刻も早く乗船しようと先を争ったので、多くの小帆船が転覆の憂き目を見る
  • ④項 Sed tanta erat completis litoribus contentio, qui potissimum ex magno numero conscenderent,
    • けれども、海岸が(乗船しようとする将兵で)ごった返し、大群集の中から とりわけ誰が乗船するのかという争いがたいへんなものであったので
      (訳注:下線部は、tanta erat contentio ut ~「~ほど、争いはたいへんなものであった」「争いがたいへんなものなので、~ほどであった」)
  • ut multitudine atque onere nonnulli deprimerentur,
    • (乗船した者たちの)多さと重荷のために、かなり(の小帆船)が沈没させられた、ほどであった
  • reliqui hoc timore propius adire tardarentur.
    • 残りの者たちは、(小帆船の)より近くに近づくことを、(沈没するという)この恐れに阻まれていた。

44節 編集

置き去りにされたクリオ勢の将兵たちがアッティウス・ウァルスに降伏するが、そのほとんどがヌミディア王ユバによって処刑される

  • ①項 Quibus rebus accidit,
    • そのような(恐慌の)事態によって(以下のことが)起こった。
      (訳注:accidit ut ~「~が起こる」)
  • ut pauci milites patresque familiae,
    • (クリオ配下の)わずかな兵士たちや家父長たちが、
  • qui aut gratia aut misericordia valerent aut naves adnare possent,
    • (船員の)親切または同情が役立って、あるいは、船団に泳ぎ着くことができて、
  • recepti in Siciliam incolumes pervenirent.
    • (船団に)受け入れられて、シキリアに無事に到着していた。
      (訳注:副官レガトゥスカニニウス・レビルス C. Caninius Rebilus やアシニウス・ポッリオ C. Asinius Pollio は無事にシキリアへ帰還している。)
  • Reliquae copiae missis ad Varum noctu legatorum numero centurionibus
    • 残された軍勢は、(アッティウス・)ウァルスのもとへ夜間に、百人隊長ケントゥリオたちを使節団として遣わして、
  • sese ei dediderunt.
    • 彼(アッティウス・ウァルス)に降伏した。


降伏した将兵の大半が、ヌミディア王ユバによって処刑され、残りは奴隷としてヌミディアへ送られる
  • ②項 Quorum cohortes militum postero die ante oppidum Iuba conspicatus
    • それらの兵士たちの諸歩兵大隊コホルスを、翌日に(ウティカの)城市の前でユバが気付いて、
  • suam esse praedicans praedam
    • 自分の戦利品プラエダであると宣言して、
  • magnam partem eorum interfici iussit,
    • 彼らの大半が誅殺されることを命じて、
  • paucos electos in regnum remisit,
    • わずかな者たちをりすぐって、王国に護送した。
  • cum Varus suam fidem ab eo laedi quereretur
    • (アッティウス・)ウァルスは、自分への信用が彼(ユバ)によってそこなわれる、と不平を言ったのだが、
  • neque resistere auderet.
    • (ユバの措置に)あえて抵抗することはしなかった。


王ユバがウティカに入城して、ヌミディアへ凱旋する
  • ③項 Ipse equo in oppidum vectus
  • (ユバ)自身は(ウティカの)城市に、馬で乗り付けた。
  • prosequentibus compluribus senatoribus,
  • (ユバのウティカ入城には)多くの元老院議員セナトルが随行していたが、
  • quo in numero erat Ser. Sulpicius et Licinius Damasippus,
  • その数の中には、セルウィウス・スルピキウスとリキニウス・ダマシップスがいた。
  • paucis [diebus], quae fieri vellet, Uticae constituit atque imperavit,
    • (ユバは)ウティカでなされると望むことを数日間で取り決めて、命令して、
  • diebus aeque post paucis se in regnum cum omnibus copiis recepit.
    • 同じく数日後に、すべての軍勢とともに王国に引き上げた。

脚注 編集

  1. ^ 木骨煉瓦造(コトバンク)
  2. ^ 山形ラーメン(gabled roof frame)最上階の梁が山形に屈折した形状のラーメン(日本建築学会編『建築学用語辞典 第2版』より)
  3. ^ テラコッタ煉瓦(コトバンク)

参考リンク 編集