制御と振動の数学/第一類/演算子法の誕生/指数関数の場合

前節の思いつきが成功したのは,割り算が常に割り切れたからである. 割り切れたのは    の多項式であったからで,   を何回か微分すれば必ず   となることが保証されているからにほかならない. そこで,何回微分しても決して   にならない指数関数を   に選んでみよう.

例5 

 

例によって   とおくと

 
 

となる.この割り算を実行しよう.


 



 

 

 

 


これはいつまでたっても割り切れない.しかしここで諦めては長蛇を逸する. そこで   回,上の演算を実行すると,

商: 
剰余: 

を得る.したがって,

 

ならば,無限回の施行の後,

 

となって割り切れる.このとき商は,

 

となる.

験算

 

よって,この   は,初期条件   をみたす解であることが分かった.


上で行った験算は,  でなくても,  が正しい解を与えることを示している.そこで,

 

の場合にも,正しいを解が得られるように工夫してみよう.  で割るということは,積分するということであった.   を積分すれば   となる.  のベキ級数は   で収束する. そこで割り算を少し変形して、次のように   から先に割っていこう.

 

 

 

 

この演算を無限回続けると,  であるから,商は収束して,

 

となる.


  の場合の考察は後まわしにして,これら 2 種の計算法の検討をしておこう.


    の場合

 

    の場合

 

このように   の関数を   あるいは   で展開し,  は微分,  は積分と考えて形式的に計算すると,正しい答に導かれる.例えば例1

 

となって同じ答を得る.

例6    で展開するとどうなるか.

解答例 

 

と項が無限に生成されてしまい,うまくいかない.


上に示した幾つかの例において,微分方程式の解は得られるには得られたが,まだ多くの問題点を残している. 手法のいかがわしさは暫くおくとしても,一つの方程式に対して一つの解しか得られず、任意の初期値を満たす解が得られないのは大きな欠陥である. このことは,次のような方程式

(1.5)
 

を取り扱うとき,深刻な問題となる.というのは,単に   と置いたのでは,

 
 

となって,得られた解   は正しい解には違いないが,視察でも求まるつまらない解だからである.

さて   を積分と考えることによって、色々な初期値が得られる可能性のあることを前に示唆しておいた.

そこで,ひとまず (1.5)  から   で積分してみよう.

(1.6)
 

を得る.そこで,積分は微分   の逆演算であるという考えを一方深めて,改めて,

 

あるいは,もっと正確に,

(1.7)
 

と定義しなおすことにしよう.そうすれば式 (1.6) は,

 

となる.初期値   が入ってきたところが,単に   とおいた場合と根本的に異なっている. この式を   について解き,

 

これを   で展開すると,

(1.8)
 [1]

を得る. さてここで定義 (1.7) に戻り,

 
 

以下同様にして,

(1.9)
 

が得られることに注意すると,式 (1.8)

 

となる.上の式の( )内は  Taylor 展開である.よって,

 

を得る.これが式 (1.5) の正しい解であることは明らかである.

どうやら我々は満足するべき解法にかなり近づいたようである.次節でもう少し掘り下げて考えてみよう.


  1. ^ 因数分解   より
     
       は公比で   とすれば,右辺、初項   公比   等比級数の和は収束して その和は  .ここでは形   が「収束する条件を満たす」として上記の導出を逆方向に適用する.